軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第675話 彼女は敢えて攫われる

第675話 彼女は敢えて攫われる

三人の傭兵が彼女を囲むように立ちふさがる。その姿を見ているのか見ないようにしているのかはわからないが、通行人が小走りに背後の大通りを通過していく。

『見て見ぬふりかぁ』

『魔剣』の呟きに彼女は「仕方ないでしょう」と内心答える。如何にもな衣装を着た傭兵が三人いて、「ちょっと待ったぁ!」と割って入るような人間が早々いるはずもない。

そもそも、冒険者もいないような場所で、それなりに訓練を受けた傭兵相手に彼女を庇うはずもない。彼女が一般女性なら、宿に押し入ってでも攫うのだろうが、ノルヴィクでも相応の高級宿屋に押し入るのは、後で面倒ごとになるだろうと、外で待ち構えていたのだと思われる。

「何ものですか!」

と、いつもより高めの声で必死に一喝しました感を出す。

「何者かって見りゃわかるでしょうお嬢様」

「卑しい傭兵でございます。どうか、お話を聞いていただけませんでしょうか」

「馬車がもうじき来るので、それに大人しく乗ってもらえますでしょうかお嬢様」

ニヤニヤと笑いつつ、彼女は必至に視線で周囲を探るような振りをする。焦っている演技も中々難しい。

『お前、慣れてねぇからなぁ』

そのわざとらしさが、かえって挙動不審になっているのだと傭兵達は判断したようだ。そこそこ立派な箱馬車が小径を塞ぐように横付けされ、扉を開いて彼女は馬車の中へと押し込まれた。

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ほぼ、窓は板で塞がれ、いくばくかの空気を通す格子があるだけで、外の様子は全く分からない。但し、『猫』は屋根の上を走って、馬車に並走していることが魔力の感覚でわかる。

因みに、馭者は弱い魔力持ち、三人の傭兵からは魔力が感じられない。つまり、吸血鬼でもなく下っ端兵士なのであろう。今すぐ、素手で首の骨を折れるくらいの強さだ。

『最近、この手の普通の悪党の相手をしてねぇな』

リンデでは白骨宮の帰りに襲われたが、あれは悪党と言うより雇われ貧民である。その前は、巡礼狩りの領兵たちだったか。

――― 意外とヤッている気がする! そうでもないぞ

「どこに連れて行くつもり」

「お城だよ。この街にあるお城」

やはりノルヴィク城かと合点する。サイコロのような真四角に見える小高い丘の上にある城塞は、街のどこからも大体見てとれる。

小高い丘から川岸までを半径として、ぐるりと円形に外壁を巡らせたのがノルヴィクの街壁であろうか。

「そこで、誰と会うのかしら」

「ああ、聞いて驚け、先日、リンデで行われた女王陛下主催の……」

もう百回は聞いたと彼女は内心毒づく。どうやら、凱旋祝勝会があるので優勝した傭兵隊長を迎えるホスト役を頼みたいというのだ。強引にもほどがある。

「私にも予定があるのですが」

「いや、祝勝会が終われば、馬車で宿までお送りする。あなたは、隊長の横でドレスを着て微笑んでいてくれるだけでいい」

「そうそう。衣装も用意するので、ちょっと胸は詰め物をしなけりゃならないかもしれないが、満足してもらえると思う」

詰め物話だけで大不満である!! ふざけるなぁ!!

「こっちから、宿屋には連絡しておく。だから、気にしないで良い」

代わる代わる三人に宥めすかされ、最後は渋々了承したという態で黙り込む。

『まあまあだな。六十点』

「……点数が辛口ね」

ガラガラと音を立て、斜面を馬車が昇っていく。恐らく城門に至る石橋を渡っているのだろう。敷石で振動が大きくなる。

時間はまだ午後早い時間。昼食をとってから一時間程だろう。主役が吸血鬼の祝勝会が明るい時間に始まるわけがない。あと数時間は、時間があると見て良いだろう。

城門楼で停止し、馭者が何か話している。こんこんと扉が叩かれ再び馬車が動き出す。

再び馬車が止まり、ガシャと大きな音がする。外鍵が開けられたのだと彼女は判断する。

「さて、この後体を洗って、着替えて軽く食事でもして待機してもらおう」

「祝勝会まではまだ時間があるから、ゆっくりしていてください」

丁寧なのか粗野なのか分からない対応をされる。馬車を降りて周りをグルリとみまわすと、四角い石造りの城塞が後方にあり、城門楼がその横にある。前方には、大きな二階建ての領主館のような建物、ぐるりと敷地を取り囲む城壁には、数か所の見張塔があり、壁際には二階建ての宿舎が建つ。宿舎の後ろ側の壁は城壁と兼ねているのだと思われる。

「こちらへどうぞお嬢様」

「おじょうさまだとよぉ」

「「「ぎゃはははは!!!」」」

王都では、間違いなくお嬢様扱いされる身分の彼女なのだが、傭兵からすれば嘲笑しているつもりなのだろう。

「彼奴ら皆殺し確定ね」

『……沸点低いな。まあ、傭兵なんて生きているだけで害悪だから、別にいいんじゃねぇの』

帝国傭兵はネデル・神国・連合王国で主に雇用している。王国は山国傭兵を祖父王時代から常備の兵として一定数雇用しているので、帝国傭兵は大体敵なのである。

帝国の傭兵が全て帝国人ということはなく、当然王国出身や連合王国出身の者も含まれている。指揮官が拠点を構えているのが帝国であるということなのだ。

領主館のような建物の奥、二階に通される。どうやらここは、この城塞の所有者の個人的空間であるようだ。王家の城塞としてあるいは一時的には「王宮」として建築された関係から、時代がかってはいるものの王妃用の居室に案内されたように思われる。

「「ようこそ、お嬢様」」

使用人の格好をした若い女性が二人、その部屋で待ち構えていた。魔力を持たず、また貴族に仕えているというよりも、使用人教育をされていない平民が、貴族の使用人の服を着て待っていたというところのようだ。

「この二人が、お嬢様の面倒を見る。先ずは入浴、そしてお着換えだ。頼んだぞ」

「「はい」」

その声は平たんであり表情も変わらない。

『おい』

「分かっているわ」

恐らく、吸血鬼の『魅了』により使役された女性。もしかすると、ロッド出身の失踪者のうちの誰かかもしれない。

取りあえず、巡礼服からドレスに着替えなければと彼女は考えるのである。

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二人掛りで、頭のてっぺんからつま先まで香油を垂らしたお湯を張った浴槽で洗われ、貴族の令嬢にすっかり戻った気になってしまう。

『本物の子爵令嬢だろお前』

「この国は、子爵ってあまりいないのよね。公爵か伯爵の息子が持つ爵位みたいね」

**公爵が**子爵の爵位を持ち、公爵の後継者がその子爵位を名乗るのが通例であったりする。複数の都市あるいは領地を持つ伯爵が、自分の代理である子爵を息子・弟などに与えたのが始まりだと言われる。

帝国の場合、重要な拠点に配置される城伯がそれに相当する。

子爵が珍しいこの国では「子爵令嬢」と名乗るわけにいかないので、「貴族の娘」で言葉を濁す必要がある。

髪と体を沢山の布を使い拭き上げられ、体に香油を刷り込まれる。入浴したばかりなのだが、これも様式美なのだろう。二人の女性は、瞳孔の開いた眼で無表情に次々と彼女を仕上げていく。

ビスチェは魔装のそれを用い、ストッキングも魔装のものを着用する。ドレスを着て、魔装の手袋、魔装扇、そして、魔法袋とスティレットをブーツの中に押し込んだ。

『足元それでいいのかよ』

「どうせドレスで足元は見えないわよ。カーテシーだってしないでしょうから、問題ないわ」

世話役二人には、靴のサイズが合わなかったで済ませた。

着替えが終わり、軽く座りながらお茶を頂く。さて、『魅了』をどう解くかである。

「『魅了』を解くにはどうすればいいのかしらね」

『お前の魔力を手を繋いで流し込んでみろ。多分、弱い魔力が上書きされて、効果が解消されるんじゃねぇの』

魅了は、相手がある程度警戒していない状態でないと掛からない。恐らく、偶然を装い親切にされ、そのまま『魅了』を掛けられ馬車にでも載せられて来たのだろう。

馬上槍試合で優勝するのは大前提。それに合わせて、街に来る若い女性、それも敬虔な御神子教徒を狙って確保したのだろう。ケーキがこの女性たちで、その上に載るイチゴが彼女というわけだ。

『イチゴはイチゴでも、毒イチゴだけどな』

「いいえ、猛毒のイチゴよ」

『違いねぇ』

そして、彼女は立ち上がろうと両の手を差し出す。左右にそれぞれの女性が手をとる。

BATHINN!!

静電気が走ったかのような音と魔力の輝きが腕から二人の女性へと流れていく。一瞬体を跳ね上げたのち、目が自然な形へと戻る。

硬直したままの二人に彼女が「大丈夫ですか」と声をかける。

「あ、あの私たち……」

「ここはどこでしょう。あなたは誰!!」

使用人の格好をしたお互いを指さし、やがて口々に彼女に質問をし始める。

「私は巡礼の者で、少し魔力があります。貴族の娘の端くれなので、この城にいる傭兵隊長の祝勝会のホストを頼まれています。お二人はその介添のような役割だと思います」

「「え」」

二人は、ノルヴィクの街に来て誰かにあってそこから先、記憶があやふやなのだという。

「二人はロッド出身ですか」

「はい」

「そうです」

彼女はロッドからノルヴィクに来たとされる若い男女十人ほどが行方不明となり、事件となりつつあると伝える。

どんな感じで声を掛けられたのかも記憶があやふやで、食事に誘われ何か仕事を手伝ってくれと言われたところまでしか記憶がないのだそうだ。

「一人でノルヴィクには来たのでしょうか」

彼女の問いに段々と意識がはっきりしてきたのか、あるいは、不安が大きくなってきたのか徐々に取り乱し始める。どうやら、恋人ないし異性の友人と訪れたようなのだが、その男性がどうなったかも記憶にないのだそうだ。

『餌にされたか、魅了で操られて何か作業させられているのかだろうな』

彼女も『魔剣』の考えに同意するが、口にする事はない。

『主、吸血鬼の居場所は確認できました』

別行動であった『猫』が屋根伝いに近づいてきた。

窓の外を見るふりをして、小声で『猫』に話しかける。

「この部屋の女性の連れの男性がいるみたいなの。『魅了』で操作されてどこかで作業か収監されているとおもうの。安否と居場所の確認をお願いできるかしら。それと、似たような『魅了』の影響を受けている人も確認をお願い。一時間くらいでね」

『承知しました』

外の様子を見ると、既に鍛錬の時間も終わり祝勝会の時間まで思い思いに時間を潰しているようだ。こうしてみていると、騎士団と変わらないように見えるのであるが、片や秩序の護り手であり、片や破壊者である。

「さて、このドレスもどこかで脱がないといけないわね」

『人前で素肌を晒すのはどうかと思うぜ』

彼女は、一先ず、貫頭衣と魔装布のフード付きマントで戦おうかと思っている。ついでに言えば、顔は面貌でかくし、頭は魔銀のティアラで護ろうと考えているのである。

「偶には有効活用しなければね」

『デビュタント以来か、ティアラは。ホストとしては良いんじゃねぇの』

等と適当なことを『魔剣』は言う。魔法袋からマントとティアラ、そして、魔銀のロザリオを身に着ける。これも立派な装備となる。彼女が魔力を纏ったのであれば。

夕陽に白い石の城門楼と城塞が輝く頃、猫は戻って来た。

恐らく、地下の監房に数人の男性と、二人の女性が収容されているという。そのうち、女性は半死半生であり、かなり衰弱しているようだという。

『全員魔力持ちではありませんが、敬虔な御神子教徒のようです』

彼らは、小さな声で神に祈りを捧げているのだという。そして、二人ほど『魅了』を受けた女性が他にいるという。

そろそろ祝勝会に呼ばれるはずであったフラム城の吸血鬼が消えた事について、本隊から連絡が入る頃だろうと、彼女は考えていた。