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作品タイトル不明

第655話 彼女は対決を見つめる

第655話 彼女は対決を見つめる

言っちゃったーといった空気が凍り付く観覧席中央。だが、女王陛下もジロラモもカラカラと笑い表向き和やかなままであった。

「なるほど。相当の修練を積んでこの場に立っているわけですね。それは、見事な騎士ぶりではありませんか」

最初に口を開いたのはジロラモ。彼は大きくなるまで国王の庶子であることを知らされずに、王の側近の家で養育されていたのだ。

「不遇であることを言い訳にせず、自らを捨てた父親と同じ騎士となるとは……その心意気や良し……であるな」

「その通りです。王国の騎士として、立派に務めてくれているとダンボアからも聞いております」

ネデルの件で王弟とルイダンは話をする機会も少なくないだろう。そこでは当然、リリアルの二人の女騎士の話も出てくるだろう。騎士学校では同期、そしてネデル遠征でも同行しているからだ。

「貴君の目から見て、あの女騎士はどんなものなのかな副伯」

再び彼女は考える。これも、あまり言葉を飾る必要はないと、再びありのままを伝えることにする。

「元は、魔力が既定の値に至らず、薬師として入学させたのです」

灰目藍髪と碧目金髪は薬師組一期生。薬師コースは半年の期間であり、その後は薬師ギルドに登録し、王都近郊の薬師のいない町や村、あるいはニース商会の行商に参加することになっている。しかしながら、薬師の後進を指導するために助手として二人は学院に残ることになった。

「薬師……ですか」

彼女の言葉を耳にしたジロラモは大いに驚いたようだ。

「はい。なので、今一人は騎士の称号を受けておりますが、このような舞台には到底立てないのです。その代わり銃騎兵としてはかなりの能力を有しています」

碧目金髪は、魔装槍銃騎兵として二度のネデル遠征に参加した。彼女と赤目銀髪と碧目金髪だけが全ての遠征に参加している。碧目金髪は、薬師組の指揮官としての位置づけである。恐らく、薬師組は騎士学校に入校することはないだろうし、必要性も適性もない。

「王国では銃を装備した騎士を育成していると?」

「帝国傭兵も銃を装備した騎兵・騎士は増えておりますでしょう。それに対抗するためにも必要な兵科であると考えております」

リリアルの考える銃騎兵と、王国の考える銃を装備した騎兵は少々異なる。長弓騎兵に対抗する兵科として育成されているのが、王国の銃騎兵である。リリアルは機動防御の戦力として魔装銃を魔力量の少ないリリアル生に装備させることで、魔力持ちに対抗させようとしているに過ぎない。

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二人が入場し、司会役がそれぞれを紹介する。伯爵はリンデにおいて名の知れた存在であるようで、名前が伝わると大きな歓声が上がる。貴族の有名人と言うのは、舞台役者や高名な騎士と並び人気商売なのである。

貴族が家名云々とこだわるのも、名誉が傷つくことによって、不利益を被る人気商売である側面があると言えるだろう。様々な交渉事や契約に不利な影響がでたり、徴税額が減ったりすることもないではない。やはり、有名な貴族であるから縁を結びたいと思う人間が多いからだろう。

そういう意味で、リリアルは当初彼女自身の人気により、今日では学院生が孤児出身ながら貴族と肩を並べるほどの活躍をしているという点で大きな人気・影響力を得ている。実際、王都の下町・孤児院ではリリアルの援助で生活が良くなっているという面が少なくない。また、王都近郊の安全性が高まる切っ掛けを作ったのもリリアルのお陰なのだが、実際、その治安を維持するために日夜務めている騎士団からは……若干面白くない事もあるようだ。

とはえい、イノシシ肉をもらったりするので、そこまで悪い関係にはならないのだが。

『はじめぇ!!』

剣を構えジリジリと近寄る二人。そして、伯爵が剣を一閃すると地面が斬れる。

「!!」

「これは」

「魔法剣であるか」

魔法剣、王国では魔銀製の剣が一般的であるが、その他にも魔力による斬撃が起こせる剣が存在するらしい。魔導具の一種のようであるが。

「反則ではないか」

「エキシビジョンということで……無視するつもりかもしれません」

王弟殿下の声に彼女が答える。

最初の一撃は、魔力を込めた分を叩きつけた結果のようであり、その後は同じように地面が斬れることはない。が、魔力の斬撃痕が空中に描かれる。剣に魔力を貯めこんで、大きなダメージを与える魔導具の剣といったところか。

伯爵の剣技は悪くない。悪くないが、剣を合わせると破壊される可能性があるため、灰目藍髪は慎重に距離を取り対峙しつつ牽制を繰り返す。

「攻めようがないわね」

「剣技ではね」

大げさな回避を繰り返し、灰目藍髪が一見ピンチに見える。が、その動きが演技であることをリリアル勢は理解している。解らない観客からは悲鳴にも似た声援と、嵩に懸かるような怒声とが聞こえてくる。

彼女は王弟殿下越しに女王へと声をかける。

「陛下、恐れながら申し上げます」

「……なにかあるのか」

「折角の御前試合ですので、少々、私たちの戦い方をご披露したく存じます」

女王は少々戸惑ったものの、背後のセシル卿から何か小声で示唆され、「良かろう」と同意の声が発せられる。

「失礼します」

断りを入れ、彼女は立ちあがる。

「リリアルの騎士よ! これは余興。その技を持って敵を蹴散らしなさい!!」

「承りました!!」

面貌を上げ、左手を前に掲げると、灰目藍髪は相手に無造作に近づく。

「はは、気でも狂ったかぁ!!」

伯爵は、剣を肩に担ぐように構えると一瞬で間合いを詰め、両手で持った剣を思い切り灰目藍髪に振り下ろす、その瞬間、一足飛びに後退する。

「んんん!!」

灰目藍髪は、『気配飛ばし』を叩きつけ魔力を乱したのである。

「へいへい!! びびってるよ伯爵!!」

「腰が引けておりますわ!!」

彼女の背後に控えているはずの二人から、ここぞとばかりにヤジが飛ぶ。それをきっかけに、「だせぇ」とか「反則してんのにビビってんじゃねぇよ!!」

といった観客から罵声が沸き上がる。

「ふ、ふざけるなぁ!!」

「ふざけているのは閣下です」

振り下ろす剣を左手で受け止める灰目藍髪。

CHUINN!!

「なっ……んだとぉ……」

魔力を帯びた剣で左手ごと一刀両断にするはずが、その掌で受け止められている。あまりの出来事に一瞬混乱して動きが止まると。

GUSHA!!

左の脇腹に灰目藍髪の回し蹴りが突き刺さる。

「ぐはぁ」

手甲も脛当ての下も魔装布の装備で覆われているのがリリアル。身体強化をし、魔装布に魔力を纏わせれば、剣を受け止める程度の事は可能であるし、蹴りを魔装のメイスのように叩きつけることも可能となる。

最近、赤目銀髪や赤毛娘の足癖が悪くなっているのが気になる彼女であるが、対人戦闘、決闘の類では蹴りや関節技も有効となる。

「なっ、こ、これがリリアルの戦い方ですか閣下!!」

側近の一人が、彼女が命じた結果と考え、抗議の声を上げる。

「刃引きの剣を用いて致命傷を避けるのが細則のはず。それを、伯爵自ら決闘に置き換えたのですから当然ではありませんか。その覚悟もなく、まさか、歴史ある伯爵家の十七代目当主が女王陛下と国賓の前で魔剣を抜いたということであれば、反逆罪にも問われかねないのではありませんか」

戦場でもない場所、まして女王の眼前で魔力を纏った武器を振り回すという事自体が「暗殺」を試みると同然だと判断されてもおかしくはない。高位貴族の当主、まして日頃から目を掛けている若者ならば、女王も油断して隙を見せるというもの。

「し、しかし」

「ええ。勿論、理解しておりますわ。こちらも、相応の装具を身に付けさせもしもの事態に備えさせておりますから」

そこで、場にそぐわない明るく快活な声が聞こえてくる。

「それは騎士として当然の心得。もしかすると、リリアル副伯もそのような用心をされているのですか!!」

貴公子ジロラモが爽やかに話しかけてくる。裏のあるような物言いではなく、あくまで騎士としての心配りを賞賛するような声である。

「そうですわね。見えないところではありますが、相応の準備はしております」

魔装のヴィスチェに魔装糸のタイツ、魔装の手袋に魔装扇と平服の騎士程度であれば十分に対応することができるだろう。彼女は更に扇から『飛燕』を発することもできる。だが、ここで知らせる必要性はない。

灰目藍髪は『気配隠蔽』『気配飛ばし』を組合せ、視界の狭くなる完全鎧の隙を突き、剣は魔装で受け流し、柄頭をメイスのように振るい兜を死角から滅多打ちしては後退することを繰り返している。

伯爵は半狂乱で剣を振り回しており、その襲撃の繰り返しから半泣きの状態となっている。

「さて、これはどう決着を付けるか」

女王の呟き。御前試合で醜態をさらさせただけで伯爵には十分なのだが、『決闘』に準じているのであるとするなら、相手が死ぬか、あるいは敗北を認める、もしくは出血させねばならない。

しかしながら、半狂乱で泣いている伯爵が負けを冷静に認めるとは思えず、殺すのは不味い。さらに、刃引きの剣を装備している灰目銀髪が伯爵を出血させることも難しい。

後ろで碧目金髪が首を掻き切るゼスチャーをしているのだが、それではない。

「降参させなさい!」

彼女は灰目藍髪に指示を出すと、身体強化からの加速、そして、剣を逆さに構え『柄』の部分で、思い切り伯爵の膝裏を叩きのめす。

「があぁぁぁ!!」

強烈な膝カックンを受け、伯爵がうつ伏せに倒れる。その背中を思い切り灰目藍髪が踏みつけ、逆さに持った剣の柄頭をメイスのように振るい、伯爵の兜を滅多打ちにする。

GAN!! GAN!! GAGAGAGAGAGAG……

伯爵は剣を手放し、両手を掲げて降伏するようなポーズをとる。

灰目藍髪は、離れて伯爵の魔剣を拾い上げ距離を取る。

「そ、そこまで。勝者……リリアルの騎士!!」

ベコベコになった兜の中からすすり泣きの声が聞こえる。が、観覧席の女王周辺はともかく、悪役伯爵を叩きのめした女騎士には「良くやった!!」と言った歓声が上がる。

「良かったのかしらね」

「良かったのでしょう。伯爵の望み通り、女王陛下の前で腕前を披露できたのだから」

恐らく二度と、伯爵は馬上槍試合に出ることはないだろうと彼女は思うのである。

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かわいそうな気もするので、伯爵にはリリアル謹製よく効くポーションを贈ることにした。飲むかどうかは知らないが。

「随分と荒っぽいのだなリリアルの騎士は」

「冒険者気質がありますから」

「そう。舐められたら負けなのですわ」

王弟殿下の呟きに近い言葉に、彼女と伯姪が答えるのだが、それはそれで周囲の貴族達から「野蛮な」とか「これだから……」といった陰口がこれ見よがしに聞こえてくる。

「なに、決闘と言うのならこの程度で済ませてくれたのであれば随分と優しい対応であるな。我なら、殺していたぞ」

貴族たちの囁きを塗りつぶすような女王の言葉。恐らく、女王のお気に入りということで、セシル男爵邸での我儘・傍若無人ぶりの噂に少々寵愛を失いつつあったのであろう。今日の不出来な振る舞いで、女王の寵愛を完全に失ったのであろう。

伯爵を心配するそぶりも見せない女王に、寵臣の座を失ったと判断した周囲は、伯爵の肩を持つことなく、話題にする事も避けるようになる。

「こうやって、宮廷から居場所がなくなるのね」

「身から出た錆でしょう」

魔力を纏えない剣で斬り殺す事は出来ないが、やろうと思えば倒れた伯爵の首を踵で蹴り折ることもできたのだ。倒れた全身甲冑の騎士などは、ひっくり返された亀のようなもの。徒歩用の鎧であったとしても、平服のようにふるまえるわけではない。まして、上から足で背を踏まれていたのだから。

つまり、反則の武器を扱ったうえで返り討ちにされ、尚且つ、平騎士から情けを掛けられた伯爵様という評価が定着したのである。命は長らえたが、貴族としての名は地に落ちたということになるだろうか。

「気にせずとも良い。あの者は少々心得違いをしていたのだ」

二人の会話に女王が言葉を差し挟む。

「才気ある若い貴族と言う事で、我も目をかけ、セシルも後見を務めていたのだが、だからといって、所詮は賢しい小僧にすぎない。分を弁えぬからあのような醜態をさらすことになる。騎士ごっこで得意になられても、宮廷ではモノの役に立たぬというのにな」

女王は確かに若く容姿の優れたものを好むとは言うものの、それは要件の一つに過ぎず、貴族・側近においてはそれに加えて相応の「賢さ」を求めているということになるだろうか。確かに、引き際を間違えたブレフェルト伯は賢いとは思えないのである。