軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第631話 彼女は王国大使の男爵と会う

第631話 彼女は王国大使の男爵と会う

連合王国の国内が王国と比べ乱雑な感じがするというのは、経済的政治的混乱によるものかと考えていたのだが、恐らく、修道院が廃止されたことも関係していると彼女は改めて感じていた。

人口の増加とともに、農村をはじき出された者たちが都市へと流入。また、御神子教会の小教区や修道院と言った受け皿が破壊された結果、貧者を支える者が連合王国では喪失している。

救貧はこれまで御神子教会の役割りであったが、『聖王会』の設立と、原神子信徒の教会が拡大した結果、特に、商人の多い都市部において施療院や孤児院と言った施設が大いに失われている。

また、林野に住むなり、浮浪者として暴動に参加する貧者の増加から、社会不安が高まっているという事もある。

王国との対決と並行し、新しい王宮の建築、海岸線の防衛設備の構築などで父王時代において、王領を売却するなどして王家の財政は困窮しており、その時代においては『働けない者』はともかく、五体満足で『働かない者』は「犯罪者」として捕らえられ、七万人余りが死刑に処せられている。

それと並行し、『物乞いの禁止』『教区・都市単位での救貧』『不当な非就労者の強制労働』などを王令として定めるに至る。しかしながら、社会の下支えとなっていた小教区教会を解体して、同質的な原神子信徒の教会ばかりとなっている都市において、あまり状態は改善されておらず、不安はそのままとなっている。

修道院を無くすのは一瞬だが、代わるものを改めて供出するのは時間がかかる。

父王時代に修道院の財産を接収し、国王とその周辺の貴族・郷紳は大いに潤ったのだろうが、その結果、不足する貧者の受け皿を完成させるまで、出血は継続して進んでいく。娘である二人の女王陛下は、その後始末をし続けていると言えるかもしれない。

「またお越しください。いつでも歓迎いたします」

「ありがとうございます」

いくばくか寄進もしたので、牧師様以下、教会の方々の姉とサンライズ商会に対する好感度は高い。若い女性が教会に揃って足を運ぶという事も外聞が良い。

「チェケラ!」

「……姉さん、化けの皮がひん剥けているわよ」

「ごめんごめん、いやー 真面目な顔は疲れるよ、ほんとに」

未亡人と見まごうほどの真摯な顔をし続けていた姉は、顔の筋肉が疲れたとばかりに顔を揉んでいる。

「修道院が無くなって一瞬ホクホクだったけど、ツケが回っているんだよねー」

「修道院が金を貯めこむ商人のようになるのは問題だけれども、修道士の持つ技術や技法、蓄積された文化的な財産が喪失したりするのは、やはり問題でしょうね」

ネデルでの焼き討ちと、そこで奪われた教会や修道院の器物が帝国や王国の商人の手で売却されていることから見ても、理由を付けた略奪行為に過ぎないことは明白である。暴徒が行うか、国王が行ったかの違いに過ぎないのだが、多少はマシなのだろうか。

「一瞬回った経済が、戦争と築城で散在されて今や大借金国に成り下がっているから問題だよね」

父王の財産は、先代の三倍ほどのになったという。修道院の領地が王領に変わった分の税収も三倍。

しかし、王国・神国との戦争や沢山の城館や海岸要塞の建築、配置する兵士の雇用などで、散々に金を使ってしまった。今や、その要塞に配置する兵士の維持も出来ないほどの金欠だ。

ない金をどうにかするため、女王陛下は海賊を公認している。私掠免状を発行し足らない収入を何とか調達しようとしている。また、ネデルの原神子信徒を陰に支援する理由は、彼らからの借金を容易にするためでもある。

「あの方も父親の被害者というわけね」

「それを言い訳にして海賊の片棒を肩ぐのはいかがなものなのかしら」

「まあほら、海軍は海賊と同義語だから。うちのダーリンも人の事あんまり言えないんだよねー」

サラセン海賊の襲撃から御神子教徒の船を護る為に存在するのが聖エゼル海軍を始めとする、聖騎士団の有する船団である。故に、相手から見れば『御神子海賊』となるのだろう。

内海の対岸、暗黒大陸にはサラセン人の国が存在するが、これは東方の大国とは別系統らしい。神国のある半島から叩き出された系統なのだ。

彼らは穀物も毛織物も絹織物も武具も、法国や王国から購入するしかない。その金を稼ぐために……御神子教徒の船や街を襲い財貨と人を奪う。人は『奴隷』として購入される。金髪碧眼の御神子教徒は高く売れる。

その金で、御神子教徒の商人から物資を購入するのだからたちが悪い。

つまり、宗教の違いがあるとはいえ、サラセン海賊と女王陛下は同じような存在であると言える。御神子教徒からすれば、更にたちが悪い。異教徒ですらないのだから。

「聖征が発せられたなら、恐ろしいことが起こりそうね」

「第二のネデル……かしらね。堪らないわ」

御神子教徒はまだまだ多い。従わない聖職者もいないわけではない。何より、この国の修道士が還俗させられたものの、神国人や帝国人の修道士が布教のためにこの国を訪れることは未だにある。

彼らが『厳信徒』あたりの過激派に捉えられ、処刑されたりすればどうなるだろうか。

教皇庁とその背後に存在する神国が『聖征』を行おうとすることが当然想定できる。その時には、王国も戦力を提供することになるだろう。同時に、ネデルからランドルへの出兵が行われ、神国と王国が戦争になる可能性も否定できない。

ミアン防衛戦のアンデッドの多くは、ネデル方面から現れたのだ。神国が絡んでいないと断言できるわけもない。姉王の時代、連合王国と神国は同盟国であり、同君連合であったのだから、その可能性も否定できない。

「王弟殿下が王配になったりしたら」

「巻き込まれるでしょうね」

「まあほら、宮中伯のアルマン君あたりが何とかするんじゃない? 多分」

姉の適当な返しを聞き流すも、今回の訪問に彼女が同行する理由もそのあたりの理解を深めるための機会と王宮の側近方は捉えているのだろう。

神国と連合王国の間に入り込まされるのは旨味が無い。王弟殿下が勘違いして暴走しないようにするべきだろう。

「女王陛下の男の趣味もわかってきたしねー」

姉曰く、良いカッコしいのダメ男好きらしい。そして、すごいファザコンだと。

「噂から想像すれば、そうなるようね」

「なんか、あのデブを脳内で相当美化しているみたいなんだよね。自分の苦境の大原因なんだけどさ」

とはいえ、父王も色々こまっていたのだ。兄嫁と強制的に結婚させられ、娘しか生まれず。王子が生まれないと困るんだがと思っていたが、神国王女は全然産めないし、死にもしない。

正嫡でなければ王位の継承権が得られないのは分かっている。だから、王家を存続させようとすれば王妃に死んでもらうしかないのだが、そこまで悪いことは出来ない。

なので、殺さずに済む「婚姻無効」を依頼した。兄嫁だし、近親婚にあたる血縁だから「あれはなし」として貰えばいい。元々、持参金を返したくない祖父王の意向から再婚相手となったのだが、その当ては修道院を廃止することで目途が建っていた。

王子を産める王妃を求めて、何度も再婚した。女王陛下の母親である王妃アンは、複数の姦通の罪で実の兄(姦通相手の一人とされる)と共に処刑。結婚の事実が消え、王女であった現女王は嫡子ではなくなった。

王女としての華やかな幼少期から一転、毛布一枚に困るような軟禁生活へと変わり、母方の祖父母の家からの支援で何とか命を繋ぐ生活をニ十歳過ぎまでオクッテきたのだ。そりゃ……いろいろ問題が起こる。

「男の趣味が悪い理由は分かるんだけどね」

「王弟殿下もその範囲であるというのは恐ろしいわね」

「「超マザコン」」

ファザコン女王と、マザコン王弟の組合せ……どうなるのだろう。

「まあ、面白いことになりそうなのは確実!!」

「頭が痛いわ」

他人事の姉とは異なり、親善副大使の彼女はそれなりに気を使う。仲良くなりすぎて二人が親密となり婚姻を成立させてもこまるが、問題を起こして国家間の争いとなっても困る。

「王弟殿下がお命を……」

「出国できなくなりそうだから止めて」

暗殺でもされようなら、彼女達も収監されたり処刑されるついでもあるだろう。その前に、逃げ出す予定だが。その後は、王国と連合王国が戦争となるだろう。王族を暗殺されて、なにもしないわけにはいかない。むしろ、その方が喜ばしい国が幾つか想定できるだけに怖ろしい。

「何も考えてなさそうだよねあのオッサン」

「間違いないわ。オラン公との会談も、そんな雰囲気だったもの」

血筋だけに価値がある男。それが王弟殿下であるが、それだけに、簡単に死なれたらその後が大変なことになる。とはいえ、エンリが随行員に含まれており、また宮中伯の手の者も警戒しているだろうから、それ以上は望めない。

「まあ、当たって砕けろだよ!!」

「砕け散られても困るのよね」

「魔導船でこのメンバーだけならどうとでも逃げられるから。問題ないわ」

「……そうね。深く考えるのは止めましょう」

最悪はリリアルメンバーだけで王国に逃げかえれば良い……と頭の中で区切りを入れ、彼女は思考することを終了した。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

王弟殿下を迎える前に、彼女はリンデに駐在している王国大使と顔を合わせる。リンデには早々に到着していたのだが、いかにも「先触れ」と言った態で会うのである。

場所は『シャルト城館』。本日は、薬師娘二人は『侍女』茶目栗毛は『執事』として彼女と伯姪の側仕えをしている。赤目のルミリはサンセット夫人ともに裏方役である。

「始めまして大使閣下」

「はい。お噂はかねがね伺っております、副伯閣下、ニース卿。この度は宜しくお願いします」

リンデの王国大使は『男爵』閣下であり、彼女の家系同様、代々外交官として赴任することが多いのだという。年齢的には中年になりかかりと言った世代だろうか。宮中伯アルマンと同年齢だが、顔に苦労が浮き出ているので、老けていると言って良いだろう。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「しかし、この城館はしっかりした防備がなされているようですね。ここならば、王弟殿下とその同行者も収容できて安全を確保できそうなのですが……」

王弟殿下は基本的に王宮に滞在するのだというが、リンデ周辺であれば独立した城館に滞在する方が好ましい。男爵は良い物件が借りられないかと探していたというのだが、リンデ近郊では借りることができなかったのだという。

「ご紹介しましょうか」

「おお!! それは助かります」

彼女は、茶目栗毛に『家主』を呼ぶように伝える。

「しかし、どのような方がこの城館をお持ちなのでしょう」

「恐らく閣下が探されていたときは、女王陛下の側近であるノウ男爵であったと思われます。ここは、戴冠式の前に逗留されたとか。先代ノウ男爵が女王陛下の好みに仕上げた屋敷であると耳にしております」

「ほほう、そのような屋敷を手に入れられるとは……相当の身分の方なのでしょうな」

確かに。次期ノーブル伯は伊達じゃない!!

ドアが開き、姉が入ってくる。

「どもども」

「……貴女様は…… 我が(sa majesté) 女王陛下(la reine) ぁ!!!」

やや薄くなった髪を振り乱し、いきなり立ち上がりその場で礼をする男爵。

「お、会長じゃない。久しぶりだね。元気してたかな?」

「……貴方様がご結婚されてから……ずっと……元気が出ません……」

どうやら、姉が王都の社交界でブイブイ言わせていた時の取り巻きの一人であるらしい。年齢的には一回り近く年上なので、姉との婚姻はちょっと考えられなかった。貴族ならありえる年齢差なのだが、姉が次期当主であるから、嫁には出せないのでそもそも無理筋なのだが。

「そういえば、今はここで王国大使を務めてたんだっけ、すっかり忘れてた」

「……」

姉も結婚して三年も経つだろうか。遠い過去になっているのだろう。

「それで、何か用事があって呼び出されたんだよね私」

男爵は、先ほどの『王弟殿下のリンデ仮離宮』として滞在中借受けたいという旨を姉に伝える。姉は少し考え、条件を出す。

「王弟殿下の仮宮に貸すのは構わないよ。けど、旧修道院の僧房に当たる来客用のスペースと従者用の区画だけならね。私もここは商会で使う予定で購入しているし、そもそも、リリアルが先だから。王弟殿下と言えども、この城館の入手にはいろいろ謂れがあるからね。無条件で明け渡すことができないよ」

「……なるほど。承知しました」

男爵も、親善大使・副大使が同じ場所に滞在する方が連絡が取りやすく、尚且つ、王弟殿下の護衛もリリアル組がいることで厚くなると考えれば、多少の不利益は相殺できると考えていた。

「馬房や従者の居住も十分問題なさそうですので、この件は正式に進めさせていただく方法で手続きさせてください」

「私は構わないよ! 妹ちゃんも良いかな?」

「ええ。それで進めていただけますでしょうか」

男爵は一先ず逗留場所が確保しなおせたということで一安心していた。仮に抑えた城館はリンデから十数キロ離れており、使用人を確保したり、提供する食事の手配など含め、かなり難しいと考えていたのだ。この立地なら、リンデの商業ギルドや宮廷の官吏に紹介してもらい人を手配することも難しくない。

「こちらが主催でのパーティーもここでなら開けそうですな」

「そうだね。まあ、いろいろ謂れのある城館だから、勧めはしないけどね」

元『シャトル修道院』にまつわる噂は、王国大使である男爵の耳にもいくらか入っていたが、女王陛下が滞在したことのある城館であることから、さほど心配していないようである。

「ですが、貴方様が手に入れる段階で、問題は解消されているのでしょう?」

これが見ず知らずの家主なら心配であるが、彼女の姉にそういった問題を解消できないはずがないと男爵は理解していた。

「当然だね」

姉はニッコリと笑い、彼女に視線を向けたのである。