軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第569話 彼女は『古塔』の地下へと足を向ける

第569話 彼女は『古塔』の地下へと足を向ける

四体の喰死鬼をそれぞれが倒した後、入口を解錠すると外の光が一階部分へと差し込む。

「入口で待ち伏せされていたとしたら、先手を取られたでしょうね」

「こっちは明るいところから暗い所へ入るから、目も良く見えないし、普通の騎士や冒険者なら危なかったわね」

『女僧』の指摘に、伯姪と『戦士』が同意する。

「ああ。けど、俺も何もない中空を登るのは危なかった」

「それは慣れてもらうしかないわね」

膝に負担がかかる階段の上り下りは『戦士』には負担になりそうである。とはいえ、この先も『大塔』の中を上り下りする予定なので、我慢してもらうしかないのだが。

「膝は大丈夫ですか」

「ああ今の所はな。防具で膝周りを固めて、痛みが出にくいようにしてあるんだ。軽やかに動けない分、負担も少ないんだ」

膝当を使って、余り可動しないように固定してあるのだという。瞬発力は大いに削られるが、前衛の盾役にはそれほど重要ではないという割り切りがそこにはある。

「良い防具もあるし、一撃を受け止めるのは難しくない」

「けど、過信は禁物よ」

「そこは、危険に対する経験値を信じるしかない」

そんなことを話しつつ、床に転がる四体の屍体を確認する。身につけている衣装からすると、件の運送業者の人間ではないかと思われる。身体的には肉付きも良いが、着衣などからすると妥当な推測だろう。

「依頼されたモノを運び込んだ途端、口を塞ぐために殺されたか」

「殺されたというよりも、吸血鬼により下僕にされたということでしょう」

「では、吸血鬼の存在は確定ですか」

『女僧』の指摘を待つまでもなく、喰死鬼のいるところには、その「創造主」である吸血鬼も存在する。吸血鬼を作り出す吸血鬼は高位の吸血鬼であるが、喰死鬼は出来立てほやほやの吸血鬼でも創造することができる。なので、その脅威度を計る事は難しい。

「吸血鬼で気を付けることは何だ」

「私も、吸血鬼と対峙するのは初めてです。何か助言を頂ければと思います」

二人の冒険者は顔を強張らせ、彼女に質問してくる。

「吸血鬼は、血を吸うオーガだと思えば間違いありません。腕力はオークを凌ぎ、その生前の記憶をそのままにしている為、生前得た技術も身につけたままである場合がほとんどです。加えて、生半可な傷では再生してしまう為に、首を一撃で斬り飛ばす必要があります」

「……つまり……」

「メイスじゃ殺せないってこと。私たちに任せて、捕まらないように自分を守ることを心掛けて貰えればいいわ!!」

「お、おう」

「畏まりました」

伯姪の「迷わず身を守れ」発言に、二人の冒険者は納得して頷く。吸血鬼は人と変わらぬ外見、生前の技術をそのまま身につけている。故に、討伐難易度は相当に高く、尚且つ、討伐達成自体がなかなか難しい存在でもある。

「オリヴィがいればお任せなんだけどね」

「……オリヴィとは、噂の灰色魔女殿か」

「ええ。彼女は吸血鬼狩りが本業の高位冒険者なのです」

ミアン防衛戦では吸血鬼の襲撃を二人で撃退したこともある。とはいえ、彼女自身は討伐実績はあるものの、どういった存在かについては「首を刎ねれば死ぬ」という程度しか知らない。

「魔導具の盾は初見には有効だと思うから、それで初撃を躱す事に

専念してもらえれば、あとはこっちでなんとかするわよね……あなたが」

伯姪が話を振ってくるが、魔力量の増えた伯姪でも今なら十分に対峙できるであろうと彼女は考えている。むしろ、騎士の剣技を身につけた吸血鬼であれば、正直荷が重いと考えている。

「狭い場所で吸血鬼と戦うなんて、考えただけでうんざりするわね」

「それはそうよ。でも、剣技を磨くいい機会じゃない? 渡海すれば剣で戦う機会が増えるわよ」

最近の遠征では、主にバルディッシュのような長柄武器を用いる機会が多かった。招かれた城館や王宮で事が起これば、剣で相手をする機会が増えるのは明白。まして、騎士として遇されれば剣で戦わざるをえないだろう。彼女はあまり剣は得意ではないので、悩ましいところである。

螺旋階段の後ろに地下に降りる階段が隠されていた。陰になっているので分かりにくくはあったのだが、埃の上の足跡で気が付いた。

「じゃあ、地下に降りましょうか」

松明を持って、今度は伯姪が先頭を務める。その後ろを『戦士』そして、彼女と『女僧』。階段を下りると、恐らく二階分ほど下になるだろうか。

「ここ、横に通路があるわ」

方角から察するに、おそらく『大塔』に向かっている隠し通路なのだろう。『大塔』が陥落した場合、この隠し通路から『古塔』を経由して包囲を抜け出し脱出するという事を想定していたのだろうか。あるいは、秘密裏に外部と交流する為の施設か。

「足跡……四五人分だな。それに、重たい物でも持ったのか、足が引きずられている感じがするな」

歩幅が狭く、えっちらおっちら歩いたのだろうと『戦士』は推測する。

「四人がかりで棺桶でも運んだのかしらね」

「棺桶とは限らない。鎧櫃という可能性だってあるだろ?」

修道騎士団に謂れのある武具の収まった鎧櫃ならば、おかしい事はないだろう。だが、ウォレス卿がそんなものを何故ここに持ち込んだのかまでは分からない。修道騎士団に関係する何かなのだろうか。

「聖櫃ということはないでしょうか」

「……契約の箱ってやつか。そんなお宝ここに持ち込む理由がわからん」

聖遺物の一つで聖典に記されている、神と人との契約を記した石板が納められた櫃のことだ。その昔、ラビ人が国を失ったときに散逸したとされるが、密かに隠されている『聖遺物』として奇蹟の力を有するという伝承もある。

「聖征の時代、サラセンを倒す為に探したって騎士物語もあるよな」

「お宝探しの聖遺物ね。でも、相当に荒唐無稽な話だわ。お爺様は大好きだけれど」

流石ジジマッチョ。自身の存在も荒唐無稽だと知ってもらいたい。

聖櫃にどのような力があるのか、彼女は『魔剣』に問いただしてみた。

『知らねぇな。御神子教の聖典に出てくる話は、カナンの地で暮らしていた古の民族の口伝を纏めたものだってのが相場だ』

「つまり、カナンの地なら『聖櫃』に相当するものがあってもおかしくないということね」

聖典はロマ人の民族の歴史の部分と、御神子の生誕から復活までの内容で説かれている。その、ロマ人の歴史とされる部分が、カナン周辺の様々な民族の歴史が流れ込んで「ロマ人の歴史」とされているのではないかというのだ。そもそも、数千年前の時代において存在した民族は今日、影も形も残っていない。幾つかの帝国や王国の集合離散の歴史の中で、消えてしまったのだろう。

『聖櫃をここに持ち込んでいたら、異端審問の時に見つけてるだろうな』

「もし、隠したメンバーが逃げ出してしまい、それらが海を渡った島に逃げ込んでいたならどうかしら」

『そいつら、最近、石工になって戻ってきたとかじゃねぇだろうな』

聖櫃は石の板が収まった箱だ。石工が持ち込んだとしても、それは何かと問われる事もなさそうだ。修道騎士団だけでなく、聖征に参加した聖騎士団は、その築城術の中で石材を用い建築の技術とその職人集団を取りこんでいた。新たな拠点に、カナンの地から密かに『聖遺物』として発見した『聖櫃』を持ち帰って『大塔』に隠したとすればどうだろうか。

「それを大塔の何処かの隠し部屋に封印し、密かに封印した場所を知る者は王国を抜け出し隠れ潜んだ。そして、復讐のために王都に戻ってきた」

『ウォレスは協力者といったところか。便宜を図ってやったってところだな』

関わりがあるが共犯と言うまでではないということだろう。王国が混乱するのは構わないが、王弟殿下を渡海させる事は実行したい。王弟殿下が連合王国滞在中に王都が大混乱、王が死に王都が破壊されれば……というシナリオは揺るがない。

『『聖櫃』の持つ能力は、死者の復活ってのもあったはずだ』

死者が蘇る、生前と変わらぬ姿で。しかし、死者は生者のように見えたとしても死者である。聖櫃などなかったとしても、ノインテーターやレブナントといったアンデッドは存在する。

「死者の大量の黄泉がえりを発動させる魔導具だとしたらどうかしら」

『滅亡した国の復讐兵器かなにかか。皆殺しにされた奴らが復活して襲い掛かって来るとか、ぞっとするな』

即座の仕返しではなく、繁栄しその存在すら忘れ去られたころに復讐を行う。これぞ神の天罰とでも言いたいのだろうか。

彼女は、自分なりに『聖櫃』が持ち込まれたのではなく、聖櫃を作動させるもしくは、在処を知っている存在が戻って来たのではないかと推測を述べる。

「わんさか、スケルトンを発生させる魔導具ね。ミアンもそれかしら」

「いや、こっちが本物、ミアンはそれの劣化版だとすればどうだ?」

「ここに安置されている、歴代の総長がアンデッドとして復活し、納骨堂の死者である修道騎士達を引き連れて王都を襲おうなんて……」

「どんな地獄だよ。絶対阻止だ」

伯姪と『戦士』『女僧』も、事態が一層複雑であり、この探索は単なる魔物討伐では済ませられないと理解したようだ。

「しかし、どこにあるんだ」

「隅から隅まで……『大塔』を調べることになりそうですね」

戦士の問いに、彼女は当然とばかりに答える。

「それは望むところです。胸が高鳴ります」

「……足がズキズキ痛むぜ。嫌な予感しかしねぇよ」

ヤル気の有無は大切だが、意気込みが過ぎるのも問題となる。確実に安全を優先しなければならない。アンデッドであれば、『魔力走査』でその存在は把握できる。不意打ちさえ喰らわなければどうということもない。

仕掛けを見つけ出す事に、冒険者二人は注力してもらいたいと彼女は役割りを定めた。

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地下通路には特に仕掛けは無く、脱出用の通路としてはシンプルな作りであった。慌てて逃げる時に、自分が罠に掛かるようなものでは困るということだろうか。

「この壁、土魔術で作られているわね」

「確かに。この周辺はもともと湿地とかだもんね。普通に通路を作ったら、こんなに綺麗に仕上がるわけないか」

聖騎士団には魔力持ちの騎士は当然いただろうし、騎士ではなくとも修道士や司祭が所属していたように魔術師、とくに精霊魔術師が在籍していた可能性はある。

カナンの地は水に乏しく、そういう意味では『火』や『土』『風』の精霊が強い場所なのだろう。『土』の精霊魔術に優れていたのであれば、巨大な『騎士の城』を短期間に複数建築することも容易となるだろう。

「ガイア城も確か二年足らずで築いたんだよな」

「そう記録されています。そして、ロマンデの税収二年分が投入されたとも」

「……魔術師にふっかけられたんでしょうか」

聖征で活躍した『英雄王』だが、サラセンの宰相率いる軍と死闘を繰り広げたものの聖王都は奪還できず、本国が怪しくなったため途中で遠征を終了させたのは有名な事だ。その間、ギュイエの蛮王国領を『尊厳王』の軍が制圧していったからだ。

王国軍の弓銃の射撃を受けた傷が元で『英雄王』は死亡する。ギュイエの女大公との婚姻で得た地も、三男の英雄王を死に至らしめ、四男が王位を継いだ後は連戦連敗。ボルドゥ周辺を残して王国が全てを手にしたのだ。とはいえ、王国各地には『修道騎士団』を始め、多くの聖騎士団へ寄進された領地があり、その領域は王の領地を上回る者であった。なので、今の王国よりも、ずっと小さく分散されたものであったと言えよう。

主要な街道は修道騎士団が抑えており、用心棒と街道の使用許可権を有するほどであったと言えば、その力の差がわかるだろうか。

聖征の時代において、教皇しか上を持たない聖騎士団の総長は、一国の王以上の存在であり、ある意味、王を舐めていた。故に、聖征が失敗に終わり、聖王国が失陥し教皇に求心力が無くなったとしても、その認識を簡単に改める事は出来なかった。

改めたのは……修道騎士団総長が異端として処刑されて以降である。

「過去の亡霊に左右されるのは堪らないわ」

「生きていく上で、過去と現在を切り離す事なんてできないわよ。それこそ……」

「国を捨て、故郷を捨て、家族を捨て……修道士にでもならなきゃか」

コツコツと長い地下通路を松明の明かりを頼りに歩く四人。王国や王都、そして子爵家やリリアル学院を捨てるなど、彼女には想像できない。そう考えると、よりどころである聖騎士団を異端として破壊された聖騎士達の恨み事は……理解できるかもしれない。

通路の先には大きな土の壁。

「ちょっと待っててくれ」

「……大丈夫、この向こうに魔力を持つ何かがいるわ」

「おい、待てって!! これは、石の壁を吊り上げる仕掛け……」

『戦士』は落とし壁の仕掛けを解きたかったようだが、彼女は剣に魔力を込めると一閃する。そして、上半分を魔力壁をぶつけ叩き落した。

GOGONNN……

その壁の向こうには、恐らく近衛騎士の装備を身に纏った男が首をあらぬ方向に曲げつつこちらへと振り向く。薄っすらと黄色に輝く魔力を纏っている。

「アンデッドか」

「恐らくワイト。死体に死霊が乗り移っている実体のある魔物です。直接体に触れられると、体が硬直し戦闘不能になると思われます」

「イエス攻撃、ノータッチか」

「弱点は?」

「首を斬り落とすのは有効。ただし、脳を破壊しても恐らく効果はありません。乗り移っている死霊を魔力でダメージを与え消し去る事が必要です」

『戦士』は、任せたとばかりに前に出つつ、距離を取りながら彼女と伯姪の攻撃路を開ける。メイスとラウンドシールドを構えた『女僧』は牽制するようにワイトの背後へと回り込む。二人は囮となり、攻撃しやすいようにワイトの関心を散らすつもりのようだ。

『憎ムベキ王国ノ騎士ヨ。神ニ替ハリテ罰ヲ与エン!!』

胸鎧に兜をかぶった今風の近衛騎士。しかしながら、その構えは古の騎士のものであった。