軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第527話 彼女は醜鬼勇者と対峙する

第527話 彼女は醜鬼勇者と対峙する

英雄という存在がいる。英雄は成し遂げた成果に対して、人は「英雄的」であったと評価する。

彼の、大帝国を一代で築いた『イスカンダル』大王などがそれに当たるだろうか。そして、彼の大王も戦場においては常に戦機を逃さず、親衛隊の騎士を引き連れ戦場を支配する勇者でもあった。

勇者とは、その在り方、行動に伴う称号であり、事績が伴わずとも勇者であることは出来る。例えば、一度も勝利した事の無い英雄は存在しないが、重なる敗戦の中でも諦める事無く活躍する『勇者』は存在する。

勇者は行動をもって、英雄は事績をもってそうみなされる。

と考えれば、オークにブレイバーはいても、ヒーローは存在し得るのだろうか。

勇者は魔力を纏う 片手半剣(バスタード・ソード) を装備しているが、体の大きさからすれば、クレイモアかツヴァイハンダーのサイズにしか見えない。

『グフフ……オンナヒトリジメ!!』

考えている事は所詮オークである。恐らくは、勇者の供回りとしてオークの中でも装備も能力も水準以上の戦力が与えられていたのだろう。残念ながら、スペル・ユーザーはいなかったが。

「強いわね」

『ああ。だが、竜ほどじゃない』

彼女は確かに二度竜と対峙したことがある。とはいえ、相手は知能も低く、攻撃手段も限定されていた。噛みつき、尾を振り、精々毒を吐く程度の能力だ。確かに、鱗は堅かったがそれ以上に強力な攻撃手段を持って戦った。

魔力を纏う剣を持つ敵は『黒い魔剣士』以来であり、その魔剣士には勝利する事ができておらず、逃がしてしまっている。

「逃げるか、逃げられるか」

『そんなことは、一当たりしてから考えろ』

彼女は、『飛燕』を飛ばし牽制する。

KYUINN!!

魔力を纏った剣で再び弾かれる。ジリジリと相手が前進するのを、彼女も同じ距離後退する。

スティレットでは致命傷を与えられず、魔銀の片手剣では相手の間合いが有利となる。懐に入り込んでも、切り札と言えるものが無い。

「装備を変えるわ」

『妥当だ』

彼女は、魔銀鍍金のオウル・パイクに持ち替える。

『ブフウゥ……』

オークの勇者は前進を止め、彼女の様子を伺い始める。オウル・パイクは端的に言ってバスタード・ソードより間合いがある。彼女の身体強化による膂力と、魔銀で強化された3mの錐槍であれば、オークの肩口から胴まで斬り下ろすことも難しくない。

今まで、勇者を勇者たらしめた腕力と装備が、ここでは優位を失いつつある。オーク・ブレイバーはそう感じ始めている。理解ではなく、本能で感じているという部分が、醜鬼らしいと言えるだろうが。

『オンナ喰イタイ。槍ガジャマ』

言っている事は本当にオークそのものだ。

ジリジリと間合いを詰めるオーク。ピタリと喉元に穂先を当たるように構える彼女。そして。

――― 『 雷刃剣(らいじんけん) 』

槍を扱くように振るい、穂先から魔力の錐槍が射出される。

GYUINN!!

込めた魔力量は変わらないが、魔銀鍍金製の為、込めた魔力量が減ったのか音が変わる。

『駄目だろそれじゃよ』

「そうね。そうかもしれないわ」

彼女の目論見は別のところにある。魔力を持っているものが剣自体なのか、オークが纏わせているのかはわからない。魔力量の勝負であれば、彼女に分があると踏んでいるのだ。

余裕を持った雰囲気を漂わせ、勇者が前進する。剣を引くように構え、その長さを体で隠している。とは言え、槍の方が間合いが長い。

「魔力纏いで槍ぐらい斬れるとおもっているのよね」

彼女が魔力を纏わせた武器で日頃敵の装備を切り裂くように、恐らく醜鬼の勇者も敵を蹂躙してきたのだろう。ニヤニヤが大きくなり、だらしなく開いた口元からよだれが流れ出ているのが見える。そして……臭い。

『涎流して臭い勇者……ありえねぇ』

「加護だけはいっちょ前に持っているだけですもの」

踏み込んだオークが剣を横薙ぎに振る。

槍と体を逸らし、彼女は剣を躱す。そのまま、しならせたオウル・パイクの魔銀の穂先をオークの体に叩き込もうとするが、鍔元で弾かれ、ギュインと音がする。これも魔力を纏わせて弾いたようだ。

『おい!』

醜鬼勇者の背後から、何体かのオークが現れる。そして一体はロッドを持っている。戻りの遅い『勇者』を気にした為か、オークメイジとその護衛であるオークが登場した。

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護衛のオークは四体。剣と丸い盾を装備している。接近戦に弱い魔術師の護衛として装備を整えているようだ。

「不味い……かしら」

『ああ、かなりな』

剣兵と魔術師の組合せは、かなり面倒だ。オークなら味方ごと攻撃する事も考えられる。

『ジャマヲスルナァアァァ!!』

勇者が一喝。その咆哮の如き声で、後続のオークたちが固まる。味方だけでなく、本来は敵も硬直するのだろうが、魔力を込めた咆哮も魔力持ちには影響は少ない。

『デスガ!!』

『アノメスハ魔力持チダ。オレガクウ』

魔力は魔力持ちの人間を食べる事で、オークはその力を身に着け高める事ができるようだ。この醜鬼の勇者も、過去、人間の魔力持ちを食べ、力を高めてきたのかもしれない。

盾を構え、魔術師を守るように並ぶ剣兵オークを背に、勇者は両手剣を持ち攻撃のタイミングを計っている。

彼女は勇者とそれ以外を分けて考える事にした。先ずは勇者を倒す。

「掛かって来なさい」

『グフフ……ナメルナ!!』

一気に突進、魔力を叩きつけられることを覚悟で間合いを詰める。が、彼女は魔力を叩きつけない。突き出したオウル・パイクに、バスタード・ソードを絡みつかせるように振り下ろす。巻き上げようというのか。

PANN !!

『ナアァ……』

「魔力も頭も足らないわよ。醜悪な勇者様」

彼女はバスタード・ソードの軌道上に分厚く『魔力壁』を展開、その振り下ろされた切っ先を空中に留め置く事に成功していた。

そのまま、突き出したオウル・パイクを踏み込んで醜鬼勇者の胴体にずぶずぶと突き刺していく。

『ア・ア・アアアアアア!!!』

片手でオウル・パイクを引き抜こうとするが、彼女が本気で力を入れ穂先は勇者の腕の力をものともせずに、ズブズブと体を突き抜け、やがて穂先が背中から出るまでに至る。

「では、これで、ごきげんよう」

オウル・パイクから手を放し、右手で『魔剣』を手に取る。

『おう!!』

魔銀のバルディッシュに一瞬で変化した『魔剣』を振り抜くと、醜鬼勇者の首がゴロリと地面に転げ落ちる。噴き出す血しぶきを躱すと、背後の五体のオークへと走り出す。

『ブ ファイア!!』

ロッドを彼女に向け、火球が飛び出してくる。姿勢を低くした四体の醜鬼剣兵が突進を開始する。

『ゴアァ』

バルディッシュの斬撃を袈裟斬りに受けた一体の剣兵が斬り倒される。距離をとるバックステップ。刺突が、彼女の今までいた空間に突き出される。思っていた以上に精兵のようだ。

『騎士団より優秀だな』

「かも……しれないわね」

腕力・魔力・装備・コンビネーション。騎士団でも魔力持ちの分隊レベルの戦力に見て取れる。四人で班、分隊は十二三人だ。

一瞬で『魔剣』はスクラマ・サクスに変形。そして、左手には魔銀のスティレット。左手に魔力を込め、スティレットを振るう。

――― 『 雷刃剣(らいじんけん) 』

TANN!!

――― 『 雷刃剣(らいじんけん) 』

TANN!!

――― 『 雷刃剣(らいじんけん) 』

TANN!!

雷は何も表面的な熱傷・裂傷を引き起こすだけではない。筋肉を収縮させ、動きを止め、血液を沸騰させる。そして、衝撃波を伴い脳にもダメージを与える。

『火』系統が熱もしくは爆発によるダメージだけであるのに対し、『雷』はその上位互換とも言えるダメージを与える。痛みに耐えることができたとしても、意識を保つ事ができたとしても、体を自分の意思で動かす事ができなければどうなるのか。

彼女は剣を三度振り抜くと、オークの首が三つ地面へと転げ落ちる。

『ブ ファイア!!』

剣兵が彼女の動きを拘束している間に、背後から魔術を放ち攻撃を決めようと詠唱をしていた魔術師が、再び火の球の呪文を投げつける。が……

PANN !!

火球は魔力壁に弾かれ、谷底へと落ちて行った。山火事は……大丈夫だろう。

『BUBUBU……マ、マテ、マッテクレ、マッテクダサイ!!』

ロッドを手放し、魔術師のオークが地面へと土下座する。

『ミノガシテ……』

「そんなわけないじゃない? あなたの能力も人間から奪ったものなのでしょう? なら、その命乞いを聞くわけがないじゃない」

――― 『 雷刃剣(らいじんけん) 』

――― 『 雷刃剣(らいじんけん) 』

――― 『 雷刃剣(らいじんけん) 』

三本の雷を纏った魔力の錐槍を受け、音もなくオークの魔術師は黒こげとなるのである。

『やりすぎだろ』

「私、ミディアムよりも、ウェルダンが好きなの。しっかり焼いた方が……安心だもの」

『鮮度が良けりゃレアでもいいが、豚は寄生虫がいるからな。良く焼いた方が良い』

豚に似た何かであって、オークは豚そのものでもなければ、豚肉より美味いわけではない。

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結局、彼女は一人で、オークの勇者・魔術師各一、剣兵四、槍兵十一を討伐した。

まずは武器を回収し、首を落としたのち胴体部分を装備ごと回収する。首は……

「雷が落ちていると思えば何事」

「……先生、お一人で無茶をされるのは困ります」

赤目銀髪と茶目栗毛が合流。オークの集積地を見つけたのち互いの存在を確認したのだが、近くで大きな落雷のような音がする為、様子を見に来たというのだ。

「首はどうするおつもりでしょうか」

「……本当は、群れの中に放り込む予定だったのだけれど」

その時間はなさそうだ。この場に放置しても恐らく、後から来るオークの眼に触れ騒ぎとなるだろう。

赤目銀髪に促され、彼女は離れた場所で気配隠蔽を行い様子を見る事にする。

先ほどの谷あいの窪地へ三人で戻り、状況を再度確認する。

「数が増えている」

「……二百くらいいそうね」

彼女は二人と話をし、役割を定める。赤目銀髪が遅滞行動を行うために弓で攻撃をしつつゆっくりと後退。その射線を潜り抜けたオークの先鋒を茶目栗毛が剣で牽制する。彼女は一足先に湖まで後退し、伯姪らと罠を仕掛けオークの群れを誘引してくる二人を待ち受ける。

「では、お願いね」

彼女は刈り落とした醜鬼勇者どもの首を窪地に投げ入れ、背後も確認せずに湖へと駈けだした。