軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第497話 彼女は『人造岩石』の硬度を知る

第497話 彼女は『人造岩石』の硬度を知る

「とんでもねぇ硬さなんだが……あと、造るのもしんどい」

「大変だけど、これは凄い。たしかに人造岩石だって言える」

歩人と癖毛。感想の差が若さの差である。

射撃演習場の一角。そこに、縦横3m、厚さ1mの試作人造岩石が形成されていた。

「まあ、実際造るのはこんなもんじゃないものね」

「……継ぎ目の処理とか、もう少しきれいにできないのかしら」

「おいそこは、もう少しねぎらえよ……でございます副伯様」

いまだ陞爵してはいないが、これはあくまで歩人の嫌味である。

完全に固まるまで数年かかるとされるコンクリートであるが、土魔術の補助もあり、十分な硬度迄高めることができている。これを用いて、彼女は『魔装笛』を用いた破壊実験を行う事にしていた。

『魔装笛』とは、口径5㎝のハンドカノンであり、ラ・マンの悪竜を討伐する際に使用された装備である。魔力を付与した魔装弾を発射することにより、通常の大砲であれば15㎝の口径の弾丸と同じ程度の破壊力を持たせることができる。

「まずは、魔装銃から放ってみましょう」

魔装銃も通常のマスケット銃の威力の約三倍の口径に匹敵する威力を魔装弾を用いる事で発揮することができるとされる。

魔装弾とは、彼女の魔力を込めた魔石を核に据えた弾丸のことである。魔鉛弾よりも貫徹力に富む効果がある。魔鉛弾は魔水晶を粉末状にし、魔鉛と銅の合金の中に混ぜた弾丸を意味する。

「期待するところ大ね」

「あっけなく砕けたら、次に砕けるのはセバスの心と体になるわ」

「……モラハラじゃないですかね……でございますぅ」

後半は真面目にビビっていたのは、彼女が冗談を言わないと思い出したからだろう。

「俺の施工したことろは完璧だから」

「右左どっち」

「右半分だ!」

癖毛的には腕に自信ありのようだ。工作内容は難しくなったが、最初の手探り回よりは手慣れた様子である。たしかに、中央の部分にも薄く継ぎ目のような段差があるのは、そこで製作者が変わっているのだろう。

「まずは右側から」

POW!!

命中した弾丸がチュインとばかりに跳ね飛ばされる。

「岩だものね」

「岩ですもの当然ね」

射撃をする伯姪と見届けた彼女が、人造岩石に近寄り命中痕を確認する為に近寄ってみると、僅かに命中箇所の表面が削れているように見て取れる。岩を鉛弾で砕くのは不可能であると良く解る。

「次は左ね」

再度弾丸を装填し、今度は左側、即ち歩人の作成した半分に狙いを付けて発射する。再び確認に近寄る二人。

「ヒビが入ったわね」

「岩にヒビが入るほどの威力かよ……でございます」

「施工不良かもしれないわね」

「……たまたまだろ。まあ、多少の差はあるかもだけどよ」

癖毛の言う通りかもしれない。弾丸も威力も一律とは言い難い。マスケットとしては高威力の射撃を受けても精々ヒビが生じる程度と考えれば、石積みや煉瓦の壁よりは相当に強固と言える。

そしていよいよ『魔装笛』による射撃である。

「竜殺しの笛って奴ね」

「人の握りこぶしより小さな弾丸だが、威力は相当出るんだろ?」

悪竜討伐の時は、前衛として戦った伯姪は、彼女の射撃をする姿をその視界に収める事は無かったので、初見という事になる。威力が大きすぎ、使用する機会がないので、今回、見るのが初めてのものがほとんどとなる。

「魔装弾を使うのは、儂も初めて見るな」

制作を依頼し、彼女に手渡した老土夫も試射は通常の鉄の砲弾で行っているので、どの程度の威力かは他の者たちも同じなのだ。

「念のために、魔力壁を展開してもらえるかしら。破片が飛ぶと危ないと思うの」

「……砕くこと前提かよ……」

見学に来ていた魔力壁を展開できる者は、それぞれ展開をする。その状況を確認した後、全身に魔力強化を施し、ハンドカノンを発射する。

DOWW!!!

発射の衝撃で体がズズッと後退する。悪竜討伐の際は、魔力壁の足場で体を固定していたので、これほど体がブレるほどの衝撃を受けるとは思っていなかった。

GUWANN!!

最初に右側の壁、即ち癖毛が作成した人造岩石に砲弾が命中する。数センチだろうか表面を削り潰し、弾丸はめり込んだまま停止している。

「どっちもすごい!!」

「あの弾丸の威力を受け止めるってのは、相当だなおい」

冒険者組も彼女の魔装笛の射撃とその威力に大いに驚き、また勇気づけられる。赤毛娘辺りは「あたしも欲しい」などと言い始めているが。

「あんた、試しに魔銀鍍金のバスタードソードで斬りつけてみなさいよ」

「折れたらどうすんだよ。それに、壁を斬れなんて言われる訳ねぇだろ」

蒼髪ペアはいつもの軽い掛け合い。人造岩石の防御能力は少なくとも竜の腹よりは遥かに強固であることが分かる。

「なんなら、魔装鍍金の鋼板を内部に張り付けて、強度を出す事もできるかもしれんな」

「それは、中庭に面した二面で行う方がよいと思います。そちら側は、普通の城館風の仕上げにしますので。迎賓宮から見えるので、見た目をあまり厳めしくしたくありません」

「なるほどな。内装なら、後付けでどうとでもなろう」

人造岩石製より、土魔術で構築する一般的外壁であればより短い工期で完成するであろうし、加工も容易となる。

「二期生三期生用の寮を人造岩石製で試作した上で、迎賓宮楼門を作成着手することにしましょうか」

「む、確かに。リリアルの建物であれば多少の失敗も修正も可能じゃが、王都の建物、それも宮殿の付属物であれば、慎重に仕上げるべきだろう」

老土夫は土魔術はさほど得意でないため、あまり建設関係の助言はできないというものの、造作などに関しては相応の経験もあり助言をするという。とはいえ、土夫の好みはかなりゴシック風であり、王国の好みとは少々乖離するというのである。

確かに、帝国の建物は厳めしく角ばった印象を受ける建築様式であったと記憶している。

「じゃ、これで終わりって事で……」

「セバスの、ちょっといい壁見てみたい!!」

「か、壁とかおんなじだしぃ、意味わかんねぇしぃ……」

左側のセバス施工の人造岩石の射撃テストを行うのを避けようとする施工者。

「何か後ろ暗い事でもあるのね」

「怪しいわ」

「怪しくねぇし、いたって健全だし」

「院長先生!! あたし、射撃してみたい!!」

我慢しきれないとばかりに、赤毛娘が手を上げる。身体強化の能力、魔力量と操作の精度も問題はない。

「いいわ。どうぞ。弾丸はこれね」

「はい!! はりきってまいりましょぉ!!」

「……いいぞ、普通で。普通が一番だぞ……」

彼女から魔装笛を受け取り、弾丸を装填し構える赤毛娘。彼女より頭一つ背の低い『幼女』とも言えるそのものが、構える姿はとてもしっくりくるのは、何故なのだろう。

「これで私も竜殺し」

「え、私たちもうそれで騎士になったよね、タラスクスの時に」

「止めを刺してこその真の竜殺しだよ!!」

何やら物騒な掛け声とともに弾丸が射出される。

DOWW!!!

BA BGUAWANN!!

「「「「ギャー」」」」

「やっぱ砕けたか……」

どうやら歩人的には、厚くすると精密に魔力を操作するのが難しいらしく、魔力も今一つ足らないようなのである。施工時間を癖毛より長くとるか、魔力回復ポーションを飲みながらでないと厳しいという。

そこそこ砕け剥離した人造岩石の欠片を握りつぶしながら、彼女が歩人に対して「次はないわよ」と冷たい声で言い放つのを聞き、一期生全員が「洒落にならないくらい院長先生怒ってる」と認識する。

「まあまあ、その為の試作だから、あんまり怒らないで上げなさい」

「……お前、良い奴だな……」

伯姪にフォローされ、涙をにじませる歩人。

「練習がてら、隣の騎士団駐屯所の作業小屋とか沢山作らせればいいと思うのよ」

「とても良い考えね。セバスはどうやら魔力操作が苦手のようだから、魔力回復ポーションを飲みながらでもじっくり作業させましょう。幸い、暫くはそちらに専念しても問題ないでしょうから。しっかりと人造岩石作りを体得してもらわないとならないわね」

「……お前ら……本当に鬼だな……」

前言撤回とばかりに言い返す歩人。彼女はこう答える。

「鬼ではないわ、ただの魔術師よ」と。

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いくつかの作業小屋、学院前のニース商会の支店の倉庫、老土夫の工房の資材置き場などを人造岩石製で作り直した歩人は、仕上げ確認の際、通常弾の魔装笛を赤毛娘に打ち込まれ耐えるテストを無事通過し、なんとか合格点と見なされる施工をできるようになっていた。

その期間、一週間ほど。

「やればできるじゃない」

「やればできるおじさん!!」

「手加減してぶっ放してくれてサンキュな」

試験官である赤毛娘に感謝を述べる歩人。

これで、寮の作成を始めることができるようになる。

「作ってすぐ引っ越しではないのよね」

「完全硬化までに時間が多少かかるでしょう? 魔術による硬化の度合いを緩めて、自然に固まるのを待つようにしようかと思うの」

「なら問題ないわね。一気に全部作るわけでもないでしょうし」

寮は三階建てにする予定である。木造の物と違い、最上階には城壁よろしく『胸壁』を形成する。リリアルの居館自体には防護設備はないため、まずは寮を強化する予定なのだ。

王妃様の離宮に勝手に手を加えるわけにもいかない。

ネデルから帰還した直後、副伯陞爵の話を聞き、彼女はしなければならないことがあった。

「男爵の時と同じように……」

「駄目だよ。それに、これから王弟殿下の供として社交をする必要があるんだからこの機会に何着かドレスを作らなきゃじゃないか。アイネなら幾つもドレスを持っているだろうから借りれないでもないけど……」

祖母が口ごもる。そう、彼女と姉では背丈が似たようなものでも、体のサイズはかなり異なる。二回りくらい小さい。どことは言わないが。そうすると、似合うデザインも異なるし、つける装飾も変わって来る。

「リリアルらしく、水色かね」

「水色に銀の刺繍でしょうか」

「刺繍が時間がかかるから、ある程度余裕をもって頼まないといけないね」

王族の身に着けるような精緻な刺繍が入るものは、それこそ年単位で準備することになる。

「今回は、胸回りと裾だけでいいだろう。夜会用でもないし、水色ではそれほど刺繍も目立たないだろうからね」

帝国で幾つか入手したドレスやワンピースは商会令嬢の為の者。王都を散策や仕事で出歩くには問題ないが、王宮に身に着けて行けるわけではない。

「王弟殿下のエスコートの際には、何着かドレスを用意してくれるだろうから、それを見て……になるだろうね」

王弟殿下が公務で同行する際の衣装を用意してくれるという話である。仮想婚約者役を務める上での、必要経費というところだろうか。

「あの坊ちゃんは、王都でそれなりに社交は務めている。公務ではなく趣味でね。だから、女性の身に付けるモノの流行くらいは押さえているから安心して貰っておきな」

「深い意味を考えずに……でしょうか」

「ああ。流石に王大后の望みでも、私が目の黒いうちはやらせないさ。それに、王弟とお前が釣り合うわけがない。あんなのは、血筋だけでも王族の女と結婚して子供を産むくらいしか役に立たないんだから。子爵の娘じゃ、王弟妃にゃ身分が足らない。そもそも、妃の実家の権勢頼りで生き延びなければ先の無い男が、あんたを選ぶわけがないからね」

なるほど。国王陛下には王太子がおり、その王太子が男子を持つまでの予備の予備に過ぎない王弟にとって必要なのは、王太孫が生まれても公爵・王族として相応しい生活を保障してくれる大貴族の嫁である。

「そんな大金、あの人の為に使えません」

「ああ、出来るだけ遠くの女王の王配に送り出したいもんだね。けど、あのダメ男が母親のいないところで好き勝手すると、相手の国と王国の関係が悪くなるかもしれないから、やっぱり適当な公爵位を与えて飼い殺しがいいんだろうね。王都の近くの小領主辺りがおにあいさね」

リリアルは生徒が倍増し、リリアルの財政は火のクルマ化しつつある。陞爵し、封土や収入が増える事を切に望むものである。

資金の為に、今あるリリアルの装備を一般に売却するわけにはいかないのだから、収入増を考えるに、大金を持っている……例えば私掠船の上前を刎ねるような活動をする必要があるかも知れないと彼女は考えていた。