軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第470話 彼女は『ゴブリンプリンセス』に会う

第470話 彼女は『ゴブリンプリンセス』に会う

『それで、何用かえ?』

目の前のゴブリンは、確かに女性の姿を模していた。胸は膨らみ、背は十代前半ほどであろうか。人間としては小柄だが、ゴブリンとしてはやや大きい個体になるだろうか。

ティアラのような冠をかぶり、どこか薄汚れたドレスらしきものを見に纏っている。背中はボタン止めか紐で締め上げる事になるので、随分と手先の器用なゴブリンが側仕えにいるのだろう。しかし、ドレスはいささか古いデザインだ。百年戦争の頃だろうか。

『デンカ、オサガリヲ!』

昨日討伐したジェネラルより一回り小さな個体だが、細身の片手剣を構え、ナイトシールドを構えている。これは、ゴブリンガーダーとでも言えばいいのか。護衛騎士に当たる存在かもしれない。

『何を言うか。賊を詮議するのも君主の務め』

うん、どうやらこのゴブリンは『プリンセス』のようだ。どこの世界の姫の脳を食べればこうなるのだろうか。少なくとも、侍従兼護衛騎士と姫が食われたと考えて構わないだろう。

『カッツ。また臣下の者は集めて育てればよい事。妾とお前がいれば、国はまた作れるというものです』

『ソレハ……ショウショウムズカシイカトゾンジマス……』

プリンセスはともかく、ガーダーは彼女と歩人の能力が見えているようだ。簡単にこの場所から逃げ出す事は許してもらえそうもないと。

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ゴブリンの廃坑を塞ぎ、傍らのタワーと言えばいいのだろうか円塔の前へと彼女は移動した。歩人は命ぜられた通り入口を土魔術で塞いでいる。

「終わったのか」

「あとは時間の問題ね」

「で、この後どうする。中にいるのは二匹。雄雌一匹づつだな」

ゴブリンの雌というのは珍しい。もしかすると、この世に怨念を残しやすいのは男に偏っているからかもしれないと彼女は考えていた。女の場合、産んだ子供に命が引き継がれるということもある。何としてでも結婚し、子を産まねばならないという決意を新たにする。大事な事なのでもう一度決意する。

「その途中の窓から入りましょう」

「そうだな……」

魔力持ちの二人は、魔力壁を形成し、三メートルほどの高さにある明り取りの窓らしき空間に足場を作る。中は螺旋階段状であり、余り大きくないことを考えると、中間階と最上階の三階建てくらいだろうか。

螺旋階段は外から光が入って来るものの、陰影ができているので正直目がくらまされられるのだが、魔力走査により最上階にのみ魔力持ちが存在する事を確認する。

「だぁ、面倒な階段だな……」

「セバス! 足を止めなさい」

床に色目の異なる敷石がある。その横には不自然な隙間が形成されている。

「下がりなさい」

「お、おう……」

踏み石の上を取り出したバルディッシュの柄で力を込めて押し下げると、内側の壁の隙間からドスっと長槍のようなものが飛び出してきた。

『仕掛け床かよ』

口に手を当て悲鳴をこらえる歩人。危機一髪である。

「……もう少し周囲に気を配りなさい。この城塞の最上階にしか魔力持ちがいないということは、何らかの魔力に頼らない罠があると思わなければならないでしょう」

『ほんと、歩人かよこいつ。大概、そういうところに抜け目がない種族だろ』

抜けているから里の女全員に振られ、里長になれなかったのではないだろうか。

「命は大事にしなさい。私の後をついてくる方が良いわね」

「……」

彼女を先頭に歩くと、何箇所か罠が仕掛けられており、その都度解除するか回避するかをしてゆっくり進んでいく。

『逃げねぇのか』

罠が作動している気配もあるだろうし、二人が階段を上る気配も感じているだろうが、最上階の二つの魔力の塊は動いていない。

「賢いゴブリンだな」

「賢いのは肯定するけれど、ゴブリンかどうかは同意しかねるわね」

単純な落し穴や、杭を使ったり枝を使った仕掛け罠なら分かるが、城にある罠を補修できるほどの器用さと知力を持つのは、やはり脳喰いなのだとしか思えない。

魔力持ちの脳をゴブリンが食べる事で、魔術を扱えたり身体強化を覚えるようになる。また、複数の魔力持ちの脳を食べる事でその人間の持つ記憶や経験を取り込むことができる。宮廷魔術師の知識や、貴族の知識を持つゴブリンがいても不思議ではない。勿論、罠師の知識を持っていてもである。

円形の螺旋階段は死角が続く。とは言え、魔力持ちは魔力走査に掛からず、罠もあることを前提に進めば問題ない。ワイヤーを切り、トラップ床を躱しながら最上階まで昇ると、そこにはやや古めかしい玉座のようなものがあり、そこに一体のゴブリンと、それに近侍する騎士風のゴブリンがいる。

何故ゴブリンとわかるかと言えば、肌の色が明らかにおかしいからである。また、目も血走り口元から尖った犬歯が見えている。

『ようやくおこしかえ。妾の城のもてなしは、お気に召したか?』

その声はややかすれたハスキーなものであったが、十分に聞き取りやすく、また知性を感じる内容であった。

「昨晩、あなたの旗下の兵士たちに襲われたので、念のため森を捜索してみたところ、この巣と城塞をみつけたものですから。討伐のご挨拶をと思いまして。

お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

『ブレイモノ!! マズハ貴様ガナノルガヨカロウ!!』

近侍するゴブリンが罵声を浴びせる。

「これは失礼いたしました。私は冒険者のアリー、この者は従者のセバスと申します」

『そうか。アリーと申すか。妾が育てたゴブリンの軍団を壊滅させた女傑か。ほほほ、それは中々優秀な冒険者なのであろうな』

会話をし、自らの旗下二百を超えるゴブリンを討伐した事を知ってなお、少しも焦らない姿は『女君主』としての貫禄を感じる。歩人も怪訝な顔で高貴なゴブリンを観察している。

『それで、何用かえ?』

「御首頂戴に参りました」

『それは困った。妾とて、一つしかない首をそなたに譲るわけにはいかん。まあ、少し外して貸してやっても良いが……やはり不便じゃ』

『デンカ、オサガリヲ!』

そして冒頭に戻るのである。

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こちらの名乗り損ではあるが、仮に『プリンセス』と『ガーダー』とする。先ほどの会話から察するに、首を貸せるという言葉に嫌な予感がする。そして、近年、ゴブリンに殺された王女・公女の話は聞いたことがない。少なくとも、彼女の祖母成人後はないはずだ。

『長生きするんだなゴブリンてなぁ』

「そんな訳ないじゃない」

「アンデッドかよ……」

『魔剣』のボケに彼女も無言ではいられない。『猫』は外周を警戒し討ち漏らしがないかどうか確認をしているので別行動。ガーダーの腕次第だが、昨夜のメイジの魔道具を考えると、このプリンセスも何らかの魔導具・魔術を発動する事ができてもおかしくはない。

だが、不死者のゴブリンなど来たことはないし、魔力をどう蓄えているのかも疑問である。

『ほほほ、妾の力を読めずに警戒しておるのか。殊勝なこころがけじゃな』

古めかしい羽扇で顔を隠し答える。

『おい!』

「セバス、回避!」

足元に火柱が上がる。魔術によるものか、設置された罠を発動させたものか判断がつかない。彼女の目の前には一瞬でガーダーが詰めてくる。

『ゴゼン! シリゾケゲロウ!』

聖征時代の直剣だろうか、柄の部分が円環のデザイン。剣筋もシンプルで今どきの長剣とは異なる剛健な振り下ろしを躱す。

『聖征時代の騎士……もしくは……』

「修道騎士団の系譜」

曲線の板金鎧では刃筋を立てる事が難しい。金属リングを組み合わせた鎖帷子の時代は、強く叩けば鎖を割る事でダメージを与えることができた。剣筋が実直なのは、その時代の影響だろう。古い剣捌きだ。

剣を受けず、躱しながらプリンセスの様子を伺いながら半円を描くように回避する。それほど広い最上階ではないので、やがて壁を背に動くようになる。

『ハハハ!ドウシタ!!』

「セバス!」

追い詰めたつもりが、歩人が気配隠蔽からプリンセスに向かいダッシュをかける。

『忘れてはおらんぞえ、ほれ、これでも喰らえ』

床を走るように歩人に炎が走る。

「が! なんだこりゃ」

横に飛び躱すが、その先を追いかけるように炎が走る。羽扇を向け、その先を炎が走っていくように燃え広がる。

『ほほほ、どうした鼠のようじゃな』

「で、てめぇ、俺は鼠扱いされるのが一番腹立つんだよ!!」

『 土槍(terrahasta) 』

簡略した詠唱から、突然の土槍の発動。プリンセスに土槍が迫るが、あっさりと解除される。

「なんでだよ!」

『妾も長生きを伊達にしておらん。土の精霊とはそれなりに仲良くしておるのじゃよ』

土の精霊と悪霊が結びついたものがゴブリン。そのゴブリンが魔術師か魔力持ちの脳を食って進化したプリンセス。だが、それもこの二匹は人間を越える寿命を持っている。恐らく二百年から三百年生きているアンデッド。

「ノインテーターなの……」

『ナマエナド、ドウデモヨイ!』

魔力を通した剣でガーダーの剣を斬りつけるが、切れない。

『魔力纏いか』

『メズラシイカ!!』

魔力持ちでも魔銀の剣でなければ魔力纏いを行う事は難しい。目の前のゴブリンは鋼の剣に魔力を纏い彼女の魔銀の剣を受け止め弾いた。

「くっ」

『ハハ、コレデドウダ!』

魔力を纏い強引に彼女に斬りつける。

GINNN!!!

『ガアァ!!』

魔力壁を目の前に展開し、さらに身体強化を掛けて魔力壁ごと突進し、背後の円塔の壁にガーダーを叩きつけた。

『むぅ。アリーとやら中々やるではないか。カッツ、ここはひくぞえ』

『……カシコマリマシタ!』

窓から外へと飛び降りる。凡そ15mほどだろうか。急ぎ窓の外をのぞくと、地面に大きな穴が一つ。ガーダーが激突したのか。その姿は既に森の中に消えたようだ。

「メチャクチャ力技だな……」

「ええ。まさか……ゴブリンの上位種でノインテーター化している者がいるなんて驚きだわ」

外を覗き込む歩人の背後から彼女も同意する。

『犯人……いや犯草に心当たりあるな』

「偶然ね、私も一人心当たりがあるわ」

恐らく今は姉と同行しているであろう『アルラウネ』を問いたださねばならないと彼女は強く思うのである。

ゴブリン・プリンセスの行動を想定しつつ、魔導船を用いて本隊の後を追う彼女とセバス。馬車よりも早く楽に移動できる。只し魔力はそれなりに喰うのだが。

彼女が想定するに、あのゴブリン主従はデンヌの森の中で滅びた小国を再現しようとしているのではないかと考える。今回は、領地の近くを美味しそうな魔力持ちの集団が移動していたので襲ったのだろう。聖征の時代であれば、自領の外に出た場合、自衛できなければ餌食にされてもおかしくない状況であったから、その発想で自分たちの行動範囲=領地のそばを通る人間を襲っていたのだろう。

デンヌの森の外に出てこなければ、王国に特に危害を加えられるような事は起こりえない。また、今回のように途中で野営地として整備されていない場所で野営しないことが大切なのだろう。

整備された野営地には、魔物除けの結界が施され定期的にその領地を治める領主の負担において結界に魔力が補充され、安全に宿泊できるよう配慮されているのだ。ネデルにはそのような場所が極端に少ないのは、領主として治めている貴族が少なく、自領の中の街や村程度しかその結界を維持できないからか、デンヌの森自体を立ち入らせたくない勢力があるかのどちらかだと思われる。

「帰りは襲われないわよね」

『まあ、帰りはデンヌで泊まらず、王国に入ってから休めばいいだろ。デンヌの森に留まらない方が良いだろうな』

行きと帰りでは行程が異なるので、朝一に収容所跡(仮)を出れば、夕方までにはデンヌの森を抜けられるだろう。とはいえ、保護する子供たちの人数と馬車の確保の状態にもよるのだが。

「もうあれには会いたくねぇな……でございますお嬢様」

「それには同意ね。あれほど手練れのゴブリンとか、反則だわ」

魔銀剣持ちの魔剣士に防がれるのは仕方がないが、鋼鉄の剣にただの魔力纏いで防がれるのは少々納得できないのである。