作品タイトル不明
第319話 彼女は中古の武器を買う
第319話 彼女は中古の武器を買う
ゲイン修道会を訪れた夜、久しぶりの再会を喜び、黄金の蛙亭での晩餐にビータ嬢を招待することになった。とは言え、徒歩では距離があるという事で、魔装二輪馬車を貸し出す事にした。
「ビルさんが馭者を務めて貰えば、オリヴィさんとビータさんで一緒に向かえるのではないかしら」
「せっかくだから乗せてもらいましょうよ」
「有難く利用させてもらうわヴィー」
魔装馬車はほぼ振動が街中では感じられないので、普通の馬車と比べても相当に楽なのは間違いない。
晩餐の際は、魔装馬車に対する絶賛と、「魔力がないと普通の馬車」というオリヴィの説明に大いにがっかりするビータの姿が微笑ましかった。
その後、駆け出し時代の思い出話となり、今と時代が違うとはいえ、帝国は相当王国とは異なるという事を思い知らされるのであった。
「まあ、街ごとに別の国……みたいなところはあるわよね」
「ギルドに所属している商人はともかく、村に住んでいる人達とは世界が違うからね。ほんと、理不尽だわ」
「仕方ないのよ。街は襲われるだけの宝物が詰まっているのだから、誰でも自由に入れるわけには行かないのだもの」
そもそも、『入江の民』と呼ばれる海賊・武装集団が帝国である領域を襲った時代からしばらくは、大山脈の北には都市らしい都市が消えてしまったことがある。商人は全て商品を荷馬車に積み、店を持たずに物を売り歩くしかなかった。これを遍歴商人という。行商人=商人の時代が長らく続いたのだ。
「聖征の辺りから街が整備されるようになったけど、それだって元手が掛かっているからね」
「半分強くらいの街が城壁を持っているけど、無い街は発展しないしね。
難しい所だと思うわ」
城壁のない街=鍵の掛かっていない宝箱のようなものであり、中身が盗まれやすいのは当然だろうか。
食事の最後に、ビータはオリヴィに衣を正すと問いかけた。
「ヴィーはまだあれを続けているの?」
「勿論だよ。アリサたちに協力するのもそれが目的」
「そっか。無理はしないでね」
「大丈夫、無理をするのはこの子達だから」
「「「「おい!!」」」」
半笑いでリリアル生に話を振り、全員からツッコまれるオリヴィを見て、ビータは今日一番の笑い声をあげた。
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食事の後、ビータはオリヴィの部屋に泊まる事になり、久しぶりに夜遅くまで語り明かした。
翌朝、朝食を共にするとビータを送りにオリヴィとビルは出かけて行った。ビータ曰く、数日アポの時間を見て欲しいという。その間、彼女たちはメインツの街を見て歩くことにした。
オリヴィからは「昼から、服を仕立てに行きましょう」と声を掛けられている。何軒か馴染みの店があるということで、そこで帝国風のドレスを仕立てる事になりそうなのだ。
「さて、どこに行きましょうか」
「俺は留守番で」
「先生と俺達で武具屋に行きませんか?」
「帝国風の装備は服だけじゃない。見るのも必要」
街を歩きつつ、前日青目蒼髪がオリヴィから勧められた武具屋へと向かう。
「どう言う理由でお勧めなのかしら」
「中古の武具が揃うのだそうです」
中古の武具が揃うというのは、二つ理由がある。一つは、彼女が土魔術を用いた装備の補修をできるようになりたいということ。破損している格安品があれば、それを用いて練習をしたいのである。
今一つは、破損形態からどのように扱うと壊れたのか推測し、戦い方を武具の状態から推察したいという事もある。王国では人間同士の戦争がしばらく行われていない。実戦でどのように人が戦うのか、現実に戦争中の帝国であれば、それを確認したいと考えていた。
お奨めの武具屋は冒険者ギルドにほど近い場所だが、少々下町に近い場所にある。メインツはメイン川交通の中継点として大きな存在であることから、荷物を整理したり旅行きを改めるものも少なくない。不用な装備を買い取る場所もあり、中古の武器の流通が多いのだという。
これが、コロニアなどに行くと、工房も多く戦地も近い為良いものは少なく、割高になるのだという。
「こんにちは、中古の武具を見に来ました」
「ラウスさんのご紹介です。よろしくお願いします」
よそ行き美少女である碧目金髪と赤目蒼髪が愛想よくする。彼女もぺこりと頭を下げる。
「ああ、ラウスさんメインツに来ているんだってな。一昨日冒険者ギルドで面白いことがあったって聞いてるよ」
腕相撲で赤目銀髪こと『銀髪のオヤジ殺し』が無双した件だろう。
「それは私」
「……へ……あんたが……確かに銀髪だな。へぇ、凄いね」
「そうでもない。私はまだまだ」
「へ、へぇー」
無表情に否定する赤目銀髪にたじろぐ店員。いそいそと中古武器のコーナーに進む赤目銀髪。ハルバードやヴォージェにビル……色々と見る物がある。
「この、長い串みたいな槍は沢山あるけど、有名なの?」
「まあな。銃が普及する前には人気があったな。鎧を装備した騎士の馬なんかはこれで抑えたりしたんだ。今は、パイクと銃とハルバードが主流で、それに、この辺の片手剣をダガー代わりに装備してる傭兵が多い」
S字の護拳のついた片手両刃の剣『カッツバルゲル』という名で呼ばれている。
「この幅広の刃の槍は面白いね」
「そりゃ、あんまり実用的じゃない。下士官が身分を分かりやすくするために持つ装備だ。猪狩り用の槍から来ているって話だが、法国で流行りのパルチザンみたいなもんだと思うな」
パルチザンはハルバード同様に複合的に使える槍の一種で、儀仗用にも用いられる複雑なデザインの刃を持つ槍の一種だ。
「ハルバードって、こんなに種類があるんですねぇ」
「時代によって、国によって、それこそ職人ごとに工夫があるからね。ブレードとスパイクを一体にしたものに、フックを別に作って加えたやつはヴォージェやグレイブみたいな形だし、今は斧やビルみたいな刃とスピアヘッドのついた複雑な物も多いね。ウォーピックのようなフックを付けたものもあるがね。どれも銃には敵わん」
「……それはそう」
「歩兵の戦列で両手剣やハルバードもって切り崩す為に突撃する人たちって一番死にやすいって聞きます」
「まあな。だから、こうやって沢山集まる。戦場で回収されてそのままじゃ使えない装備を安く買い取って持ち込まれたものもあるから」
どうやら、死体から回収した装備も少なくないようである。中古品の出所を考えると、戦場で回収され修理の必要な破損品であるのが一番多いだろう。
「因みにこれ幾ら?」
「一つ小銀貨五枚、三本なら銀貨一枚だね」
「は、やっす、安いっすね」
「あはは、直す手間考えたらそんなもんだよ。新品の方が強度も出るし、作るのも簡単。鋳つぶして、そこから作り直す材料として重さで計って売るようなものだから」
という事で、四人はそれぞれ銀貨一枚で三本ずつ何らかの中古の破損武具を購入する事にした。
『あれ、直すのお前だよな』
「土魔術に確か、補修できるものがあったと思うわ。オリヴィに教えてもらう事になっているのだけれど、練習用には多すぎるわよね」
四人の視線が集まっているというのは、つまりそういう意味なのだろう。
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一旦、黄金の蛙亭に戻り、魔法袋に購入した武器を収納する。
「この剣、作りが雑だね」
「護拳がただのS字のフックだからねぇ。まあ、重さ的には振りやすいし、叩きつけるにも突き刺すにも良いバランスだね。古の帝国の兵士が装備していたグラディウスってこんな感じかもね」
剣の大きさは同じ程度。歩兵が密集隊形で接近し、相手の腹を突くように使う剣だと言われる。パイクの戦列同士がぶつかり合うと、押し合いで接近した兵士同士が、この幅広の直剣で刺し合うのは似ているかもしれない。
「リリアル向きじゃないよね」
「密集しない。正面から突き刺さない。魔力が纏えない。でも、帝国の冒険者なら持っていても不思議じゃない」
「御土産にするしかないかもな。工房の人達によ」
「怒りだすんじゃない? こんな雑な剣ってさ」
「あり得る」
今回は、剣は修復せずに、ハルバードとオウル・パイクという、今や廃れた金属の細長い釘のような穂先を持つ槍を装備する事にした。
「刺さると痛そう」
吸血鬼や 食屍鬼(グール) に突き刺さり、地面に縫い付けられたりすると良い効果がある気がすると彼女は思わないでもない。魔銀鍍金の加工をして、魔力を通じるようにすると、なお効果的ではないかと思うのである。
「お待たせ。なに、いい掘り出し物あった?」
黄金の蛙亭でオリヴィの戻りを待っていた彼女たちの所に現れるなり、仕舞いかけた武器を見ながら、其々の使われ方と修復箇所、その方法についてオリヴィが解説し始めた。
「これは、折れるよ。ここ、ヒビが入っている」
「あっ、本当だ」
「この手の剣は見た目の良さで作られるから、長持ちしないんだよね。
装備している兵士と同じだね」
という感じで、辛辣である。オリヴィの見立てにおいて、今の装備で問題はないだろうという。
「傭兵の受け皿として存在する冒険者ギルドだけれど、装備を見て専業か兼業か見分けているというのもあるわね」
帝国傭兵のキーアイテムであるツヴァイハンダーやカッツバルゲルを身につけた冒険者より、スピアやショートソードのような普遍的装備に革鎧のような装備を持つ者を護衛や指名依頼の対象にする依頼人が多いという。
「冒険者ギルドはあくまでも抑止効果しかないのよね。本当に冒険者が依頼人を裏切ろうと思えばいくらでもできるし、逃げるのも簡単。帝国はそういう意味であまり冒険者には住みやすい場所ではないわね」
「でも、オリヴィさんは帝国で冒険者を続けているんですよね?」
赤目蒼髪が思わず口に出した後「しまった」という顔になる。それは、何らかの訳があるって決まっているではないかと気が付いたからだ。
「冒険者をするのは手段であって目的ではないからね」
深く答えずに、そういって話を終わらせたのである。
土魔術による武器の補修の件は一先ず後回しとし、先にドレスの仕立てに向かう事になる。今回は、四人分仕立てねばならないし、彼女の着る分は複数枚必要になるので、それなりに時間がかかるだろう。
「既製服はないのでしょうか?」
「値段の割に間に合わせ以上のものじゃないからおすすめはしない。それに、最初に伝手ができるのに半月とか一月はかかるでしょう?」
その間、リ・アトリエはトリエルで依頼を受けたらどうかとオリヴィは提案をする。
「通いにしては遠い……でもないか」
「この街では目立ってしまったからね。でも、トリエルの冒険者ギルドでは王国のライセンスの更新は出来ないからしかたがないの」
所謂、商人同盟ギルドの主だった加盟都市でなければ手続きができず、この近辺ではメインツかコロニアになってしまうという。
「この街が一番マシなのでここに決めたんだけど、トリエルの方が依頼の質が良いと思うわ」
「何故?」
「メインツには冒険者が集まるから依頼も集まるの。でも、トリエルに出される依頼も少なくない。トリエルは冒険者自体が少ないから、星三のパーティーなら競争もないし恨まれもしない」
例えば、髭面おじさんのパーティーと依頼の競合になれば、最初の遺恨が尾を引いてトラブルになるかもしれない。
「それに、護衛然とあなた達がメインツにいるより、少し離れた方がアリサ様も仕事がしやすいでしょうね」
四人と行動を共にする事で、彼女自体も目立ってしまったり、トラブルに巻込まれるかもしれない。トラブル持ちの王国商人と関わりたいと思う商人は多くはないだろう。
「じゃあ、明日からトリエルへGO」
「了解。魔装馬車ならひとっ走りだし、四人で馬車で野営するのもいいかもな」
「アンディさんは勿論、見張担当だから」
「当然」
男一人となる青目蒼髪『アンディ』は、魔装馬車の床下ということで妥協する事になった。それでも一人だけ外……
「まあ、ほら、いいことあるぞそのうち……」
「セバスの言葉に説得力皆無だぞ」
「……言うな……悲しくなるじゃねぇか……」
歩人は色々やらかして、里の若い未婚の女性全員にお断りされた悲しい過去がある。青目蒼髪は一期生の中では弄られキャラだが、意外と他のリリアルの女性には人気がある。茶目栗毛は愛想は良いが賢そうで声をかけにくいのだが、青目蒼髪は頼み事は断らないし女性に対する配慮もできる。王国の正式な騎士であることからも、将来有望と思われてもおかしくない優良物件である。本人はさほど理解していないが。
オリヴィのおすすめの『エルネスタ』というお店。彼女がメインツを初めて訪れた時から世話になっているお店で、半既製品もあるので、急に必要になった場合、短い時間で補正をして仕上げて貰えることもあり便利なのだという。
いつも、祖母と付き合いのあるクチュリエに頼んでいる彼女からすると、少々緊張する状況でもあった。