軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第297話 彼女は受勲の噂を耳にする

第297話 彼女は受勲の噂を耳にする

慌ただしい週末を終え、新しい週が始まる。週末には竜討伐の祝勝パレードが計画されているとの話も聞くのであるが、更に上回る噂は『受勲』のことであった。

既に、騎士学校では週末王都の実家で過ごした近衛の従騎士たちから回った噂でもちきりであった。

――― 曰く、ミアン防衛戦に参加した騎士学校生は全て叙爵する事が決まっている。また、中でも特に目立つ功績をあげたものは王国で新たに定められる『勲章』を授与するものとする

というものである。何だかとても気が重い。

「よお、受勲間違いなしのお二人さん。感想は?」

「特にないわよ。面倒よ、受勲式に出て挨拶したり、お礼したりするの。現金が良いわ。もしくは休暇ね」

「休暇でも仕事はあるのよ私たちには」

週末を忙しくリリアルで過ごした彼女たちからすれば、休みは仕事をする為にある……という気持ちにさせられる。

「でも、みんな騎士になれるのは決まりで良かったわ」

「それなりになれない人もいるのよね普通は」

従騎士までは使われる人間が、騎士は部下の従騎士や兵士を指揮する存在であり、その適正の欠けたものは少なくとも騎士団の騎士にはなれない。

今後設立される王立騎士団も同様だ。兵を指揮する必要のない近衛騎士や魔導騎士は騎士となる事が多いし、適正不足はさほど問題とされない。

「魔導騎士は大した事なかったな。ミアンでスケルトン相手に結構苦戦したしな」

心無い言葉も聞こえてくる。確かに、僅かに傷つけば戦闘に支障の出る生身の人間と異なり、怪我をしようが破壊されようが士気の崩壊しないアンデッドの軍勢に魔導騎士の相性は良かったとは言えない。戦果も考えたほどではなかった。

ニ十四時間絶え間なく活動するアンデッドと、稼働時間に制限があり、尚且つ遠征先での行動でさらに時間が短くなる魔導騎士は、その戦果が思ったほど出なかったという事も否定できない。

「……黙れ……」

「「「……」」」

彼女は触れていなかったが、あの幼馴染の男爵家の息子も同期として騎士学校に入校していた。分隊はブルームであり、行動を共にする事もなく、会えば目礼を交わす程度の関係でしかなかった。

今の声は幼馴染から発せられたものであり、余り波風を立てるタイプでもないので、彼女からすれば意外に感じたものだ。

「訂正しろ」

「……な、何をだ……」

「魔導騎士が役に立たなかったという貴様の発言だ。撤回しろ」

「いや、事実、活躍はしていないだろ?」

今回の反省を鑑み、『アジェン』城には魔装騎士中隊が整備可能な施設と、四機の魔装騎士が継続配備されることになった。これは、帝国の侵攻に対する柔軟な対応を可能とする為の配慮でもある。前線に張り付けるより、いざという時に騎士を展開し、平時はメンテナンス設備だけを維持する戦略である。

「スケルトンとかみ合わせが悪く、大した戦果を挙げる事は出来なかったと俺は言っただけだ。撤回も訂正も必要では無いと思うが? 皆どう思う!!」

強い口調で周りに同意を求める発言者。ちょっと調子に乗り過ぎたかと自身思わないでもないが、生身でアンデッドと渡り合った彼からすれば、魔導具の鎧で安全を確保された精鋭が大した戦果を挙げることが出来なかったことは腹立たしくもあったのであろう。

「……双方、このまま争えば、今後の騎士団同士の関係にしこりが残るぞ。皆、この話は聞かなかったこと、言わなかったことにするべきだと思うが。どうだろうか」

割って入るのは……この場で学生としては最高位の立場にある公爵令嬢カトリナであった。残念ながら、彼女は『学生』としては部外者でしかない。せいぜいがオブザーバーである。

「失礼しましたカトリナ様」

幼馴染が勢いよく頭を下げ、主張した者も謝罪をしこの場での騒ぎは終息したのである。

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「流石ねカトリナ」

「な、何がだ!! お前たちこそ、何故止めに入らぬのだ」

「リリアルの二人は学生ではなく留学生枠なの。だから、学生の争いには参加しないし出来ないのよ」

カトリナは「お前たち既に騎士だものな」と思い返す。

「勲章は何を頂くことになるのだろうな」

「え、何種類もあるの。知らなかったわ」

カトリナの発言に、伯姪が反応する。どうやら、いくつかの種類を叙する内容により設けているという。

「私も父から聞いただけなので、真実かどうかは分からんが、三種設けられるというな」

「へー 大中小みたいな感じなのかしらね」

「いや、そうではないな」

カトリナが聞いた範囲では以下の三種である。

「敵対する武装勢力との交戦において勇敢さを示した」『戦士』に対して授与される勲章。

「衆人を指揮し困難な任務に格別の功績をあげた」『騎士』に対して授与される勲章。

「作戦において英雄的、かつ名誉ある奉仕を行い、成果を挙げた」『戦士及び市民』に与えられる勲章

『ほお、随分とご立派な行いを賞するんだな。勲章なら名誉を与えても懐は痛まねぇ。封土の代わりだな』

『魔剣』の示す通り、百年戦争期以降、名誉を持って報いることが連合王国で広く普及し、王国でも何度か行われたのだが、勝ち戦が少なく残念ながら定着しなかった過去がある。

「褒められて悪い気はしないから良いのではないかしら」

「論功行賞がはっきりすれば、縁故で昇格する事も減るかもしれないわね。組織にとっては大切なことだわ」

親の爵位で盆暗でも上に行くのは、王太子の望む王立騎士団の設立背景に反する人事となる。積極的に功績をたたえ、それを基準に騎士を抜擢するという考え方は理解できる。

「今更貰いたくないわね……辞退可能なのかしら」

「……アリーは無理だろ。お前が辞退するなら、皆辞退せねばならなくなるぞ。恨みを買いたいのか?」

この件ばかりに関してはカトリナの論が珍しく正当だ。

「目立たなければいいのだけれど」

「無理ね。ミアンで一騎駆けしちゃったじゃない! あれは……目立ってたわよ」

ああ、今更ながら後悔することになるとは……どうせスケルトンを討伐するなら、士気の上がる演出をした方がいいという合理的な判断のつもりであったのだが……

『お前以外の全員に対して合理的であったが、お前自身に関してが合理的じゃなかったというわけだ』

悲しいけど、これが戦争なのだと彼女は思うのであった。

カトリナが「話は変わるが」と何やら話を始める。

「アリーがブルグント公の養女になるという話が出ていると耳にしたのだが、事実なのだろうか」

カトリナ、火の玉ストレートである。彼女は一瞬考えたが、父である子爵から正式に話を聞いたわけではないので、そのまま正直に答える事にした。

「父からは何も聞いていないわ。それがどうかしたのかしら?」

「いや、竜殺しで対等になったわけだから、次は身分でも対等になるのかと思って、ちょっと嬉しくなっただけだ。私のライバルはアリーだけだからな!!」

どこまでも脳筋なカトリナ……その主の背後で見えない位置に座りながら「頭痛い」とポーズを決めるカミラが佇んでいたのは言うまでもない。

「子爵令嬢では王太子妃は無理だが、養女でも公爵令嬢であれば身分的には問題が無くなる。いよいよ、アリーも王太子妃候補に名乗りを上げるのだと心が昂ぶったのだが……いささか気が急いたようだな」

「養女の件はともかく、王太子妃なんて私には務まらないわ。学院もあるし」

彼女の発言に、カトリナは「む、それはそうだな」と同意する。

「しかし、私とアリーのどちらが王妃に相応しいかと言えば、血筋だけなら私だが、民の人気と言う無形の財産を考えると、そちらに軍配が上がるだろう?」

「確かに、救国の聖女様は田舎の農民の娘で読み書きも出来ないとされているけれど、下位とは言え王国の創成期から続く臣下の娘なんだから、血筋はありよね」

彼女の子爵家は夫婦ともに王家に忠節を尽くした騎士の遺児が男爵に叙せられて始まった家であり、王国の権力の確立には悪くない血筋ともいえるのである。

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何故か『伯爵』の講義に、ヴィーとビルが飛び入りで講師として参加していたのは、恐らく姉の策謀であろうという事は察しがついた。彼女を驚かせようと、内緒にしていたところまでがセットである。

「帝国の魔物事情」というのが彼女の語るところである。

「帝国は皇帝の下に小国に匹敵する公爵領や辺境伯領、大司教領から、帝国自由都市と言われる皇帝の庇護と特権を受けた都市国家、小さな騎士領まで散在しているわね。その間を、傭兵団や魔物の群れが行き来している感じだと思ってくれれば間違いが無いと思うわ」

帝国内を広範に統治する機関がないため、領邦を跨げば警察権が及ばないという事なのである。

「だから、農村とか悲惨よね。傭兵に襲われたり、領主も貧弱なところとか、税金集めること以外無関心なところは枯黒病なんかで全滅したり、宗教の違いで戦争して巻き込まれたりして……碌なもんじゃないわよあの国は」

滅茶滅茶庶民目線である。

「そう言うところの喰いっぱぐれが傭兵や冒険者になって、かつて自分たちが生まれ育った場所と似た農村を食い物にする。まるで、地獄のような場所も少なくないわ」

帝国内で活動する余地が無くなった者たちが、王国やその周辺に出稼ぎに来たり、海外の植民地で荒稼ぎする事もある。外地では先住民を襲って殺したり、返り討ちに会って全滅することもあるのが帝国出身の傭兵たちだったりする。

「だから、王国に来て王家の下で平和に暮らしている人たちが同じ空の下にいるなんてとても驚いたわ。多分、帝国の人達がこの国の姿を知れば……とんでもないことになると思う。そのくらい、帝国の中は乱れているわ」

その中で、騎士や兵士は魔物の討伐のような金にならない仕事をする事はないので、外国や国内での戦争に参加し、そこからあぶれたものが『冒険者』として小商いである商人の護衛などを引き受けている。

「ゴブリンよりコボルドが多いかな。あと、オーガはほとんどいない。いても西側だけね。多いのは、オークにトロルに……吸血鬼とその眷属。これは、見つけにくいし人の中に混ざっているから、とても討伐しにくいし、生半可な能力なら自分たちが危険だから見てみないふりしている人も多い。でも、そんな奴らが王国にも現れたって聞いているから、一応説明しておくね」

彼女は吸血鬼の存在自体は知っているものの、何がその成り立ちを定めているのかは理解していない。

「ふわっとした説明をするなら、半精霊なんだよ。人間と『土』の精霊の中間的な存在で、尚且つ神様に近い精霊の影響を

受けている。だから……土に分解されずに土の中で力を回復することが出来る」

水が苦手なのは、土から切り離されるからではないかというのがヴィーの推論だ。そして、故郷の土に触れると回復力が高まるというのは『土』の精霊と土地神の影響ではないかとされている。

「つまり、長く生きた人間が精霊の力を得て半神・亜神のような力を手に入れているのが吸血鬼。神様に近いから、自分の配下の従属種やグールのように使役する存在を作り出すことが出来る」

その説明には一定の説得力がある。そして……

「だから、より強力な神様である御神子様の神力に勝てないから、弱点となる。そして、神の加護をたくさん持つ存在、例えば『聖女』なんて呼ばれている存在がいるとすれば、吸血鬼は狙い、その御神子の力を自らの眷属に取り込んで自分を強化しようと考えることも不思議じゃないんだよね」

『聖女』『聖者』『聖人』という、神に祝福された人間を吸血鬼が自分の眷属にする事は、相手の駒を自分の戦力にする事につながり、それはとても大きな力となるという事なのだろう。

帝国の吸血鬼たちにとって、彼女はとても魅力的な存在と認識されている事になる。

『あー つまりお前は吸血鬼を誘き出す為の餌になるガッツがあるかって言われてんのか?』

ここまで言われれば、彼女も理解せざるを得ない。ヴィーにはヴィー自身の目的があって、彼女を帝国に誘っているのであろうということを。それは、吸血鬼討伐の為に利用できるものは利用しようという意思表示なのかもしれない。

「虎穴に入らずんば虎子を得ずね。ふふ、久しぶりのアウェイですもの、楽しみだわ」

敢えて敵の本拠地に潜入するということは、彼女にとって楽しみにするべき事なのである。