作品タイトル不明
第295話 彼女はリリアルで美魔女と再会する
第295話 彼女はリリアルで美魔女と再会する
カトリナが気まずい空気を醸し出す食堂で夕食をとり、早めにベッドに入った二人はようやくぐっすりと眠ることが出来た。
翌日、無難に騎士学校の授業を受ける。とはいっても、もう一月と経たずに卒業となる。二度の遠征、一度目は彼女たちだけが特別に依頼を受けたが、二度目の遠征では全員がミアン防衛戦に参加した。
その成果を踏まえ、既に今期に関しては全員が騎士として叙爵されることがすでに内定していた。防衛に参加した勲功を兼ねてという事である。
とは言え、既に騎士である二人にとっては何もないに等しいのだが、これ以上の栄達を望むつもりもなく、また望ましいとも思わないので、「報奨金が出たら、みんなで美味しいものでも食べましょう」「いいわね!」という程度の期待値である。
夕方、リリアルからいつもなら二輪の馬車で歩人が迎えに来るのであるが、今回は四輪馬車……嫌な気配がする。
「はーい! お姉ちゃんですよー 大活躍の妹ちゃんをお迎えに来ましたー」
「ありがとうと言っておくわ、姉さん。ヴィー達は恙なく王都を楽しんでもらえたかしら」
「もっちろんだよ! 来週にはドレスが仕上がるから、社交に本格的に参加するのはまだだけどね☆」
姉の自己申告だが、子爵家の美人姉妹の親戚である帝国美女が王都に現れたと既に話題となっているらしい。
「レンヌ公太子ちゃんが現れたのはちょっと計算外だったけど、まあ、社交も一段と華やぐだろうから、ヴィーちゃんの顔を広めるいい機会かもだね」
公太子は未来の王弟となるわけであり、王女殿下との仲睦まじさも漏れ伝わっている。その偉丈夫さもである。
「それなのだけれど、あちらの親衛騎士団長の子息を半年ほどリリアルで預かることになるの。公太子殿下の側近で、見た目は完全に熊よ」
「あははは、熊はいまも王都にいるよ。というか、リリアルに滞在中。二人が戻るの待ってるよ。メリッサちゃんだっけ?」
ミアン防衛の際に、ジジマッチョがメリッサと魔熊を連れて王都に滞在中という話は聞いていた。そのままレンヌに向かってしまい会うことが出来なかったが、リリアルに滞在してくれているとは思わなかった。
「お爺様もミアンから戻って何日もしていないから、丁度いいんだけどね。流石に、堪えたみたい。齢だね」
あははと姉が笑う。アンデッドの休みない攻撃を交代で防いでいる間、精神的に休まらないことが多い。その辺り、回復が追いつかなかったのか疲れが出ているのだという。
「急いで戻ることもないから、ちょっと休憩中なんだよ。でも、魔熊を王都で解放するわけにもいかないから、リリアルに連れて来たというわけ」
「……なるほど……」
彼女が不在の間の二週間少々で、色々な知らないことがあったという引継ぎをする為にわざわざ馬車で迎えに来たのだと理解するに至った。
「で、そっちはどうなったの?」
「レンヌ大公家の親族であるソレハ伯爵が連合王国に内通していたわ」
「あ、尻尾掴めたのね。それで?」
「私たち四人を旅の娘と勘違いして城館に連れ込んで凌辱した後、奴隷として連合王国に売るという算段をしたので、乗り込んで証拠から伯爵親子から全部抑えて大公殿下に突き出したわ」
「やっぱそうなったかー 支店を出すかどうか迷ってたんだよね。今なら、上手くいきそう。情報ありがとね☆」
王都の西にニース商会が支店を出さない理由は連合王国の干渉と内通者の存在だとは察していたが、これで一気に王国内への商会の浸透が加速するだろう。
「ミアンはどうするのかしら」
「はは、あのおばさんの商会乗っ取って、看板架け替えずに使用人そのままで経営だけこっちで行うつもり。全部自前は大変だから、今後はそういう『協力店』方式も広げるつもりなんだ。そのテストケースかな。失敗しても別に構わないし。潰れてもいいしね」
物理的に潰すのではなく、経営者だけを潰す事になったのだ。
「程々にお願いするわ」
「あったりまえだよ☆ 相手には感謝されて店を譲渡させるまで行かないと、本物とは言えないからね」
本物の悪意でしょうか?
姉の話を聞いているうちに、馬車はリリアルへと到着した。
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「アリー、メイ、久しぶり」
「メリッサ、会いたかったわ!! 元気にしてた! 王都のご飯は美味しい?」
「リリアルで不便はないかしら? 不在にしていてごめんなさいね」
「いい。また竜殺しとは、アリーは凄いと思う」
「今回は見ていただけよ」
メリッサは山の中暮らしから一段落し、髪や肌の艶が目に見えて良くなり、一層の美貌を見せるようになっている。が、相変わらず不器用な口調である。その辺りは、難しいのかもしれない。
「メリッサちゃんもエキゾチックな雰囲気で可愛いんだけど、社交は向いてないのよね。あまり意味がないし」
「そう。薬師の勉強がしたくなった。早く公爵様の依頼を完了させて、リリアルで勉強したい」
「簡単な薬師の道具と作り方だけ覚えておいて、後は、実地で進めていくのはどう?」
「良いと思うわ。薬草自体は見分けられるようになるのは問題ないでしょうし、実際、採取場所まで向かう方が大変なのですもの。メリッサはその辺心配いらないから、普通の人より薬師になるのは容易だと思うわ」
彼女と伯姪の言葉を聞き、笑顔になるメリッサ。眩しい、その笑顔を守りたい……姉の悪戯心から。
すでに夕食の時間が迫っており、彼女たちは私服に着替え食堂に戻ることにした。まだまだ、ゆっくりする事は出来ないようである。
久しぶりに二人がリリアル学院に戻り、周りが落ち着いているように感じた。安心感が広がる。
彼女と伯姪は帰宅の挨拶をし、改めてメリッサ、ヴィー、ビルを紹介した。そして、もう少しで騎士学校が卒業となり、魔術師の二期生とレンヌの騎士が学院に入学する事を紹介する。
「……という事で、新しい人たちを迎えるにあたり、在学生は自分自身の課題や新人教育を自分たちも担う事を心において毎日を過ごしてください。以上です」
「「「「はい!!」」」」
久しぶりの学院生の返事が、酷く懐かしく感じるのは心が疲れているからかもしれないと彼女は思う。
「アリー、討伐した竜はいつお披露目になるの?」
「ヴィーあなたも竜に興味があるの。意外ね」
ヴィーは帝国でも高位の冒険者。竜討伐など、飽きるほど経験しているのかと思うのであるが……
「帝国はワイバーン? 空飛ぶトカゲが主だから、水棲の竜は珍しいのよね」
「そう言えば、大山脈には竜の棲む山もあるそうですね」
大山脈とは狼人やメリッサが帝国から王国に侵入するのに辿った帝国の南を東西に連なる高山地帯である。
「討伐自体も数は多くないし、バリスタとかで牽制していくうちに元の住処にもどるから、討伐経験はないもの」
「そんなものなのね。確かに、あれが飛んでいたら、倒すのは相当困難ね」
強い魔力を帯びた空飛ぶ魔物など、散々一方的に攻撃されて、その後、逃げられる姿しか思い浮かばない。
「今は王都でも正式に関係者以外に話す事は良くないと思うの。実際、竜がお披露目されてからお話することになると思うの。今日は『魔力量がとても多く、時間がかかった』とだけ、お話させてもらうわ」
「それもそうね。護衛対象を守るための討伐だとすれば、守秘義務もあるでしょう。無神経だったわね、ごめんなさい」
ヴィーが代表して聞いてくれたのだろう、方々の席から「守秘義務ってなんだろね」とか「護衛対象が偉い人だもんね」という声が聞えてくる。
王太子殿下のタラスクス討伐も、リリアルの騎士達は外で話す事は一切ない。そう言う事だと、彼彼女らは気が付いてくれたようだ。
食事も終わり、彼女と伯姪は不在の間の出来事などの話を学院生達と話をしている。
「薬草園の拡大ね」
「はい! えーと、新人さんが来るので、必要量が増えるかなって思ってます」
「いいじゃない? 畑の中で薬草向けの場所を確保するとか」
「それなら、森の中で自生している場所を上手く利用して……」
ヴィーお姉さまがそこに割って入る感じである。
「えー どうやるんですか?」
「大きな動物が入り込めないように土塁で囲っちゃうとか」
「……誰がやるのかしら?」
「それは、優秀なセバス君だよ」
「……そこ、何で俺指名なんだよ……」
ヴィー曰く、実際『土』の精霊との関係を改善するには、何度も交流していくしかないという事なのだ。
「つまり、ダメもとで魔力を使って術を発動、精霊がそれに合わせてくれるまで続けるということね」
「ああ、駄目な男が誠意を見せるってやつね。なんだか、誰かの行いなら当然ね」
「……」
学院生女子全員からジト目でみられる見た目は少年、中身はおっさんのビト・セバス・チャンである。
「魔力回復のポーションをどんどん使って実行してもらえると助かるわ」
「全力でサポートするわよ。まあ、歩人のくせに地の精霊ノームに嫌われるなんて、どこのゴブリンよって感じなんだけどね実際」
「ゴブリンなんだ」
「オッサンゴブリン」
「これから呼び名はゴブ男」
「ワン太&ゴブ男でユニット結成」
「……俺はゴブリンじゃねぇ」
歩人、相変わらずの雑な扱い。二期生が右に倣えされないように、土魔術の鍛錬にいそしむ方が本人の為だと彼女は思うのである。
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「ご苦労さんだったね今回も」
「いいえ。戻りが遅くなりまして申し訳ございません」
「ちょっとしんどかったね。歩人も補佐役もいなかったからね」
ミアン防衛に全員を動員したので、学院の平常の業務は祖母に全て圧し掛かった状態であった。ここに来て、ある程度処理は進んだものの、彼女が三週間近く不在であったため学院長でなければ決済できない事項も溜まっているのだ。
「それと、来月からこっちに来る魔術師の子達の住む場所の建築がちょっと遅れているね」
「確認します」
最初の頃、リリアルは全員が旧離宮である建物の中に住むことができたのだが、今では食堂以外の全員の利用が不可能となってきている。
使用人、薬師とその見習は敷地の外にある別の建物で寝起きをしてもらっている。今は木造だが、煉瓦か石造の物を建築中でまずは二期生が住み、やがて建物を増やし小さな街のように拡張していく予定なのである。
その外部の新築の建物の工事が遅れているようである。
「家具の手配なんかは終わってるんだけどね。内装の仕上げなんかがちょっと遅れていると聞いてるよ。実際見ても分からないから、アイネにでも立ち会わせな」
「そうですね。姉さんを通した方が話が早そうです」
ニース商会は王都でも名が知られてきており、そこの会頭夫人と揉める事は職人ギルドとしても良く思わないだろう。職人・商人には王国副元帥より大商会の看板が役に立つ。
明日以降も彼女は大忙しだなと頭の中でスケジュールを考えていると、祖母が居住まいを正し、彼女に話し始める。何事かと彼女も姿勢を正す。
「あとで、御当主から話があるだろうが、心の準備ってものがあるだろうから、私からも伝えておくけど。良くお聞き」
子爵家の当主を前倒しで姉に譲る話かと思い、その言葉の先を待っていると、祖母の口から出たのは全く別の話しであった。
「ブルグント公爵様から、お前を養女にというお話を頂いている。その上で、王家に縁付く気があるかという王家からの打診も内々にあるようだね。公爵様からは「養女に」ということだけみたいだがね」
彼女の中で「まさか無いわよね」と思っていたまさかが目の前に現れた。王太子妃という事なのであろうか?
「おばあ様、王家に縁付くというと、どなたがいらっしゃるのでしょう。ギュイエ公爵の公子様もいらっしゃいますが」
「馬鹿お言い。なんで王家の臣下の切り札を他家に嫁がせるんだい。そりゃ、王太子の正妃に決まってるだろ。なんてったって、救国の聖女様で聖リリアル騎士団の団長様だ。誰も文句は言えないだろう。それにだよ……」
祖母曰く、王家はリリアル男爵が王家以外に与するのを恐れ始めているのではないかという。なるほど、その為の錘を彼女に付けたいのかと理解し納得したのである。