軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第29話 彼女は伯姪と準備を進める

第29話 彼女は伯姪と準備を進める

伯姪は剣技も馬術も社交術も問題なかったのだが、唯一、魔力が非常に少ないことが問題であった。体から魔力を放出するほどの量がないのである。

「せいぜい、『隠蔽』『身体強化』までだと思うわ。それでも、今から使い続ければ『気配飛ばし』くらいまでは行けるかもしれないわね」

「……頑張るわ……」

伯姪の魔力錬成プログラムは、ずばりポーション作成である。魔力を放出する量は多くはないものの、質の高い魔力を継続して出力する必要がある。

「やるなら、これからずっとすることになるわ」

「……ええ、隠蔽と身体強化の訓練をした後、ポーションを作ればいいのよね」

「その通りよ。王女殿下のそばに仕えながらでも身体強化の訓練は出来るし、隠蔽が使えれば、危機をやり過ごしたり、敵の情報を調べることもできるわ」

「最優先ね。その後……ポーションね」

「いまあるものを最大限使い切って、その先は焦らず少しずつよ」

「わかったわ。よろしくね、相棒」

「ふふ、そうね。私たち、相棒だわ」

彼女と伯姪の関係は、そのうち親友となるかもしれない。いまはまだ、お互いを必要とする相棒という関係が相応しいのだろう。

王都に武器を持たずに来た伯姪に、彼女は馴染の武具屋へと案内した。一つは護身用の剣、今一つは『着こみ』となる、薄手の鎖帷子を用意したかったのだ。

なにしろ、身体強化も彼女よりは格段にレベルが低い伯姪の体を守るには、物理的に防御する必要があると考えるからだ。馴染の店員に彼女を紹介し簡単に挨拶を交わすと、早速用件を切り出したのである。

「護拳のついた片手剣が欲しいわね」

伯姪はそう彼女と店員に話した。

「接近したところで刃ではなく、顔面を殴ったりするのよ」

内海の海賊や船乗りが愛用するそうで、片手でしか扱えないが、その分護拳により取り落とす心配がなく、不安定な場所でも使い勝手がいいのだという。

「カットラスとかマチェーテというんだけど、王都では手に入らないのかしら」

それに、バックラーという小型の丸盾を組み合わせるのが彼女の流儀なのだそうだ。

「バックラーは盾の形をした篭手みたいなものなの」

「どういう意味かしら」

右手で小剣、左手で小楯を持って、相手の剣戟を躱し、受け流しながら剣で斬るか盾の中心となっている金属の丸柄で殴るのだそうだ。

「魔物相手では厳しいし、騎士が完全装備では鎧の隙間に剣を差し入れるくらいしか勝ち目がないけれど、襲撃する軽装の相手ならむしろ有効なのよ」

彼女は魔力が少ない。そのことも彼女が高位貴族、帯剣貴族と呼ばれる領主層の夫人になれない理由でもある。故に、彼女は剣の腕を磨いたのであろう。それと馬術もである。

「剣の護拳は片手で自分の手の大きさにぴったり合うものでなければならないの」

力を込めて振り下ろす時に、ゆるければ握りこむだけでは動いてしまう。硬いものを叩き潰すには護拳がジャストでなければならない。そして、伯姪の手は彼女同様、とても小さいのだ。

「既製品ではダメ。剣に厚みがあって叩ける強度のあるものでかつ、軽く無ければ」

「無理難題ね。知り合いの武具屋に相談してみましょう」

短く重く鋭く硬い剣。尚且つ、護拳は小さくとは……彼女は準備できるかどうか不安であった。すると意外な答えが返ってきた。

「……ありますよ。それに、加工できます」

「本当に?」

「嘘なら承知しませんよ!」

「妖精騎士に嘘は言いません」

いつもの店員は笑顔でそう答えた。バデレールという、幅広の片刃の剣がある。カットラスに似ているが、護拳の部分がL字をS字に組み合わせた柄を持つ。

「この柄の部分を加工します。それと、切先を振り切れる重さに調整します」

柄が短くなる分、先端の重さが残り刃が上手く操れなくなる。切先は切り裂き突刺すため、胴の部分は殴るためと割り切る。故に、切先を鋭く細くする。サクスのようにだ。

「この辺りのもので、柄の根元を持って振ってみてください。バランスの良い物を加工しましょう」

伯姪は王都にもカットラスに似た剣があって驚いたようだが、内海だけでなく、外海でも数は少ないが船乗りはいるし船での交易もある。連合王国とその周辺の海国の商人たちとである。

「ダマスカス鋼でも作れますけど……時間がかかります。それと、お値段もかなり張ります」

「いえ、彼女は魔力を使って斬撃する技は使わないから問題ないわ」

正確には、魔力が少なく、『隠蔽』『身体強化』が限界なのである。ポーションも抽出までできそうにもないのは残念だ。

剣はそのままのものを1本。これは今すぐ必要であるのでそのまま、ドレスに剣帯で吊るすスタイルで確保する。加工後のものは、護拳が大きいので魔法袋に収納することにした。

「それと、隠し武器のダガーくらいは確保したいわね」

「なら、これみたいなものでいいかしら」

彼女は裾をまくり、太もものそれを見せる。

「いいえ、足首に止める感じがいいわね。両足に左右2本ずつね」

幸い、ドレスの下の靴は裾で見えないので、思い切ってブーツを履く事も検討することにする。爪先だけ、流行りの靴風に見せればいいだろうか。

「侍女の足元なんて誰も見ていないでしょうし、カーテシーも適当にすればだいじょうぶでしょ?」

ブーツに仕込みナイフ……伯姪なりの工夫としよう。そういうスタイルもありだろうが、王女殿下が影響されないかどうかが心配である。馬にもそのまま乗れそうだし。良いかもしれない。

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王妃様と王女様と話さなければならないことがある。魔力に関しての相談だ。

「そうねー 王女も魔力の使い方をそろそろ学んでもいいのよ」

「お母さま、いいの?」

「折角ですもの、妖精騎士に教わりたいのではないかしら」

「「!!!!!!」」

ちょ、待っていただきたいのですが……

「王妃様、王族の方々は、魔力の操法を宮廷魔術師に習うのではないのでしょうか」

「ええ、その通りね。あなたが教えても構わないわ」

こちらが構うのですが。どうやら身を守るための魔力の使い方が女性の場合おもなのだそうだ。『隠蔽』『身体強化』『捜索』にポーション作成……そして『回復』だろうか。

「『魂の騎士』の彼女であれば、回復魔法を用いることができますが、私はポーションの作成が主なので、その点ではお教えすることも可能です」

「その方が望ましいわ。王族が怪我人がたくさんいる場所を訪れるわけにはいきませんもの。ポーションなら、運んでもらえますからね」

それならば、彼女が教わったまま、訓練をすればいい。王女殿下と伯姪の二人とも隠蔽を使えるなら、三人で逃げるチャンスは格段に増えるはずだ。

「王族ですもの、魔力操作くらい十全にできなければなりませんよ」

「身体操作をマスターすれば、馬も剣も恐れるに足らずですから。真面目に取り組むことをお勧めします」

「!!!……わたくし、頑張りますわ!!!」

王女殿下、俄然やる気である。とはいうものの、既に様々な技術を身につけた伯姪は成功体験故に、ビルドアップも容易だが、殿下はほぼ初めての体験なので最初の一歩が大変そうではある。

魔力の操練は、体に魔力を循環させ自分の気配を相殺するように体に魔力を纏うことにある。その前に、魔力を感じねばならない。それには……

「ダンスをしましょう」

「……なぜダンスを……」

彼女曰く、魔力で身体強化の前の状態で魔力を循環しながら動くことで、パートナーである伯姪にもそれが伝わり、魔力を感じやすくすることになると説明する。

「あなたはどうしたの?」

「時間は沢山あったから、薬草を擦りながら体の中で循環させるイメージを育てたの。時間がかかるのよ」

「なら、それしかなさそうだね。物は試しだね」

「……あなた、男性パート踊れる?」

「もちろん。得意だよ」

彼女は社交の経験が少なく、とても男性パートまで練習できてはいなかったので、伯姪が男性パートを踊れるのはありがたかった。どのみち、ダンスの練習を彼女は続ける必要があったのである。

「あら、簡単ね」

「……魔力は少ないのに、魔力を操る才能は……あるのね……」

「うん、なんとなくわかってきた。これで隠蔽につなげるのね」

彼女はダンスをして少々疲れたので、その通りと断りベッドに腰掛ける。

「魔力を単純に循環させる今の段階の次は、自分の魔力を体の外側に集めて自分の気配と相殺する量でコントロールすると、『隠蔽』になるわ。こんな感じで」

彼女は見本を見せる。伯姪はベッドの上にいるはずの彼女が認識できなくなり、驚いているかのようだ。

「そこにいるのよね」

「いるわよ。これは、盲点の応用なの」

「……どういう意味?」

慌てていると目に映るものが正しく認識できなくなること、視界の中に認識できない場所がある。目に映るものが脳に伝わっていない、その現象を魔力で起こすのだ。

「だから、魔力の波を当てられると、実態はあるのだから見破られる」

「でも、最初からいるかどうかわからなければ、見つからないわけね」

とはいえ、見えないだけで実際はいるのだから、落とし穴にも落ちるし水にも濡れるのだ。

「手を出して、こんな感じよ」

隠蔽を用いながら魔力がどう流れるか、体で理解させるために接触する。伯姪の気配を相殺するレベルまで彼女は魔力を操作できる。

「……もしかして、私も隠蔽されたの?」

「恐らく。これがあれば、王女様も一緒に隠蔽できるのよ」

「絶対覚えないとね。それに……身体強化はもっと魔力を使うのでしょ」

彼女は頷く。体全体を強化しつつ、足や腕をさらに強化するからだ。とは言え、彼女より、伯姪の剣術レベルも体格も上なので、少ない魔力でも効果はそれなりに大きいと考えられるのだが。

翌日、午後のお茶の時間、彼女と王女殿下と伯姪は侍女頭とともに、王宮の王妃用の中庭で過ごしていた。そろそろ王女殿下にも魔力を教える時なのだ。

「殿下、まずは魔力を感じていただきます。お手を」

「は、はい!」

彼女は王女殿下の手を取り、自分の魔力を重ねた手のひらから流し込む。

「うーん、なんだかポカポカしてますね」

「はい、少ない魔力ならそう感じますが、強ければ……痛みを感じる程になるでしょう」

「……そうなのですね。でも……それなら……」

王女殿下は反対側の手を彼女に差し伸べ、その手を取り合うと……

「魔力が両の手を通じて、殿下と私を巡っております」

「ふふ、なんだ、簡単なんじゃない。魔力があるのだから当然ね」

『おいおい、この王女様、宮廷魔術師並みに今の時点で魔力があるぞ。きちんと教育を受けたなら、大魔導士も可能かもな』

えっ、と思うのだが、それは王女殿下の将来にあまりプラスではない。王妃様の願いは、治癒能力がメインだ。具体的には、大量に魔力山盛りの回復ポーションを作れること。つまり、彼女と同じだ。

『お前と同じくらいのことはできるだろう。とは言え、魔物討伐とかは無理だな。守られる存在であって、守る存在ではないのは影響しているだろう』

君主の娘と騎士の娘ではマインドセットが違うのであろう。守ると考えた時の出力が攻撃的ではないのだ。

魔力を感じ、体の色々な部分に魔力を集めたり、伯姪相手にダンスを踊ってみたりして、半日足らずで、王女殿下は魔力に体を馴染ませることができた。ではあるのだが……

「……魔力量が多すぎて、『隠蔽』できませんね。溢れてしまいます……」

「うそ……」

細かな調整ができない幼女であるが故に、絞りが利かないのだ。ある意味羨ましいのだが、今の時点では使えないという判断をする。

「では、隠蔽は他の者に任せて、次に参りましょうか」

「……何かしら、火の魔術、雷の魔術、光の魔術! とか!」

彼女は頭を左右に振り、やんわりと否定する。

「王女殿下と伯姪に学んでいただくのは、『水』を作り出し操る技術でございます」

王女殿下はがっかりし、伯姪は深くうなずいた。実際に、様々な経験をしている伯姪と、籠の中の鳥である殿下では戦術理解度が異なるということなのである。