軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第271話 彼女は帝国の魔術師に立ち会う

第271話 彼女は帝国の魔術師に立ち会う

「金髪マッチョのカッコイイ人がいます!!」

「隣の美人さんもなんだか凄いよ。姐さんみたいな感じでもっと大人の女って感じで」

リリアル生の基準に『彼女の姉』=姐さんが存在するのだが、ヴィーはその姉よりさらに年上で二十代半ばに思える。つまり、この世界では小さな子供がいてもおかしくないお母さんな年齢だ!!

「よっ! 少年少女たち。私の名前はヴィー。帝国の冒険者で等級は……王国での登録は『薄赤』だよ。となりのデカいのは相棒の魔戦士でビル。アンデッド討伐の依頼を受けて協力することになったからよろしくね!」

思いもよらぬ増援に、リリアル生の士気が大いに上がる。自分たちが応援に向かうことは有っても、自分たちを応援する戦力が現れる事はまずない珍しいことであった。

「お姐さんは魔術士なんですよね!」

赤毛娘が遠慮なしにグイグイ質問する。後ろで黒目黒髪はアワアワとして止めようかどうか迷っているようだが、快活に帝国魔術師は答える。

「そう。私は『土』と『風』の魔術がかなり得意」

「それって普通の魔術とどう違うんですか?」

リリアル生の魔術は、彼女の教えたものがほとんどであり、魔術の元となる魔力を素材として消費し、身体強化や相手への干渉する能力へと変換する。ダイレクトな魔力の消費となる。

「魔力を使って、土の精霊や風の精霊にお願いする……って感じだね」

「「「「えー」」」」

老土夫は「お、久しぶりに精霊術師と会ったのぉ」と呟く。彼女の魔力を媒介にして精霊に働きかけ、お願いを聞いて貰うというプロセスは生まれつきの『加護』を有するものであり、この加護は王国では加護の有無を調査されないので知られていないのである。

そもそもが、御神子教の布教以前に存在した太古の精霊を祀る宗教の名残であり、古の帝国時代から御神子教の司教座の存在した王国では既に精霊に関しての魔術が途絶えて久しい。

その中には、死者との交流を行う『死霊術』も含まれており、御神子教の布教が遅くまで広まらなかった帝国・連合王国の辺境では未だに、精霊に干渉する魔術としてその名残が残っているのだという。

『元々、自然には精霊が存在するって信じている人間たちは、精霊と交わって子供を為したりするからな』

『魔剣』曰く、「セルティック」と呼ばれた古代の先住民には木や水や土に精霊が存在し、その活動が植物の成長や天候の変化をもたらすと考えていたという。

『精霊の力を体の中に取り込む、若しくは自らの力で精霊に働きかけるって体系だから俺が学んだ魔術とは完全な別系統。いうなれば、宗教が違う』

その言葉に彼女は納得する。自らの魔力を顕現させ周囲を変化させようとする彼女たちの魔術と、自然と交わりその力の流れに影響を与えて周りを変化させるヴィーの言う魔術は『宗教が違う』という言葉がピッタリとくる。それは魔術ではなく『魔法』と呼ばれる事もあった。

『それに、「生まれ」が必要だからな。その血脈でなければ使いこなす事の出来ない力だ。あいつは二系統をこの上なく使役できるみたいだから、精霊王の血統なんじゃねえかと思うぞ』

一系統を完全に使役するならば『貴族』、二つともなれば『王』と見なされるという。精霊には相性の良し悪しがある為、『土』『風』と相性が良いヴィーは恐らく『火』とは相性が相当悪いのだろうと推測する。

「だから、火の魔術の得意なビルと組んでいるのかしら」

『それだけじゃねぇな。あいつ……高位精霊だぞ』

「……人化しているわけね。でも、どこから見ても普通に人間じゃない」

人と精霊の交わりに関する伝説・伝承は少なくない。『魔剣』は「イケメンだったろ? あれは伝説の赤髭王の現身だ」と告げる。

赤みがかった金髪に碧眼、王太子をさらに男性らしく肉付けしたような偉丈夫でありながら、美丈夫でもある。理想の騎士と呼ばれた数百年前に帝国に君臨した帝王でもある。

「何故見知っているのかしら」

『その頃、お前の家の昔の当主の佩刀として同行したことがあったんだよ。あいつ、腕はからっきしだから帝国遠征なんて死にに行くようなものだったからな』

王同士の会盟に帯同した時に遭遇したのだという。幸い戦とならず当時の男爵家当主は無事に王都に帰還し、デスクワークに励んでいたという。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

翌朝、彼女はヴィーを東門へと誘った。実際、アンデッド対策を依頼したい現場を見て昨日の話を具体的に進めたいからだ。

「この場所、城門前以外を全部陥没させて、水を引き込むわ」

「そうすれば、射程距離内にアンデッドが集まるので、狙い撃ちにする」

「それに、水上に立てれば囲まれる事無く安全に至近距離から攻撃する事も出来るんじゃない?」

伯姪がそこに加わる。城門側と水面となった外郭外周側から包囲し両面から攻撃するという提案だ。

「それいいわね。あなた、冒険者っぽいわ」

「冒険しないのが冒険者って言いたいんでしょ?」

「正解。リリアルって良い集団ね」

多分、価値観が合うという事が言いたいのだろう。仲良くできるに越した事はない。何より、先輩冒険者として学べる存在を彼女は希少と感じている。

ヴィーは周りの地面を確認したり、土塁の強度をチェックしてから「できそうだから始めるよ」と宣言し、何やら呪文を唱え始めた。

「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土の牢獄を築き給え……『 土(terra) 牢(carcer) 』

パンパンパンパンと地面が陥没していく。最初は外郭の外周に沿って1m前後の陥没であったようだが、そのうち、陥没する深さが増してきたように思える。

「なんだか、この土地の『ノーム』はやる気があるみたい」

『そりゃ、久々の召還だからな。はりきっちまうのも仕方ねぇだろ?』

王国では精霊はおとぎ話の存在で、眼に見えるものではないと思われている。だがしかし、目の前で地面を陥没させているのは彼女自身の魔力ではなくその魔力に命じられ使役されることを喜ぶ精霊の技なのだと思うと、彼女は目から鱗が落ちる様な気持ちとなる。

「なかなかのものでしょ?」

「正直……感嘆しています。素晴らしいですねヴィー」

「ふふ、素直な子は嫌いじゃないよ。あなたとはいい友達になれそう」

「そう言ってもらえると、嬉しく思います」

彼女には伯姪以外友達らしい友達は今だいない。二人目の友人が出来たかもしれないと思うと、彼女は少々嬉しい気持ちになる。

『友達いない仲間から脱退かよ』

「……聞いてないし、入った覚え無いわよ」

『魔剣』曰く、彼女と『魔剣』と歩人が加入しているらしい。大変な不名誉である。

暫くパンパンした後、更に別の呪文をヴィーが唱え始める。

「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土の壁を築き給え……『 土壁(barbacane) 』

その呪文は川から水を引き込んでいる濠の一部を崩し、取水口として加工しなおすものであった。水が大きな音を立てて流れ込み、さながら外郭部は洪水による決壊の起こったようなありさまで、見る見るうちに水が入り込みさながら湖のように広がっていく。

「あはははは!!」

「これは面白い。骨が逃げまどっている」

指をさし笑う赤毛娘の横で冷静に分析する赤目銀髪。ワイト擬きが水から

逃れるべく、外郭外周から東門のゲートハウス前に残された元の高さの地面に

集まってくる。

「このまま溢れないかしら?」

「平気平気。水路の高さ以上には浸水しないから。それに、討伐が終わったら水路を補修して後は水が引けば元通りよ」

今後の防衛体制を考えても、水を引き込める様にしておくのは良いことだろう。密度の高まったアンデッドたちに、リリアル銃兵が狙撃を開始する。

「へー 面白い装備ね。帝国では見たことが無いわ。それに……なんで、あんなに簡単に浄化? されるの。信じられないわ!!」

魔装銃の存在に関しては秘匿事項なので「王国で開発中の魔導具」と説明する。王国の魔導士が開発した魔導具を冒険者に情報開示するわけがないと理解させるためでもある。

「火薬を使うから、銃は嫌いなんだけれどあれならマシね」

「ヴィーは『火』が苦手だからな」

「私は嫌っていないわよ、あっちが私を避けるだけ。そうでしょ?」

ビルが珍しく口を開く。低めの声だが耳に良く届く質だ。この声なら、戦場の喧騒でもよく響くだろうと思われた。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

千のアンデッドが更に撃ち減らされ、魔力切れからか銃手の射撃も一時間ほどで休止中となる。

「なんだか、フラフラしている骸骨が集まって目障りじゃない?」

「まあ、今なら使えそうだのぉ。小僧、準備するぞ」

「おう、いよいよ出番だな爺ぃ!!」

老土夫と癖毛が張り切ってどこかへと去って行った。恐らくは、アレの準備を行うのだろう。

「ねえ、あの人たち、どこへ行ったのかしら?」

「あの装備は何も『銃』だけではないのよ」

「へー じゃあ、もっと大きなサイズもあるって事ね」

察しのいい冒険者は嫌いじゃない。暫くすると、組み立てた『魔装砲』を二人で持ち上げて堡塁の上に現れた。

「俯角の問題で、余り高い位置からだと発砲できないってことかな?」

「いいや、あれは吹き飛ばせるように水平に撃てる位置に据え付けてるんだ。そうでしょう?」

大砲の弾丸は、大きさは握りこぶし程もあり、重量は『魔装弾』の数十倍の大きさがある。つまり……

「あの砲弾一つで数十から百以上のワイト擬きを浄化できると判断しているのでしょうね」

「一番集合しているところに撃ち込む気まんまんじゃんね☆」

赤毛娘もテンションが上がってきているようだ。魔装銃よりもはるかに発射する魔水晶も魔力も必要となる為、砲手は癖毛が務めるようだ。

「弾込めしたわね」

「発射するわ!!」

ボーンという大き目の音と共に、アプリコットサイズの青白く光る魔銀の弾丸が撃ち放たれる。魔銀鍍金でコーティングし、魔石の粉と魔銀と鉄の合金の弾丸が青い尾を引いてワイト擬きの中を通過していく。

「ありゃ、一瞬で……」

「溶けたね」

「溶けました」

通過した弾丸はそのまま反対側の堡塁の側面に命中しめり込んだようだ。急いで、癖毛が堡塁の上を走って砲弾を回収するために走り出す。

「あれはエコだね」

「先生の魔力を補充すれば、再利用可能みたいですから」

伯姪と黒目黒髪がそう弾丸に付いて説明する。

「えーと」

「……魔装弾も魔砲弾も魔水晶と魔銀を用いた魔道具で、私の魔力を込めて運用しています」

「うん、でも、なんで浄化の効果があるの? 魔力で浄化って……」

彼女は恥ずかしそうに『聖女と呼ばれております』と告げる。王国の内部では既に認知されており、その恩恵を受ける身としてはなんら恥じ入る事はないのだが、初対面の帝国冒険者に「私聖女だからだよ!」と告げるのは少々気後れするのである。

「ああ……あの最近噂になっている……『竜殺しの聖女』さんかしら?」

「『竜殺しの聖女』……確かに、タラスクスと呼ばれる六つ足のドラゴンを退治する際に同行いたしました。ですが……」

「ああ、分かってるわよ。あなたたちが討伐すると周りの貴族どもが煩いから、王太子に花持たせたって事なんでしょ?」

全くもってその通りである。この女性も、高位の冒険者として王侯貴族に花を持たせた経験があるのだろうかと、彼女は思う。

「それに、『吸血鬼殺しの聖女』シスター・アリーって言うのも貴方なのよね?」

聖都近郊での吸血鬼討伐の際に恐らくは大聖堂経由で流布された名前なのだろうと類推される。

「隠す必要もありませんね。今回のアンデッド・ナイトとスケルトン集団の攻勢以外にも、王国内でアンデッドを用いた工作活動が増えています。それについて、今後は……」

「……いいね……この話が終わったら、王都の観光案内ついでにお話してもらいましょうか」

いつもは彼女の姉のように朗らかな笑顔を絶やさないヴィーが、吸血鬼の話となった途端、空気を変えてきた。

――― 吸血鬼を始めとするアンデッド駆除……彼女の専門領域だ

魔装砲の試射も無事終了し、水の中に浮かぶ中洲のような場所にとり残されたワイト擬きたちの数は、凡そ半分強、六百程度まで減らされて来ている。

『どうする?』

「そうね……王都の増援が到着するまでは、射撃の的を演じてもらいましょう」

あまりに早急に討伐をリリアルだけで完了してしまうと、近衛連隊や騎士団の活躍の場を奪う事になりかねず、リリアル学院を良く思わない勢力が一致団結しかねない。

ここは、タラスクスの時と同様に、他の集団にも活躍の場を残しておく方がいいだろうと彼女は考えている。

「リリアル生は一旦宿舎に戻って休息。騎士は交代で城壁周辺の巡回を担当する事にします。討伐は、『銃兵』に任せる事にします」

「「「「はい!!」」」」

リリアル生も周囲の空気を感じるようになってきた。何でもはこなしてはいけないということだ。ミアンの街はミアンの市民兵が護り抜いたという実績こそが必要なのだと、皆気が付いていた。

そうでなければ、あちこちから防衛戦に呼びつけられ、ただ働きしなければならなくなる未来しか見えないからである。