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作品タイトル不明

第256話 彼女は『ミアン』に到着する

第256話 彼女は『ミアン』に到着する

百年戦争が終わった時点において、ごくわずかに王国の領域内に連合王国の領地が残されることになった。連合王国と最も近い場所にある港湾都市『カ・レ』である。

古の帝国時代から連合王国が支配する島への中継基地として栄えた街であり、ランドル伯も保護を与えた都市であった。その後、連合王国から運び込まれる羊毛の集積地となり一層繁栄した。

百年戦争時、連合王国軍はこの都市を占領することに成功した後、王国人の商人を追放し、自国人を招き入れ連合王国の一部とすることに成功した。以来、カ・レは王国の中における連合王国の一部であり、また関税収入などで政府の収入の三分の一を得ている一大拠点となっている。

今回の遠征は、この地域で潜在的に活動する連合王国の偽装兵に対する示威活動でもあるのだ。もっとも、ネデル領に援軍を出した連合王国軍は神国軍を中核に据えた御神子教徒軍に全く歯が立たず、ネデルから撤退してしまったことで、この地域で表立った活動は鳴りを潜めている。

「レンヌの人攫いもルーンの人攫いも行き着く先は『カ・レ』だったと考えられているのよね」

『もう二百年以上王国から離れているだろうし、都市ってのは独立志向が強いから、地続きの王国よりも海の向こうの連合王国所属の方が良いのだろうな。住んでる奴ら王国人じゃねぇし』

連合王国の人間であるが、国から自由でいたいような感覚なのだろう。随分と自分勝手なものだ。元々『国』というのは王個人の所有物という存在であり、王とその直臣以外にはあまり関係ないものなのだと言える。

王都を大切にするのは、それ自体が生み出す富とそれに連なる税収が王家にとって重要な財源であるからだと言える。自分の持ち物を大切にすることは悪い事ではないが、その程度のものだ。

人攫いにとっても、連合王国にとっても、王国人を攫って金に換えることは野生の猪や鹿を捕まえる程度の感覚なのかもしれない。実際、樽に詰めて運んだりしていることから、また、村丸ごと攫う手口からしても同じ人間だと考えてはいない。宗教も違えばなおさらでもある。

「いつか、海に叩き落してやりたいわね」

『……羊毛買えなくなるんじゃねぇの』

カ・レの住人の半数は羊毛取引にかかわる仕事に就いているという。

ランドル地方に羊毛を売る為の港なのだから、カ・レの街が存在する為には王国の毛織物業者は必要なのだろう。王国人を追い出しても成立したのなら、連合王国人を追い出しても成立する……んじゃないかな?

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カ・レ、そしてランドルが王国から離れた現在、ミアンは王国の東側の最大の拠点であり、大聖堂を備える司教座を有している大都市だ。

とは言うものの、ランドルの中心都市ほどの経済的豊かさもなく、カ・レからランドルに続く都市の外れに位置する王国に残された都市と言う存在だ。

「連合王国・帝国との最前線のはずなのだけれど……」

「良い街ね。戦争になれば負けそうだけれど」

ミアンの街の歴史は古の帝国時代にまでさかのぼり、この地域の有力な拠点であり、南都から繋がる街道の終点でもあり、様々な街道への交差点でもあった。

その後は、織物の染料で著名な街となり、聖征の英雄の一人、王国の尊厳王の時代から百年戦争の初めの頃まではランドルと連合王国の中間にある街として織物業で大いに富栄えた。

しかしながら、ランドルと連合王国は百年戦争の間、継続してこの地で戦い、ミアンが攻囲され、周辺地域でも何度も決戦が行われ、多くの血が流され地域は荒廃した。経済的には切り離され、さらに街の防備を高めるために新しい城壁作りに多大な資金が必要であった。

結果、王国に残ったミアンは経済的にとても困窮する事になった。

とは言え、ここ数十年は新しい織り方を開発し、法国や山国に西神国との交易も拡大し、帝国の貿易都市やネデルの主要都市とも対抗できるほどに回復してきている。見本市などでも多くの商人が街を訪れることになって、経済的に上向いてきていると言える。

言い換えれば、叩く必要性を感じているとも言えるだろう。

ミアンが川の支流の合流点にあたり、また、街の中に水路が張り巡らされていることもあり水運が発達している場所でもある。王都・ルーンからの距離が100㎞、聖都から150㎞離れており独立した拠点として機能しているのだが、経済的にはランドルの方が近いかもしれない。

街の中心を流れる川の両側に市街は存在し、城壁と川から水を引き込んだ大きな水堀と幾つかの堡塁から内城が形成されている。川の東側の街区の外側に、更に5つの半同心円上に並ぶ堡塁とその堡塁を繋ぐ城壁及び空堀が存在し、帝国からの攻撃に備えているのだが、増援が存在しない限り、

只の土盛に過ぎない。

街の規模の割に防衛施設が充実しているのは、敵に最も近い場所にある重要拠点であり、敵中に孤立する可能性が高い場所である事を意味しているのだろう。

とは言え、王国では大規模な都市の一つであり、この地方では最大の都市なので宿屋や駐屯場所は充実している。

「どうだ、遠征は楽しめたか?」

「ええ、またワイトを討伐したわ」

「どうやら、神国で紛失した異端審問所長官の遺骸を用いたものだったみたい。強烈だったわよ」

「むっ、何と言う事だ! また、美味しいところがフルールに行ってしまった」

何事もなく順調に行軍したブルーム貴族分隊は早々にミアンに到着。羽を伸ばす……英気を養っていたらしい。カトリナはワイト討伐の件を羨ましそうに語るが、一歩間違えれば、貴族の子弟が半死半生となる可能性もあったわけで、教官や騎士団からすれば責任問題になりかねない。リリアルの二人も貴族の子弟なのだが、『リリアル騎士団』枠なので度外視しておくとして。

「そっちは、どうだった? スケルトンの発生が顕著で、討伐の依頼が逗留した村で受けたりとかなかった?」

「スケルトンか……噂にはなっていたが、我々は城壁を持つ街に逗留する事が多かったので、そこまでの話は無かったと思うぞ」

「……やっぱり、近衛ってクソね」

近衛は王家を護るための騎士団であり、名誉職なので農民が困っていても対応することは全くあり得ない。職掌違いであるからだ。とは言え、騎士が困っている人を見て見ぬふりをするのはどうかと思うのだが。

「こっちは、村人が森に入れないって困っている状況だったわ」

「冬を越せない可能性も出てしまっているので、騎士団と軍で本格的な討伐を計画すべきでしょうね」

「おお、騎士学校では参加できるのだろうか?」

後方支援・予備部隊としての参加が妥当だろうか。教官はともかく、聖都は従騎士ばかりであるから、指揮の問題も発生する。

「スケルトンなら、首を落せば問題ないのだったかな」

「基本的にはね。耐久力が無いから、剣よりもスタッフやメイスで叩き壊すイメージで。魔力を纏っている武器ならなおよしだと思うわ」

「ふむ、問題は……」

「数を頼みの雑兵ですが、囲まれ押し込まれると厄介でございます」

「……なるほど。常に動ける状態で押さば引く、引かば押すの闘いを心がけるとしよう」

スケルトン自体は弱兵とは言え、注意すべき存在はいる。

「外見が似ているのでわかりにくいのだけれど、ボーン・ナイトというものが存在するわ」

「それは一体何なのだ」

簡単に言えば、ワイトが死体に悪霊が憑りついたものだとすれば、ボーン・ナイトは騎士の遺骨に悪霊が憑りついたもので、魔力で動くだけのスケルトンとは戦う意思や魔力量が異なる強敵なのである。

「見た目はスケルトンだが、実力はワイトなのだな」

「つまり、触られて生命力を吸収されたりするというわけね」

「それに、動きも格段に速いわ。スケルトンがお年寄りのような動きだとすれば、こっちは魔剣士・魔騎士のような動きと力ね」

見た目の違いは、ワイトのように仄かに光っているから夜間なら明白だが、明るい場所では恐らく見分けがつかないだろう。

「途中までスケルトンの振りしてノロノロしていたのが、急に素早く動いたら怖いわよね」

「一瞬で叩きのめされるか、触れられて意識喪失か……その後、スケルトンに蹂躙されるまでがセットだろうな」

骨兵士のHiLoMixなど勘弁してもらいたい。

ミアンは王都ほどではないが街の規模に比べると重厚な外郭を持つ都市であり、規模でいえば南都より相当小さな都市だが防備はそれを上回るのは百年戦争の被害を受けたか否か、敵国に接しているか否かによるだろう。

特に、攻城戦に大砲が使用されるようになってから、堡塁と外郭を広げ大砲の射程から古い城壁を遠ざける施設が帝国などでも備えられるようになっている。ミアンの東側はその対応がなされているのだが、王国内では王都を含め

少数派の防御施設と言えるだろう。

「この堡塁の見学も今回の遠征の目的の一つだからな」

「大砲を撃ってもらわないと効果のほどは今一つ理解できないかもしれないわね」

先乗りしたカトリナに城壁の上から堡塁群を説明してもらいながら、二人は「人間相手なら効果があるだろうけれど、魔物相手なら却っていい隠れ場所になるのではないか」と思っていた。

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ミアンの街では歩哨などの警戒任務訓練は免除となり、夜間は一応の自由時間を得るに至る。女性騎士四人はまとまって少し落ち着いた食事のできる場所で夕食を共にすることにした。

男性がいる場合、どうしても女給のいる酒場に行くことになるので、女性が食事を楽しめるような環境ではないので、敢えて今回は遠慮をしたと言ったところだ。

「これほど防衛設備が厳重なのはちょっと驚いたわね」

ニースも『堅牢』と呼ばれる巨大な城郭をもつ城塞都市であるが、あくまでも内海の基準であり、海の上から多くの大砲で射撃された場合、長く持たせる事が難しいと伯姪も考えていた。

実際、内海の中にある御神子教の騎士団が守備する島全体を城塞化した拠点がサラセン海軍の攻囲で陥落しており、内海の東部は完全にサラセンの支配地域となってしまっているからだ。

「大砲の使用で、戦の様式がまるで変ってしまったのよね」

「魔物相手にはあまり効果はないけれど、人間の軍隊相手には、それなりの効果があるものね」

何も、都市城塞を攻める時にだけ大砲が使われるわけではない。歩兵の戦列を破壊したり、野戦築城を攻撃する場合にも大砲が使用され、それは行軍速度に合わせられるように、数頭の馬や場合によっては分解して運ぶこともできる小型軽量な砲が増えているのだ。

女四人で食事しているのに、話の内容が軍だ戦争だというのはどうかと思うが、この街の外観はそれを語るに相応しい備えだと思われる。

「隼鷹……確かに小型の大砲には猛禽類の意匠が施されているわね」

「そうそう。小さいものが隼砲。大きさは砲身が2m以下で1m強の物が多いのよ。重さは百から二百キロくらいで砲としては軽量。船にも積まれることが多いわ」

弾丸の重さは500gほど。直径は5cm程度の口径になる。その弾丸を250gの火薬で1.5㎞程飛ばすことができる。軽量故に、機動性も悪くない。

「攻城戦だけでなく、野戦でも大砲が使われているから、その対策も騎士には必要。今時、騎士だけで突撃して戦況が決まるなんてありえないしね」

勇名王シャルルが戦士の長たちに馬と鎧と槍で武装することを命じ、千年に渡り騎士が戦の勝敗を決める時代が長く続いたが、長弓に長槍の密集陣形、弓銃に銃・大砲が戦場に投入されるにつれ、重装備の騎士が活躍できる

場所はドンドンと減っていった。

フルプレート一つは城館に匹敵する価格となり、騎士の体面を維持する費用に対する戦力としての効果が低下し、戦争の形態は騎士と歩兵と砲兵の三つの兵種が組み合わさり古代の戦争のようになりつつある。

戦の開始は砲撃の交換により、戦列を崩してから歩兵の戦列が前進。その戦列の押し合いが崩れたところで味方騎兵が突撃し戦列が崩壊した側が後退するところを騎士が追撃する……という、騎士同士の決闘の延長のような戦いではもはやなくなっているのだ。

「リリアルには不要なものだけれど、騎士としてはその運用に理解が必要なのよね」

「戦の形態を理解するには当然なのでしょう。砲の打ち合い、歩兵の銃撃、更に接近しての白兵、騎士の側面攻撃……その組み合わせを理解する

というところかしら」

将来的に、リリアルの魔術師が戦場に投入されるとすれば、それは戦場の後方であり、指揮官を気付かれずに討伐したり、食料の集積所を破壊するといった運用が為されるだろう。戦況が理解できなければ、介入するタイミングも見計らう事ができない故の教練と考えるべきなのかもしれない。

「近衛である我らにはさほど影響はないが、軍の指揮を任される可能性のある

騎士団員は……中々大変だな」

「そうね。この街の堡塁も防御火線なんか考えながら、何人でどのくらいの期間守るかなんてことを考えて指揮しなきゃならないんだもの」

「そもそも、この街の住民の民兵を指揮するとすれば、中々の気苦労が予想されるわね」

ランドルやネデルの市民というのは、古の帝国の共和政時代同様、自らの資金で武装をする兵士に変わる存在だ。豊かな都市の住民は、その財産に見合う鎧や武具を整えるのがステイタスであったりする。

「言う事聞かないとかかしらね」

「始まるまでは威勢の良い事を言うが、仲間や自分がちょっとでも傷つけば大騒ぎするだろうな。まあ、魔力持ちもいないから魔物相手、特にアンデッドに関しては戦力にならない可能性が高い」

「そう言う意味では、騎士団の駐留しないミアンは狙われやすいと言えるかも知れないわね」

王国の騎士団はこの地には最低限の戦力、哨戒・連絡用の騎士しか配置していない。国境の近くに大兵力を置いておくのは戦略的な柔軟性を保てない事と、戦力を拘束するのであれば、陥されないことが優先であり、その点、ミアンの城壁と逃げる場所の無い市民兵は住民の自治意識と王国の戦力配置的に適した存在だと言えるだろう。

「大聖堂もあるし、最低限の不死者対策は出来ているのよね」

「特注のメイスは届けたわ」

「む、聖女のエキス入りメイスだな」

「……私の魔力を封じた魔水晶でアシストする聖魔装よ。言い方には気を付けてもらえるかしら」

なんだか、淫靡な響きを感じるので、表現は考えてもらいたいと彼女は思うのである。

「……数は?」

「三十ほど。大聖堂に配置される王国の聖騎士分は用意する約束なの。南部や西部は危急ではないので後回しにしているけれど、順次配備されるわ。ポワトゥの大聖堂にもね」

「ギュイエは広いからな……公爵家の自弁で追加購入をさせてもらえるだろうか?」

ボルデュやさらに南のガロは神国と境を接しており連合王国と関係の深い商人も少なくない。つまり、何か事件が起こってもおかしくない地域だとカトリナは危惧していると彼女は理解していた。