軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第249話 彼女は地下墳墓の死霊を報告する

第249話 彼女は地下墳墓の死霊を報告する

伯姪を背負い地上に現れた彼女の姿を見て、カトリナ主従も王太子も急ぎ、駈け寄ってきた。

「大丈夫……ではないのだな」

「スペクターの咆哮で動けなくなりました」

「なんだと!!」

カトリナが驚愕するのを尻目に、王太子は側付きの騎士達に担架を持ってくるように指示を出す。

「一先ず、リリアルか」

「先ほど回復の為の処置はしたので、様子を見て自然に体力が戻るのを待つだけだと思います」

「メイほどの者が、大声一つでこのダメージとは……」

「相手が相手でしたので」

「……誰だ……」

彼女は周囲の影響を考え、王太子とカトリナだけに聞こえる声で伝える。

「……このことは口外しないようにお願いします」

「あ、ああ勿論だ。それにしても……」

「聖油が効果の無いアンデッドとは、いったいぜんたい……」

カトリナ、黙れ! 明らかに夜でも分かる顔色の悪さを察した王太子が「私の馬車を使え」というのだが……

「先生、お迎えに伺いました」

茶目栗毛が魔装馬車でお迎えに来た。こんな事もあろうかと、リリアルには迎えの馬車を時間を指定して呼んでおいたのが幸いした。

「……これは」

「大丈夫、時間の経過で良くなるわ。先ずは、お風呂に入って着替えてもらう事かしらね」

「承知しました。では、準備してまいりますので、少々お待ちください」

馬車のシートをアレンジし、救護用のベッドを設置するのだろう。数分で準備が終わり、「お願いします」と声をかけ、担架に乗せた伯姪を騎士たちが馬車へ移送する。

「今日はここまででお願いします。後日、騎士学校でご説明したいと思います」

「黒水晶はこちらで預かるか?」

王太子の問いに、彼女は一つだけ差し出した。総長の水晶である。

「こちらも調べてみたいので、月曜日にでも摺合せしましょう」

「わかった。王宮の魔導士と魔術士に解析できるかどうかわからんがな」

彼女は伯姪に付き添い、リリアルへと戻っていった。

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「昨日は迷惑かけたわね」

「いいえ、不意打ちであの『咆哮』は耐えられないわ。仕方ないじゃない」

「……一人で討伐したあなたが言っても説得力無いわよ」

一晩休んだ伯姪は、若干の疲れは残しているものの、生活に不自由がない程度に回復していた。後遺症はなさそうである。

「アンデッドが咆哮するって、びっくりしました」

「そうだよね。ドラゴンならまだしも、霊なんでしょ?」

「実体と霊体を行き来できるようなの。それに、かなり高位の聖騎士が変化したものだから、高位の魔物としては珍しくないのかもしれないわ」

雑魚狩りが得意なリリアル軍団にとって、正直、聖騎士総長のスペクターは荷が重かったと言えるだろうか。

「それも二体だもんね……」

「先生一人で二体……スペクター二体分のほうが……」

いやいや、さり気にディスらないでね。化け物じゃないから、聖女だから。とは言え、神性のある物が祟り神となり人を呪う事はない事ではない。祝福は裏を返せば呪いにもなり得る。高位の聖職者が転ずれば、恐ろしい魔物になる事もあるだろう。

「聖典に出て来る堕天使だって、元は天使の中の天使、神様に一番近い存在だったんじゃなかったっけ」

「詳しいね。古代語も読めないのに」

「……読めるよ……」

「え」

黒目黒髪……最近古代語も勉強中である。聖典くらいしかまだ読み進めていないのだが、聖典の内容を踏まえた暗喩なども魔術書には少なくないので、まずは基本的な聖典から読み進めているのだ。

「適材適所なんだから、別に意外ではないでしょう」

「まあ、私もあなたも、そう言うの向いてないからね」

伯姪が赤毛娘に声を掛ける。

「それでも、昨日のスペクターの騎士達は古代語話していたのよね。私には理解できなかったけれど」

「そうね。騎士とは言え、元は高位貴族の子弟が実家の思惑で修道騎士団に入団する人も多かったと言われているし、大司教クラスの人材だから古代語も基本的な教養のうちなのでしょうね」

伯姪曰く「死霊にテストされたみたいで腹立たしい」とのこと。確かに、言葉を交わすべき相手かどうかを古代語で試した可能性はある。

「でも、古代語でも罵倒しかしていなかったわよあいつら」

「知識の浪費ね」

「その状況で、高雅に会話するのはおかしいと思います」

伯姪のツッコミに、黒目黒髪が真面目に答えている。

昨日採取した黒水晶は、老土夫に一旦預けている。一目見た老土夫は『人間の遺骨に何てことしやがる』と呟いていたが、修道騎士団幹部の物だと伝えると酷く納得していた。曰く、「彼奴らは神の国の実現の為なら、悪魔とでも取引すると言われていたから納得だ」というのである。

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皆で土曜日の昼食を食べ、午後、彼女は老土夫の工房に伯姪と共に向かう事にした。ある程度、どのようなものかは判明していると思っていたからだ。

「よく来た。大まかなことだがな……」

老土夫曰く、錬金術と死霊術が高度に理解できている人間でないと術式は作れないが、何をどうしたか、これから危険があるかどうかは判明したという。

「結論から言えば、これは卵の殻だ」

「危険はないという事ですね」

「そうだ。骨を固め水晶と一体化させたものに、本来、天国に向かうべき魂を封じ込めそこに魔力を十分に満たした」

「あー 黄身が魂で、白身が魔力」

老土夫は伯姪の比喩におもむろに頷く。当たらずとも遠からずというわけだ。

「この持ち主は、遺骸が焼かれてしまっておったんじゃろ」

「……恐らくは」

「でも、骨は川に投げ捨てられたんじゃ……」

「すり替えたんじゃろ。骨になってしまえば、誰の物かはわからん。処分する人間がローブの下にでも替わりの骨を用意しておけば、簡単にすり替えられるじゃろ」

骨自体を回収する事は問題なかった。では、その骨を一体、だれがどのように加工して王国に持ち込んだというのだろうか。骨も魂も三百年前の物なのだ。

「修道騎士団、今どうなっているか知っておるか?」

「……吸収されて、神国や帝国に拠点があるはずです」

「ああ。今の主なスポンサーは帝国のはずだ。というよりも、帝国を形成する勢力の一つ……とでも言えばいいかの」

神国の騎士団に吸収された勢力は神国の植民地支配の尖兵として、帝国においても、東方殖民という名の異教徒の住む地域への聖征という名の侵略を行う中核となっている。

「本部は聖王国亡き後、帝国に移管されている。恐らく、今の黒卵も帝国の騎士団本部で管理されていたと思われるな」

「……帝国が王国に対する攻撃を加えるためのカードとして展開してきたという可能性ですね」

吸血鬼騒ぎも恐らくは帝国の仕業であろう。神の摂理に反する吸血鬼を利用するのは、御子神教徒としてどうなのだろうか。それとも、王国の住人は異教徒扱いなのだろうか。

ともかく、既に黒水晶には何の価値もないと分かり、彼女は幾分落ち着くことが出来る……わけもなかった。

「もし仮に、この技術が確立されているのであるとすれば……」

「何時でも任意の場所にスペクターを配置することが出来るな。勿論、死んだ騎士の骨と魂と、それを基に黒卵を作り使役することのできる錬金死霊術師が存在しなければならないがな」

老土夫がそう言うからには、彼の知る範囲において既知の存在はいないという事なのだろう。表にできる技法でもない。悪魔の召還に近い技法ではないかと彼女は思う。

「表の人間じゃないから、普通に調べても分からないんじゃない?」

「昨日の殿下の反応からすれば、あの方の立場でも驚く内容であったと考えると、王国には存在しないのではないかしら」

「まあ、帝国か法国。帝国の東方の影響を受けている地域なら、そういった技術を学ぶ魔術師もいるだろう」

老土夫は『サラセンとの戦いに使えるとして禁呪に手を出したかもしれん』と小声で呟く。

サラセンの帝国が東から帝国まで侵攻していたのは僅かほど前のこと。東方古代帝国の残された巨大な首都を攻略したサラセンの皇帝サロモンは、さらに西に軍を向けた。帝国の東方の首都ウィンを包囲したのだが、当時の王国国王はサラセンの皇帝と誼を結んでいた。

帝国と神国は婚姻により同じ国王であり皇帝を頂いていた。同君同盟とでも言えば良いのか、連合王国とその昔のギュイエ公家が百年戦争の時代そうであったように、五十年前は神国帝国が王国を東西から挟み撃ちにする態を見せていた。

そこで、サラセンのサロモンの攻勢に乗る形で帝国西方に軍を進めた時代があったのだ。

「相手にも理由があり、こちらにも理由はあるのよね」

「その時の恨みが残っていたりするわけね。あの『鉄腕』もその時代に王国に遠征しているしね」

そういえば、オーガと化した元帝国騎士をつい先日討伐したばかりである。

「死してもサラセン人と戦おうとする聖騎士はいたであろう」

「その為の研究が……あの黒い水晶につながったわけね」

「確信はないが、それが一番出どころとしては納得がいく。それに……王国と帝国はずっと仲が悪い」

元々あった巨大な帝国が分裂し、王国と帝国と法国に別れたのだから、仲が良いわけがない。連合王国は、先住民の地に周辺から蛮族が船で来襲し、何度か王朝が入れ替わった後、王国に定住していたロマン地方の一派が最終的に征服して現在に至っている。

なので、王国の一部から始まり、敵対し続け故に帝国と付いたり離れたりしながら王国と長年敵対しているのである。王国の姫の血が入っているから自分にも王国に国王となる権利があると主張する者がたまに現れるのだ。

「王家で調べた事と合わせて、またご報告します」

「そうか。あまり力になれずにすまんな」

「いえ、安全であるということが分かっただけで十分です」

目の前の危機は去ったものの、スペクターの黒卵が魔導により任意に作る事ができ、帝国の戦力として保管されている可能性を考えると安穏とする気にはとてもなれないのである。

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翌日、騎士学校の放課後、集まっているメンバーは、王太子、『防疫担当』司祭、カトリナ主従、彼女と伯姪、そして……

『まあ、私が知っている事はかなり古いよ』

「それが必要なのだと判断して同席していただいています」

『伯爵』である。帝国にいた時期の最後が、丁度、サラセン軍のウィン包囲の時期に相当する。自身が『エルダーリッチ』である『伯爵』は、帝国の死霊術師に関しても相応の知識があると見込んだからである。

「今の段階で分かっている事の情報共有から入ろう」

王太子の号令で、彼女の口から王都共同墓地の地下にある墳墓に埋葬されていた幾つかの遺骸が『スペクター・ナイト』と化していた事、数が六体、そのうち二体は……

「まさかと言うよりはやはりですな」

「あの時の国王は、教皇の言葉も無視し、まずは修道騎士団の解体ありきで行動したからな。阻止できないと考えた段階で、時間をかけて報復の手段を用意してあったと考えれば辻褄が合う」

即ち、当時の王家の直系の断絶、没収した騎士団財産の回収、そして王国自身への報復の各段階である。

「実際、王国の東側は随分と帝国に回収されたからな」

ランドル領は一時、王国の親族であるシャンパー公領であったが、その直系男子が絶えたため、公女が帝国皇帝と婚姻し、今では帝国領ランドルとして皇帝の所領の一部となっている。そこから、王国への尖兵が侵入しているのであれば、今回の事件との関係は当然疑われる。

「吸血鬼とグール、ワイトにレイスにスペクターですか。神への冒涜ではありませんか」

『まあ、勝てば地上に神の国が築けるというドクトリンがあいつらの発想だからな。異民族や宗旨違いの異端等というのは殲滅の対象。過去の聖人であっても、使える物は『骨』でも使うだろうさ』

『伯爵』の発言が全くシャレになっていない。

「死霊術というのは、どういったものなのだろうか」

王太子の質問に、宮廷魔術師の一人が改めて説明する。

一般的には『死者の霊魂を呼び寄せ、召還した霊魂から知識を賜り、その知識から吉凶を読む者』の事を指す。口寄せなどとも呼ばれる一種の巫女、もしくは神官の系統でもあった。

反面、魔術師としての能力を持つ物は、その魂を用いて死体をアンデッドやスケルトンに変えて操る事を可能にする。死者や霊を用いた術を使う者のことであり、死霊使い、屍術師などとも称される。

中には、強力な術者が、自身をアンデッド化することもある。エルダー・リッチの誰かなどが典型である。

『私は良い死霊術師だよ。強制はしないし、本人の意思で魂を解放することができるように最初から道を示しているからね』

「……やっぱりネクロマンサーなんじゃない」

伯姪の呟きに何人かが無言でうなずく。

『とは言え、自身がリッチになる場合や死にたての人間をリッチにするのとは根本的に違う方法を取っているね。術の内容は門外不出、どのような方法で行ったかは想像する事も出来ない』

『伯爵』の言葉に嘘はないだろう。その術を再現することはできないだろうし、想像する事も出来ない。だが、その人間には心当たりがないとは言っていないことに彼女は気が付いていた。