軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第244話 彼女は遠征に再び旅立つ準備を進める

第244話 彼女は遠征に再び旅立つ準備を進める

王太子の来校から二週間、再び遠征を行なう時期となっていた。

今回も分隊に別れ、別々のルートで目的地『ミアン』を目指す。ロマンデを横断するよりは日数も少なく、治安も悪くない……はずだという。

「精々ゴブリンくらいよね」

「……それは言わない方が良いわよ。ゴブリン以上の物が出て来るから」

「それってジンクス? 迷信?」

「いいえ、フラグよ」

別名「お約束」とも言う。とは言え、警邏の及ばない地域で魔物が出るのは少なからずある事なので、魔力保持者を含めた分隊規模の騎士団であれば、例え見習であったとしても、相応の働きは可能だろう。

ブルーム分隊の貴族の子弟たちも、王太子殿下の「魔物討伐の実戦経験って王立騎士団に入るなら必須☆」という言葉を受け、ロマンデでは馬鹿にした態であったのが今回はやる気が見て取れる。

魔力持ち+魔銀の剣を個人的に持ち出してくれると、非常にありがたいと思われる。カトリナが「なに、君はいまだに魔銀の剣を持たないのか!」等と、煽るので、実家に頼んで急遽取り寄せ中の近衛騎士が多数いるらしい。

遠征の経路は『ジズ』、『グルネー』、『ポワ』、そして『ミアン』を経由して『アンゲラ城』に到達する経路となる。この地域はその昔、ロマンデ公と王家の領地の境界線に当たる場所であり、穀倉地帯でもある。歴史的にも古く、代官を設けている小さな町や村も多いので警邏を継続して行う計画がある。

小さい街や村は堅固な城壁を持たない為、盗賊や魔物に襲われ被害が出る事が少なくない。豊かになれば特権都市となり、自衛する為の城壁と武装を行うのだが、王領として庇護を受けるという選択はそこまでの規模に達する領地ではないことを意味している。

ジズは修道騎士団が解体される直前に所有していた城塞がある街であり、城塞は現在利用されていないが、百年戦争の時期には捕虜収容所として活用されたり、刑務所であった時期もある。

グルネーは歴史のある街道沿いの街で、三千人ほどが住む。小さな城塞と修道院がいくつかある比較的大きな集落と言えるだろう。

ポワはミアンを中心とする盆地にロマンデ地方から下る丘の上の境界にあたる街であり、修道院が開墾し人が住み始めた五百人程度の規模の小さな街だが要衝でもある。ポワの周囲には『オマレ伯爵領』といった王都に住む高位貴族の領地もあるが、貴族領は避けての警邏となっている。

「『ミアン』まで野営なしなのはありがたいわね」

「その分、それぞれの街の警備計画の策定が課題で上がっているじゃない?」

三千人規模の街や城塞を有している場合はそれほど問題がないだろうが、五百人の少々大き目の『集落』では限度がある。柵で囲い、濠を巡らせることも丘の上ではなかなか難しいだろう。

「ある意味、受け身で行くしかないかもしれないわ」

「……どういうこと?」

街を放棄し、必要な家財を最低限持って山野に潜むという昔ながらの手段である。中途半端に抵抗するよりも街を明け渡す方が被害が少ないだろう。

「後は、略奪したあと腹いせに放火されないようにある程度は物を与える必要もあると思うの。パンやワイン、少々の保存食などは修道院にでも分かるように置いておくとかかしら」

食料を多少とられるより、住む場所を破壊される方が後々大変である。食料程度なら王家に被害を申し出てある程度年貢を減らしてもらったり、食料を分け与えてもらえばなんとか生きて行けるだろうが、家を建て直すのは大変だ。

「略奪に対する対応って、どうなっているのかしらね」

「百年戦争では係争地だった時期が長い地域だから、言い伝えや習わしはあるんじゃない?」

「ニース領も法国兵が侵入して騎士団の救援が間に合わないときはどうするか決まっているのかしら」

「一応ね。女子供は三日分の食料を持たせて決められた街まで逃がす。男は少数の集団に別れて、山に潜んで賊の後背を討つ。手ぶらで帰らない法国兵は、お土産を持った状態で引き上げる際に攻撃するのが決まりよ」

侵入したときは警戒もするし覚悟もあるが、略奪品を抱えて戻ってからの事で頭が一杯の兵士は帰り際に襲われると簡単に討伐できるということなのだ。

「流石に、最近ニース領もその辺り対策されているから今はそこまですること滅多にないけどね。多分、このルート上の集落や街はそんな感じだと思うわ」

城壁で囲まれているような豊かな都市ではないから、ニース領の集落と同じ対応をするだろうというのが伯姪の見解であり、警備計画も警戒の方法と略奪をコントロールする方法=被害を抑える内容になるだろう。彼女たちとは別の班が担当だが。

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経路上の魔物の存在に関する情報を騎士団や冒険者ギルド、周辺の代官からの情報を取りまとめる内容の講義が行われている。遠征の途中で出来る者は討伐し、現況の確認もさせようという事なのだろう。

規模が大きく、討伐の必要があれば騎士団が派遣されることになるのだと想定される。予備調査を騎士学校の遠征に実習としてさせるという事だろうか。

「ねえねえ、この『ジズ城の亡霊』って怪談めいているわね!」

街ごとの調査依頼や魔物の目撃情報のリストを確認していた伯姪が、興味深そうに一枚の報告書を彼女の前に提示する。

『ジズ城』は初代ロマンデ公の時代にまでさかのぼる古い城塞であり、木造のロマンデ様式の物を石造りにそのまま変えたような趣のあるダンジョンを有している。

「この場所が、連合王国のモット&ベイリーに端を発するロマン人の城塞がベースになっているというのが一つ」

この地は、ロマンデと王都盆地の境界・東端に位置する為、その境目の城として長く使われていた。ガイア城が健在であった頃であれば、ロマンデ支配の重要な拠点として管理維持されていただろう。

「連合王国が戦争で負けて王国から撤退した時、『シズ城』も放棄されているのよね?」

「何もなく、撤退したとは思えないのよね」

「それが……亡霊騒ぎにどのようにつながるのかしら」

『まだ分からないわ』と彼女が告げる。ヴァンパイアやグールと言った実体のある不死者の魔物を投入する事を決断した者が『帝国』であるとするならば、先般の『レイス』のような存在は、『連合王国』の尖兵である可能性が高いと思われるのだ。

「連合王国は、妖精や幽霊がとても多い国とされているわね」

「そうなのね。それを使役して、戦力として投入するってどうなのかしら」

伯姪の疑問に、魔剣が呟く。

『お前がロマンデ近辺で工作を潰して回ったから、邪魔者を消す為の刺客なんじゃねぇか。レイスやデュラハンの大軍団は無理でも、騎士の一個小隊なら相手できるぐらいの数体の魔物をぶつける事は出来る。

つまり、お前狙いだよ』

王都近郊の人攫い組織を潰し、恐らく引き込んだであろう魔物の群れを定期的に討伐してきた。ルーンの街も間接的に無力化する事に協力し、先日はロマンデの掃討にあたる遠征も行った。

「では、あのコンカーラ城のワイトのも……」

『お前狙いだな。わざわざリリアルから離れているタイミングで、お前がでしゃばってくると思ったんだろうさ』

出しゃばるなどと……遠征中に何か事件が起これば、その近くにいる彼女に依頼が来ることは良い感じに想像できる。

「……とにかく、この遠征に関してもロマンデの時以上に気が抜けないという事かしらね」

「何それ……と言いたいところだけれど、もう、あのワイトの討伐から薄々そんな気はしているわ。ドンと来なさい! って感じよね」

彼女がいれば、魔法袋に対アンデッド用の装備も収めてあるので問題無いのだが、伯姪が彼女と別れて行動する場合も問題だ。

「それと、今回はフルールとブルームで別れて行動することが前提よね」

「あー 向こうにアンデッドを嗾けて、こちらの戦力を各個撃破ということもあっておかしくないわね」

「つまり……」

『あの公爵令嬢にも、アンデッド対策を施さねぇと、こっちは安心できねぇ』

という事なのだ。戦えないわけではないが、ゴブリンや魔狼程度とはわけが違うし、今回は遭遇戦ではなく完全な待伏せ若しくは、向こうに有利な状況で戦端が開かれるだろう。

「王国東部は今まで足を踏み入れたことが無いから、ほぼ分からないのよね」

「それも踏まえての事前準備が必要ね」

それはそれで、またまた大変そうなのである。東部のそれぞれの街の位置づけに帝国・連合王国から仕掛けやすい場所。防御拠点も把握していない。その辺りは、騎士団の上層部の知り合いにでもレクチャーを受ければいいだろうか。

「対アンデッド用の装備は、自前のものがあるかどうかの確認をカトリナ様に確認しなくてはならないわね」

「一族に聖職者も存在するでしょう? 聖騎士の装備で魔銀のメイスあたり持っているのではない?」

魔銀のメイスに彼女の魔力を纏わせた一撃は、ほとんどのアンデッドに致命的な打撃をただ一撃で与えるだろう。魔力の垂れ流しによってだ。

「カミラも、多分、護衛役としてアンデッド装備は身に着けているでしょ?そりゃ、お嬢様の敵対者が暗殺者みたいな分かりやすい存在だけとは限らないもんね」

「彼女は魔力量が少ないのがネックね」

「それを言われると私も辛いわ……」

生命力のある魔物なら、多少の斬撃強化程度の魔力の用法で致命に至る傷を負わせればいいから、さほど魔力を消費しない。また、気配隠蔽を用いて、急所に先制の一撃を叩き込むことも可能だ。

アンデッドにはそれが効かない。生命力がある限り気配を隠蔽する事は霊体であるレイスやデュラハン、ワイトにとっても同様だろう。それに、霊体を破壊するに足りる魔力を注ぎ込まねばならない。

「貴方も聖女になるしかないんじゃない?」

「シスター・メイから、聖女メイになるのね……恥ずかしいけれど死ぬよりはましと思わないといけないかな」

その言い方だと、彼女が聖女扱いされているのも死ぬよりはまし程度のかなりのダメージだとでも言いたいのだろうか。本人も嬉しくは思っていない。

ギュイエ公爵令嬢主従に、今回の遠征で起こりえる事態と、アンデッド対策が早急に可能かどうかを確認する、これが必要だと彼女は考えていた。

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「無論、その装備は存在する。伝説の竜殺しのランスも含め、聖なる装備は一通り持ち得ている」

「……そうですか……」

「ギュイエ家に伝わる、竜殺し、アンデッド殺しの装備を姫様にお使い頂けるように、御当主様からお預かりしておりましたので、王都の職人に直しに出しております」

そういえば、老土夫から『ギュイエの魔銀装備預かっとるぞ! 見に来るか』

と茶目栗毛経由で連絡を貰っていた。それの事なのだろう。剣や槍の類ならともかく、鎧や兜に関しては補正が相当必要となるのは明白だ。

「前回のロマンデではいいところが見せられなかったからな。なに、あの『鉄腕』に通じたのだ、並のアンデッドなら問題あるまい」

「勿論でございます、お嬢様」

いや、言葉だけだからね、本当は「面倒なので余り前に出ないでください」

ってカミラ思ってるでしょ! と彼女と伯姪は無表情の中に嫌そうなオーラを見て取ることが出来た。下級貴族の娘は大変なのだと彼女と伯姪はシンパシーを感じたりする。

「差し出がましいようでございますが、それと、もし可能でしたら……」

珍しくカミラが会話に割って入ってくる。

彼女はリリアルの「魔装ビスチェ」と「魔装手袋」を借り受けたいというのだ。

『魔装手袋』は魔力を効率よく流してベアナックルで魔物を討伐する事も可能な装備であり、ガントレット要らずの装備でもあるが……

「貸与……ね……」

「……二人分くらい、用意できないかしら?」

「カトリナ様はともかく、カミラさんは魔力の消費量が多いから、それなりに勘所で魔力が使えなくなるかもしれないわよ」

「あー ビスチェだけなら大丈夫じゃない?」

カミラは首を振り「ビスチェ」か「手袋」かなら、攻防一体の手袋が欲しいという。

「相手の攻撃が当たらなければ、ビスチェに意味はありませんので。手袋なら、手刀で首を刎ねる事も出来ますわ」

どこの赤い彗星だよと二人は思いつつ、内諾する。

「但し、ビスチェも手袋も補正が必要であると思うわ。リリアルに来てもらって予備の物を渡してその場でサイズ調整する形が良いわよね」

「……補正って、彼がするのよね……」

魔装関係は「癖毛」が担当している。公爵令嬢に直接触れる可能性もあるのだが、大丈夫なのだろうかという身分的な意味での確認だ。

「一応、担当者は従騎士なのだけれど、問題ないかしら」

彼女が恐る恐る確認すると、公爵令嬢らしからぬ大笑いをし、否定する。

「魔装を扱う者に身分は問えまい。中には亜人や不死者すら関わることがあるのだ。リリアルの魔導士がまさかそのような者ではあるまい」

「勿論、どこにでもいる普通の孤児院出身の少年よ」

「但し、馬鹿みたいに魔力が多くて、おまけに、本物の魔導具馬鹿よ。なんなら、ただの馬鹿まであるわね」

伯姪は癖毛に容赦がない。彼女もなのだが、最近の成長著しい癖毛の姿を見ると、辛口のコメントはいいにくい。彼女は良くも悪くも組織の長であり、彼女が気軽に貶めていい存在ではないからである。

「私も側に居りますので、不届き者は成敗して差し上げますわ」

「いや、アリーに匹敵する魔力量だから、普通の人には傷すらつかないと思うよ。ドワーフの血も流れているみたいだし」

カトリナの眼光がキラリとする。

「なんと、ドワーフの血の流れる魔装士の元孤児の少年か……興味がそそられるな」

変なもの好きの公爵令嬢の暴走が始まりそうな勢いである。

「では、早速今週末にでもリリアルに伺おうか」

「ギュイエ産ワインと、蒸留酒を手配いたしましょう。是非、商会頭夫人の姉上様もご招待ください」

ああ、姉が来るのは間違いない。雰囲気こそ差があるものの、王妃様と姉と、この公爵令嬢は強キャラなのだ。