軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第238話 彼女はオーガの廃城に向かう

第238話 彼女はオーガの廃城に向かう

「……遊びではないのだけれど……」

「それは分かってるんだがな。実際のオーガをこの目で見たいんだ」

「練習に協力したのだから、結果も見たい。二人がいれば、討ち損じても何とかなるんだろ?」

それはそうだけれどと思いつつ、カトリナの練習相手をお願いしたヴァイとジェラルドの話をどうするか思案する。

「そもそも、依頼人の許諾が必要でしょ? カトリナには相談したの」

「ああ、無論だ。カトリナ嬢には許可を貰った、後はあなた次第だそうだ」

「そう……なら特に何も言う事はないわ。でも、馬車の用意はしないわよ」

「それなら問題ない。カトリナ嬢の馬車の馭者を務める事になっているからな」

今回は公爵家の馬車を出すことになっており、その馭者兼護衛ということで認められているという。

「装備はどうするの?」

「冒険者時代の物を持ち出すさ。安物だが、使い慣れた物だ」

という感じで、準備万端である。

一旦リリアルに彼女と伯姪は戻り、前回同様のメンバーで移動するのだが……

「素材採取したいんです」

薬師娘に言われ、今回は馭者兼厩番として連れて行くことになった。『猫』を番猫に残すので、一応は大丈夫だろう。

『緊急時にはお伝えします』

「お願いね」

馬車の入れる辺りから、廃城程度であれば『猫』と彼女は念話で簡単な内容なら伝え合うことも可能だ。

前回の討伐メンバーである、赤毛娘・黒目黒髪・赤目銀髪・赤目藍髪・青目藍髪に藍目水髪に茶目栗毛、さらに薬師の碧目金髪と灰目蒼髪が加わる。

兎馬車はカリナたちがいない分今回は減る……事はなく、三台で出発する事になる。早朝、まだ朝もやの残る時間に騎士学校に到着。既に馬車の用意も済んで乗り込んでいる依頼人と合流する。

「……兎馬車が三台。そして……少年少女の集団だな」

「ええ、私たちが最年長だからそうなるわね。でも、半分は騎士爵の『薄赤』等級の冒険者だから腕は確かよ」

えへへとばかりに笑う赤毛娘を見て、ギョッとした顔になるジェラルド。

どう見ても子供だからだ。

「腕は見せてもらったが、子供ながらに凄まじいものがあるぞ」

カリナは前回のゴブリン討伐でリリアル生の討伐を目にしているので、私見を加え「出発しろ」と端的に伝える。

前回より少々時間がかかったような気がするが、昼前に森に到着し、道の荒れた街道を移動するつもりだったのだが、どうやら運河の工事用に再整備され始めているようで、以前来た時とは違い下草も刈られ歩きやすい道となっていた。

「この道を利用して、廃城に補給が行われているのよね」

同じ兎馬車に乗る茶目栗毛に彼女が確認する。轍の感じだと月に二三度ではないかという。大きな樽がいくつも放棄されており、恐らく中にワインや塩漬け肉、固焼きのパンなどが収まっていたのだろうという。

水やスープの代わりにワインを浸して固いパンを食べたりするので、ワインは多めに届けているようだという。

「酔っぱらってくれていると楽でいいけどね」

伯姪が茶化すように言うが、昼間からワインで酔ってしまうようなことは考えにくい。そもそも、ワインで酩酊するほど飲むのは大変なことなのだ。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

馬車を街道から廃城に向かうわき道に少し入った草原にいれ全員が降りる。

「ここから徒歩でニ十分くらいです」

「そう。では、ここで薬師の方は馬の番をしながら素材採取をお願いします」

「「はい」」

ヴァイの「俺も」という声を丁寧に無視し、先鋒をリリアル生、中央に依頼人と馭者、後方を彼女と伯姪で固める。

「確かに、荷馬車の通った跡がそれなりに残っているわね」

「ふむ、それはそれで討伐の後、調べるべき要件かもしれんな」

余計なことに首を突っ込むのは良くありません。ワイトの件も終わっているとは言い難いのだ。手紙の返事待ちである。

ゴブリン討伐と違い、単体なので警戒は程々で済んでいる。轍の跡を辿ると、木々の向こうに、小規模な胸壁を備えた城塞都市のようなものが見えてきた。

「あれがオーガの潜む城です」

茶目栗毛が皆に伝える。百年戦争より前、ロマン人の襲撃があった時代に構築された小規模な城塞都市の跡と言えるだろうか。壁はところどころ崩れ、窓に板やガラスなど当然嵌っていない。ゲートも落とすような格子も用意されておらず、かなり廃棄されて時間が経っているように思える。

「コンカーラ城並みの廃墟ね」

伯姪が小声で呟く。リリアル生は城壁から離れた地点で数組に分かれ、周りに潜んでいる魔物がないかどうかの確認に出ている。

「さて、討伐に関してだが……」

「正面から正々堂々名乗りを上げて討伐にきたと伝えると良いと思うわ」

「……なるほど……騎士らしく勝負しろと挑発するのだな」

「こっちは女の子二人でそっちは爺さんのオーガ一人でちょうどいいでしょって言えば良いのよね?」

そして、立会人は王国副元帥のリリアル男爵が務めるとでも言えば……恐らくは引き受けるだろう。弁えねば、そのまま討伐に入るだけである。

周囲の様子を確認してきたメンバーが問題がないと報告を終える。さて、正面から名乗りを上げて討伐開始である。

城門の前に立ち、魔力を込めた声でカリナが話し出す。

「我が名はギュイエ公爵家令嬢カトリナである。この古ぼけた廃城に潜む魔物である元帝国騎士のゴットフリートにフェーデを申し出る!!!」

ビリビリと周辺の木々に声が鳴り響き、鳥がバサバサと飛び立っていく。

「かかる廃城に潜み、王国に害を働かんとする悪しきオーガとなり果てたゴットフリートよ!! このカトリナが相手になってやる。臆すことなく姿をあらわすがいい!!!」

数秒の後、中から大きな足音が聞こえてくる。半ば崩れた城門の影から、全身鎧に身を包んだ顔の青白い血走った目の大男が大剣を片手に姿を

現した。

『ナンダ、小娘ガナグサミモノニデモナリニ来タカ!! 我ヲ『鉄腕』ごっとふりーとト知ッテノ言上デアロウナ!!』

爆音と称してもいいほどの大きさの声で、そのオーガナイトは言葉を返した。

「馬鹿め、死に損なって魔力を暴走させた挙句、このような廃墟に潜む魔物風情になり果てて……貴様の生前の所業も恥ずかしいものであるが、今もなお一層恥の上塗りをしているようだな。主従で討ち果たしてやるから、大人しく魔物として狩られるが良い!!」

フェーデじゃなくって魔物狩りの様相を呈してきた。見た目は完全に人間を辞めてしまっているし、その魔導具の右手だけが人としての痕跡をとどめているくらいのものである。

『女子供相手ニ一対一トイウノモ気ガ引ケル。ナンナラ、全員マトメテカカッテキテモ構ワンゾ!!』

内心ラッキーと思いつつも、討伐を成功させて二人を『薄黄』等級にするまでが依頼なので、それは問題となる。

伯姪が挑発に加わる。

「あんたが農民の味方だなんてちゃんちゃらおかしいわよ」

『ちゃんちゃらおかしい……死語だな』

それは言わなくてもいいのよと彼女は思うのである。ゴットフリート某は農民側に加わって内乱を戦ったが、農民に同情したわけではない。それまで、騎士や貴族相手に押し掛けフェーデをしまくり関係が悪くなったこと、自由商業都市や司教都市の貴族や大商人相手に強請り集りをする方が、金もない貧しい農村を略奪するより、効率よく稼げていただけの話だ。

『マアナ。ダカラドウシタ』

「挙句の果てに、行き場がなくなって農民側について金持ち相手に戦争仕掛けて、捕まって皇帝の手駒になることを条件に助命されて。その後、使い潰されて死ねばいいのに、生き汚くオーガになって王国に逃げ込んでくるとは、いい迷惑だわ」

「ふむ、強盗騎士とか呼ばれていた帝国騎士らしい名ばかりの騎士だな。どうだ、私はこれでもギュイエ公爵令嬢だ。フェーデの相手に相応しいのではないか?」

『……』

この場で、オーガとなったとは言え本能的な部分で繰り返してきた『フェーデ』を持ち出せば、『鉄腕』ゴットフリートは逃げられないと考えているのだろう。

『ヨシ、決闘……ウケタマワル』

とは言え、あの右手の義手はミスリル製であり、剣も握れる精巧な魔道具と見受けられる。剣も同様、かなりの業物。そして、魔力による身体強化は人間を大幅に超えている。

『お前たちなら、どうとでも始末できるだろうが。姫様剣術でいけるのか?』

「さあね。でも、ここで名のある魔物を討伐すれば……ミッションクリアではないかしら」

『……依頼の為なら、依頼主の命も賭けるということだな』

勝手に賭けていいのかどうかは知らないが、カリナもミラも不満は無いようだ。

『死に場所を与えてやるのも必要だ』

「死に場所?」

『魔剣』曰く、『鉄腕』ゴットフリートの年齢は人間なら百二十歳を超える。オーガ化して身体は魔力の影響で全盛期を越える能力を持っているが、魔力頼みであり、魔力の喪失がそのまま肉体に死へとつながる。

「魔力を回復できなくなりつつあるという事かしら」

『この決闘で相当の魔力をつぎ込んでいる。もう回復することは難しいほどにな』

魔力の枯渇はそのままオーガにとっての死を招くという事だろうか。

『だから、奴は最後のチャンスを伺っている。勝っても死、負けても死だからな』

鉄腕のオーガナイトは、ツヴァイハンダーと呼ばれる帝国傭兵が好む両手剣を装備している。その長さは大人の身長ほどもあり、重さも10Kgもあるだろうか。振り回す前提の戦場の剣……とは言え、力は兎も角片手が義手であることを考えると、瞬時の切替などは難しいと思われる。

剣自体は魔銀製ではなく普通の鋼鉄の剣であり、技より力を重視する剣技だろう。鎧も金のかかったゴシック式の軽量化されたプレートアーマーで、膝当てから下は革製の物を装備している。鉄靴を履いていないのは馬から降りての闘争を前提にした実戦仕様なのだろうが、この状況ではこちらの作戦に有利に働く。

サーリットと呼ばれるしころの部分が後ろに伸び首の後ろを護るデザインの兜を被るが、顎当は外されており、汚れた歯と大きく発達した犬歯のような前歯が覗いているのが見える。

オーガは右脇に剣先を下げて構える。振り回しやすい姿勢である。腕の長さを考えると、間合いは2m以上あるだろう。

『サア小娘ドモ、カカッテコイ!!』

挑発から一旦冷静になったゴットフリートは、そう言って攻めさせるようにこちらを促す。

「行くぞ!!」

バスタードソードを同じく脇に構えるカリナが、ジリジリと前に出る。魔力を纏わせ、身体強化を行い一気に間合いへと踏み込むが、横薙ぎの剣がカトリナの頭の位置を狙って振り抜かれる。

カトリナは躱した両手剣が再びスイングして切り降ろされることを想定し、転がって低い姿勢で距離を取り直す。振り回しているので、背後からミラが 鎚矛(ベク・ド・コルバン) での刺突を狙うが、最初からうまく行くようには思えず、躊躇しているようだ。

仕掛けを繰り返すものの、容易に崩す事は出来ず、正対するカリナは疲労の色が隠せなくなってきた。

『口ホドニモナイナ、トンダ見込違イダ!!』

オーガナイトの剣圧に押しこまれつつあるカリナが、目線でミラに何かを合図する。身体強化の強度を上げたのか、魔力を纏う量が目に見えて強化される。

『姫さん、勝負に出るんだな』

『魔剣』が呟くまでもなく、ここで仕掛けるのだろう。

「はあぁぁぁ!!」

バスタードソードを脇の前から思い切り振り出し、その剣に被せるようにオーガナイトが両手剣を合わせる。が……魔銀の手甲でその剣戟をカリナはその剣の手元で受け止める。魔銀製ではない普通の鋼鉄の剣では魔力で強化された結界に匹敵する硬度の手甲を斬り裂くことはできない。加えて、両手剣は鍔元の三分の一ほどを握り込める様に刃を着けずに槍の柄のように加工されているのでなおさらである。

背後から魔力を目いっぱい纏わせた 鎚矛(ベク・ド・コルバン) のピックがオーガナイトの保護されていない左脹脛を斬り裂く。

『グアアァァ!!』

魔物とはいえ、人体の構造と変わりない存在である。左の脹脛、つまり、アキレス腱に相当する部分を斬り裂かれたゴットフリートは激しい痛みと共に、筋肉が収縮してしまい立ち上がることも困難となってしまった。

「さて、ながらく付き合せたようだが、そろそろ仕舞いとしようか!」

カトリナが立ち上がれなくなったオーガナイトにじりじりと近づこうとするが、座り込んだままでもオーガの力と両手剣の間合いの長さは少しも損なわれて

いないのである。

「もしかして、向こうはたいして不利になっていないんじゃない?」

伯姪の言葉に彼女もそうではないかと思うのである。