軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第222話 彼女は公爵令嬢と鬼ごっこを繰り返す

第222話 彼女は公爵令嬢と鬼ごっこを繰り返す

姉の講義は詰まるところ、商人とどう騎士団の担当者としてお付き合いするかのガイダンスになるのである。今日もおちゃらけているようで真剣な講義が行われている。

王国は余り外征をしていない為、今のところ国外の商人との取引という経験が王国軍・騎士団に不足している面がある。姉の講義内容はというと……

「一応、相場という物があるんだよね。騎士団の会計係に聞けばどのくらいかは教えてもらえるからね。例えば、小麦一袋がいくらなのかとかさ」

騎士団の会計担当は専門職であり、騎士の一員が担当しているわけではない。日頃から関わりがない為、この機会に顔見知りになっておく方が……上に行くつもりの者は良いと思われる。財布のひもを握っている人間は大切にすべきなのだ。頭を下げて教えを乞うべき事は乞えばいい。

「で、交渉ね。知っているかもしれないけれど、いま帝国でブイブイ言わせている傭兵隊長って知ってる?」

有名な傭兵隊長は多いものの、恐らく姉の言う傭兵隊長は「ヴァレン某」という帝国の末端貴族出身の傭兵隊長なのだろう。

「昔から、傭兵に限らず軍隊って行く先々で嫌われ者なんだよね。なんでだか分かる?」

「略奪や暴行を行うからだろう?」

「正解☆ そう、現地調達とかかっこいいこと言っても、やることは盗賊まがいの事なんだよね。だから、ヴァレン某は『戦争税』ってのを皇帝から徴収する権利を貰い受けてね、行く先々で『酷い目に遭いたくなきゃ金を出せ!』って脅したわけ。それで、ウハウハなんだよ」

非合法な略奪を認めない代わりに、軍に税を直接徴収させる方式に変えたということだ。少なくとも、街や村を破壊され、労働力である住民を殺されたり生産設備を無意味に破壊されない分、税金を払う方がまし……という判断に至る訳である。

「でね、王国軍の場合、先触れを出せばいいんだよ。『王国軍に攻撃されたくなければ、商取引に応じろ』ってね。嫌なら周りを破壊し、都市も攻撃して見せしめにするのも……場合によってはありかな。有言実行って大切じゃない?」

何を言い出すのかと思えば……とんだ有言実行である。

「対価を払って敵地で食料を調達するメリットは大きいよね」

王国内から運べば、途中で盗まれたり移動コストもかかる。必要な時に必要な場所で補給できるかどうかも分からない。故に、多少のコスト増となっても現地の商人から購入するメリットはある。

「そ・れ・に、帝国内は王国と違って一枚岩じゃないからね。対立する都市同士なら、敵の敵は味方くらいの感覚で相手してくれる可能性は高いよね」

帝国内は御神子と原神子派で対立しており、ポジショントークよろしく、隣り合う都市同士は仲が悪いのが基本である。

実際の取引の段取りなどの話を踏まえつつ、講義が終了。彼女は姉に話しかけられて応対中。

「姉さんも商会頭夫人が板についてきたようね」

「はは、まあーねー」

「で、誰の付け焼刃なのかしら」

「しょ、しょれは……」

どうやら姉は『伯爵』の商会の支配人と懇意にさせてもらう代わりに、王都の夜会では『伯爵』をエスコートされることに同意したらしい。

「夫君がいないときだけね。虫除け兼情報収集担当だよね」

手形の話だが、耳の早い商人が潰れそうな大店の手形を安く買い漁り、情報の遅い商人に高く売りつけるというのは良くある話なのだそうだ。特に、王国と帝国では商人同士の交流も少ないため、引っ掛かりやすいのだという。

「まあ、情報こそが私の武器っていうのは、我ながら自分に合っていると思うんだよ」

「印象操作もお手の物ですものね」

「失敬な、空気読んでるだけじゃない?」

確かにその通りかもしれない。彼女にはまねできない姉の特技でもある。

「姉さん、物は相談なのだけれど」

「なになに面白い事?」

彼女はカトリナ主従との『魔力を用いた鬼ごっこ』の話を姉に伝える。端的に言って相手をさせたいのだ。

「ふふ、面白いじゃない。伊達に、王都の下町で『鬼の女王』と子供時代に呼ばれてなかった(?)わよ」

「……聞いたことないのだけれど……」

「うん、呼ばれてないからね☆」

そう言う事じゃないんだよと彼女は姉を忌々し気にねめつけたりする。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

「……大丈夫なのか、姉君と模擬戦などしても」

「ええ、死ななければ何をしても構わないわ。妹として許可します」

「ふふふ、まあ、追いつけるものなら追いついて見せたまえ!!」

「「「……」」」

今日もギャラリーの多い室内練習場。何故か『商業取引』の講師であるニース商会会頭夫人がギュイエ公爵令嬢の模擬戦の相手となるということで、観客多数でもある。

「いいな、金が取れるカードだ」

なんて教官まで見学に来ている。教官は暇なのだろうか。

そして、公爵令嬢主従対商会頭夫人の対戦が始まる。

とは言え、姉はホースマンズフレイルを持っているものの何時もの装いであり、戦う装備を表面上はしていない。昨日の打撲の治癒も完全ではないので、あくまでも『鬼ごっこ』なのである。

「手加減はしてあげるから、安心していいわよ☆」

「それは、こちらのセリフだ」

ルールは主従からの打撃は無し。姉は二人から三十分間練習場内を逃げ回り、時に、フレイルで反撃することは認める。狙って良いのは首から下の胴体と持っている武器だけ……とする。

「鬼ごっこね……」

「オーガは人食い鬼だけれど、逃げるのがオーガ役ってなんか違う気がする」

そう話をしているうちに「始め」の合図で鬼ごっこが始まる。練習場はそれほど広いわけではなく、50m四方ほどの平らな地面を持つだけの場所だ。屋根はあるが、馬小屋のような感じの場所ではある。

「おいでおいで!!鬼さんこちら☆」

「さあ、カミラ、挟み撃ちと行こうか!!」

姉は追いつかれそうになると、身体強化のギアを上げ、カトリナの横を擦り抜けながら『蝶のように舞い、蜂のように殴る!!』といいながら、フレイルで相手の武器を強かに叩いていく。時に取り落とし、時に反動でこけたりしつつ、狭い範囲での追いかけっこのはずなのだが、姉はなかなか捕まらない。

「あなたのお姉さん、凄いわね」

「ええ、姉の逃げ足は天下一品なのよね……」

彼女が気が付かない危険を察知して自分だけ逃げだす嗅覚は、子供の頃から少々羨ましいくらいのものであった。特に、祖母の課題を避けるところは見習えるものなら見習いたかった。

左右にステップを繰り返しながら、挑発するかのように時折接近し、フレイルで叩いて逃げていく姉に、段々と苛立ちが高まる主従の空気が伝わってくる。

「くっ、なんで捕まらんのだ!!」

姉は実は、気配隠蔽の入り切りを頻繁に行い、身体強化のスイッチもドンドン入れ替えて行っている。慣れないように、馴染まれないように姉は細心の注意を払って……挑発している。そう、散々努力して実行していることはただの嫌がらせではある。

「ふふふ、どうかな? 私のこの巧みなステップワークは」

「ふぅふぅ……ま、まだまだ!!」

追いかける二人は模擬戦装備の為、そこそこの重量のある装備を身に着け動き回る故に、体力魔力の消費は姉とは桁違いでもある。

「ねえ、もしかして……」

「そう、気付いたわね。姉さんは気配を消すのも残すのも自由自在なの、

昔から自然に使いこなしていたわ」

姉は子供の頃から「あれ、さっきまでここにいたのに」とか、「あれ、いつの間に来たのかしら?」と思われる行動が多かった。魔力を持つように認識して初めて彼女は気が付いたのだが、姉は自分の存在感を高めたり残したり消したり弱めたりするために魔力を使用することがとても上手いのだ。

「だから、一瞬でも視界から外れたりすると、途端に視界の端から消えてしまうのよ。見えているのに……気が付けないの」

「……便利ね……」

「ええ。人と会う時に便利だそうよ、話が詰まらない時とか存在感だけ残してこっそり中座するのも得意なのだそうよ」

練習場のあちらこちらに気配を残しながら、本人は気配を隠蔽し、または、気配を飛ばして攪乱している。

「カミラは兎も角、カトリナは……もうダメっぽいわよ」

魔力切れで、カトリナはダウンしてしまっていた。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

姉はフンフンとハミングの様な鼻歌を歌いつつ大変上機嫌である。

「まあ、こんなものかしらね。カトリナちゃんももう少し魔力を使って上手に立ち回る練習をした方がいいね!」

「姉さん、彼女は常に夜会の中心にいる存在なのだから、末端子爵令嬢の姉さんとは扱われ方が違うのよ」

「妹ちゃん、真実ほど人を傷つけるものなのだよ……ヨヨヨヨ……」

鬱陶しいわねとばかりにジト目で姉を見る彼女を微笑まし気に見る伯姪。仕切り直しで彼女が公爵令嬢主従に話しかける。

「姉の気配の遣い方ひとつで、二人は相当混乱したでしょう?」

「ああ、段々本人か気配か判断できなくなって……魔力切れだった……」

「……はい。上位の諜報員のようでした……」

「まあ、お姉ちゃんも情報収集するのも夫人の仕事だからって頑張ってるんだよ」

「嘘ね、子供の頃から気配を消して居なくなるの得意じゃない」

「ひ、秘密がある方がいい女っぽいじゃない?」

気配を消して逃げ出すのは、秘密があるかどうかとは関係ないと思います。

「良いヒントとなったな」

「はい。気配を複数行使しての同時攻撃……これでオーガ単体なら、なんとか討伐できるのではないでしょうか」

「そうだな。この練習なら怪我もなく、魔力の操練の練習にもなる。しばらくは朝夕と自主練三昧だ」

「はっ」

という事で、魔銀の鎧の調整が済むまで、模擬戦はしばらくお預け……

という事になりそうである。

鬼ごっこの結果、カトリナ主従と姉は以前の夜会で冷戦状態となっていた事が嘘のように仲良くなっていたのだが……

「そっかー お姉ちゃん今日はカトリナちゃんの別棟にお客さんとしてお泊りさせてもらうから」

「おお、アリーの小さなころの話など、聞かせてもらいたいものだ」

「……姉さん、余計なことは言わないでちょうだい」

「今はこんなツンな性格だけれど、小さい頃はいっつーも私の後を『お姉ちゃん、お姉ちゃん』ってついて回ってねー」

「ほほぉ。随分可愛らしい妹御であったのだなぁ……」

「……」

嫌な予感しかしないが、嫌がればさらに調子に乗る姉が目に浮かぶので、彼女は全力で無視する事にした。

部屋に戻ると、リリアル学院からの定時報告を確認する。大きな案件では無いものの、気になる報告が目に付いた。それは、中等孤児院を設立する予定である、王都内の共同墓地に関する内容であった。

『……スペクターね……』

「幽霊騒ぎで工事が遅れている……ということね」

共同墓地から遺骨を郊外の納骨堂に移す為、掘り返しの作業が入っているのだが、その影響か夜間に幽霊騒ぎが起こっているというのである。元々、人が寄り付かない場所でさらに夜間であるから、「誰が見たんだよ」という話でもある。

「怖いもの見たさで見に行った人が噂を広めているのかもね」

「中に入り込んで悪さしている者でもいるのかしらね」

「それで、怖い噂を流して……逆効果になっているとかなのかもね」

人除けのつもりの怖い噂で却って物見遊山が集まっているというのだろうか。とは言え、作業をしているのは明るい時間であるし、主に孤児院関係の作業員が入っているので、幽霊騒ぎで墓地の移転が中止されるとも思えない。

「もう少し様子見でしょうね。万が一の時は……」

「聖女であるシスター・アリーが鎮魂しに行くわけね☆」

「その時は、シスター・メイとシスター・アイネも強制参加よ!」

「……あなたのお姉さんは……」

「大喜びでついて来るわね……訂正するわ」

夜の墓地に妹に誘われて一緒に出向くなどというのは……あの姉にとってビックなプレゼントに過ぎない。むしろ、全力で妹を脅かしにかかるだろうことは言うまでもない。なんなら、商会員を動員してもお化け騒動を引き起こしかねない存在だ。

「実際に、ゴーストやスピリットやスペクターが出た場合、どうすればいいのかしらね」

『そりゃ、本職の司祭にでもお願いするしかないんじゃねぇの』

『魔剣』の指摘は正しいだろう。そして、魔剣曰く……自分の中に取り込めるかもという。

「あなたが取り込む」

『おお、あいつらの思念を取り込んで……俺が従えるか』

「できるのかしら、あなたに」

『お前のサポートがあればな。浄化するより、取り込んで……それを利用する方が使い勝手がいいんじゃねぇか』

『魔剣』から『スペクター』化した古の魔術師が現れて、魔術で支援でもしてくれると、彼女の依頼も楽になる気がする。大いに。