軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第14話 彼女は森で猫に出会う

第14話 彼女は森で猫に出会う

一月ほどたち、王妃様の茶会も、高位貴族の夫人主催の茶会も一段落した。どうやら、彼女を茶会に呼べるということが一種のステイタスのようで、父の上司関係と、母が考える姉の嫁ぎ先候補にふさわしい家の茶会に、姉も連れて参加することにしたのである。

おかげで、彼女は同じ話を何度も繰り返す必要もなく、社交上手で結婚適齢期の姉を高位の貴族夫人たちにアピールできたのである。一時期、姉と母が嫌なオーラを彼女にぶつけてきていたのだが、クルックルッとさも生まれつき仲の良い姉妹であったかのようにふるまう姉の姿に驚くやら尊敬するやらで割と楽しかったのである。

因みに、魔剣は姿を変え、隠し武器よろしく彼女の太ももに収まっていた。

1か月ぶりに訪れる武具屋。冒険者の着る厚手の綿の服に着替えた彼女は、注文していた胸鎧を装着する。ありがちなあばらの部分だけを守るようなデザインではなく、逆スペード型のカーブを描くデザインできちんと骨のないお腹の部分もカバーしている。斬られて内臓が飛びでるのは嫌なのである。

「調整はミスリルなので魔力を通せば簡単にできますから、体の変化にも割と合わせやすいですよ」

鋼であれば形を変えるのは手間がかかるのだが、魔力を通すミスリルは加工がしやすい。次にバンブレース。胸鎧と同じ色、おなじ素材である。

「珍しいモノ注文するね」

「短い剣で斬り合うと、どうしても腕が気になるので」

魔狼あたりでも牙や爪で打ち払われると、ヒヤッとすることがあったのだ。また、片手剣で受け流す場合、左腕は守られている方が良いだろう。日頃は収納し、必要な時に嵌めるのがよいかもしれない。

「半首なんだが、実は提案があります」

店員曰く、毛皮の頭巾を被るのはどうかというのである。髪の毛が目立たず、頭部の保護にもなるという。モフモフポーチ無き今は、モフモフ頭巾をお勧めするというのである。幸い、寒冷な王国では湿度が低いので蒸れる心配はあまりしなくてよさそうである。それより、ドロドロや返り血を直に被る方が彼女的には嬉しくないのである。

「これはサービスしますよ」

彼女が軽くお礼を言うと、そのまま装備をし、早速、近くの森に素材採取を行うために出かけるのであった。

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毛皮の帽子をかぶると、胸鎧の影響もあり、小柄な男性に見えるのである。まあ、女性的な特徴がいまだ皆無であると魔剣は思っているのだが口には出さない。

魔剣は早速スクラマサクス……以下「サクス」の形状に変化し、彼女の腰に鞘に収まり吊り下げられている。

『ダガーより大きいし、重たいだろう。歩き難くはないか?』

「剣を腰に吊るしてるのだから仕方ないでしょうね」

小柄な彼女が60センチとはいえ剣を腰に吊るすのはバランスが崩れる。あたらしい鎧に頭巾に……腕鎧と半首は素材採取のために外している。扱いにくいからだ。

久々の森歩き、気配を『隠蔽』するとズンズンと入っていく。森の出口付近はあらかた採取されているので、探す時間がもったいなくもある。奥は、ゴブリンキング騒動の影響で、最近は冒険者とは言えあまり入り込むことがない様で予想以上にたくさんの素材が採取できるのである。

『機嫌いいな』

「茶会とダンスのレッスンばかりで正直滅入っていたのよ。新しい剣も鎧も気に入ったし、何よりもこの静けさと生命力あふれる森がいいわね」

ホンの一月前までの彼女の日常がそこにはあった。毎日のように森に通い素材を採取し、ポーションや薬を作り、それを卸す。この時間が何年も続くものだと思っていたのだが……意外と終わりは早かったのである。

『そんなにこの生活がいいなら、辺境の森の中に庵でも構えて隠者になるのもいいだろ?』

「それはそれよ。別に、人が嫌いなわけではないもの。あの村の人たちと会えなくなるのも寂しいわ」

子爵家の使用人たちの出身地の村であり、彼女の人生を変えた舞台となった場所でもある。どうやら最近、里帰りの頻度が増えたのだが、村が物語の舞台としての観光地化しているらしく、『代官の娘』や『妖精騎士』のどのような流行があるのか知らせているようなのである。

最近、村で土産物としているのは……幸運のお守りウサギの足らしく、ウサギの肉のシチューが名物となっているのだそうだ。そんな話は、これまで聞いたことがないぞと彼女は思っているのである。

かなり森の奥に入ることになり、そろそろ戻らねば暗くなる前に屋敷に戻れなくなるかもと心配になる午後の時間、視界に見慣れぬものがいた。森の中にいるにはおかしな動物。家猫である。

色は銀灰色で、俗にブルーと称される系統のものだろう。シャルトリュー種のような幾分ずんぐりとした体躯をしている。そして何より特徴的なのは……

『死にそうだな、おい』

「酷い怪我ね。狼にでも襲われたのかしら」

腹の部分に大きな切り裂かれたような跡がある。何かに襲われて逃げてきたのだろうが、既に瀕死で虫の息である。目も半分程度しかあかないし、逃げもしないのだ。

彼女がためらうことなく、魔法袋から回復ポーションを取り出し、手のひらに注ぐと末期の水とばかりに猫に差し出した。舌で勢い無く舐めた猫を確認すると、残りのポーションの半分を傷口に振りかけた。

「まだ飲めるわよね。ほら、飲みなさい」

弱々しい息が力強くなり、傷口がややふさがる。致命傷でも息を吹き替えすと言われた妖精の粉入りである。掌のポーションを舐める勢いも良くなり、やがて半分のポーションも飲み終わるころには、先ほどまでの死にそうな様子は見られなくなった。

彼女が作り惜しげもなく猫に与えられたポーション。実は、かなりのところポーションは高価であり、金貨1枚ほどする。その価値を現代価格に換算すると、100万円ほどであろうか。

銅貨1枚が最小の通貨単位でエール一杯の値段ほど。小銀貨がその十倍、銀貨、小金貨、金貨となり十倍づつ拡大していく。貴族や大商会の経営者は金貨を使うことがあるが、普通は銀貨銅貨だけで生活しているのである。

因みに、彼女は小金持ちである。彼女が1か月で卸すポーションの売上が金貨10-20枚ほどなのだが、これは、子爵家が王家から支給される固定給と同等である。他に、役料という都市計画管理の官僚としての給与が支給され、代官としての役料もあるので収入的にはその数倍ほどになるのだが、隣家の幼馴染のいる男爵家は彼女と同程度の月収しかない。

――― 親には言えない内緒のお金である。

水魔術で傷口を洗い、血と汚れを洗い流す。その上で、火と最近教わった風の魔術でドライヤー代わりに乾燥させるのである。

『この猫どうするんだ?』

「しばらくケガの様子が安定するまで、飼うのはどう?」

さきほどから、猫を抱きかかえにゃーにゃー話しかけているのを見て嫌な予感がしていた魔剣に彼女はそう答えた。

『あー 気が付いてないようだが、そいつ魔力あるぞ』

「……なんですって……」

魔剣は念話で猫と彼女に話しかけた。

『猫の振りいつまでしてるんだお前。魔石喰わせろ!!!』

驚いた猫は彼女の腕から逃げ出すと……二本足で立ちあがった。その姿に驚く彼女である。

「あなた、ケット・シーだったのね……」

『……ああ。助けてくれてありがとうお嬢さん。あなたは命の恩人だ。この恩は必ず返させてほしい』

念話で話しかけてくる妖精猫。略して妖猫。間違いなく魔法の生物である。そちらの世界で有名なのは『長靴をはいた猫』に登場する猫だ。

とは言え、猫が人の言葉を理解したり、反対に人の言葉を話すというのは日本でも「化け猫」と言われるような存在としてはあるし、中国やその他の国にも似た話はある。家の中で飼われる故のことなのだろう。奴らはしたり顔でそう言った。

本家アイルランドのそれは黒猫であり、色々悪さをするのであるが、この人語を話す猫はそういうつもりは今のところはなさそうである。

猫曰く、猫のフリをして旅をしていたのだが、最近飼い主がゴブリンに襲われお亡くなりになったため、森に逃げ込んだのだが、今度は狼たちに追い掛け回され怪我をさせられたようなのである。

『ウサギなんかもやられるな。遊ばれたんだろうな』

動物は無駄な殺しをしないなんてのは……眉唾だったりする。というか、ふざけてジャレタつもりで飼い主が大怪我したり死んだりする話って結構あるのではないか。ライオンとかトラとかは当然だが、イヌやウシなんかでも割とある話だ。

「どうしましょうか。家で猫を飼えるかどうか」

『いや、ここで俺が喰えば問題ない』

『問題ある。俺はお嬢さんに恩を返すまで死ぬつもりはない』

ケット・シーとは猫の姿をした妖精なのだから、死ぬのはどうなのだろうかと思わないでもない。猫曰く、飼い主が魔力持ちでなかったため、普通の猫に成り下がってしまったのだそうだ。

「今は念話できているわよね」

『いただいたポーションの魔力のおかげだ。我が主』

『いきなり主か……。まあ、猫が主と認めるのは珍しいからな。本気なのだろうな』

人ではなく家に居つくといわれる猫が『主』と彼女のことを呼ぶのは、誠に恩を感じ返したいと思っているのであろう。

『お前の魔力は質がいいからな。その辺の計算もこやつにはあるだろうな』

『……』

テヘペロしている猫も可愛いと、彼女は思うのであった。

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家に戻ると、早速、父である子爵と母に猫を飼う許可をもらうのであった。

「そうか、中々賢そうな猫だな。ネズミを捕ってくれるのであれば申し分ない。使用人頭に世話をさせればよい」

「毛並みもいいわね。一度、猫を膝に抱いてお茶をしてみたかったのよ。怪我が治ったなら、皆でお茶をしましょう。その時を楽しみにしているわ」

という事で、彼女の飼い猫ということで無事認めてもらうことができたのである。

部屋に戻ると、再びポーションを今度は猫用の木皿に注ぎ、勧める。

『……なんだか懐かしい感じです……』

『それはそうだろう』

魔剣が言うことが何なのか彼女にはわからないのだが、猫がそう思うのであれば、この屋敷なり自分の身の回りにおいても良いかと思うのである。

「あなたはなにができるのかしら?」

普通の猫と同じことはできるだろう。できるよね?

『主を害するものをいち早く見つけるつもりです!』

『今度は上手くやれよ』

夜目が利く分、確か近寄る魔物や不審者にいち早く気が付いてくれる可能性は高い。それと……

『本当なら、魔力に応じて体の大きさが変えられます』

魔狼くらいのサイズには変化できるらしく、本来は今のサイズより二回りほど大きさなのだそうだ。魔力が不足しているために、猫サイズで活動していたとのことだ。

『身体強化も魔力でできるので、狼くらい本来は敵ではございません』

それなら、番犬ならぬ番猫や猟猫として冒険者に同行するのもありだろう。隠し武器ならぬ、隠し猫である。

彼女は自分の未来の絵に少し修正を加える。馬に乗り魔法袋に商品を納め移動する大人になった自分。腰には魔剣の短刀、そして鞍の前にはケット・シーの猫である。夜は焚火を囲み虫の音を聞きながら野宿をするのである。満天の星空の元。

『……いい加減戻ってこい……』

魔剣に話しかけられ我に返ると、目の前の猫は確かに大きくなっている気がした。元々がずんぐりさんなので、大きいと子熊っぽい感じでこれはこれで可愛い気がするのだ。

『主、私を抱きしめて寝るのはやめてください』

「そうね。今日は病み上がりだから遠慮しておきましょう。それに、たぶん、母さんも姉さんも部屋に呼ぶでしょうから、大人しく従ってちょうだいね。この家と私の元にいたいのであれば」

『……主命とあらば承知いたしました……』

子爵家では永らくペットを飼っていないので、モフモフ成分が不足しているのであろう。始終、呼ばれてげんなりするまで撫でられる猫の姿が目に浮かぶのである。

『まあ、お前も随分と遠回りをしてきたって事だな』

『……仕方ありますまい。あなたのように書庫に収まっているわけには参りませんでしたので。猫ゆえに』

何やら思わせぶりな魔剣と猫の会話である。とは言え、魔剣の言うことがわからないのはお年寄りだから仕方がないのだし、ケット・シーである猫も見た目の年齢ではないと思えば、年寄り同士の会話がわからないのはよくある事だと、彼女は納得したのである。