軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第992話 彼女は王宮で採寸される

第992話 彼女は王宮で採寸される

「あらあらまあまあ」

「……伺っていた以上にスレンダーでございますね」

無言で返す彼女。

いま彼女は王妃殿下に呼び出され王宮に参内したのだが、挨拶もそこそこに王妃に仕える針子たちに採寸され、衣装の打ち合わせを彼女の頭越しに進められている。

何しろ、公爵への陞爵に際し、それにふさわしい衣装を急遽用意しなければならない。副伯は子爵相当なのでさほど気を遣わず男爵と似たようなドレスと礼服で臨んだのだが、公爵となるからにはそうはいかない。

礼装・準礼装・略礼装と男装で整えつつ、ドレスも高位貴族のそれを仕立てねばならない。公女カトリナ並みと言えばいいだろうか。

そのような仕立てを街の仕立屋に頼むわけにはいかない。それにふさわしい布も糸も仕立てる能力も不足しているからだ。高位貴族は自身でお抱えの裁縫師を抱えている。馬丁や庭師、料理人のようにだ。

当然、開拓村に毛の生えたリリアル領の領主でしかない彼女にそのような技術を持つ使用人を抱えているわけもない。それを見越して、困る前に王妃が手配をしてくれているということである。

王妃殿下と比べれば、スルーストーン体系なのは仕方がないじゃないか。魔力の多い人間は、成長が遅く老化も遅いのだから。彼女の成長期はまだ始まったばかりだ!! 未来に期待しよう。

「先々を考えますと、こう、少し」

「胸と尻には詰め物をして丸みを帯びたラインに仕立てた方がよろしいかと」

アリーの胸&尻はパット入り。

特に、礼装やそれに準じたドレスは着る機会も少ないので、成長後の体形に合わせて仕立てる方が良いというお針子衆の判断である。体の厚みはともかく、身長は既に姉と同じ程度まで伸びており、これ以上の身長の伸びはないだろう。

船上生活中心の一年で、身長が随分と伸びたようなのだ。陽の光を浴びて骨が育ったのだろうか。

「え、わたくしもですか」

「王妃様のご厚意です」

付き添いでやってきただけの伯姪も「ささ。こちらへ」とばかりに別室へと連れ去られる。おそらく似た意匠の礼服とドレスを仕立てるつもりなのだろう。公爵と男爵であるので、使える布のグレードや刺繍の細かさなどは公爵用より簡素化されるであろうが、王家の裁縫師に相応しい仕上げの逸品となることは間違いない。

採寸やデザインの提案を聞きつつ彼女の中では「リリアル学院の専属仕立人も中等孤児院卒から採用できないかしら」などと考えているのである。

ドレスのデザインはわからないので、王妃様にお任せにした。色目は、彼女は薄い青色、伯姪は薄い朱赤とした。

礼装・準礼装・略礼装・軍礼装も同じく「お任せ」なのだが、色合いは薄青地に黄色を差し色にした胴衣とし、彼女はさらに薄紫色で刺繍を入れるようにする。軍礼装は「魔装糸」を縦糸に横糸に青い糸を使った織とし、魔装糸の銀色と青色が組み合わさり光沢のある薄青地の布となっている。

「軍礼装が何気に一番効果なのよぉ」

王妃殿下の言葉に「さもありなん」と思う二人である。この生地で作った軍礼装でリリアルに騎士たちに騎士礼装を揃えてあげられるといいのでは無いかと彼女は考える。

「公爵家」の騎士として、今後は王宮の催事の警備などにも動員されておかしくはない。「迎賓館」の落成の時とは異なり、今更リリアルの『名誉騎士』たちを全員裏方で使用人のまねごとを差せるというのも無理な話である。

警備を受ける側も、「何故いない」と訝しむであろうし、襲撃する側もいないことが不自然に感じるだろう。姿を見せておくことも抑止であると考えると、相応の礼装で式の警備に参加する必要もある。

「王太子が戴冠式をする前には、軍礼装は王太子から用意させるつもりなのよぉ」

王太子からの下賜になるのだろうか。確かに「名誉騎士にしたよ」という褒章だけでは何か物足らないものを感じていた。とはいえ、未だ十歳を少し過ぎたばかりの三期生たちには『礼装』を与えても着るに着られない。何年先になるかはわからないが、成長が終わる数年後ならば下賜される礼装もしばらく着られることだろう。

戴冠式に着用して参列する。王太子が総長を務める騎士であれば、その場に参列するのは当然のことだろう。衣装を与える理由に、周囲も否とは言うまい。

『最近、戦争してねぇからな。先代の時の借金も随分返せているから、お前らにちょっとくらい還元あってもいいだろ』

『魔剣』の言う通り、周囲で常に戦争をしている神国は借金漬けで首が回らないとか。兄弟の国である帝国皇帝家は「サラセンと戦う皇帝」という看板のもとに、帝国内諸邦に「サラセン税」をかけ、金銭的負担を緩和しているのだが、自前で戦う神国はその資金を最大の税収を生じているネデルで掛けるしかない。

結果、ネデルは「俺たち関係なくね?」と神国国王に反旗を翻し、神国はネデルに十万の陸軍を配置して支配を維持する負担がさらに高まっている。何事もやりすぎは良くないのだ。

『魔剣』的には、サラセンと正面から対峙せず、海都国・教皇庁・神国に貸しを作り、海都国とは魔導船派遣で強く経済・軍事的つながりを作って法国北部でサボア大公領と帝国の関係を有利に転換したことは軍事・外交・経済的に王国に大いに利したと王宮は判断していると考えている。

彼女もそれには同意であり、公爵位やそれに伴う様々な対応も、王家のリリアルに対する感謝のしるしであると考え、遠慮せずに受け取っているということなのだ。

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王妃殿下との面談の後、彼女は王都の実家に顔を出し姉の近況と生まれた『ジャン』の様子など語って聞かせた。先日、姉妹の古着をリリアルで試用するために提供してもらったお礼も兼ねてである。

「ちょっと型が古いけど、大丈夫だったの?」

母は何げなく言うが、十年近く前の仕立であるから、今風ではないかもしれない。とはいえ、姉のお古はともかく、彼女のそれはあまり目立たない富裕な商人の子女辺りが着ておかしくない程度のもの。元商人の娘である赤毛のルミリも「これは、いいものですわぁ」と褒めていたので、それなりのものだと考えている。

「名誉騎士」が子爵の娘程度の衣装を着ているのは、十分に格に会っているというものだ。彼女の実家であるルテシア家は家格こそ子爵ではあるが、五百年以上王家の直臣を務める家柄。自領すらもたないものの、家の格を考えてそれなりの衣装を作っている。見た目は地味だが、素材や縫製は見る人がみればかなりの作り込みなのだ。

素材が派手な姉の衣装は同じくらいの予算なら当然、その辺りはおろそかになる。一部のリリアル生は姉のお下がりを喜んだが、三期生たちは目立たぬこそ正義とばかりに、彼女のものを選んでいた。わかりやすく言えば、二期生は姉の、三期生は彼女の服を選んだ。

「ジャン君にあいたいわ~」

どうやら彼女の母は「孫馬鹿」が炸裂しているようで、ニースに合わない王都の流行の子供服を買いあさろうとしているので慌てて止める。そもそも、寒い王都と熱いニースでは衣類の素材からして異なる。

薄い毛織物や絹織物は法国や南都の織物業者の得意なものであり、王都はそこから買い付けて販売するのだから、むしろ、南都に総督として赴任する父親についていき、そこで選ぶ方が良いだろう。

「南都に引っ越して、ノーブル伯にアイネが叙爵されれば、お隣みたいなものよね~」

「そうですね。魔装馬車なら三時間程度だと思います」

「近くて遠いわね。よし!! ノーブル領主邸に住み込みで孫の面倒を見に行きましょう。アイネも喜ぶだろうし、ジャン君もばーばのこともっと好きになってくれそうですものぉ」

好きにすれば位と思う。南都総代官なり総督になる彼女の父親は南都とその周辺の王太子領を巡察したり、確認することがしばらく多いだろう。巡察には夫人も伴い、現地の有力者は王宮から派遣された官吏たちとの社交も必要となる。

彼女の母が思うほど、孫に時間が割けるとも思えないが。それはまだ言うまい。言わぬが花である。

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エンドレスで孫の話をする彼女の母に呆れつつも、ほどほどの時間で辞去する。もう一か所、立ち寄るるのは『伯爵』ではなく、彼女の祖母の屋敷である。

「怪我はなかったようだね」

「おかげさまで、皆無事でした。留守中、御骨折りいただきありがとうございました」

「何のこともないさね。さ、お座り」

顔合わせの挨拶もそこそこに、祖母は彼女をソファへと座らせる。

「内海のことはいい。婆に外交の話をしても意味がないだろう?」

そうは思わない。祖母のところには、今でも王宮から問い合わせや相談が来るのだ。古くから続く王宮とのしがらみは、家督を息子に譲ってからも、いや、立場に固執する必要がなくなった今こそ、知りたいこと聞きたいことを問うてくる輩が増えているのだろう。

最近の、彼女の活躍も、それを後押ししている。リリアル副伯の祖母で、先代のルテシア子爵なのだ。楽隠居とはいかない。

曾孫のジャンの話などを少し話し、祖母は母ほどでは無いがあってみたいと思っているのだろう。見た目は彼女の母と同世代にしか見えない年齢不詳の祖母なので、数年後の姉のノーブル伯叙爵の後にでも南都とノーブルを訪問する時間的余裕は十分にある。

下手をすると、父総督の仕事を実際に「補佐」してもらいたいと願われるかもしれない。父よりも祖母の方が王国南部についてそれなりに詳しい。法国戦争には前線にこそ出なかったものの、後方で兵站だ補充だと王宮から様々な要求がでて、かかわった経験があるからだ。その頃の人間関係もまだ残っている。

現国王の親世代が戦争を行った最後の世代だが、その子や弟たちが後方で支援していたのだ。彼らは国王陛下よりは上の世代だが、まだ老いて無くなるほど高齢ではない。魔力持ちは長生きなのだから。

彼女は『御老公』主従の世話を祖母にも頼んでいた。

「今、また別の屋敷で勉強させているのさ」

『家宰』として、彼女を補佐する支柱となってもらうべき人材。なおかつ、「不死者」となっているので、一度育てればしばらくは問題なく領地経営を委ねられる。

『御老公』に教師役となってもらい、リリアル生も官吏としての役割を身に着ける必要もある。男爵家なら、お抱え冒険者程度の立場で問題なかったのだが、リリアル副伯領……直に伯爵領となるが、領地を支える騎士団・官吏の基幹要員として、今のままでは当てにできない。

騎士学校に入校すれば多少の知識は身に付くが、それはあくまでも下級士官程度の指揮能力であり、領地経営にかかわるようなことはわからない。

これは、彼女も含めてこれからなのだ。

「ジジババでよけりゃ、家督を譲って暇している奴らを何人か紹介してやろうかね」

習うより慣れろとは言うが、何もわからない状態で慣れるも何もない。

手本となる人がいる方が、良いのだ。

「騎士団の下級幹部、官吏や商業ギルドの職員経験者も主任級でよい人がいれば、ご紹介ください」

祖母は「わかっているようだね」と意味ありげに笑う。彼女が欲しいのは身分や立場、あるいは家の看板で仕事をしてきた人物ではなく、現場を知りある程度人の使い方のわかっている経験者が欲しいのだ。

例えるなら、冒険者ギルドのギルマスではなく、窓口や買取担当の主任、あるいは副ギルド長のような実務経験者で上に上がった者が欲しいのだ。ギルマスの中には窓口業務からのたたき上げがいないではないが、名の知れた高位冒険者がギルド長を務めている場合が多い。現役冒険者への影響力と、周辺の貴族・商人に対する牽制役である。

実務が脳筋でできなくても、周囲が補佐すれば名ばかりのギルド長でも組織は成り立つ。ん、誰ですか、バル爺を思い出しているのは!!若い頃は優秀な官吏だったんだよ? 今は影も形もない脳筋だけどね。

「後日、紹介状を送っておくので、好きな時に面談すればいい」

祖母はそういって、何人かに打診することを約束してくれた。『御老公』以外は、全員「孫」と言ってよい年齢のリリアル生、そこには彼女と伯姪も含まれる。

祖母の人選であるから、身分や出自、性別で差をつけるような人物は紹介しないとは思うが、全員がジジマッチョ団みたいな元気溌剌老人では困る。官吏や商人ギルドの関係者は、物腰柔らかい老成した人物であることを願う。

学院に戻ると、赤毛のルミリの姿が見えないと騒ぎになっている。

留守居役を大過なく務めたルミリに一週間の特別休暇を与えたが、学院から出かけるときは、断りを入れることは今までと変わりない。

「自室にはいなかったのかしら」

「はい!! でも、フローチェ様もいらっしゃらないので……」

金蛙こと水の精霊『フローチェ』は、ルミリについているか裏の養殖池で日向ぼっこをしている。もう夕暮れ時なので、その辺には見かけなかったということだろう。

見当たらないとだんだん騒がしくなってきたのだが。

そこに癖毛が現れた。どうやら、遠征中に痛んだ武具の調整と、今後拡大する予定の簡易魔導船の数について、老土夫から王都周辺の魔導外輪関係者への連絡を頼まれたことについて確認に来たのだという。

「なあ、ルミリの奴見かけなかったか?」

青目蒼髪が癖毛に問う。

「あいつな。留守中、仕事が行き詰っていると、良く、兎塔で兎と戯れていたぞ」

リリアルの兎は、間引いた薬草(踊る草汁入り)を食べているので、毛皮の風合いが、一段とふわっふわなのだという。それに囲まれて過ごすとルミリは癒されるのだとボヤいていたとか。

結局、ルミリは「モフモフですわぁ」と日がな一日中、兎塔で兎に囲まれ惰眠を見サボっていたということが判明。今後は、学院内にいるとしても誰かに居場所を伝えておくようにと、鬼のように詰められていた。