軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

184・おじい様のサプライズ

「ただいまー。豪邸で至れり尽くせりも良いですけど、やっぱりここが一番落ち着きますねー」

「ふふ、私もよ。すっかりここが我が家になってしまったわ。さて、荷物を片付けたら早速作業に入りましょうか」

「そうですね。シン達が戻ってきたらすぐ買い出しに行けるように頑張ります!」

私達は宿から少し離れた場所まで馬車で送ってもらい、歩いて宿木亭に帰ってきた。

途中で何人かに声を掛けられたのだが、宿で起きた誘拐未遂事件は噂にもなっていなかった。

どういう訳か、うちの休業理由は客室の水道管が破裂したせいだと思われていたのだ。

私達が不在だった事については、修繕工事で仕事が出来ない間、他の宿の視察を兼ねて旅行に出かけている事になっていた。

おじい様がそういう事にしたのかもしれないが、だったら家を出る前に教えておいてほしかった。

そしてシンとタキは、宿に寄らずに荷物を置きに自宅へ帰っている。

タキが荷造りで部屋を散らかしてきてしまった為に、片付けが必要なのだそうだ。

いつもの服に着替えて厨房に行くと、チヨが冷蔵庫を開けて中をチェックしていた。

冷蔵庫と言っても魔法が切れてしまえばただの木箱だ。常温で数日放置した鍋の中身は間違いなく腐っている。

私は異臭がするのを覚悟して冷蔵庫に近づく。

「チヨ、すぐに洗うからソースのお鍋とマヨネーズの瓶を出してくれる?」

エプロンを着けながらチヨに話し掛ける。するとチヨは、キョトンとした表情でこちらを向いた。

「あの……ラナさん、もう誰かがやってくれたみたいです」

「え?」

チヨの指さす方を見ると、洗い場横の台の上にはお鍋とガラス瓶が綺麗に洗われた状態で並んでいた。なんとソース鍋は底の焦げ付きまで落とされて、新品のようにピカピカになっている。

「まあ……! おじい様が指示してくださったのかしら」

「どこかで私達の話を聞いていたんですかね? 何というか、本当に至れり尽くせりですね」

過保護だと言いたいのだろう。私だって家を出るまでおじい様がこんなに甘い人だとは思わなかった。むしろ怖くて厳しい人だったのだ。

宿のメンバーにその話をしても、誰も信じないだろうけど。

「冷蔵庫はこのままでいいわ。次は地下の食品庫を見に行きましょう」

「そうですね!」

「チヨ、買い足す物をメモしてね」

「はーい」

そして地下に下りると、食品庫にも誰かが入った形跡があった。

「……ラナさん、新鮮な野菜が補充されてますね。というか、総入れ替えされてません?」

「そうみたいね」

野菜だけでなく、ベーコンやハムやソーセージ、それに卵とチーズまで。

無いのは生のお肉だけだ。

これでもし冷蔵庫が冷えていたら、各種お肉がぎゅうぎゅうに詰まっていたのではないだろうか。

宿の鍵は今朝までおじい様に預けていたし、野菜の新鮮さからして、今朝早くに搬入させたようである。それもただの野菜ではない。前世のスーパーに並んでいたような、大きさが揃っていて傷の無い一級品ばかりだ。

ここにある真っすぐなきゅうり一本で、いつもの曲がりきゅうりが三本は買える。

「ラナさん、これだけあれば今晩から食堂を開けられますよ。お米も十分ありますし、お肉だけ買えばバッチリです!」

「そうね……。開店を待っているお客様の為にも、予定を繰り上げましょうか。あとは客室の掃除だけね」

「あのー、ラナさん。この感じだと客室も整えられていそうな気がしませんか?」

「ふふ、まさか。流石にそこまでしないわよ」

フロントでマスターキーを手に取った私達は、掃除道具を持って二階の客室へと向かった。

そして客室のドアを開けて驚愕する。

「……!?」

「アハッ、やっぱりです!」

お客様が出て行ったままになっているはずの客室は、チヨの予想通り綺麗に整えられていた。

それどころか、年季の入った布団やマットレスなどの寝具が新しくなっている。

情けない話だが、雨漏りしていた屋根と食堂の修繕で貯蓄が無くなり、寝具や家具などは前オーナーの時の物をそのまま使わせてもらっているのだ。

苦情が出た事は一度も無いが、ここに泊まったおじい様は古い布団に不満を感じたのかもしれない。

「寝具が新しくなってます。もしかして、私達の部屋の布団も変わってました?」

「さあ……わからないわ。気にしてなかったから見てもいないし」

すべての部屋を確認したが、床板の腐っていた部分も綺麗に張り替えられ、どの部屋もいつでもお客様を迎えられる状態になっていた。

前オーナーが雨漏りを放置したのが原因で床や壁が腐り、足を踏み入れる事も出来なかった三階奥の二部屋もしっかり修繕されている。

ここを買った当時、出された見積もりを見て直すのを断念したのだ。

「わー、この部屋も直してくれたんですね! ただでさえ部屋数が少ないのに、いつまでも開かずの間にしておくのは勿体ないと思っていたんですよ。得しましたね!」

「お金が溜まったら直すつもりだったのに……おじい様ったら一体いくら使ったのかしら」

「ラナさん、そんな野暮な事言っちゃダメです。ここは素直に甘えましょう。それにしても一度に二部屋も増えるなんて……くふふ」

その後リネン室も確認したが、予備の毛布やシーツにタオルまで、すべて新品に代わっていた。

今度おじい様がお見えになったらお礼を伝えなくちゃ。だけど、急だったのによくこれだけの数を揃えられたわね。今回の事が無くても寝具をすべて取り換えさせるつもりで事前に用意していたのかしら?

そして私達が一階に下りたタイミングで、カランとドアベルの音が鳴った。