軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

171・持つべきものは友 ~前編

「エレイン様よ! エレイン様がいらしたわ!」

「おお! ご無事だったのか!」

私達の乗る馬車がカルヴァーニ邸の敷地内に入ると、先に到着していた他の招待客達の沸き立つ声が馬車の中にまで聞こえてきた。

何事かと窓の外を見た私は、あまりの光景に言葉を失う。

門から建物へ向かう道の両脇にはずらりと人が並び、英雄の凱旋パレードでも見物しているかのような盛り上がりを見せていたのだ。

ここにこれだけの人が集まっているという事は、パーティー会場には誰も居ないかもしれない。

ジェノス通りで買い物をして、招待客の会場入りが済んだ頃を狙って来たはずが、こんな事になってしまってマリアに申し訳ない気持ちだ。

「オーナーはこっちでもスゲー人気者だったんだな……」

「……ううん、全然そんな事ないけど……」

これではシンが誤解するのも無理はない。

仲の良かった友人達はともかく、どうした事か特に親しくもなく、むしろこの外見を見下していた男性達が興奮気味に手を叩き、私の到着を喜んでいる。

彼らに関しては子どもの頃から私を冷たい目で見ていたので、サンドラの中に居た妖精の影響などは無いはずだ。どのような心境の変化があったのか知らないが、ちょっと不気味である。

「きっと、私が今日のパーティーに現れるか興味津々だったのでしょうね。シン、今からあの中に入っていくけれど、平気?」

「あー……頼むから俺の側を離れないでくれよ」

シンは自信なさげにそう言うと、げんなりとした顔でまた窓の外に目を向けた。

そして一度小さく息を吐いた彼は、覚悟を決めたとばかりに背筋を伸ばして座り直し、どこに隠していたのか、一瞬で高貴なオーラを身に纏った。

着ている服のせいもあるが、今のシンはとても下町の食堂で料理を作っているようには見えない。

屋敷の前には私の友人が十名近く集まっていた。そこにマリアの姿は無い。パーティーの主役は会場で招待客の対応をしなければならないからだ。

私が来るのを待っていたのか、馬車の扉が開かれると友人達は一斉に声を掛けてきた。

「エレイン様!」

「ああ、本当にエレイン様だわ!」

「エレイン様、お待ちしてました! もうパーティーが始まってしまいますわ」

この賑やかさがとても懐かしい。

しかし、先にシンが馬車を降りると彼女達は急に押し黙り、私をエスコートする見知らぬ男性に注目した。

その視線を感じたのか、私の手を取り馬車から降ろしてくれていたシンの顔が一瞬こわばる。

いきなり注目を浴びて緊張してしまったかしら?

町では堂々としていたけれど、ここはちょっと勝手が違う。彼女達に品定めされているみたいで居心地の悪い思いをさせているかもしれない。

緊張をほぐそうとシンに微笑みかけると、それまで無表情だったシンがフッと微笑み返してきた。

意外と余裕があるようでホッとしたが、チラリと周りを見ると友人達は頬を染め、胸の所で指を組んでポーっとシンに見惚れていた。

色々と質問したそうにしているが、今はここから移動するのが先だ。

私達が会場へ行くと、マリアは招待客に囲まれて談笑していた。しかし私の到着に気づくなり、その場を離れてこちらへ駆け寄ってきた。

「エレイン様! 来てくださったのね!」

「マリア! お誕生日おめでとう!」

「ありがとうございます。皆さんにご挨拶を済ませてきますから、後でゆっくりお話しましょうね」

「わかったわ」

今日のマリアは薄いピンク色の華やかなドレスを着て、光り輝くような笑顔を湛えている。

前にここで再会した時よりも、少し大人びて綺麗になったみたい。

マリアは私の隣に寄り添うシンを見て戸惑いの表情を浮かべたが、会釈して一旦この場を離れ、他の招待客のもとへと行ってしまった。

彼女の周りに自然と人が集まってくる。あの調子なら挨拶はすぐに終わるだろう。

「主役のお嬢様は忙しそうだな」

「そうね。でも効率よく挨拶を済ませているから、すぐに戻ってきそう。待っている間に何か飲み物でも頂きましょうか。きっとこれから忙しくなるのは私達の方よ」

「ああ、だな。ずっと話しかけるタイミングを見計らってるもんな。お前の友達」

軽食や飲み物が用意されているテントは会場の中央に設置されている。私とシンがそちらへ向かうと、友人達はつかず離れずの距離を保って私達についてきた。

こちらを気にしているのは間違いないと思うのに、シンが私の側を離れないからなのか、周囲の人ばかりか友人達まで遠慮して私に話しかけてこない。

それになぜか私から話しかけようとするとフイッとそっぽを向かれてしまうのだ。馬車を降りた時はあんなに賑やかだったのに、一体どうしたのだろうか。

皆に囲まれてどこで何をしていたか訊かれるだろうと覚悟してきたのに、何だか拍子抜けしてしまう。

そこへ、マリアが真面目な顔をして戻ってきた。

彼女の後ろにはフレドリック殿下の取り巻きだった男性数名と、それぞれの婚約者がついて来ている。

何だか不穏な空気。

「なあ、何か変じゃないか? あのお嬢様は信用出来るんだよな?」

シンが耳元で問い掛けてきた。私にもこの状況は理解不能だ。

「マリアは大親友よ。だけど……後ろに居る男性達は私に良い感情を持っていないわ。彼らはフレドリック殿下の取り巻きをしていたの」

「わかった。警戒した方が良いって事だな」

私はシンに寄り添い、緊張している事が伝わらないよう気を付けながらマリアに微笑みかけた。