軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

119.3・週末の魔法訓練 後編

「くそっ……何で上手くいかねーんだ」

魔法訓練が始まると、日常生活の中で魔法を使いこなしているはずのシンに異変が起きた。

どうしてか、やってもやっても思い通りに力が出せない。

手始めに、これから魔法の師匠となるヒューバート達の前で自分のレパートリーを見せた時には、全属性持ちである事を驚かれ、生活魔法はどれも完璧だと褒められた。

これなら、あとは火力を上げていくだけでレベルアップは容易いと誰もが思った。

なのになぜか、ちょっと火力を上げようとすると逆に魔法が使えなくなってしまう謎の現象が起きている。

普段は力を抑えていても、専用施設なら心置きなく実力を試せると思っていたシンはショックが隠せない。

すでに一時間近く魔法の種類を変えながら試しているが、どれも同じ結果だった。

魔力と体力にはまだ余裕があるのに、精神だけが消耗する。

「ハァ、ハァ……」

「シン、ファイアボールは初歩の初歩ですよ。三メートル先のターゲットを炎で燃やす程度の事、暖炉に火を入れられるあなたなら簡単なはずです。炎を飛ばす距離を延ばすだけなのですから」

「はい、もう一度やってみます……」

ヒューバートの手本通りに始めから大きな火の玉を作ろうとすると失敗する為、今度は手のひらを上に向け、まずは普段の着火用の炎を作り出す。これは簡単だ。

それを徐々に大きくしようと試みるが、炎はゆらりと揺れて空気に溶けた。

「すみません、もう一度!」

今まで息をするように使ってきたのに、シンは魔法がわからなくなりそうだった。

深呼吸をして、次に出せたのは手のひらサイズの火の玉。

見本で見せられたものより小さくても、着火用の炎の二倍以上の大きさだ。

これが的に届けば第一課題クリアだが、今度は手から離れる寸前で消えてしまった。

暖炉に火を入れるのと要領は同じなのに、炎を膨らませて的を狙おうとするとなぜかできない。

「何でだよ……! 意味わかんねー……」

練習用の 的(まと) は積み上げたレンガの土台の上に薄い輪切りの丸太が固定されたもので、今やっているのは魔力を持つ子どもが学校で最初に習う内容らしい。

暖炉やかまどに火を入れるより繊細な魔力調整の必要がなく、例えば初めて楽器に触れる子に、とりあえず音を鳴らさせてみるのと同じだという。

広い訓練場の隅っこに急ごしらえで用意されたその的は、開始から一時間経っても傷一つないままだ。

一方タキの方はといえば、持っている属性は恐らく光と聖。

下町で手に入る質の悪い魔道具では感知できない特殊な属性だが、治癒魔法が使える場合はこれが該当するらしい。

ヒューバートの説明によるとその二つは回復系に特化した組み合わせなので、残念ながらタキは攻撃系の魔法は使えない事が判明した。

しかも魔力の消費が激しい治癒魔法は、ここでは回数制限が設けられている為、タキの魔法の練習は疾うに終了している。

今は騎士達と一緒に剣の修練に参加中だ。

焦るシン。

もう一度火の玉を作ろうとして自分の手のひらを見つめるが、今度は不発に終わる。

黙って練習風景を見ていたウィルフレッドがたまらず声を掛けた。

「ヒューバート、少し休憩させよう。失敗続きでもその回数分の魔力は確実に消費しているんだ、初級魔法といってもぶっ通しで一時間はさすがに体が心配だ」

「そうですね、ムキになって数秒置きに魔法を使っていましたから、中盤で気絶していてもおかしくありませんでした。よく立っていられるものです、一体どれだけ余力があるのか」

ヒューバートはエレイン追放の一件以来、側近としての信頼回復に努めている。

だが未だウィルフレッドの個人的な案件だけは蚊帳の外に置かれていた。

今回は久々のプライベートな頼み事である。

期待に応えたいが、預かった二人に何とも言えない引っかかりを覚えた。

特にシンは言葉遣いは荒いのに所作は決して悪くなく、魔力測定を嫌うくせにあっさり手の内を見せてしまう。

一見して好青年だがすべてがアンバランスで得体が知れない何かを感じた。

王子からの紹介を受けてもなお謎めいた存在のシンに、ヒューバートは探るような目を向ける。

それに気づいたウィルフレッドは彼にも少しだけ情報を与える事にした。

「お前には話しておく。あの二人はアルテミ王家の血筋なんだ。正確な魔力量を把握したいだろうが、属性を知れただけで良しとしてくれ」

「だから魔力測定は不要と……?」

「色々察してくれると助かる」

「わかりました。シン! 三十分休憩しましょう。私はタキの様子を見てきます」

その場にしゃがみ込んでうなだれるシンの隣に立ち、ウィルフレッドはいくつか質問を投げかける。

「……シン、何かを攻撃するのは苦手か?」

「……さあ、どうだろう。でも喧嘩で人を殴った事ならありますよ、それなりに」

「それなりに、か。見ていて思ったのだが、お前の魔法はある一定のラインを超えると消える仕組みに見えた」

「生活魔法が染みついているから……ですかね? まだ初日ですし、時間をかけて慣らしていこうと思います」

長く力を抑え込んできたから、その癖が抜けないのだとシンは考えていた。

であれば、今はその必要がないと脳に認識させればリミッターは解除されるはず。

後半三十分はそう思いながら試してみたのだが、結果は散々だった。

焦っても仕方がない、今はやれるだけの事をこなすしかないのだと自分に言い聞かせた。

「違うな、癖というより……無意識に 無効化魔法(クリア) を発動させているような……」

「何ですかそれ? そんなの知らないし習った事もないですけど」

「素質があるのが第一条件だが、習わなくても見た事があれば出来る場合があるだろう。タキもお前も、習う前に見よう見まねで魔法を使ったと話していたじゃないか」

そう言われると否定はできない。

だが第二条件の「見た事がある」については疑問が残る。

「まあ確かに……」

「じゃあ試してみよう。俺の魔法を無効化できるかどうか」

突拍子もない提案に戸惑いを感じたが、シンは藁にも縋る思いで言うとおりにした。

ウィルフレッドはシンの前で人の頭大のファイアボールを出してみせる。

「さあ、無効化してみろ」

「よし、無効化できるか、じゃなく、できると信じて……」

シンはごくりと唾を呑み込み、ファイアボールに手をかざす。

無効化(クリア) ――

ウィルフレッドのファイアボールがフッと消える。

「ほら! やっぱりだ!」

ウィルフレッドは興奮気味に言った。

自分の予想通り、シンは無効化魔法を使えたのだ。

そしてシンも、自身が感じていた違和感の正体に気づく。

「この感じ……急に魔法が消える時に似てる……。俺、無意識に自分で自分の魔法を打ち消していたのか? でも、無効化魔法なんて見た事もないのにどうして――」

いつ見たのかと記憶を辿ってみる。

両親以外に魔法を使う場面に立ち会った事はない。

しかも、どちらも使うのは生活魔法だけだった。

子どもの前で特殊な魔法を使うタイミングなど、一体どこにあった?

「……あ、あれか!」

――俺の心に焼き付いた、初めて魔法を使った日。

よく考えてみると、部屋のどこにも水に濡れた形跡はなかった。

家を焼失するかと思ったあの時、駆け付けた父が水魔法で消火してくれたものと思っていたが、実際は暴走した火炎放射が 無効化魔法(クリア) により一瞬で打ち消されていたと考えるのが妥当だろう。

だから延焼も免れたし、部屋が煤で汚れただけで済んだのだ。

当時の自分は気が動転しながらも、一番近くで父の雄姿を見ていた。

自分が今 無効化魔法(クリア) を使えるのは、あれが強く印象に残っていたからだ。

やけに精神の消耗が激しかったのも、同時に 無効化魔法(クリア) を使っていたせいだとすると納得がいく。

「思い当たる事があるのか?」

「最初に魔法を使った日、父が俺の失敗を無効化してくれたんだと思います。それが自分の知識にない魔法だったんで、水魔法を使っていたものと思い違いしてました」

「なるほど。だから安全な生活魔法以上の事をしようとすると脳が危険と判断して、取り消してしまうのか」

「だと思います。原因が無効化魔法だとわかったし、次はファイアボールを打てる気がします」

三十分後、ヒューバートが水筒を手に戻って来た。

「どうぞ、タキがあなたにと。これでも飲んで元気を出してと言っていました」

シンの頭は真っ白になった。

ラナに続き、弟のタキまでも。

「ハァー……うちの奴らは揃いもそろって身分差ってもんを無視しすぎだろ。本当すみません、俺の躾が行き届いてなくて……」

シンは恐縮しながら水筒を受け取った。

帰ったら説教すべきか感謝すべきか、もう感情がぐちゃぐちゃである。

「いいんです。彼は礼儀知らずではないし、たくさん話を聞かせてもらいましたから。あなたが何故ファイアボールを打てないのか、わかったかもしれません」

「あ、それなんですけど、さっきウィルフレッド殿下と解決しました。多分、いけると思います」

「もしや幼少期の事故が原因でしたか? お父上が無効化魔法を使ったのを見て強く印象に残ってしまったのではないかと」

「あいつそんな話を?」

「いえ、これは私が勝手に導き出した答えです。あなたの様子にその片鱗は見えていたのですが、無効化魔法を使える方は少ないので、混乱させてはいけないと思い……」

さすが王宮魔道師。

タキとの会話から答えを見つけてしまった。

と言っても、タキが知っているのは父親から聞いた父親視点の話だから、シン本人の記憶よりも答えを導きやすかったというのもあるだろうが。

ウィルフレッドも自分の部下の有能さに気分が良さそうである。

水筒の中身は何の変哲もないただの水だったが、シンは心なしか元気が出た気がした。

「シン、休憩終了です。では練習を再開しましょう」

「よし! 次こそはいける!」

ウィルフレッドとヒューバートの見守る中、シンは立ち位置に戻り、的に手を向けて構えた。

そして一呼吸置き、精神を集中させて魔法を放つ。

――ファイアボール!

すると一瞬周囲から音が消え、すぐに轟音が鳴り響く。

ウィルフレッドとヒューバートは反射的に身の危険を感じてシールドを張っていた。

的のあった辺りから先は濛々と砂ぼこりが舞い、何も見えない。

間違いなく今のは三メートル先の薄い丸太のターゲットに使うパワーではなかった。

「ゴホッゴホッ……何だ今の……」

「シン! 無事ですか!?」

ヒューバートが慌てて駆け寄り声を掛ける。

「俺は大丈夫だけど……すいません、色々ぶっ壊しちまったかも」

「それは気にしなくていいんです、その為の施設ですから。それより怪我はありませんか?」

「多分、怪我はないと思う」

「初めてのファイアボールで結界にヒビを入れるとは、前代未聞だな!」

あっぱれといった感じでウィルフレッドは笑い飛ばす。

砂ぼこりが落ち着いて周りの状況が見えてくると、施設の周囲を囲うレンガ塀の一部が丸く砕かれていた。

それに微かにだが、透明の結界にも亀裂が走っているのが見える。

今いる所から三百メートル以上離れてた場所でその被害なのだから、当然、三メートル先にあった丸太の的は土台ごと綺麗さっぱり消え失せていた。

「悪い、マジでこんなつもりなかったんだ!」

シンは動揺して言葉遣いにまで気が回らず、うっかり普段の喋り方が出てしまう。

しかしシンの人となりを知ったヒューバートはそんな些細な事は気にならなくなっていた。

「結界はすぐ元に戻ります。シン、もう一度やってみてください。何度も失敗していたので、その反動で魔力が暴走したのかもしれません」

「でも的は俺が壊しちまったから」

「ああ、それでしたら……」

ヒューバートが両手を地面につけると、数メートル先で突然地面がボコッと盛り上がり、土でできた的が出現した。

「あれを的にしてください。当てるだけでいいです」

「……わかった。今度は慎重に、力加減を意識して――」

今度はヒューバートの見本と同じサイズの火の玉が作れた。

あとはこれを的に当てるだけ。

しかし、またしても失敗。暴走こそしなかったが、的に届かずヘロヘロと落ちた。

「シン、真面目にやってください」

「真面目にやってるよ……」

シンは更にもう一度試してみたが、想像以上にシンの魔力は扱いが難しく、また失敗した。

轟音が鳴り響き、土の的は跡形もなく消し飛んでしまった。

更に今度は完全に結界の一部を破壊してしまい、ヒューバートは頭を抱える。

「シン、あなたは一か百でしか魔力をコントロールできないんですか?」

「いや」

「ですよね」

「今のは百パーセントじゃない」

「……は?」

「百パーセント、試しにやってみていいですか?」

シンは首をコキコキ鳴らしながら手首を回し、ウォーミングアップを始めた。

それをウィルフレッドは面白そうに見ている。

止める気のなさそうな主を見て、ヒューバートは慌てた。

「殿下! 彼を止めてください! あれが全力じゃないなら大変な事に……!」

「ククッ……シン、ここは狭いから今度広い場所で試そう。もしあの壁を突き抜けたら住民に被害が出る」

「あ……それはやばいですね」

シンがウォーミングアップを止めると、ヒューバートは安堵の息を吐いた。

「シン、結界レベルを上げてからならチャレンジしてもいいです。ここはそういう施設なのですから。ですがあなたはまだ初級を習い始めたばかり。フレイムシールドまでの道のりは遠いですが、焦る事はありません」

「焦りは禁物か……、まずは初級をクリアしなきゃな」

「あなたは多彩な生活魔法を扱えるし、コントロールは得意なはずなのです。タキの話では、幼少期にお父上から徹底的に魔力を抑える術を教え込まれたとか」

「ああ、はい」

「知らぬうちに、お父上から暗示をかけられたのがあなたの力が安定しない原因とも考えられます」

「暗示? そんなわけ……いや、わかんねーな。あの頃気が滅入るくらい色々言われてて……。もしそうだとして、どうしたら解除できるんですか?」

「身の安全が第一ですから、危機的状況が訪れた時解除されると思うのですが、命の危機などそうそうありませんし……。ですが何かのきっかけで暗示が解かれればあるいは……」

「命がけかよ……」

この短時間でよくここまで分析したものだとウィルフレッドは感心した。

シンも、親身になってくれるヒューバートを信頼し始めていた。

「やはりヒューバートに頼んで正解だったな」

「殿下、恐れ入ります。私は次回までにシンに合った修行スケジュールを考えておきます。今日はここまでとしましょう」

「ご指導ありがとうございました、ヒューバート様」

ヒューバートはコクリと頷いて建物の中へ入っていった。

自分の不甲斐なさに肩を落とすシン。容易に思えた魔法訓練は意外にも困難を極めた。

そんなシンを気遣い、ウィルフレッドは声を掛ける。

「シン、初日で魔法を使える状態にできたんだから、あまり気を落とすな。さあ、次は剣の稽古だ。多分お前は剣術の方が向いている。特別に、今日は俺が鍛えてやろう」

「いいんですか? 王子直々に剣の稽古をつけてくれるなんて」

「ああ、俺は厳しいぞ」

「望むところです」

最速でラナを護れる術を身につけたかったシンは、この後ウィルフレッドの鬼のようなしごきに耐え、終わる頃には騎士との模擬戦で一勝するまでに成長していた。

しかし魔法は前途多難。

シンとタキの魔法訓練初日はひどい筋肉痛と共に幕を閉じたのだった。

***

「オーナー! チヨ、オーナーは出かけてるのか?」

「え? いますよ? ラナさーん! あれ? さっきまで厨房にいたんですけど」

訓練所からの帰り、宿へ重箱を返しに来たシンは、お礼を伝える為にラナを探した。

厨房を覗いたが、何か作りかけの状態で色々放置されている。

「それにしてもひどい恰好ですね」

「ん?」

「厨房に入るなら着替えてくださいね」

シンは汗と砂ぼこりで汚れた自分の服を見下ろす。

今日一日の出来事を思い出して溜息が出た。

ラナに成果を伝えたかったが、話せるような事は何もない。

――家に寄って身綺麗にした方がよかったか。一刻も早く会いたくて来ちまったけど、礼を伝えたらさっさと帰ろう。

「今日はこれを返しに来ただけだから、オーナーに会ったらすぐ帰る。あ、チヨ、差し入れありがとうな」

「くふふ、どういたしまして。お茶飲みますか?」

「ああ、頼む」

チヨとカウンター席でお茶を飲んでいると、パタパタと足音がしてラナがバックヤードから顔を出した。

「シン! 帰ってたのね! おかえりなさい」

「ただいま。差し入れありがとう」

「ううん、あんな物しか用意できなくて……梅干しの反応はどうだった?」

「皆、美味い美味いって絶賛してたぞ」

「良かったー。心配していたの、中に入れるものが今日は梅しか無くって。でも喜んでもらえたなら大成功ね。ふふっ」

実は結構落ち込んでいたのだが、ラナの笑顔を見て心が満たされていくのがわかった。

ラナは何の躊躇いもなくシンの隣の椅子に座る。

もし身綺麗にしていたら、愛おしくて抱きしめていただろう。

今日は剣を振り回したり魔法を使ったりしたから、まだ神経が昂っているのかもしれない。シンは少し冷静じゃない自分に気がついた。

ふと、あの大きな体の騎士に言われた言葉が頭を過る。

「……君はまるで、女将に恋でもしているみたいだな」「――恋などど軽々しいものではなく、深く愛しているのだな」

タキやチヨに揶揄われるのは慣れてしまったが、初対面の人に言われてハッとさせられた。

だけど一緒に働く仲間からそんな目で見られても、ラナは迷惑かもしれない。

そもそもラナは公爵家の令嬢なのだから。

「なぁに? 何かあったの?」

「俺……」

「うん?」

「帰る。汚い恰好だし、重箱を返しに来ただけだから」

シンは少し早口に言って席を立ち、素早くドアに向かった。

このままここにいたら、おかしな事を口走ってしまいそうで怖かった。

「あ、待ってシン!」

「……?」

ラナはシンを引き留めて厨房へ向かい、ごそごそと何か用意して戻って来た。

「はい、どうぞ」

差し出されたのは二つの弁当箱。

「今日は慣れない事をして疲れたでしょう? 夕飯の準備をするのも面倒だろうし、本当はタキと夕食を食べに来てって言うつもりだったのだけど、お弁当にしたからゆっくり二人で食べ――」

シンはラナをギュッと抱きしめていた。

傍にいるチヨは背を向けて「見ていません!」と全身で示している。

「シン……?」

シンは自分の行動に驚いてパッと体を放した。

どちらの音なのか心臓がドキドキうるさい。

この目の前にいる女性を護る為に今日一日頑張ってきたのだ。

身体が疲れ切っていてほぼ思考停止状態だったシンは、ラナの優しさに心を撃ち抜かれ、本能的に体が動いていた。

「悪い! 汗と砂でドロドロなのに……ありがとうって言うつもりが……何やってんだ俺」

「気にしないで! 全然大丈夫」

ラナの顔は真っ赤である。全然大丈夫な顔ではない。

シンは弁当を受け取ってすぐにドアを開けた。

「ラナ、弁当ありがとう。じゃあ、また明日」

「あ……ええ、また明日。気を付けて帰ってね、シン」

ラナはひらひらと小さく手を振ってシンを見送る。

それを見てさらに愛おしさが増した。

「絶対にラナを護れる男になる」とシンは改めて決意したのだった。