軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

103・すっかり忘れていたわ

おじい様が帰り、シンも部屋を出た後、私は顔を洗って化粧を直し、厨房に向かおうとした。すると、ドアの前に大きなライオン姿のヴァイスが突然現れ、私の行く手を塞いで邪魔をした。

「どうしたの? ヴァイス?」

(エヴァンという男が来ています。今、シンとタキが対応していますから、もうしばらく待った方が良さそうです。おそらく、昨日の身代わりの件を確認しに来たのだと思います)

「ああ……すっかり忘れていたわ……」

来るだろうとは思っていたけれど、学校が終わってすぐに来るとは思わなかったわ。今日の私はフロントも兼任で、厨房に隠れてもいられないから、避けることは難しいというのに。

しばらく待っていると、タキが部屋にやってきた。タキはヴァイスを見て、ホッとしたように微笑み、そして労いの言葉をかけた。

「ありがとう、ヴァイス。ラナさんを足止めしてくれたんだね。僕の目配せで気持ちが通じるか不安だったけど、状況を察してくれたのかな」

ヴァイスはタキに向ってゆっくりと頷き、まるで猫のように私の体に頭を摺り寄せると、スッとその姿を消した。

「タキ、フィンドレイ様は、もう帰ったの?」

「うん、帰ったよ。ラナさんは昨日の晩、どこに居たのかって聞かれたから、僕達と一緒に食事をして、遅くまで話をしていたって説明しておいたよ。納得はしていなさそうだったけど、実際、空白の時間はあったにせよ、夜は兄さんと一緒に居たわけだし、嘘ではないよね」

それは確かに嘘ではないわ。数時間はここを離れたけれど、夜はシンと夕食をとって話をしていたのだから。

「ありがとう、タキ。もう向こうへ行っても大丈夫よね?」

「あー、それがね……もう一人、入れ違いで女の子が来てるんだけど、ラナさんの知り合いなのかな? 本人はエレインの友達だって言ってるんだけど、どうも信用できなくて……うちにそんな名前の人は居ないって言ってある。マリアって名前に覚えはあるかな?」

タキはちょっと困ったように私にそう言うと、まだ何か言いたそうに私を見ていた。

「マリア? 黒髪で、ブラウンの目の、私より少し背の小さな少女だった?」

「えっと、そう……かな? でもちょっと変な子だったよ。ショールを頭から被って、最初は顔を隠してたし、君の害になりそうで嫌な感じがした」

「害って何?」

タキは不快感を露にして、その「マリア」の事を教えてくれた。

「何だかソワソワしていて、少し……黒いモヤが出てた」

「え……?」

その少女が私の知るマリアなら、真面目で正義感の強い彼女から黒いモヤなんか出るとは思えないのだけど。タキの見間違いではないかしら? それとも、誰か別の人?

「あっ、そうだわ、それが私の友人のマリアなら、シンが顔を知っているはずよ。それに、彼女は唯一私がここに居る事を知っている友人なの。だから本人だと思うのだけど……」

私はシンと花を買いに行った時のことを思い出し、シンに確認してもらおうと思った。

ケビンの所へ花を買いに行った時、マリアと会っているから、シンが見れば分かると思うのだけど。

そんなに誰なのか分からないくらい完璧な変装でもして来たというの?

「兄さんが? そう……それなら、ラナさんはもう少しここで待っていてくれる? 兄さんは今、地下の倉庫にいて、そのマリアって子の顔をまだ見てないんだ。兄さんに確認してもらってから、僕がまた呼びにくるから、それまで食堂には顔を出しちゃ駄目だよ」

タキはそう言って、私の部屋を出て行った。

どういう事かしら? マリアの名を騙って、私を探し出そうとしている誰かが居るとでもいうの? 私の事なんか見つけ出したって、誰も得をしないと思うわ。

それとも、本当にマリアなの?

黒いモヤが出ていたとタキは言っていたけれど、それがどうしても自分の知るマリアと結びつかない。

昨日の夜会に出ていた大人っぽくて派手なダリアが、変装した私だと気付いたのかしら?

アーロン様は特殊な見分け方をされたけれど、ヒューバート様とエヴァンの二人は顔以外の何かで私を見分けた。例えば、自分でも気付いていない癖が私にはあるとか……?

だとすれば、マリアもそれで気付いたのかもしれない。

身代わりの件は、出来る限り隠し通さなくてはいけないわ。でなければ、私がウィルの側の関係者だと話さなくてはならなくなってしまう。

影武者であるフレッド様やリアム様に迷惑をかけてしまうわ。

ダリアから直接身代わりを頼まれたという事にも出来るけれど、連絡を取れないダリアとは口裏あわせも出来ないし。

困ったわね、たとえ友人でも、居場所を教えるべきではなかったのかもしれない。

そんな事を悶々と考えていると、廊下を誰かが歩いてくる音がした。そして、ドアがノックされた。

コンコンコン

タキやシンなら、ノックした後「入るよ」と一声かけるか、一拍置いてすぐにドアを開けるはずなのに、声は聞こえずドアも開かなかった。

チヨはランチタイムが終わった後すぐに出かけたから、チヨでもない。だとすれば……誰?

コンコンコン

「エレイン、マリアよ。ここに居るのでしょう?」