軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話 片田舎のおっさん、剣を振る

「しかし、冒険者になっていたとは驚きだよ」

「ふふ、私も今の自分に驚いていますよ。今の両親も私によくしてくれているが、先生から学んだ剣をどうしても活かしたいと思ったんだ」

「リサンデラ、距離が近いです」

「人のことを言えるのか? ベタベタと距離を詰めおって」

「ま、まあまあ。喧嘩はよくない」

右手にアリューシア、左手にスレナ。

世間ではこれを一般的に両手に華とでも呼ぶのだろう。だが俺の心情は猛獣に左右を挟まれた小動物の気持ちである。両側から寄せられる圧が凄い。

俺たちは今、三人で行動していた。

土産屋を後にし、俺が剣も見たいなと零したところ、アリューシアとスレナが競ってお得意先の鍛冶屋を紹介したがったからである。

俺としてもスレナに久々に会えたことが嬉しいのは確かだ。

このままサヨナラするのも少しばかり忍びないなと思っていたし、首都を活動拠点としている騎士団と違い、冒険者は本当に世界中を飛び回っていて中々会う機会がない。最上位のブラックランクとなれば尚更である。

で、どうやらスレナの方も遠方の依頼を終えてバルトレーンに戻ってきたところらしく。今日は暇があるとのことで、じゃあもう一緒に行きませんかとなっちゃったわけである。

どっちが俺の付き添いをするかなどという喧嘩で無下に時間を浪費してしまうのも良くない。俺としても今日中にビデン村に帰りたいし、時間は有限だからな。

しかし、その場を収めるのに必死だった俺は一つ見落としをしていた。

「……見られているな。まあ、当然か」

自慢の赤髪をかき上げながらスレナが零す。

そうなのよ。一緒に行こうと言い出したのは確かに俺だが、少しばかり考えが足りなかった己の浅慮を嘆くばかりなのよ。

「こういう類の視線は慣れないね……」

「いいえ先生、いずれ先生自身にも注がれる視線です」

「業腹だがシトラスの言う通りだな。先生の導きのお力の評判が広まればこの程度の注目、すぐにでも浴びることになるだろう」

「ははは……」

両脇からの突き上げがヤバい。導きのお力って何だそれは。

おじさんそんな大層な力持ってません。ナイスジョーク。

俺はしがない片田舎のおっさんだと言うのに、まあそれを言ってもこの二人は聞いちゃくれないんだろうなあ。

それとなく周囲を見渡すと、そこには街行く人々からの目、目、目。

レベリオ騎士団の団長とブラックランクの冒険者。実力的にも容姿的にもトップクラスの二人を侍らせているおっさんが衆目を集めないわけがなかった。

耳に入ってくる呟きも「アリューシア騎士団長様だ……」とか「あれ、"竜双剣"のリサンデラじゃねえか?」とか「真ん中のおっさんは何者だ……?」とか、何か圧が凄いの。スレナは凄い二つ名持ってるし。竜双剣とかかっこいいじゃん。

あとやっぱり二刀流なんだねスレナ。

俺は双剣の扱いなんか仕込んでいないはずなんだが、もういよいよ俺の指導とかまったく関係ないところで強くなってない? おじさん関係なくない?

「ここが騎士団ご用達の鍛冶屋です。平均の質が良く、我々の装備は大体ここから仕入れているんですよ」

「ほ、ほう。それは楽しみだ」

人々からの好奇の視線に耐えながら歩いていると、どうやらアリューシアお勧めの鍛冶屋に着いたらしい。

なんかもう色々と余裕がなくて道とか覚えてないけど大丈夫かな。

「おお、これはシトラス様」

「こんにちは。少し剣を見させて貰いますよ」

「どうぞどうぞ」

作業場らしき奥まった場所から筋骨隆々の、しかし人当たりのよさそうな店主と思しき者が顔を覗かせる。

「そうそう、最近また質の良い鉱石が入りましてね――」

「なるほど、それはまた我々の装備も――」

騎士団ご用達というのはあながち間違いでもないようで、アリューシアと店主は取り留めのない雑談に花を咲かせているようだ。それにビッグネームの来訪に慣れているのか、店主からは特に奇異の視線は感じられない。

ありがたいことだ、おっさんにあの視線は痛いからな。

「ふむ……。中々の業物だね」

店に飾ってある剣の一つを手に取る。

ずしりとした重みが手に乗るが、重心のバランスも取れており心地よい重みだ。刃もよく研がれている。その精巧な造りは、この店がアリューシアの評と何ら違わないことを意味していた。

「先生は変わらず、ロングソードなのだな」

剣と睨めっこしている様をじっと覗いていたスレナが口を開く。

「ああ。教えるにも適しているし、何より扱い易い」

ロングソードを掲げながら言葉を返す。

いやね。

そりゃ俺も男の子なもんで、バスタードソードみたいな両手剣とかさ、スレナが扱っているような双剣とかさ、憧れた時期もあるわけ。

ただそれぞれ手にしたことはあるものの、結局このロングソードに落ち着くんだよね。重量バランスも刃渡りの長さも本当に丁度いい。逆に言えば、このロングソードを扱えれば大体の剣はその応用で使うことが出来る。

「よければ試し切りもされますか?」

アリューシアとの会話を終えた店主が俺に声を掛けてきた。

ふむ、試し切りか。

良い剣を持つとその切れ味を試したくなるというもの。この店主、剣士の気持ちをよく分かっている。声を掛けるタイミングもベストだ。商売上手め。

「試し切りも出来るのですか。では、お言葉に甘えて……」

「ええ、奥にスペースがありますのでご案内しますよ」

折角試せるのなら、試してみたい。

俺は店主の言葉に連れられ、鍛冶屋の奥へと歩を進めた。

「先生の太刀筋か、久々に見るな」

「私も久し振りですね」

当然のように付いてくるアリューシアとスレナ。

やめろ。レベリオ騎士団長とブラックランクの最上位冒険者に太刀筋を評価されるとかマジで勘弁してほしい。

でも言えない。何か怖いもん。

「こちらです。どうぞ」

「ありがとうございます――さて」

鍛冶屋の奥はどうやら手頃なスペースとなっており、巻き藁が幾つか並べられている。多分、出来上がった剣の試し切りの場も兼ねているのだろう。

集中。

ロングソードをまっすぐに構え、巻き藁と対峙する。

剣の切れ味は、振るう者の精神力と比例する。

細く、細く。精神の切っ先を限界まで尖らせる。

精神の波が、完全なる水平を保つ瞬間を待つ。

「――しっ!」

一閃。

限界まで尖らせた鋭気を刃に乗せる。

ぱさり、と。

豆腐に包丁の刃を滑らせるが如く。

巻き藁の半分が全く抵抗なく、地に伏せた。

――うむ、ぼちぼち!

やはり良質の剣はいいな、手応えが違う。この剣買っちゃおうかな、重みも俺好みだし、何か一回振っただけだけど気に入っちゃったぞ。

「――流石です、先生」

「……素晴らしいな。これ程だったとは」

あ、そう言えば二人が見てるの忘れてた。まあそのための精神統一でもあったし、今更もうどうしようもないんだけど。

「いや、これくらい剣を多少嗜めば出来るだろう?」

にしてもちょっと二人とも俺を褒め過ぎである。たかが巻き藁を斬っただけだぞこっちは。

それに言う通り、このレベルならちょっと剣を振るえば誰でも、とまでは言わないが、多少の才があれば造作もない。幸いながら俺には多少くらいの才はあったからな。そこはおやじ殿に感謝である。

「藁を斬ることは出来るでしょう。ですが、ここまでの切れ味は……」

「シトラスの言う通り。これ程の完璧な断面は私も見た記憶がない」

「いやいや、持ち上げすぎだよ二人とも」

何か褒められすぎて恥ずかしくなってきた。

確かに精神統一は上手くいったし、まあ俺的にもぼちぼちいい感じに切れたって感触はある。ただ、言うほど素晴らしいものかと問われるとそこまでの実感がないってのが正直なところだ。

「はあ……店主。貴方は彼の太刀筋をどう見ましたか」

どうやら俺との言い合いでは埒が明かないと見たか、アリューシアはもう一人の傍観者である鍛冶屋の店主へと矛先を向けた。そう言えば彼も見てましたね。

で、その店主さんはさっきから口が半開きで目の焦点がいまいち合っていない。大丈夫かな、何か心配になってきたんだけど。

「あー……どこかの高名な御師様でしょうか?」

数秒後、十分な沈黙を経て絞り出された声がこれである。

いやいや、俺はしがない片田舎のおっさんだっつってんでしょ!