軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第72話 片田舎のおっさん、内覧する

ルーシーの家を出て、空を眺める。

今日もいい天気だ。からりと晴れた空の下での散歩は、いい気分転換にもなる。

「今日もいい天気だねえ」

「そうじゃな。こういう気候が続けば過ごしやすくて助かるんじゃが。くぁ……」

何の気なしに呟いた言葉に、ルーシーが返す。

やっぱり雨や雪といった崩れた天気よりは、晴れた日の方が過ごしやすい。それはルーシーも同じだったようで、ぐぐ、と伸びと欠伸をしながらの歩みとなった。

「それで、家ってどこら辺にあるの?」

「ここからならそう時間はかからんよ」

ルーシーの今の家からそう遠くないということは、恐らく前の家も中央区にあるのだろう。となれば、それだけで中々の物件である。首都バルトレーンの中央区となれば地価は相当高い。

出来ればギルドや騎士団庁舎に近いと助かるんだけどなあ。

「……あー、そうだ。昨日の出来事なんだけど」

「うん? まだ何かあるのか?」

のんびりと歩く中、一つの話題を切り出す。

気分よく散歩をしている中で持ち出すには、ちょっと暗い話題だけれど。

「斬った死体の中に、ミュイのお姉さんらしき人も居た。……確定ってわけじゃないけど」

「……そうか」

もしかしたら他人の空似かもしれない。似たような顔を持つ人なんて、世の中に三人は居るらしいし。

ただ、あのような色合いの髪を持つ人は、俺の知る限りではそう多くない。自ずと結びつけてしまうのも、無理はないことに思えた。

「ミュイには言わん方がいいじゃろうな。伝えても仕方がない」

「あ、やっぱりルーシーもそう思う?」

アリューシアと同じく、ルーシーもやはりミュイには伝えない方がいいと言う。俺の感覚はどうやら間違ってはいなかったようだ。

貴女のお姉さんは悪い司教に都合よく利用された挙句、操られていたので俺が斬りましたよ、なんて情報、何がどう転んでも幼い子に伝えていいもんじゃないからな。

「ただまあ、フォローはしてやってくれ。あやつ、寂しがっておるじゃろうからの」

「……? うん、そのつもりではあるよ」

確かに俺も放りっぱなしにするつもりはないが、どっちかと言えばそのフォローって一緒に住んでるルーシーがする方がよくない? 今となっては俺とミュイとの日常的な接点って、そう多くないはずなんだけど。

「そうそう。ミュイのことじゃが、魔術師学院に入れようと思っとる。魔法の才をここで潰すには惜しいからの」

「そうか。それは俺も賛成だね」

まあルーシーはルーシーで、ちゃんと彼女の事を考えているようだ。

ただ無為に日常を過ごさせるより、何かしらの目標というか目的というか、もっと雑に言えば気を紛らわせる何かは必要になる。

将来的に魔法師団に入るかどうかってのはまた置いといて、折角の才能があるのだから、魔術師学院でその腕を磨かせる、というのは悪くない手段に思える。いつまでも塞ぎ込んでいるのでは、解決するものも解決しなくなっちゃうしね。

「っと、ここじゃな」

「へえ……悪くないね」

で、そうやって話しながら歩いた先で辿り着いたのは、中央区の中で少しだけ中心部から外れた、やや閑静とも言える土地であった。

人の行き来は、少し疎らだ。多分、ここにはいくつかの住宅があって、今は皆、働きに出ているところなのだろう。

体感で言えば、騎士団庁舎とルーシーの家の中間、ややルーシーの家寄り。

庁舎に通う分にも遠くもなく近くもなく、といった具合である。うん、毎日通うことを考えても歩けない距離ではない。悪くない立地ではなかろうか。

「あまり広くはないがの。別に困らんじゃろ?」

「十分だと思うよ」

立ち止まった視線の先。目に入るのは平屋の、中央区の建物としてはやや小ぢんまりとした佇まいの家であった。

小ぢんまりとはいえ、俺一人が生活する分には十二分の広さだ。もともとビデン村の実家から荷物というものはほとんど持ってきていない。剣と路銀と着替えくらいである。

「さて、と。おるかー?」

「えっ?」

ルーシーが平屋の玄関をどんどんと叩く。

待って。誰かいるの? 誰も住んでないって言ったじゃん。いきなりの行動に、俺の脳みそが一瞬止まる。

「誰だ……って、ルーシーさんか」

「……ミュイ?」

出てきたのは、くすんだ青髪と吊り目がちな瞳が特徴の少女。ミュイ・フレイアであった。

出会った時のようなボロではなく、簡素ではあるものの清潔感のある服に身を包んでいる。よくよく見れば、髪や肌の艶もいくらかマシになっている様子。ルーシーの家で世話になってから、ちゃんとした生活を送れているようで何よりだ。

ルーシーの家に居ないなと思っていたら、こっちに居たのか。

「……オッサ、あー……ベリルさんも居たのか……居たん、ですね……?」

「いいよいいよ、気を遣わなくても。普段通りで」

何だか言葉遣いもあって随分と印象が違う。見れば、どこかばつが悪そうに視線をきょろきょろとさせながら、慣れない敬語を喋っているようにも思えた。

いやあ、これはこれで可愛げがあっていいな。完全に子供を見るおじさんの目線である。

「はははは。ハルウィが言葉遣いにはうるさくてのー」

「なるほどね」

確かにハルウィさんは、誰かに仕える者として申し分ない。ルーシーの奔放さとは真逆を行くしっかりした人だ。

そんな人だからこそ、客人とは言え粗暴な言動をする少女を放ってはおけなかったんだろうな。ハルウィさんに窘められて、しょんぼりしているミュイの顔が思い浮かぶ。

「それで、ミュイはここで何してたの?」

「あー……片付けとか、料理とか、色々?」

ふむ、なんかミュイくらいの少女が片付けた家をもらい受けるって、ものすごい罪悪感があるんだが。これ深く考えたらダメなやつかな。よし、この部分に関しては考えないようにしよう。

思うに、ルーシーの家でいつまでも保護の延長を行うのではなく、こうやって少しずつ独り立ちの準備をさせているのだろう。

その方が彼女のためであると思う。見守るのと過保護になるのとでは、やはりわけが違うからね。

「どれ、折角なら中も見て行くか」

「そうだね」

実際に住むのなら内装も確認しておきたいところだし、言葉通り折角なので中も覗かせてもらうとしよう。

「細かいとこはまだだけど、大体掃除は終わってる」

「ご苦労様、ミュイ。偉いね」

「……ふん」

頑張っているなあと素直に褒めてみたんだが、感触はイマイチ。けれど、出会った当初と比べれば随分と角が取れているようにも感じた。

やはり平穏な生活をしていると性格も丸くなっていくものだ。ミュイはまだ若いし、そこら辺の変化も大きいのだろうな。

「ベリル、どうじゃ?」

「うん、悪くないよ。いい家じゃないか」

「はは、そりゃ何よりじゃな」

しばらく三人で一通り見て回ったが、若干の古さは感じるものの人が住むには十二分な造りであった。ミュイが直近で片付けをしていたというのも大きいだろう、特に不自然は感じられない。

家具も一通り揃っているみたいだし、すぐに住み始めることも出来そうだ。

いざここに住むとなれば長らく世話になった宿のことや、宿から程近い行きつけの酒場なんかが思い出される。

いやまあ、宿はともかく酒場は行けばいいんだけどさ。それに、新しい食の楽しみを開拓するのも悪くない。

「決まりじゃな。なに、金を取ろうとは思っておらんよ。初対面の時に吹っ掛けた詫びも兼ねておるでな」

「あー、あったね、そんなことも」

そういえばこいつとの初対面はいきなり戦闘から始まったんだった。まったくいい迷惑である。

しかし、彼女の思い付きに付き合った報酬が立地の良い家となれば、それはそれで割には合っているのかもしれない。

「……まあ、その、よろしく」

「うん? 何が?」

そっかー、この家が俺の新しい住まいかー、と少しばかりの感慨に耽っていると、ミュイが謎の挨拶を寄越してきた。

よろしくって何?

「何がってお主、ミュイと一緒に住むんじゃぞ。あれ、言っておらんかったか?」

「は?」

は?

そんなこと一言も聞いてないが?