軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第64話 片田舎のおっさん、斬り結ぶ

「……何者だね。祈りを捧げに来たとは思えんが」

一瞬の騒めきの後、集団の中心から出てきた男が声を発する。

見た感じは、イブロイと同世代くらい。つまり俺よりも年上に見える。ほとんどが真っ白く染まった髪は、冒険者ギルドのマスター、ニダスを彷彿とさせるな。

ただ、その声色から感じられる刺々しさは彼とは似ても似つかないものだったが。

「仰る通り、礼拝が目的ではありません」

「……ならば何用か。迷子の相手をしている暇はない」

さて、どうしたものか。

相手は俺への警戒が明らかに強い。周りに控える重騎士たちも、すわ抜剣するかといった具合である。

たかだか通りがかりのおっさん一人にここまで警戒するとなれば、逆説的にルーシーやイブロイの説を補強しそうなものだが、その故を知らぬ者にそれをわざわざ喋る必要もないか。

「レビオス・サルレオネ司教でお間違いないでしょうか」

「……いかにも」

どうやら今話をしているおじさんは、件のレビオス司教で間違いないらしい。

声に合わせて、レビオスの恰幅の良い腹が揺れる。これが司教様のあるべき姿とはあまり思いたくないね。見た目だけで為人を判断するわけじゃないけれど。

うーん、しかしどうやって話を進めたものかな。

今のところ、即座に逃げたり襲い掛かったりしてくるわけではなさそうだ。向こうとしても、突然現れた俺に対する対応に多少なり迷っている、といったところか。

如何にやましいことをしていたとしても、事実として彼はスフェン教の司教だ。要らぬ諍いを起こさないに越したことはないだろう。

しかしまあ、いいか。あまり長引かせても良いことはない。俺もまだるっこしくやるつもりはないし、単刀直入に行こう。

「騎士団から、参考人招致がかかっているはずですが」

「……君には関係のないことだ」

俺の一言で、周囲の空気が少し変わる。

具体的に言えば、重騎士たちがレビオスの斜め前に庇うように立ち、腰の剣にその指を伸ばしていた。

僅かながら、鎧の向こうから殺気が漏れ出る。

はあ。この流れは戦いは避けられんやつだな。

あまり剣を振りたくはないんだが、仕方ない。フルプレートの騎士を相手にはしたくないんだけどな。剣も通りにくいだろうし。

「……ご同行願います、レビオス司教」

いつでも腰の剣を抜けるように、油断なく構えながら一言。

「……シュプール」

俺の言葉を受けとった司教は、静かに目を伏しながら、傍らに佇む重騎士へと声を掛ける。

シュプールと呼ばれた一人の騎士は黙したまま頷くと、鞘から剣を抜いた。その動きを見て、他の騎士もあわせて抜剣する。

くそぅ、やっぱりこうなるのかよ。

不本意だがやらざるを得ない。俺も赤鞘から抜剣して構える。どうやら悠長に会話で済ませるシーンはとっくに過ぎ去ったようだ。随分と短い会話のターンだったぞちくしょうめ。

「これも神の思し召しだ。奇跡を授かる者が一人増えたとて、何も問題はない。――やれ」

「――ッ!」

レビオス司教の言葉を皮切りに、騎士たちが襲い掛かってくる。

三……いや、四人か。直ぐに動いてきたのは四人。残りは荷物を下ろし、司教の周囲を固めている。ただでさえフルプレート相手は剣撃が通りにくくてつらいってのに、それが複数人はちょっと想定外である。生きて帰れるかな、俺。

まあ、眼前に剣が迫っている状況で愚痴っていても仕方なし。俺は俺で為すべきことをやるだけだ。

「しっ!」

薙いできた長剣を払って距離を取る。流石に近距離で囲まれたら話にならん。

しかし、騎士どもの持っている武器はどうやらロングソードなどの類ではない様子。

……あれは、エストックか。中々見ない珍しい得物だ。これもスフェン教、教会騎士団の標準装備なのだろうか。

となれば、予測はしていたものの、レビオス一派の影響は教会騎士団にまで及んでいることになる。イブロイ大丈夫かな、これはただ司教を捕えて終わりって話でもない気がしてきたぞ。

「……!?」

距離を取った先。先程まで一気呵成に襲い掛からんと動いていた騎士たちの動きが止まった。より正確に言えば、俺に真っ先に襲い掛かってきた一人が動きを鈍らせ、それにつられて周りが止まった形だ。

「……チッ」

一合打ち合った騎士が、舌打ちとともにエストックを投げ捨てた。腰からサブウェポンと思われるダガーを引き抜き、再度戦闘態勢を取る。

えっ、どうした。何故武器を捨てる。

ガラン、と、金属と石とが奏でる耳障りな音が、閑静な北区に小さく響く。

音に釣られて放り投げられたエストックを見てみれば、捌くために剣を当てた個所が分かりやすく凹み、刃が大きく欠けていた。

「……はは、こりゃ驚いた」

ウッソだろお前。思わず言葉と視線が手元に落ちる。

こいつ、とんでもねえ業物だ。一回競り合っただけで相手の刃を潰しやがった。いったいどれだけの強度を持っているのやら。

バルデルのやつ、物凄い剣を仕上げてくれたもんだな。ここまでのじゃじゃ馬、俺に扱い切れるか分からんぞ。

「あの剣は危険だ、注意しろ。……かかれッ!」

インパクトは多少なりあったものの、流石にこれだけで引いてくれる程、大人しくはないか。

リーダー格であろうシュプールが小さく発破をかけると、再度騎士たちが吶喊してくる。

「流石に大人しく捕まってはくれない、か!」

「ぐあっ!」

一人目。

脇から突いてきたエストックを弾き、返す刀で切り上げ。フルプレートを切り裂いた、そして内側の肉を削ぎ取った、確かな感触が手に伝わった。

先ほどの感触でほぼ確信していたが、やはり生半な鎧程度なら容易く切り裂ける切れ味がこの剣にはある。

こうなれば、相手が多少着込んでいようが関係ない。むしろ、相手を殺さないように適度に浅く切りつける配慮までしなきゃいけなくなったので、ありがたかったりありがたくなかったりである。

「――ふっ!」

「ぐっ!」

二人目。

振りかぶって袈裟切りを落としてきたエストックを、上からの流れに沿って受け流す。そのまま柄を持ち替え、切り返し。フルプレートの胴に一文字の傷が走り、鮮血が迸る。

手応えは十分だったが、殺してはいないはず。

クソ、生死の境を見極める斬り結びなんて随分と久しぶりだ。そこら辺の勘所が鈍ってなきゃいいが。

「この……ッ!」

「しぃっ!」

三人目。

先ほど俺にエストックをダメにされた騎士が、逆手に持ったダガーで襲い掛かる。

振り被るように襲い来る剣先を、半歩退いて躱す。追撃の振り上げが来るより早く、俺の切り払いが騎士のダガーを真横に弾いた。

「……ッ! 気を付けろ! 強いぞ!」

騎士の誰かが叫ぶ。

いや、俺は強くないんだって。そう思われているのは明らかにこの得物のおかげだ。ただまあ何にせよ、これで相手の動きが鈍るのならありがたいことだけど。

「……奇跡の使用を許可する。油断するな」

シュプールの放つ冷静な声が小さく響く。

奇跡、か。聞く限りによると怪我を治したりする魔法の総称らしいが、さて、この場合に使われる奇跡ってどんなものがあるんだろうな。

まさかルーシーみたいにいきなり火の玉を飛ばしてくるってわけでもあるまい。そうであれば、奇跡なんて呼び方はしないはずだ。

「――大いなる神のご加護よ、我に力を与え給う」

騎士の連中が、祝詞のような言葉を発する。

唱え終わった騎士の身体から青白く淡い光が微かに溢れ出し、そして収束していった。

「……」

なんだ。なんの効果のある魔法だ。見ただけじゃ分からん。少なくとも、攻撃魔法の類ではないようだが。

「はあっ!」

「……っとぉ!」

青白い光が収まった騎士が、再度突っ込んでくる。まっすぐに突かれたエストックを横合いから弾き、距離を取った。

「なるほどね……!」

さっきより速い。そして、重い。

多分だけど、あれ身体強化とかそういう感じのやつだ。剣はどこまで行っても物理攻撃だから、使い手のパワーとスピードが上がれば単純にその分脅威が増す。

「一気に囲め! 反撃の隙を与えるな!」

シュプールが声を荒げた途端、先ほどと同じように複数の騎士が一斉に襲い掛かってくる。

一人、二人……ああもう、数えるのも面倒臭い。というか悠長に数を数えている場合ではない。

「はっ!」

「くっそ!」

振り下ろされたエストックを受ける。

さっきみたいに破壊出来りゃいいんだけど、あれをやるには多少の溜めが必要だ。囲まれつつある今、そんなことをやっていれば横、あるいは後ろからぶった切られる可能性がある。

「こんにゃろっ!」

「ぐっ!? 貴様……ッ!」

受けたエストックの力を横に流し、切り返す。

確かにフルプレートには届いたが、肉を切るにはやや浅いか。そうこうしている間にも、二人ほどが俺の後ろに回った。

いかん、これはマズい。囲まれる。

盗賊の連中と違って一人ひとりの練度も低くない。連携も取れている。更には鎧を着込んでいるもんだから、生半な攻撃では身体まで届かない。しっかり剣を届かせないとだめだ。

だが、一人に気を取られていては背後から強襲される。流石に俺も後ろに目は付いていないから、一対多はすこぶる状況が悪い。

地味にヤバい。どうしよう。

「――はっ!」

「……ぬおっ!?」

まずいまずいと思いながら前後左右から襲い来るエストックを何とか躱している最中。

肉眼でも見える『何か』が、俺と騎士たちの剣戟に突如割り込んだ。