軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6話 片田舎のおっさん、冒険者と出会う

「ここは菓子などを扱っている店ですね。騎士団でも結構人気ですよ」

「ほう、菓子か。悪くない」

アリューシアと一緒に騎士団庁舎を出てしばらく、馬車の停留所近くの土産屋がいくつか並んでいる区画へと二人で足を運んでいた。

結局クルニはお留守番……というか、今回の招集は俺を紹介するための臨時的なものだったらしく、本来の務めに戻ったようだ。

去り際の捨てられた子犬のような表情が強烈に記憶に残っている。

クルニには悪いことをしたな。今度時間の余裕が出来たら、彼女の散策に付き合ってあげてもいいかもしれない。何か犬の散歩みたいなイメージだけど。

「……しかし、流石アリューシアだ。随分と視線を集めているね」

「レベリオ騎士団は民からの認知度も高い組織ですから」

事も無げに声を返すアリューシアからは特に緊張などの感情は見受けられず。いい意味で普段通り過ごせているだろうことが分かる。

騎士団庁舎を出てから土産屋に行くまではそう遠い距離でもなかったのだが、やはり彼女の美貌と人気というのはこのバルトレーンでは絶大なようで。街行く人々から結構な量の視線に晒されていた。無論、そのほとんどが尊敬や憧れのような類だったが、中には好奇心を前面に押し出したものがあったのも事実だ。

「だけど、俺なんかが一緒に居てはやりづらくもあるだろう?」

「まさか。先生こそ気にしすぎですよ」

衆目の好奇は、主に俺に注がれていた。

そりゃあ押しも押されもせぬ現役のレベリオ騎士団長様が、こんな冴えないおっさんを傍に連れていては気になるというもの。

積極的に話しかけてくる者は今まで居なかったものの、土産屋で品々を物色する間にも好奇の視線は幾つか感じられた。

「……これはもはやデー――」

「ん? 何か言ったかい」

「いえ、何でもありません。あ、これなんてどうです?」

「どれどれ。……ふむ、美味しそうだし日持ちもよさそうだ」

横から呟きが聞こえた気がするけど気のせいか。

アリューシアが指差したそれはどうやら焼き菓子のようだった。小振りなものだしおやじ殿やお袋も好みそうだ。比較的安価なのもポイントが高い。

「すみません、これを二つ」

「あいよ! 毎度あり!」

アリューシアのお勧めとあれば外れはあるまい。知らんけど。

さっさと決めた俺は店主に声を掛ける。店主は元気よく挨拶を返すと素早く品物を袋に入れながら、チラチラと俺とアリューシアを交互に見ていた。やっぱりこんな美人とこんなおっさんでは不釣り合いなんだろうなあ。

「天下の騎士団長サマが男連れで買い物とは、随分と腑抜けているな?」

お代を払って、さてこれからどうするか、時間ももう少し余裕があるし剣でも見てみたいな、と思っていたところ。

後ろから何やら攻撃的な声が聞こえる。その声はアリューシアの耳にも届いていたようで、振り返ったのは二人ほぼ同時だった。

「……リサンデラですか。何の用です」

「いいや、特には? ただ余裕だなと思っていただけさ」

リサンデラと呼ばれたその女性は、態度を崩さない。威圧的とも攻撃的ともとれる声色と表情そのままに、アリューシアを睨み付けていた。

身長で言うとアリューシアよりも高く、俺と並ぶほどの上背だ。女性にしてはかなり長身だろう。燃え上がるような赤髪を肩先まで伸ばし、同じく灼熱を思わせる双眸はギラギラと光を放っている。

騎士団のように華美ではない、しかし実用性に重きを置いたブレストプレートを身に纏い、まさに戦士然とした佇まいであった。

有体に評して勝気な美人、と言えるだろう風貌だ。

もっと簡単に言えばおっぱいのついたイケメンってやつ。

腰には幅広の鞘が二つ。恐らくブロードソードの類だろうが、二刀流だろうか。中々に珍しい得物を携えているな。

そしてその胸元には、リサンデラの身分を証明するブラックのプレートが掲げられていた。

レベリス王国のみならずこのガレア大陸では、冒険者なる職業が存在する。

冒険者ギルドと呼ばれる国境を跨いだ組織の管轄下にあり、その働きは騎士団以上に幅広い。一般市民からの御遣い、商人の護衛、モンスターの退治、遺跡やダンジョンの調査、果ては未踏の大地への冒険まで、国に囚われず世界を股にかける職業だ。

夢のある職業の一つに数えられるだろう。

だが、誰も彼もが夢を追えるわけではない。

ギルドでは冒険者の実力に合わせてランク付けがなされている。基本的に自身のランク以上に設定されている依頼は受けることが出来ない。徒に実力以上の依頼を受けて重傷を負ったり、死んだりするのを防ぐためだ。

そのランクというのは下からホワイト、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナム、オーシャン、最上位がブラックとなっている。

つまりどういうことかと言うと。

このリサンデラという女性、超つよいのである。

マジかよ、ブラックだぞブラック! 初めて生で見たよ。

今までビデン村に冒険者が立ち寄ることもあったが、あんな田舎に来るのはせいぜいがゴールドランクまでだ。特にオーシャン以上はその数も少ないし、すごい依頼とか沢山こなして世界を飛び回ってるからまず見かけることがない。

「難癖はやめて頂きたいですね。これでも職務はきちんとこなしています」

「ふん、どうだか。首都に引きこもってばかりじゃ世界は見えないぞ?」

俺を他所に二人で話が展開されている。

どうやらこのリサンデラという女性、アリューシアを……というか、騎士団自体をあまり快く思って無さそうだ。そこにどんな思惑があるのかは分からんが、最上位に数えられる剣士二人の間に挟まれる俺の気持ちも少しは労わってほしい。プレッシャーが半端じゃない。

「我々も暇ではありませんので。先生、行きましょう」

「あ、ああ」

アリューシアはまともに相手をする気がないのか、早々に会話を切り上げてこの場を立ち去ろうとする。

まあ俺もブラックランクの冒険者に睨まれていい気分なわけがないし……ここはアリューシアに倣って素直に退散しよう。

「ふん、何処の誰かも分からない男を先生など……と……?」

ここで初めて、リサンデラと俺の視線がかち合う。

先程までギラついていた目が、見る見るうちに迷いと困惑を帯びたものに変わっていった。

えっ何。俺何かした? いや何もしてないはずなんだけど。焼き菓子買ったくらいでそんな顔される謂れはないんですけど。

「え……あ…………ベリル……先生……?」

「えっ」

待って。

俺は君のようなおっぱいのついたイケメンのことは知らないぞゥ?