軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第45話 片田舎のおっさん、沈黙を嫌う

少女の告白を機に、しばし静寂に包まれる応接室。

生き返らせるってどういうことだろう。いや文字通りのことだと思うけど、なんで彼女のお姉さんは亡くなったんだ。そもそも蘇生魔法とかあるのか?

ただの一言に付随する情報量が多すぎる。おじさん混乱。

「時間も金も足りねえ。だから……」

「犯罪に手を染めている、と」

「……」

言い淀んでいた言葉の先を、アリューシアが代弁する。

少女の顔は何というか、どんどんと悲痛の色合いが強くなってきていた。

多分、本人だってこれが悪いことで、本来なら罰せられて然るべきってことは十二分に理解しているんだろう。更に、好き好んでやっているわけでもなさそうだ。

うーん。個人的には十分情状酌量の余地はあると思うのだが、そこは俺が口を挟むところでもあるまい。俺はただのおっさんであるからして。

「しかし……いえ、止めておきましょう」

次いで何かを言いかけたアリューシアだが、途中でその言葉を止める。視線は主に俺へと注がれていた。

うんうん、言いたいことは分かるよ。

蘇生魔法なんてあるわけないじゃんって言いたいんでしょ。

俺だって突っ込みたい気持ちを頑張って抑えている。

俺は魔法についてはてんで無知だし、仕組みについても全然詳しくない。それでも、蘇生魔法なんてものは存在しないだろうくらいの予測は付く。もし蘇生魔法がこの世に存在していたら、世界の在り様はもっと違っていたはずだからだ。

だが、それを今眼前の少女に力説するのも、現時点ではあまり意味のない行為のように思えた。

「ちなみに、幾ら足りないの?」

とは言え、どうにもこの類の沈黙は居心地が悪い。

重たい空気はおじさんあまり好きじゃあない。茶化すつもりは毛頭ないが、とりあえずといった体で俺は、話題の間合いを少し外にずらした。

「……言われたのは、五百万ダルク」

「……それはまた、大金だね」

少女は俯き加減のまま、俺の質問に静かに答えてくれた。

五百万ダルクね。確かに真っ当に勤め人をしていく上では中々貯まらない金額だ。

言われた、ということは、誰かからその金額を提示されたということ。どうにも嫌な予感というか、彼女を体よく利用している存在が背後にチラつく。

あーやだやだ。おじさんそういう輩大っ嫌いです。

判断力に乏しい子供に犯罪の片棒を担がせるなど、大人の風上にも置けない連中だ。

「すみません、少し席を外します」

「ああ、うん、分かった」

と、ここでアリューシアが応接室から離脱。

俺がこういうのも何だが、俺に用件を言わずにその場から居なくなるってのはちょっと珍しいムーブだ。何か急用でも思い出したのだろうか。

「……」

「……」

結果出来上がったのが、おっさんと少女が二人で沈黙するこのシチュエーション。うーん、苦しい。今すぐこの場にクルニを召喚したい。

「……お姉さんは、どうして亡くなったのかな」

で、沈黙を嫌って出してしまった話題がこれである。

言ってすぐに少し後悔した。間違ってもこの空気でぶっぱなす質問ではなかった。

「……分かんねえ。ただ、死んだって聞かされた」

だが隣の少女は俺以上に、場の空気というやつを気にしていなかった。気にするほどの余裕がなかったとも言えるかもしれない。

ちらと横目に見てみれば、椅子に座って俯いたまま膝の上で拳を握っている様子が窺えた。

彼女の姉が何故死んだのか、どういう状況だったのか、俺には何も分からない。故に、彼女を慰める手段も持ち得ていなかった。いたずらに慰めの言葉を吐いてしまったら、少女の精神を余計に追い詰めてしまいそうだったから。

「……そうか」

そこで会話は途切れる。

間が持たなさすぎるぞ。アリューシア早く帰ってきて。

「そう言えば、もう一回聞くことになっちゃうけど」

「……んだよ」

しばしの沈黙の後、おれはふと思い返して言葉を紡ぐ。

思えば、俺と彼女はそこそこ話をしている――とても友好的とは言えないが――割に、基本的なことを何もしらないままだった。

「名前くらいは、教えてくれてもいいんじゃないかな。あ、俺はベリル・ガーデナントね」

「……ミュイ。ミュイ・フレイア」

「ミュイちゃんか、分かった」

「やめろ。ちゃん付けすんな。アタシはガキじゃねえ」

「ははは、すまない」

なるほどミュイちゃんね。態度の割には随分と可愛い響きである。ちゃん付けは嫌とのことだが、脳内では遠慮なくちゃん付けさせてもらおう。

ルーシーと違って彼女は見た目通りの少女だ。年齢で言うと十代半ば、もしくは前半くらい。具体的な年齢を聞く必要まではないが、若いというよりは幼い印象が先に来る。

言葉遣いといい態度といい、凡そ平均的な十代の子からは程遠い。

彼女が置かれていた環境がそうさせたのだろうが、生憎俺はやんちゃな子の相手は慣れているんだ。小さい頃から剣を嗜む子供なんて大抵が腕白坊主だったからね。

「おいおっさん」

「ん、何かな」

やっと会話らしい会話が出来て、ほっと一息吐いていたところ、ミュイの方から話を振られる。

おっさん呼びを訂正しようかと一瞬迷ったが、まあそのままでもいいや。俺がおっさんなのは事実だからな。

「もういいだろ。そろそろ返せよ」

「ああ、そうだったね。ごめんごめん」

そういえばペンダントを俺が持ったままだったな。そろそろ返してあげてもいいだろう。

「返すよ。ただし」

「んだよ」

彼女の目の前でペンダントを翳す。

「もう少しだけ、付き合ってもらうよ。何とかしてあげたいって気持ちはあるんだ」

「……ちっ」

返ってきたのは舌打ちだが、これは拒絶の舌打ちじゃないと思う。俺には分かる気がする。いや多分だけど。

まあ、名前は分かったから調べようと思えば調べは付くだろう。アリューシアがどこまで本腰を入れるつもりかは分からんが。

ペンダントを手に取ったミュイは少しばかりそれを撫でた後、大事そうに懐へと仕舞う。先程までの攻撃的な表情とは裏腹に、その一瞬だけは柔らかい顔であった。

「……お姉さんの、ものかな」

「……そうだ。これだけしか返ってこなかった」

悲しみを呑み込んだような声色。

ミュイは若い。身内の不幸なんて早々に割り切れるものじゃないだろう。その態度から、姉を慕っていたであろうことも分かる。

ご両親はどうしているのかとか、別の疑問も湧いて出てくるが、それは一旦置いておく。

何にせよ、五百万ダルクという大金を掠め取ろうと、ミュイを利用している存在が裏に居るってのはほぼ確実だろう。

本当に蘇生魔法が存在していたら話は別だが、その可能性は多分低い。機会があればルーシーやフィッセルに訊いてみてもいいかもしれない。

「すみません、戻りました」

「ああ、おかえり」

ミュイとの会話が一段落ついたところでアリューシアが帰って来た。

「さて、ええと……貴方についてですが」

「ああ、彼女はミュイというらしい」

「そうですか、ではミュイさん」

「……んだよ」

席に着くなり話し始めたアリューシア。その視線はがっちりミュイの方向に固定されている。どうやら席を外していた間に何かしらの進展があったようだが、何をしていたんだろうか。

「貴方の資質を確認するため、魔術師学院の者がこちらにやってきます。処罰を下すかどうかも含めてその後検討を――」

「来たぞアリューシア! 魔術師の卵を発見したと聞いて……なんじゃ、ベリルもおるんか。して、主がそうか!?」

バダンッ!

応接室の扉が勢いよく開かれ、威勢のいい声が響く。勢いそのままにミュイへと食い付き、長く整えられたプラチナブロンドの髪が大きく揺れていた。

「んなっ! な、なんだよお前!?」

その突然の登場に、大きな驚愕を露わにする少女。

うんうん、気持ちはよーく分かるぞ。俺だって初対面の時には何だこいつって思ったもんね。

でもね、その子魔法師団のトップなんですわ。残念ながら。