軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第37話 片田舎のおっさん、悩む

「そう言えば、帯剣してねえな先生」

「ああ、ちょっとね。折れちゃって」

目聡く俺の腰の違和感を拾ったバルデルが問う。

俺としてもそこで嘘を吐いても仕方が無いので、正直に現状を吐露することにする。まあ折れたのは事実だしな。折れ方は想定外だったが。

「先生が変に扱うとは思えねえし、なんだ、事故ったか」

「そんなところ」

がはは、と笑いながら零すバルデル。

事故と言えば事故になるだろう。 特別討伐指定個体(ネームド) の口の中に剣を突っ込んで、更に上から切り込んできたブラックランクの冒険者に特別討伐指定個体ごとぶった切られました、は正しく事故以外の何物でもない。

「しかし、ロングソードか。うちでも取り扱いは勿論あるが、先生ならオーダーメイドじゃねえのか」

こいつもまたクルニと同じようなこと言いやがる。

別に普通のでいいんだよ普通ので。

「いやあ、そんな余裕はなくてね。既製品で俺は十分だと思っているけど」

これもまた偽りない言葉である。

そりゃオーダーメイドの剣に憧れが無いとは言わない。剣士である以上、一度は手に取ってみたいものだ。

しかしそれが俺の手に相応しいかと問われると疑問が残る。第一そこまで金と時間に余裕があるわけではないからな。いや時間は割とあるかもしれんけども。

「先生がそう言うなら無理強いはしねえが……」

「俺なんかより、アリューシアの方が余程オーダーメイドの必要性はありそうだけどね」

話題の矛先をアリューシアに振ってみる。

無論、餞別の剣を使ってくれていること自体に悪い気はしないが、片田舎で打った変哲のない剣だからなあ。レベリオ騎士団長が振るうに足るかと問われれば、これもまた難しい問題だ。なまくらを渡したつもりはないが、こればっかりはね。

「いいえ、私には既に私の剣がありますので」

「……らしいぜ?」

これだもん。

俺の言うことは割と聞いてくれるアリューシアも、こればかりは頑なに譲ってくれない。何が彼女をそんなに駆り立てるのだろうか。俺にはちょっと分かりません。

「まあ、本人が言うことを曲げることもあるめえよ。ほれ先生、ロングソードなら沢山あるから選んでくれ」

「ああ、そうさせてもらうよ」

俺がオーダーメイドの剣を作らない理由と、アリューシアが餞別の剣以外を手に取らない理由。それぞれ違いはあるだろうが、一つ共通して言えるのは他人が無理強いするものではないということ。

俺自身がそう考えている以上、仕方がないか。

気を取り直して、バルデルの店に飾ってあるロングソードを眺める。

数は豊富にあるが、その見た目は似通ったものだ。

刃渡りは凡そ八十センチから百センチほど。厚みもほぼ同じで、スレナの持つブロードソードよりも刀身が細い。重量も似通っており、俺の手によく馴染む重さである。

「うーん」

手に取っては眺め、手に取っては眺めを繰り返す。

どれも、悪くはない。流石と言うべきか、どの剣もよく磨かれており、重心バランスも良い。一般的な長剣としては申し分ない出来と言っていいだろう。

体感だが、アリューシアの勧めで覗いた騎士団ご用達の鍛冶屋にも見劣りはしていない。

「良い剣だ、どれもよく研がれているね」

「そりゃまあ、それが仕事だからな」

呟いた言葉をバルデルが拾う。

えー、何かどれでもいい気がしてきた。決して悪い意味でなく、どれも良い剣に見えるから良い意味で大差はないだろうと感じる。

ロングソード以外の武器も興味が無いわけではないが、今更別の武器種の鍛錬をするのもなあ、という感じ。

「バルデルのお勧めはあるかい」

「つってもな……ロングソードは大体どれも同じだからなあ」

一応店主のオススメを訊いてみるものの、返ってくる答えは予想の範疇。

高い汎用性が長所でもあるからな、ロングソードは。突飛な武器の場合それはそれで名前が付いているものだ。

言ってしまえば凡庸である。そしてあらゆる局面に於いて汎用性が高い。それがロングソードだったりショートソードだったりするわけである。

「そんなに悩むならやっぱりオーダーメイドがいいんじゃないっすか?」

色々と剣を手に取っていると、クルニが突っ込んできた。

ツヴァイヘンダーは腰に下げるには些か大きく重いので、帯を付けて背負う形になっている。

小柄な体躯に長大な剣ってギャップ、いいよね。

扱えるかどうかはまだ未知数だが、騎士団だから見た目も大事だろう。このギャップが受け入れられるかは別として。

「それはあまり考えていないが……うーん、もしかしたら前の剣にまだ引き摺られているかもしれないね」

ぽっきりと折れてしまった俺の愛剣は、業物ではないが悪くはなかった。なまじっかずっと使っていただけに、無意識的に愛着が湧いていたのかもしれない。

「長く使う武器には、愛着も湧きますからね」

俺の呟きに、アリューシアが賛同してくれる。

まったくもってその通りなんだけど君が言うと何か重いな。どうか俺の気のせいであって欲しい。

同じ武器には、二度と巡り合えない。

同一の素材、同一の製法であっても、やはりどこか異なるものだ。それは目に見えて分かる時もあれば、持ってみて初めて違和感を覚える場合もある。

前の剣もうちの地元で打った変哲の無い剣だが、使っていた期間は長い。知らず知らず、その感覚が染み付いてしまっているのかもしれないな。

「まあ、こういうのは巡り合わせもあるしな。不便がねえなら無理に今日買う必要もねえだろ」

バルデルは鍛冶師である。その本質は職人であり、剣士でもあり、また一方で商人ではない。なので、こういう場面でもいわゆる押し売りをしてこない。俺としても非常に助かるところだ。

「そう、だね」

腰の軽さからくる違和感は拭えないものの、とりあえずの間に合わせを買うかどうかは悩みどころである。俺だってオーダーメイドを頼む程じゃないが、拘りがないわけじゃない。

決して、バルデルの打つ剣が劣っているわけではないのだ。ではないが、何というかこう、ピンとこないんだよなあ。中々理屈立てて説明するのが難しい感覚である。

「ああそうだ先生、もしダンジョンアタックとかやるなら素材持ってきてくれよ。俺が買い取るし、何ならそれで先生の剣を作ってもいいぜ」

「ははは。まあ、そういう機会があればね」

バルデルの言葉を笑いながら誤魔化す。

何でどいつもこいつも俺がダンジョンアタックに行く前提で話を進めるんだ。

前回俺がアザラミアの森に赴いたことをバルデルは知らない。アリューシアは知っているはずだが、別段言い触らす内容でもないだろう。

にも関わらずそういう話題が出るってことは、俺がそれをすると考えられているということ。何故だ。俺は平穏に生きたいだけのしがないおっさんだぞ。

「邪魔をする。バルデルは居るか……おや、先生……と、シトラスも居るのか」

「何ですかその顔は。しかし最近よく会いますね」

ああでもないこうでもない、と色々と考えていたところ。

更なる闖入者がバルデル鍛冶屋の扉を開いた。

「おん? スレナじゃねえか、どうした。ブロードソードはこないだ研いだばっかりだろ」

現れたのは、ブラックランクの冒険者であるスレナ。

俺たちと出くわしたのは本当にたまたまっぽい。どうやらバルデルに用事があるようだ。

しかし本当によく会うな。冒険者なんてビデン村に篭っていた頃は本当に会うことがない相手だったんだが、首都バルトレーンに来てからというもの、やたらと縁がある。

「ああいや、今日は研ぎじゃなくてな」

話を振られたスレナがバルデルの言葉に頷きながらも、背負ってきた大荷物をカウンターにどさりと置き放った。

「 特別討伐指定個体(ネームド) 、ゼノ・グレイブルの素材だ。こいつを使ってロングソードを一本、拵えてほしい」