軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第35話 片田舎のおっさん、剣を薦める

「しかし何年ぶりだ? 先生も元気してたか?」

「ぼちぼち元気にやっているよ。バルデルも元気そうだね」

「まあな。この身体を見てくれりゃ分かるだろ!」

むん、と、言葉と同時、力こぶを作るバルデル。

いや本当に元気そうだな。病気とか怪我とか無縁そうな感じするわ。

「先生、お知り合いで?」

俺とバルデルのやり取りを、やや呆気にとられながら眺めていたアリューシア。彼女からしてみれば当然とも言える疑問を口に出す。

確かに、アリューシアとバルデルは時期が被っていないからな。知らないのも無理はないだろう。

「ああ。驚くだろうが、彼も俺の元弟子のひとりだよ」

バルデル・ガスプ。

俺も彼についてはよく覚えている。数多く居る俺の弟子の中で唯一、俺より年上の弟子だったからだ。

クルニが彼を懇意にしているように、バルデルはクルニやフィッセルと道場に通っていた時期が被っている。アリューシアよりは後に来たから、彼女は知らなかったのだろう。

まあビデン村ならともかく、首都バルトレーンで俺の道場に通っていたことを声高に語ってもあまり意味がないからな。どこの誰だよ、で多分終わっちゃう。

バルデルが道場に居たのは一年と少しだ。彼は剣の道を究めることが目的でなかったが故、そう長い期間道場にはいなかった。

鍛冶師を目指す傍ら、剣を振る者の気持ちも知りたい、なんて動機で道場の門を叩く者は珍しい。俺よりも年上ながら、その飽くなき探求心と好奇心にはほとほと舌を巻くばかりだった。

だから彼には剣術がどうこうというより、普段剣士が何を思って剣を選び、振っているか。剣士にとって良い武器とは、みたいな講義的な部分が多かったように思う。

月謝を納めてくれていた以上俺も文句はなかったが、弟子たちが懸命に素振りを繰り返す中、道場の端からずっと眺めていた姿は記憶に新しい。というかそんなやつバルデル以外に居なかった。勿論鍛錬にも参加はしていたが。

「本当に、自分の店を持ったんだね。おめでとう」

「おう、ありがとな先生。まあ苦労はしたけどな」

ひとつ感想を零すと、バルデルが自慢げに店内を見回す。

やや小ぢんまりとしてはいるものの、良い店構えだと思う。

俺も職業柄鍛冶屋のお世話になることは多いが、その店が、ひいてはそこで働いている人がしっかり仕事をしているのかどうかは店を一通り見れば大体分かるつもりだ。

狭い店内の壁には、様々な武具が並べられている。

見た目だけで述べれば、どれもよく手入れされており、鋭い切れ味を想起させるに容易いものだ。彼の腕前の一端が垣間見える、といったところだな。

「んで、わざわざ来たってことは何か用事があるんだろ?」

「はいっす! 私は研ぎっすねー」

声の調子を整えて、バルデルが問う。

その言葉に真っ先に反応したのはクルニであった。

まあ俺の剣については後でいいや。元々クルニのついでだったしね。

「どれ、見せてみ」

「ほいっすよー」

クルニが腰からショートソードを外し、バルデルに預ける。

彼は鞘から剣を抜き出し、まじまじと刃を眺めることしばし。

「……クルニ、こりゃ駄目だ。新品買いな」

「どぅええっ!? なんでっすかあ!?」

小さなため息とともに宣告された剣の寿命に、クルニが仰天していた。

武器でも防具でもなんでもそうだが、モノには寿命がある。

俺のロングソードがぽっきり逝ってしまわれたように、いつか使えなくなるタイミングがやってくる。いやまあ、あんなに綺麗に折れるのは稀だが。

で、鍛冶師となれば、その寿命というやつをある程度は精度高く見抜けなきゃならない。

俺のは事故だ事故。あれを予測しろってのは土台無理な話として。

「刃が潰れでもしたのかい」

「ん、ちょっと違えな。刃毀れって問題に収まらない『欠け』が幾つもある。こりゃ研ぎじゃ直せん」

「なるほどね」

質問を飛ばしてみれば、どうやら剣の寿命というよりは使い手の問題らしかった。

まあ、よくあるっちゃよくあることだ。

剣に限らず、武器ってのは万能じゃない。

その武器に添った正しい使い方、というものがしっかり存在する。

極端な話、如何に切れ味のよい業物であっても、剣の腹で相手をぶっ叩けば剣の本領は活かせないし、すぐにダメになるだろう。そういうことだ。

逆に言えば、正しく扱えさえすれば道具、特に武器ってのは驚くほど長持ちする。戦うための道具なんだから、耐久性は本来高いのだ。

今回の件で言うと、剣に『欠け』が出てしまう原因は主に三つ。

剣自体が寿命を迎えるか、斬るに適さない物を斬ろうとしたか。

自身の力量と武器が合っていないかのいずれかだ。

「クルニ、何か変なものでも斬った?」

「いや、そんなことしてないっすよ!? 鍛錬と実戦で使ってるだけっす!」

その鍛錬や実戦が怪しいんだが、それは置いておこう。

「私も彼女の剣筋は見ますが、そう無茶に扱っているようには思えません」

「ふむ……」

ここでアリューシアの援護射撃が入る。

まあクルニだって俺の道場で学んでいたし、騎士団という場所柄、早々無茶な使い方はしないはずである。

俺も鍛錬の時に彼女の動きなどは見ているが、力任せに剣を振っているという印象は受けない。となると、原因は別にあるのかな。

「つっても、通常ならこういう欠け方はしねぇぞ。お前どういう使い方してんだ」

「だから普通っすよ! ふーつーうー!」

「まあまあ」

むきー! と、不満を露わにして声を大にするクルニを抑える。

別に彼女を虐めたいわけではないからな。クルニにケチをつけて話が前に進むならまだいいものの、それだけでは建設的とは言い難い。

んー。彼女の体格からは考えにくいが、もしかしたら。

「クルニ。ショートソードを持っていてどう感じる?」

「ふぇ?」

俺の突然の問い掛けに、一瞬反応が止まる。

「どうと言われても……軽くていいなー、くらいっすかね……?」

「それだ」

「それだな」

彼女のしどろもどろな返答に、俺とバルデルの声が重なった。

「うぇっ? ど、どういうことっすか?」

「結論から言うと、クルニの得物としてショートソードが合ってないんだね」

驚きの声を連発しているクルニに一言。

そう。ショートソードという武器自体がクルニに合っていない。この答えが一番しっくりくるのである。

当たり前の話だが、使い手一人ひとりに合った武器は異なる。

勿論、剣以外でも様々な武器種が存在している。その中で自分に合う武器を見つけるってのは簡単そうに見えて、案外難しい。

これは武器のオーダーメイドなどとはまた別の話だ。

オーダーメイドってのは要は、自分に合う武器種の中から更に厳選する行為であって、槍が得意な人間が剣を特注しても意味がない。

クルニの場合で言えば、道場に居た頃から筋は悪くなかった。剣が合っている、というのはほぼ間違いないだろう。流石に俺も、道場の門下生で明らかに剣に適性のない弟子が居たらそれくらいは分かる。

俺が教えていた時はそこまで違和感はなかったから、騎士団に入ってから一気に力が付いたのかな。

「得物の重さも感じられねえんじゃ、碌に振れるわけねえだろ。お前が伸び悩んでる原因は多分そこだな」

「俺もその通りだと思うよ」

「むー……」

バルデルが腕を組みながら、ため息と共に言葉を放つ。

こういう助言を行いたいがために、彼は俺の道場に通っていたと言っても過言ではない。その意味では彼の時間を無駄にしなくて済んだようで何よりである。

それはそれとして、クルニが伸び悩んでいるかどうかはまた別の問題ではあるのだが。ただ、彼女の反応を見る限りではそう外れてもいないのだろう。

武器は、 適(・) 切(・) な(・) 重(・) み(・) を(・) 感(・) じ(・) て(・) 初(・) め(・) て(・) 機(・) 能(・) す(・) る(・) 。

無論、重すぎても駄目だ。

軽すぎず、重すぎず。得物の重心を測り、効果的に振るえる重量感というものが個人個人にあるのだ。こればっかりは言葉で説明するのが難しい。

俺の場合はそれがロングソードだということである。そして、クルニは恐らくその範囲がショートソードではない。

「バルデル、ちょっと剣を見せてもらってもいいかい」

「ああ、ご自由にどうぞだぜ先生」

壁に掛けてある武器を眺めながら、さてクルニに合う物はどれかな、と物色する。

ショートソードは軽いということだから、多分ロングソードでも同じだ。名前がややこしいが、実際の刀身にそこまで差があるわけじゃないからな。

単純な重量だけで言えば槍や斧なんかも候補に入るんだろうが、彼女の動きは剣術に最適化されている。

他の才能が眠っている可能性は否定出来ないものの、今からそれを発掘するってのはかなり難しい。そもそも俺自身剣以外はよく分からん。

それに騎士団と言えばまあ剣だろう。多分。

「……おっ。こいつなんかどうかな」

「えっ、マジっすか」

ああでもないこうでもないと考えを巡らせながら、店内を眺めることしばし。

俺が手に取ったのは、長大な刀身と特徴的なリカッソを持つ大型の剣。

俗にツヴァイヘンダーと呼ばれる両手剣だった。