軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第26話 片田舎のおっさん、ダンジョンに臨む

「……ここだな」

「ふむ、おあつらえ向きだね」

馬車に乗り、野宿で一晩を過ごし、翌朝から移動を開始して更に数時間かけて、アザラミアの森外縁部へと到着。

眼前に広がる広大な森林地帯を目に、馬車を下りて歩くこと更に三十分ほど。

俺たちの前には小高く盛り上がった丘のような側面から、くりぬかれたような洞窟が待ち構えていた。

ダンジョン、と呼ぶには些かしょぼい気はするが。ただ、新人若手の研修には丁度いい塩梅なのだろう。

多種多様な凶悪なモンスター、即死級の罠がそこかしこに設置してある遺跡もあるらしいが、ぞっとしないね。冒険者ってのは本当に命をベットして名声を得る仕事なんだなと痛感するよ。

「昨日は快適だったよ。皆、慣れているんだね」

「い、いえ! 恐縮です!」

俺のふとした感想に、ポルタが縮こまった言葉を返す。

冒険者は野営もしなきゃいけないから大変だよな。

そりゃ日帰りで動ける任務だけな訳はないし、当たり前ではあるんだが。

ちなみにそういう準備は基本的に研修を受ける側が経験のためにやるらしく、スレナはあえてその準備をしていなかったらしい。

俺は特に何も言われなかったからしてませんでした。今思えば比較的近場とは言え、遠征に裸一貫で挑むってヤバい気がする。本当に無知で申し訳ない。

ちなみに、その準備が十分に出来ていなければその時点でとんぼ返り。

研修は終了だ。

メンバーの数や目的地までの行程を予測し、適切な準備が出来ない者はそもそも冒険者として失格だそうな。

その点で言えば、このチームは及第点であったらしい。

スレナも特に何かを言うことはなく、無事に一晩を過ごしたというわけだ。

「では……準備、します……」

洞窟の前で五人が固まる。

その中で声をあげたのは、チームのシーカー役を担うサリカッツ。

彼は一度洞窟内を軽く覗き込むと、左腕の腕輪に手を添える。

その後ぼんやりと薄明かりを灯した腕輪を見て、一つのことに思い当たった。

「もしかして、魔装具かな?」

「あ……そう、です……」

俺の質問に、おどおどと答えてくれるサリカッツ君。

一見コミュニケーションが難しいタイプに見えるが、こういう子はこっちから押しすぎず引きすぎず。自然体で接していれば必要な会話は拾えるのだ。

これが年の功というやつよ。あまり自慢げに言うことでもないが。

「どういう効果のものか、説明してもらってもいいかい」

「あ、はい……」

続けた俺の言葉に、彼は頷いて返す。

そして彼は皆の中心に立ち、左腕を少しだけ掲げた。

「えと……これ、近くに生命体が居ると、光ります……。今、僕も含めて五人居るので……それ以上、増えたら、光が強くなります……」

「……なるほど、斥候向きだね」

拙いながら一生懸命説明してくれるサリカッツ。

サリカッツの持っている腕輪は、要は探知機のようなものか。

近くに生命体――人間やモンスターが近付けば近付くほど光の度合いが強くなる、と。最初に五人分の光量を確認さえしておけば、他からの接近にある程度準備出来るといった寸法だろう。

光の強さも微々たるもので、これが原因で見つかるって事態はあまり考えなくてもいいだろう。どっちにしろ暗所では松明なりを使うからね。

やっぱり便利だなー魔装具。別段俺が使う機会はなさそうだが、なんとなく欲しくなってくる。フィッセルが魔装具収集にハマってるのも頷ける話だ。

「よ、よし! じゃあ行こう! サリカッツ! 頼むよ!」

「う、うん……行きます……」

ポルタの威勢のいい発破を皮切りに、洞窟へと侵入。

順番はサリカッツが先頭、その後ろにポルタとニドリー。更に後ろからスレナと俺といった具合だ。

見ていて思ったのだが、スレナはアザラミアの森に入ってからほとんど能動的に喋っていない。新人の三人もそれを分かった上で話しかけていないようにも見える。

多分だけど、あくまで監督役だからアドバイスとかはしないんだろうな、と思う。恐らく新人の方にも、監督役を当てにするなという指示も出ているのだろう。

うーん。

となると、俺がサリカッツに話しかけてしまったのは、本来の目的から行くとあまりよろしくないのかもしれない。おじさん反省。

これと言った会話もなく、五人の行進が続く。

洞窟の中にはひんやりとした、しかし湿った空気が溜まっている。閉所特有の匂いに混じって、どこか臭みのある匂いも僅かながら漂ってきていた。

「……居るね」

「そのようですね。まあ居なければ話になりませんが」

声量を抑えて一言を零すと、スレナも小さい声で反応を返す。

そりゃまあ、居なければ話にならんわな。戦闘能力を見るためのものでもあるわけだし。

「予測されるモンスターは?」

流石にターゲットとなるモンスターは研修前に新人にも伝わっているはずだ。そうじゃなければ対策も立てられない。

なので、この内容は別に聞いてもいいはず、である。

「主にはゴブリン。後はビッグバット、ケイヴワームなどですかね。彼らのお手並み拝見、といったところでしょう」

「なるほどね」

聞いたことのある名が並ぶ。

ゴブリンってのは森林や洞窟に住まう小型種の代表格みたいなやつだ。

一匹一匹はそう強くないが、とにかく群れる。適切な対処が出来ないと、新人若手では思わぬ苦戦を強いられることもあるだろうな。

正に研修にうってつけの相手と言える。

ビッグバットやケイヴワームも、まあ言ってしまえばデカい蝙蝠とデカい芋虫だ。特別な能力は何もない、一般的な狩りの延長で対応出来る獲物である。

ここら辺は俺もビデン村に居る時にちょこちょこ狩ったことがあるから、いっそ懐かしさすら覚える。

いやあ、俺でも何とか出来そうなやつらが相手でよかった。

無論、油断は出来ないけれど。ここで大事なのは俺が勝つことではなく、彼らが負けそうな時にしっかりと救出出来るか否かだ。

「……居ます。奥、多分、複数……!」

先頭を歩いていたサリカッツから警報。

「わ、分かった……! ニドリー……!」

「は、はいぃ……!」

その声を耳にした途端、ポルタとニドリーに更なる緊張が走る。

剣士である二人は、ともに標準的なショートソードを得物としているようだな。それぞれが抜剣し、会敵に備える。

サリカッツも腰元に携えたダガーを抜き、戦闘に備えていた。

――ギャッギャッ。

人間の発する声ではない、耳障りな音が洞窟内に木霊する。

薄暗い洞窟の奥から、音の正体がぼんやりとした輪郭を伴って現れた。

見た目の大きさは子供程度の貧相なもの。

筋骨隆々という訳でもなく、単純な力勝負で言えば人間の大人なら十分に勝てるだろう体格。

しかし、人では決してあり得ない緑の肌、剥き出しとなった一対の犬歯、大きく見開かれた爬虫類が如き双眸が、それらの油断を否が応でも消し去ってくれる。

小型種の代表格、ゴブリンの登場だ。

「先生、分かっているとは思いますが……」

「うん。若者たちのお手並み拝見と行こうか」

スレナの呟きに、頷きを返す。

分かっているとも。ここで俺が斬りかかったのでは意味がない。

「数、六……!」

「三人で六匹……! やるぞ二人とも!」

「は、はい!」

気合を入れた三人が、魔物と対峙する。

人里離れた洞窟の中。

新人冒険者の実地研修が、静かに幕を開けた。