軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第242話 片田舎のおっさん、北方都市に着く

「前方に関所あり!」

「着きましたね、ヒューゲンバイトに」

村落に立ち寄ったり野営したり、時には現れた魔物相手に実戦経験を積んだり。色々やりながら進んでいくと、どうやらお目当ての北方都市にようやく到着したらしい。

やっと着いたか、と思いはするものの口にはしない。なんだか嫌々付いてきたみたいな感じに取られるのも困るしな。移動に疲れはしたが、嫌々やってきたわけではないのでね。

「……おお、結構大きいね」

「ええ。領土北方を一手に預かる大都市ですから」

馬車から前方を覗き見てみると、まあまあ大きめの関所が構えられていた。感覚としてはフルームヴェルク領に行ったときに見たやつに近い。とりあえず領土をここから分けておきましょうね、みたいな簡素なやつではなく、本当に石造りでしっかり建ててある感じだ。

つまりあの関所の中も結構賑わっているはずであり、俺の感嘆の声に反応したアリューシアも、それを肯定するような口ぶりであった。

十八名の行進が関所に近付くにつれ、人影も確認出来るようになる。どうやら警備兵として数人が常駐しているらしい。

バルトレーンからヒューゲンバイトに至るまで、いくつかの村落や町に立ち寄りはしたが、ここまで立派なものではなかった。大都市というアリューシアの言に偽りはなさそうで何よりだな。

「ヒューゲンバイトへようこそ。道中お疲れ様です」

「どうも、こちら通行証です」

「……はい、確かに」

こちらの姿を確認した警備兵が、手前の騎士に声を掛けた。

十八名様が関所に迫っていることは早馬であらかじめ伝えてある。なので何者かを問われることはなく、一応通行証の確認だけささっとやっている感じであった。

この辺り、案外ちゃんとしているなあと思う。普通レベリオの騎士がやってきたら素通ししてもなんら不思議ではないところ、最低限の確認だけは怠らない。まあこちらが騙っている可能性も捨てきれないから、素通しは流石に拙いのだろう。

思えばフルームヴェルク領に入る時も素通しってわけじゃなかったもんな。同じレベリス王国内の領土であるにもかかわらず、である。

だがあの時に比べると、確認事項なんかも物凄く簡素なものだ。多分それは、ここが王家の直轄領であることも関係しているのだと思う。

フルームヴェルク領はウォーレンやジスガルトといったフルームヴェルク家が治めていて、同じ王国に所属してはいるもののその土地のトップは別人。一方ヒューゲンバイトは代官こそ立ててはいるが、書類上の支配者は王室であるらしい。王様直々に管轄している場所だからこそ騎士団の駐留が行われているとも言える。

バルトレーンから離れた北端の地を、どうして王室が直接管理しているのかは知らない。というかそもそも、どこが王家直轄領でどこが貴族領なのかも分からない。その辺りは俺が知ってもあまり意味がないし、興味もないから。

有識者や歴史家に聞かせたらぶん殴られそうな感想だが、正直な心境がこれだからね。今のところそういうのを覚えなければ恥をかくような舞台に立つつもりはないし、よしんば立つとなったら何とかして最低限の知識を詰め込めばいいや、くらいの感覚である。

大体歴史がどうとか誰と誰のパワーバランスがどうとか、剣を振る上ではあまり要らない情報だからな。無論、時と場合によることは大いに分かっているつもりではあるけれど。誰に剣を向けるかという問題が時には重要なこともある。

願わくは、そういった場所に立たないことを祈りたいところではある。ただまあ、剣の頂を目指すと決めた以上、そのタイミングってやつもいつかはやってくるんだろう。繰り返すが、そんな歴史の分水嶺なぞに立ち会いたくはないがね。

「おおー……ちゃんと賑わってる……都会だ……」

「まあ、大都市ですから」

そんな考えを他所に、俺の口はヒューゲンバイトに立ち入ってからあんまりにあんまりな感想を漏らしていた。

すげえ、田舎じゃない。建物の背は高いしそこそこ密集しているし大通りがデカい。というかそもそも大通りという概念がある作りをしている。

どうだろう。まだ都市に入ってすぐだから断言こそ出来ないが、バルトレーンと同じくらい栄えているんじゃないかな、ここは。少なくともフルームヴェルク領よりも都市の発展度という観点においては上な気がする。いや順番を付けるものでもないけれど。

「これからは?」

「まず騎士駐屯所を目指します。そこで顔合わせをした後に宿へ移動。その後は休息を兼ねて自由時間の予定です」

「なるほどね」

直近のスケジュールを聞いてみると、まあ大体予想通り。まずはこのヒューゲンバイトの治安を預かるレベリオの騎士との面通しだ。

この都市の一番のお偉いさんは当然レベリス王宮であるが、実態として都市を治めているのが王様というわけではない。少なくとも治安維持に関しては騎士団が働いているはずで、どんな人がこの都市の安全を預かっているのかはそこそこに興味がある。

「北方指揮官殿か、会えるのが楽しみだね」

「気風の良い方ですよ。良い意味で固い人ではないですね」

道中あまりやることもないのでアリューシアにちょこちょこ聞いてはいたんだが。

ヒューゲンバイトを預かるレベリオ騎士団、正式名称をレベリオ騎士団北方都市駐屯大隊と言うらしく、その指揮官は北方大隊長、あるいは北方指揮官なんて呼ばれ方をしているそうだ。

地方のトップということで、肩書的にもそこそこの権威と権力を持つとのこと。具体的に言えばヘンブリッツ君よりは下だが、バルトレーンに居る中堅どころの騎士よりは上らしい。

その辺りの細かい指揮系統というか上下関係はあまり分からないけれど、その場合俺の特別指南役って肩書はどう作用するんだろうね。

アリューシア曰く、騎士団全体の指南役であるからして北方指揮官よりも上らしいっちゃらしいんだが、だからと言ってデカい顔をするのもなんだか違うしなといったところ。

まあ直接会えば解決することか。別に威張り散らすつもりはないにしても、直接相対すればその人がどの程度の使い手なのかはなんとなく分かる。

あとついでに、アリューシアが良い人ではなく、良い「方」と表現しているから、恐らく彼女よりも年上なのかな。流石に俺より年上ってことはないだろうが。

「……なんだか風が湿気てる気がする」

「海際ですから」

「あぁー……」

春先という気候もあり、気温的には過ごしやすい。けれどバルトレーンと大きく違うのは、吹いてくる風が大いに湿気を孕んでいるところにあった。

今は馬車の中なので外套は脱いでいるが、それでも湿り気のある風は清涼感を感じさせるにはやや不足。これで外套を着込んで外に出たらもうちょっと不快指数は上がりそうだな。

海の幸に恵まれている点は素晴らしいことだと思うが、やはり海が近いとその分潮風が問題になってくるということか。

俺はヒューゲンバイトに住む予定はないけれど、場所による良し悪しってやつもあるんだなと感じた瞬間であった。生まれてこの方ビデン村以外を知らなかったからね。人が住む土地にも色々と環境ってやつがあるんだなあと思い知った次第である。

海そのものは当然知識として知っているが、ビデン村にそんなものはないので俺は海を見たことがない。

どんなもんか気にならないと言うと嘘になる。なのでこの遠征中、どこかで時間を見つけて海を見に行ってみたい。流石にサラキア王女殿下の護衛時のように、四六時中拘束されることもないだろうし。

これが真冬などなら遠慮していたかもしれないが、春先で過ごしやすい季節だからね。

「騎士団長。間もなく北方駐屯所です」

「分かりました」

海に思いを馳せたり、海の幸に思いを馳せたり。あとついでに大通りを通る間出ている露店を眺めたり。そんなことをしながら時間を潰していると、どうやら騎士駐屯所に到着するらしい。

前方に視線を動かしてみると、なるほどしっかりした造りの建物が目に入る。

バルトレーンの庁舎ほどではないにしろ、中々に堅牢な建物っぽく映るね。印象としては、ウォーレンの屋敷から豪華さを抜いた感じかな。質実剛健という言葉が実によく似合うような外観であった。

また、駐屯所の正門と思わしき個所には、既に幾人もの騎士が並んでいた。見覚えのある銀のプレートアーマーに身を包んだ集団だ。

彼らがヒューゲンバイトの治安を預かる現地の騎士ということだろう。恰好は同じでも微妙に所属が違うから、なんだか俺もちょっと緊張してきたぞ。

「全隊、気を付けィ!」

騎士駐屯所に到着し、アリューシアとフラーウと俺が馬車を降りようかというタイミングで、野太い声が響く。その号令に合わせ、駐屯所前に並んでいた騎士が一斉に姿勢を整えた。

うーん、アリューシアやヘンブリッツ君には出せない類の声だな。豪快な、それでいてピリっとした良い声だ。きっとこの声の持ち主が北方指揮官殿なのだろう。

「出迎えご苦労、ケーニヒス大隊長」

「はっ! アリューシア騎士団長殿も、長旅お疲れ様であります」

馬車を降りたアリューシアは、声の発生源となった男性騎士に労いの声を掛ける。しっかり外行き用の、やや硬い印象を持つ声である。その言葉を受けた大隊長さんはニッカリと笑いながら応じていた。

第一印象的には、スフェンドヤードバニア教会騎士団のガトガっぽさを感じるな。アリューシアが気風の良い人と評した通りの人物であろうことは、容易に想像が付いた。

見た目の年齢は俺と同程度か、やや下くらい。全体的に赤みがかった茶髪を綺麗に切り揃えているが、一部だけ伸ばしている。これが北方ファッションというやつだろうか。

体躯などもおおよそ俺と同程度。顔の印象から受ける年齢を感じさせない身体つきは、なるほど相応に鍛えていることが一目で分かる。どうやらお飾りの指揮官殿ではないらしい。

しかし、ケーニヒス。ケーニヒスね。中々に珍しい名前だがなんとも奇妙なことに、俺はこの名を持つ人間に一人だけ心当たりがある。そういえばあいつも眼前の彼と同様、赤みがかった茶髪をザンバラにしていたな。

「後ほど紹介の場は設けるが、取り急ぎ。こちらが騎士団の特別指南役となったベリル・ガーデナント氏である。今回は顔合わせも含め同行頂いた」

「……ベリル・ガーデナント……?」

アリューシアの紹介を受け、軽く会釈する。彼女の声と俺の動きに合わせてケーニヒス大隊長殿は、どうにも奇妙な反応を示していた。

奇遇だな。俺も恐らく数瞬後には、お前と同じリアクションをしている気がするよ。

「先生。こちらがヒューゲンバイト北方都市駐屯大隊長、ケーニヒス・フォルセです」

「……ケーニヒス・フォルセ、ね……」

アリューシアが返しとなる紹介をしてくれているが、誠に申し訳ないことに今は彼女にちゃんとした対応を出来そうにない。

まさかなとは思っていたよ。思っていたが、何もこんなところで再会しなくてもいいんじゃねえかな。

「ベリル……お前、ベリルか!! おいおいおい! 本物か!? 久しぶりだなあおい!」

レベリオの騎士としての礼儀なんて何処にぶっ飛んでいったことやら。彼はずんずんとこちらへ進むと、がっしりと俺の肩を掴んだ。

「俺の偽物なんて居てたまるか。久しぶりだねケニー」

相変わらずうるさいやつだ。だけど俺も、こいつとおおよそ同じ心境である。

驚きと、懐かしさ。若かりし頃、ヤンチャをしていた記憶が鮮明とは言わずとも、はっきりと脳裏に思い浮かんだ。

ケーニヒス・フォルセ。

俺の同郷であり、幼馴染と言っていい人間だ。