軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第22話 片田舎のおっさん、疑われる

騎士団庁舎から冒険者ギルドへと向かう道すがら。

歩いているのは俺、スレナ、そして何故かついてきたルーシーの三人。

ルーシーは暇人なの? 君一応魔法師団の団長でしょ。

「先生のご協力を頂けてありがたい限りです」

「は、ははは……そうは言うがね、俺程度がどこまで役に立つか」

分かりやすい喜色を湛えてスレナが囁く。

勝気な美人と評して差し支えない、どこか男らしくも映るスレナだが、こんな表情もするんだな。

以前クルニを犬に例えたが、さしずめスレナはよく躾けられた猟犬といったところか。実際はそんな生易しいもんじゃないと思うけど。

「しかしお主、些か謙遜が過ぎやせんか」

「まさか。俺は自分の力を正しく認識しているつもりだよ」

逆隣のルーシーが若干の苦言を呈する。

謙遜と言われてもなあ。

俺は剣技はまずまずのレベルだが、何か突出した身体能力を持ち得ているわけではない。正しく普通よりちょっと強いだけのおっさんなのである。

レベリオ騎士団の副団長であるヘンブリッツ君には相性もあって勝ててしまったが、ルーシーとは実質俺の負けに近い痛み分けだ。

これで強いなどと、口が裂けても言えないと俺は思っている。

「まあ、それも先生の強みであり良さでもあるということだな」

「……じゃあもう、そういうことにしておいて」

「くっく、リサンデラはベリルのことを随分と気に入っておるのう」

スレナは相変わらず俺に対して盲目的である。

世界を股にかけるブラックランクの冒険者が、こんなおっさんを褒め称える様ってのはどうにも落ち着かない。社会的にも実力的にも絶対スレナの方が上だろう。

あーやだやだ。

おっさんはのんびり生きてたいのである。

しかもスレナとルーシーが居るからまーた周りからの視線が痛い。

いい加減慣れるべきなのかもしれないが、場違い感が半端ないから困る。

だが、幸いなことに騎士団庁舎から冒険者ギルドはすぐそこだ。

雑談を交わしながら歩いていたら、すぐに到着してしまった。

スレナは勝手知ったる何とやらでずんずんと歩を進め、それに付き従うように俺とルーシーが続く。

いや本当ルーシーは何をしに来たの。魔法師団って暇なのかな。

「私だ。ギルドマスターは居るか」

「はい、少々お待ちくださいませ」

真っ直ぐに受付カウンターまで進み、簡潔に一言。

受付嬢も慣れたもので、スレナの言葉を受けてすぐに奥へと引っ込んでいった。

「ほっほ、お待たせしましたかな」

しばらくの後、出てきたのは白髪の目立つ老齢の男性。

そして付き添いと思われる眼鏡をかけた長身の男性の二人だった。

「マスター、推薦しているベリル・ガーデナント氏を連れてきた」

「ええと、ベリル・ガーデナントです。宜しくお願い致します」

「わしもおるぞー」

とりあえずこれは挨拶した方がいい流れか。

あとルーシーはちょっと引っ込んでて。

「これはこれはご丁寧に。私、冒険者ギルドレベリス王国支部の責任者を務めております、ニダスと申します。隣の彼は私の補佐であるメイゲンです」

「……メイゲンと申します。宜しく」

二人からの挨拶に、軽く会釈をして返礼とする。

ニダスは年齢で言うと、多分俺のおやじ殿と同じくらいだろう。真っ白に染まった頭髪と髭、更には顔に深く刻まれた皺がその年齢を教えてくれる。

言葉遣いや表情は柔和なものの、身体付きや歩調はしっかりとしており、相応に鍛えている、もしくは過去鍛えていたことが窺える。

冒険者ギルドのマスターというくらいだから、過去に冒険者をやっていたのかもしれないな。

一方、メイゲンと呼ばれた長身の男性は至極短い挨拶の後、実に分かりやすく猜疑の視線を俺に向けてきている。

年齢は俺より少し下かな。綺麗に纏められた藍色のオールバック、眼鏡越しでも分かる鋭い眼光。

うーん、この視線。初対面時のヘンブリッツ君を思い出す。

そりゃまあ如何にスレナの紹介とは言え、いきなりこんなぽっと出のおっさんが出てきたら疑問に思うのも尤もだ。

しかも今回は新人冒険者の育成についてである。

貴重な冒険者の命を預けるに足る者か、という視点がどうしても重要になってくるだろう。そのお眼鏡に適うかどうかは置いといて、メイゲンが俺に対してこの視線を投げてしまうことは、俺個人から見れば真っ当な感情に思えた。

「"竜双剣"のリサンデラ、そして魔法師団長からの推薦とあれば、私が口を挟むことでもありますまい。宜しく頼みますよ」

「え、ええ……」

いやそこは口を挟んで欲しい。

ちょっと待ったとか言って欲しい。こちとら不安しかないんですが。

「お待ちください」

胸中に不安を抱えながら挨拶を交わしていたところ。

メイゲンが冷たい口調で待ったを掛けた。

「メイゲン。何かあるのかな?」

ニダスからの問い掛けに、メイゲンは小さくため息を吐き言葉を続ける。

「確かにお二方から推薦を受けるということは素晴らしいことでしょう。ですが、我々冒険者ギルドはガーデナント氏の力を知り得ていません。不確定な情報を当てにし、貴重な冒険者の命を預けるのには些か不安が残ります」

淡々と事実のみを述べていくメイゲン。

いいぞメイゲン君。その調子だ。

「貴様、先生を信頼出来んというのか?」

「ほう? メイゲンとやらはわしの言葉が信用に足らぬと?」

スレナの雰囲気が変わる。まさに怒髪天を突きそうな様相である。

ついでにルーシーも何か不穏な空気を纏い始めた。

やめろくれさい。そういうのは望んじゃいないんだよそういうのは。

「そうではありません。ガーデナント氏にその資格があるかどうか、分かりやすくご教示を頂きたいのです」

だがトップクラス二人の圧力を受けてなお、メイゲンの姿勢は崩れない。

鋭い視線が俺を射抜く。

俺もその程度で怯むことはないが、彼の視線からは敵意というよりは、本当に冒険者のことを考えている気持ちが窺えた。

「ふむ。メイゲンよ、君ならどうするかね?」

ニダスはニダスで自然体のまま、ゆったりとした口調でメイゲンへと問う。

ニダスとメイゲンはぱっと見正反対の印象を受けるが、恐らく冒険者ギルドの運営陣としては上手く回っているのだろうな。

二人が意見をしっかりと出し合い、折り合いを付けているのだろう。

「聞けばガーデナント氏は、"竜双剣"リサンデラの師であるとのこと。お二人に手合わせをして頂ければ、彼の実力も分かりましょう」

「え゛」

喉から変な声出た。

マジで?

ブラックランクの冒険者と手合わせとかマジで勝てる気がしねえぞ。いや、俺の実力を知ってもらうにはいい演出なのかもしれないが、上がりに上がった期待値をガッツリ削ってしまうのは何だか申し訳ない気持ちになる。

「おお、それはよいではないか。わしも見てみたいのう」

ルーシーは乗るんじゃねえよこの野郎!

「それで納得するのなら私は構わん。私としても先生との手合わせとなれば是非もない。全力で行かせてもらう」

やめて。全力で来ないで。おじさん死んじゃう。

「成程。ガーデナントさんもそれでよろしいですかな?」

「……はい、分かりました」

ニダスの確認に、俺は力なく答える外なかった。

だって断れる雰囲気じゃないじゃん。スレナもやる気だしさあ。

ちくしょうめ。どうしてこうなった。