軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第20話 片田舎のおっさん、借りられる

「あ、ベリル先生。こんにちは」

「やあフィッセル」

ある日。

俺はいつも通り騎士団の鍛錬に励もうと、その足を修練場へと向けたところ。

騎士団庁舎の入り口で、魔法師団所属のフィッセルとばったり出会った。

「……何か凄い荷物持ってるけど」

「ああ、これ。騎士団への納品」

「納品?」

フィッセルは服装こそ普段のローブ姿だが、その手やら背やらには決して小さくない荷物を抱えている。その荷物にもずっしりとした重みを感じられた。

「ポーション。魔法師団が騎士団に卸してる」

「へえ、ポーションか」

よいしょ、と一息ついて彼女は手に持った方の荷物を下ろした。よく聞くと下ろす際にガチャガチャと音が鳴っており、中身は瓶入りであることが窺える。

ポーションは、傷を治すために広く普及している薬だ。

直接飲めば身体全体の治癒能力を一時的に向上させることが出来るし、酷い傷には直接振りかけて使ったりする。

「やっぱり魔法師団が卸すってことは、魔法ポーション?」

「そう。普通の薬草のやつもあるけど」

で、そのポーションには幾つかの種類がある。

大きく分けて薬草から煎じて抽出するもの、薬草から抽出したものに魔法をかけ合わせるもの、そして魔法のみで精製するものの三つだ。

後ろに行くほど効果も高くなり、また同様に高価になっていく。

ビデン村では基本的に薬草由来のポーションしか見たことがない。それくらい魔法精製ポーションってのは貴重な代物なのだ。俺もそういう由来のものがあると聞いたことがあるだけで、実物を見たことはないからな。

薬草から作るポーションなら村の薬師でも作れるが、魔法が関わってくると話は別だ。その魔法を行使出来る者が居ないと当然作れないから、流通する量は限られてくるしその値も自ずと高くなる。

剣術の師範という肩書きな以上、ポーションには結構お世話になっている。

それこそ日常的に擦り傷が絶えない身だからな。ありとなしとでは傷の治りが全く違うのである。

あ、そうだ。

「そう言えば、この前ルーシーって人に会ったんだけど」

魔法師団と言えば、先日唐突に戦いを繰り広げることになってしまったルーシーが居た。

結局、彼女が本当に魔法師団の団長なのかどうかは分からないままだったが、少なくとも魔術師であることには間違いない。

であれば、フィッセルが何か知っているかもしれない。

「ルーシー団長と?」

「ああ、やっぱりあの人団長さんなんだ」

「うん」

どうやらルーシーは本当に魔法師団の団長であったようだ。

となると、次に気になるのはあの容姿と喋り口。見た目はマジで十歳かそこらの少女だったが、纏う空気、また行使する魔法からも見目通りの年齢とは思い難い。

しかしながら、俺より多分年上という発言が事実ならば、少なくとも四十は超えているはず。どう考えても外見と中身が一致しないぞ。

「俺より年上だって言ってたけど、本当なのかなあれは」

「ああ、それは――」

「ルーシーさんは、魔法で今の外見を維持しているんですよ」

フィッセルが説明のために口を開こうとしたところ。

もう一つの声が、それを遮った。

「おや、アリューシアじゃないか」

「はい。フィッセルもご苦労様です」

「これも仕事……です」

こちらの話を途中から聞いていたのであろうアリューシアが、話に加わりながら歩を進めてきていた。

フィッセルが微妙に縮こまっている。これはこれで愛いものだな。

「魔法で外見を……それはまた凄いね」

「ええ。私が騎士団長になる前からずっと魔法師団長であり、見目も変わっていません。不思議なものです」

どうやらルーシーが俺と同年代、もしくは年上ってのは間違った情報ではないらしい。

うーむ、魔法ってのは何でもアリなんだな。

俺にはこれっぽっちも魔法の才能が無いので自分が行使するのは既に諦めているものの、やはり羨ましいという感情はある。

フィッセルの剣魔法然り、ルーシーの若返り? 現状維持? 然り、魔法の幅ってのはとてつもなく広いものに感じる。いいなあ魔法。

「しかし、先生は何故ルーシーさんと? 魔術師学院にでも行かれたんですか?」

「ああ、それなんだけどね……」

そう言いふらす内容でもないけれど、アリューシアとフィッセルならいいか。

ルーシーとの出会い、そして突如始まった腕試しの話を、半ば呆れも交えながら端的に伝える。俺の語り口にアリューシアは目を丸くし、フィッセルはばつが悪そうに少し俯いてしまった。

「それはまた……ルーシーさんらしいというか……」

「あの人らしいって、いっつもあんな感じなのかい……」

「そうですね。魔法を試すのが大好きな人なので……」

思わず肩を落とす。

よくそれで魔法師団の団長が務まるものだ。いや普段は抑えているのかもしれないけどさ。俺とやりあった時だって、もう我慢ならんみたいな様相だったしな。

「ベリル先生、ごめん。私が先生のこと言っちゃったから」

「いやいや、フィッセルが謝ることじゃないよ」

誰が悪いかと問われれば間違いなくルーシーで、フィッセルではない。

「けど、どういう風に俺のことを伝えたんだい?」

フィッセルを責めるつもりはなけれども、あれは相当俺の力を高く見積もった上で喧嘩を吹っ掛けて来ていた。ルーシー自身もフィッセルから聞いたと言っていたから、彼女が俺の存在を伝えたのは間違いないだろう。

ただ、その伝わり方にちょっと疑問を持ってしまったのである。

「……秘密」

「……そ、そうか」

秘密と言われてしまっては仕方ない。

それ以上攻める術を俺は持ち得ていないからな。乙女の秘密は何よりも大切に秘匿されるべきなのだ。知らんけど。

「ところでアリューシアはどうしてここに?」

「ええ、リサンデラが少々話があるとかで」

「スレナが?」

ここは庁舎の入り口だ。中にいる騎士団長様がわざわざ執務時間中に出てくる必要もない。

その理由を問うてみれば、何故かスレナの名前が挙がる。如何にブラックランクの冒険者と言えど、騎士団庁舎に易々と入れるわけではないからな、門前での待ち合わせになったのだろう。

「シトラス、すまん待たせた……おや、先生もいらっしゃるのか」

取り留めのない雑談を交わしていると、通りの向こうから見慣れた赤髪の女性がやってくる。

「リサンデラ、何用ですか。私も暇ではありません」

「そう急くな。それに先生もおられるなら丁度いい」

癖なのだろう、自慢の赤髪をかき上げながらスレナがアリューシアを諭す。

ていうか俺にも何か用事があるのだろうか。

「それじゃ、私はポーション運んでくる」

「ああ、フィッセル。気を付けてね」

「うん」

ここで納品の仕事途中であったフィッセルが離脱。

まあお仕事中に雑談振って邪魔しても悪いしね。

「で、何用ですか」

フィッセルが去って、アリューシア、スレナ、俺の三人となった。

相変わらずアンバランスな組み合わせだが、騎士団庁舎の前ということで早々人目もなくて助かる。この二人と一緒に居ると衆目の視線が痛いのである。

「実は先生を少し、冒険者ギルドの方で借り受けたくてな。一応その許可を取りに来た。ギルドマスターからの書状もある」

「なんで?」

なんでだよ。

俺の突っ込みはバルトレーンに吹く風に攫われていった。