軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第114話 片田舎のおっさん、親睦を深める

「ほっ! とりゃー! たぁー!」

「うんうん、皆上手くなってきたね」

シンディの気合が青空の下に響く。

皆の素振りを見ながら適宜指摘を行い、そしてさらに素振りを繰り返してもらってしばらく。

それぞれにまだまだ粗はあるものの、最初に比べれば少しマシにはなってきた。あとは基本的な構えを抑えつつ日々繰り返していけば、まともな剣筋になっていくだろう。

「……ふっ! ……ふっ!」

ルーマイトやネイジアといった男性陣の動きもまずまずである。

やっぱりと言うか何と言うか、男性と女性では基本的な筋肉の付き方が違う。環境などの条件が同等であるという前提付きだが、同じだけ鍛錬すれば普通は男性の方がその分強くなることが多い。

乱暴な言い方にはなるが、剣術と名は付いているものの、やっていることは重量のある棒を振っているだけだからね。そうなれば当然、筋肉量の多い男性の方が一般的に有利にはなる。

まあそこら辺の常識を覆しているのが、アリューシアとかスレナとかクルニとかフィッセルとかロゼなんだけどさ。

なんか俺の弟子に活躍してる女の子多くない? 道場で教えてる時は大体半々くらいだった気がするんだけどな。

「んむー」

で、元々の講師であったフィッセルは何をしているかと言うと。ただ只管に俺の指導を見ているだけであった。

まあ別にそれ自体を叱る気はない。彼女は彼女なりに、人に教えることがどういうことか知ろうとしている、ということだろう。

実際、剣魔法のことになると俺には一切分からんのだ。そうなればフィッセル先生に頑張ってもらう他ないわけで。その時のために、彼女には今からしっかりと学んでおいてほしい。

「あ、先生」

「うん? どうした?」

そうやって魔術師学院での一時を過ごしていると、ふとフィッセルから声があがる。

「そろそろ授業の時間が終わる」

「おっと、もうそんな時間か」

体感で言うと、講義を始めてから一時間くらいは経っただろうか。うーむ、剣を教えていると時が過ぎ去るのは早いものだ。

「よし、皆今日はここまでにして教室に戻ろうか」

フィッセルの言葉を受け、生徒たちの素振りを終わらせに入る。

「はい! 楽しかったです!」

俺の声を受けて、シンディがいい汗をかきながら答えてくれた。この子本当にいい子だなあ。ちょっと単純っぽさはあるけど、物事を教える上では相手が素直なのは十分な利点だ。このまますくすくと育って行ってほしい。

そして願わくは、ミュイのお友達になってあげてほしい。彼女ならミュイとの距離も縮められそうな、そんな予感がしていた。

「ありがとうございます。良い時間でした」

「いえいえ、どういたしまして」

ルーマイト君も、木剣を一旦置いて礼をしてくれた。

貴族の御子息であれば、嗜みとして剣術を学ぶのはそれほど不自然なことではない。しかし、魔法の素養がありながらあえて剣魔法科を選ぶというのは、ちょっと独特ではあると思う。その辺りの事情に興味が湧かないわけではないから、機会があればそこら辺も聞いてみたいな。

「興味深い時間でしたわ」

「ああ、充実していた」

「はは、それは何より」

フレドーラやネイジアからの評判も上々である。

これはこれで、普段からフィッセルはどうやって教えていたんだという疑問も立つ。きっと深く考えずに剣を振らせていたんだろうなあと思ってしまうが、そこも今後の改善点だな。俺だって彼ら彼女らの卒業までずっと剣を見れるわけではないのだ。

「……ふん」

そしてミュイは相変わらずであった。

彼女も俺の指導自体は素直に聞いていたし、その通りに剣を振っていた。特に俺から言うこともない。言いたいことが出来たとすれば、それは帰った後に自宅でそれとなく言えばいいや。

「ああそうだ、ついでに皆に訊いておきたいことがあって」

授業を終えるには、まだ若干の猶予がある。なので、多少なりとも皆との距離が縮んだとみた俺は、教室に戻る途中、一つ質問をしてみることにした。

「皆、何故剣魔法科を? 魔術師を志すなら、他にも沢山授業はあると思うけど」

そうなのである。

これだけ広く、また国民からの認知度も高い魔術師学院。この国の魔法に関する全てが集まっていると言っても過言ではないこの場所で、あえて剣魔法科を選ぶ理由を聞いてみたかった。

例えば、ルーシーは剣魔法を使わない。

と言うことは、別に剣魔法だけが魔法を活かす道ではないということだ。彼女は多種多様な魔法を使えるから、そういう授業もきっとある。事実、六百人程度が所属している魔術師学院で受講者数が五人というのは、かなり少ない。

「私は身体を動かすのが好きだからです! 魔法も嫌いではありませんが……折角なら、好きなことを出来るように、と思いまして!」

「なるほどねえ」

俺の質問に対し、いつもの様にシンディが一番に元気よく答えてくれる。

確かにいくら魔法の素養があるとはいえ、全員が全員魔法が好きだとは限らないか。シンディのように、魔法よりも剣術とか棒術とか、身体を動かす方が好きなタイプも居るのだろう。

「僕は元々興味がありましたので。家で剣の練習も少しやっていましたし」

続いてルーマイト君が。

まあ元々興味がなければ、こういうマイナーなものは受講しないだろうな。ましてやルーマイトは子爵家の出である。ご実家の方でも貴族の嗜みとして剣を振っていたらしいし、変な流れではなかろう。

それでも、フィッセルからいきなり素振りを繰り返す指示を受けた時はよく辞めなかったな、とも思うが。

「私は、その……フィッセル先生を見てから、ですわ」

「ははは。嬉しいね、フィッセル」

「うん。もっと私を見るといい」

フレドーラは、フィッセルの剣魔法に憧れたらしい。

一つの道を突き進む者にとって、後進に 憧憬(しょうけい) の目で見られるのは嬉しいものだ。俺だって、そういう視線で見られたら気分も上がる。ちょっと背中は痒くなるけどね。

「俺はシンディと大体同じだな。魔法よりも、剣を振っている方が性に合っている」

言いながらネイジアが、片手に木剣を遊ばせていた。

うーん、彼はなかなか武に実直な性格をしているな。なんとなくだが、ヘンブリッツ君に近い印象を受ける。実際の年齢は分からないものの、身体つきもこの五人の中では一番だ。

「……別に。なんとなく」

最後はやっぱりミュイであった。そして口にする理由も大体予想通り。

ルーシーの言葉を借りれば、彼女は俺の剣に憧れを持っているようだが、俺本人を前にしてそんな歯の浮くような言葉は言えないだろう。そのことを強く突っ込む理由もないしね。また拗ねられても困る。

出来ることならその憧れを、是非好きの次元まで持って行ってほしい。憧れだけで振り続けるには、剣は些か重たいのである。

「皆ありがとう。勿論、本命は剣魔法だと思うけど、剣を振ること自体も好きでいてくれると嬉しいね」

好きこそ物の上手なれとはよく言ったもので、やっぱり肯定的に捉えている事柄の方が吸収も早い。それは勉学であっても剣術であっても同じである。嫌々ながら剣を振って強くなることも不可能ではないだろうが、そんなもの好きはそうそう居ないだろうし。

「俺がずっと見れるわけでもないから、フィッセルもちゃんと見てあげるんだよ」

「……努力はする」

「た、頼むよ……?」

大丈夫かな。なんかちょっと不安になってきた。

かといって、俺の本業はレベリオ騎士団の特別指南役である。今回お邪魔したのはあくまでピンチ。そもそも魔術師学院で教鞭を執り続ける資格がない。

俺は魔法も使えないし、魔術師学院の教員でもない。今回だって、ルーシーが無理やりねじ込んだんだろうなってくらいは予測が付く。

なので、彼ら五人を導く役目はやっぱりフィッセルになるのである。他に剣魔法の十分な使い手が居るなら候補になるのかもしれんが、そこら辺は俺の仕事でもないしなあ。

「ベリルさんは本日限りなのですか!?」

そんな俺とフィッセルの会話を聞いていたシンディから、疑問と驚愕の声が飛ぶ。

「いや、今日だけってことにはしないようにするつもりだけど……俺は本来はレベリオ騎士団の指南役だから」

流石に俺も今回で終わりというのは締まりが悪すぎるので、出来ることならある程度教えておきたいというのはある。

ただそれも、彼らが最低限剣を振れるようになるまでかな、とも思っている。彼らは剣を学びに来たのではなく、剣魔法を学びに来たのだ。そこを俺が履き違えちゃいけない。

「レベリオの指南役……道理で」

俺の言葉に、ルーマイト君が何か納得したように頷いていた。

他の面々も声には出していないものの、どこか先ほどまでと違った表情が見える。

こういう時、肩書というものは実に便利だ。その肩書が通じる前提であれば、対外的な評価を良いところで固定出来る。

レベリオ騎士団の特別指南役という役職は、少なくともこのレベリス王国内ではある程度通じるものがあるように思う。

勿論、むやみやたらにその威を借りて何かをするつもりはないが、手っ取り早く一定の信頼と信用を得られるというのは大きい。当初は重荷にしか感じていなかったものの、これからも適度に利用させてもらうとしよう。

「ほあー……ベリルさんは凄い方だったんですね!」

「そう。先生は凄い」

シンディの感嘆に、何故かフィッセルが応じる。

なんだか嬉しいようなむず痒いような、複雑な気持ちだ。正確には俺が凄いんじゃなくて、俺の肩書が凄いだけなんだけどね。

「あ」

「お?」

ゴォン、ゴォン、と。

生徒たちと歓談しながら教室に戻ってきた矢先、聞き慣れない鐘のような音が学院中に響いた。

「終わりの合図。今回の授業はお終い」

「なるほど」

こういう音の合図でしっかり時間が決められているのは学校っぽくていいな。騎士団での鍛錬にそんなものはないし、ビデン村の道場で教えている時もここまで分かりやすいものはなかった。

「ではベリルさん! 本日はありがとうございました!」

「うん、またね」

シンディの元気の良い挨拶を皮切りに、五人がそれぞれの荷物を持って席を立つ。

時間を区切っているということは、次の授業があるのだろう。剣魔法だけ学べばいいわけじゃないだろうしね。

「それじゃ、俺も庁舎の方に行こうかな」

「ん。私も帰る」

今日は朝からこっちに来て剣を教えるばかりだったから、俺自身は剣を振っていない。なので、このまま騎士団庁舎の方に顔を出して少し鍛錬しておこうかな、という感じだ。

フィッセルも剣魔法科の講義以外にさしたる用事はないのか、今日はそのまま帰る様子。

「そう言えば、剣魔法の授業ってどれくらいやってるの?」

「週に二回」

「そっか」

生徒たちを見送った後、教室を出ながら雑談を交わす。

週に二回なら、まあ一般的な剣術道場と大体同じか、ちょっと少ないかな、という感じ。一般的とは言っても俺はビデン村に篭っていたから、都会のそういう場所がどうなっているのかまでは知らないけれど。

週に二回、これから全部の授業に顔を出すのは難しいだろう。彼らにも言ったが、俺の本業はレベリオ騎士団の特別指南役であって、魔術師学院の講師じゃないからだ。

アリューシアからも週に一回程度なら構わないと言ってもらっているし、大体それくらいの頻度でお邪魔するのが正解かな。その辺りも後でアリューシアに相談してみよう。

正直、ルーシーにも今回は見学と言っているし、別にまだ講師をすることが決まったわけじゃない。この段階で断ることも多分出来る。

しかしながら今日のフィッセルの様子を見る限り、きちんと教えられているか、と問われるとそれは難しい話になる。一度見てしまった手前、このまま「じゃあ頑張ってね」とほっぽり出すのはどうにも締まりが悪い。

なのであくまで補助的に、邪魔にならない程度に。そして、フィッセルの成長に繋がるような感じでちょこちょことお邪魔させてもらおうと思った。

魔術師学院という生え抜きの中で、あえて剣も学んでみようと考えたある種酔狂とも言える生徒五人。彼らの成長を少し見てみたいという欲も出てきたことだしね。

「フィッセルも教え方を覚えていかないとね」

「……うー」

「そこで拗ねるんじゃないよ……」

先行きがちょっと、いやかなり不安なんだが大丈夫だろうか。

実際、今後ずっと素振りだけを繰り返されるのも困る。実践的なことをどこまでやるかは不明だが、打ち合いの練習なんかも多少なりやることになるはずだ。剣魔法は明らかに戦うための技術なんだから、戦う術も教えていかないといけない。

「先生がずっと見てくれればいいのに」

「それが出来れば苦労はしないんだけどね。だけど、フィッセルがその心構えじゃ駄目だよ」

「……うー」

「こら」

「分かってる……がんばる……」

俺は分身なんて出来ないからね。この身は一つしかないのである。そもそも魔法使えないし。

それに、どういう経緯があったとしても、結果として今魔術師学院でフィッセルが教える立場になっているのは事実だ。その事実を軽視して、あるいは無視して、自分には向いていないから俺に頼もう、という精神は少しいただけない。

「経緯は知らないけど、受けたのは君だ。そこの責任は果たさないとね」

「……うん」

彼女はうちの道場の剣術をすべて修めて、ちゃんと卒業した。なので、今から改めて弟子として扱うのはちょっと違う。弟子ではなく、ものを教える先達として、彼女にはこれまでとは少し違った接し方も必要になってくるかもしれない。

それでも、ただ剣を学ぶ立場から人に教える立場になったというのは喜ばしい。俺なんかの技術や経験が役に立つのなら、いくらでも持って行ってほしいところだ。

「ふふ。まだ教わることが沢山」

「期待しているよ、フィッセル先生」

「むー」

そんな雑談を交わしながら、俺たちは教室を後にした。