軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【クリスマスSS】 ルーク、その名の由来

【※ このお話はクリスマス特別企画です。本編とは関係ありません。】

~ ~

「くりすます?」

リーデルハイン邸にて、お茶の時間。

コピーキャットでおやつにお出しした「ブッシュ・ド・ノエル」を頬張りつつ、クラリス様はかわいく首を傾げられた。

リルフィ様のお膝に抱かれたまま、俺は説明を続ける。

「私のいた世界では、年末にクリスマスという宗教的なイベントがあってですね。祝い方は国ごとにちょっとずつ違っていましたが、このケーキはその日によく食べるモノだったのです。で、その日の深夜になると、サンタクロースと呼ばれる謎の不審人物が現れ、睡眠中の子供たちの枕元にプレゼントを放置していくという恒例行事みたいな伝説がありまして……こちらには、そういうのはないんですか?」

同じくケーキを召し上がりながら、リルフィ様が俺の喉元を撫で回した。ごろごろ。

「プレゼントはありませんが……年末に子供の元を訪れる不審人物ということでしたら…… 命名者(ネイマー) ・ヘイゲルという風習がありますね……」

ほう? これは初耳である。

「ヘイゲルというのは、かつて凶暴な魔獣を打ち倒した狂戦士の名でして……このヘイゲルに名前をつけてもらった孤児達は、みな元気に成長したという伝承があります……」

おお。なんだかいかにも聖人っぽいエピソードだ!

「……その伝承にちなんで……年末になると、村や町の有志が、そのヘイゲルを模した、恐ろしい顔の狂戦士のお面をかぶり……」

……おっと、雲行きが怪しくなってきた。

「……藁で編んだ鎧を着て……魔物を打ち倒したとされる、赤い血に濡れた 鉈(なた) を持ち……その年に生まれた赤ん坊や幼い子供のいる家などを、集団で訪れるのです……」

………………………………………………ナマハゲかな?

「……このヘイゲルは、悪霊を祓う存在とされていまして……その来訪を受けた子供は……無病息災で元気に育つという、言い伝えがあります……またヘイゲルには、ワール、エコー、ハイネ、ガーという、四人の従者がおり……それぞれが武装して、悪霊を祓います……一説には、この四人はヘイゲルに命名された子供達で……ヘイゲルの加護を象徴する存在であるとも言われていますね……」

ナマハゲだな。「悪い子はいねがー」だな。

……おそらく転生者の持ち込んだ風習が、こちらの故事と変な化学反応を起こして変異したのであろう。混ぜるな危険とゆーヤツである。

「ええと……私がいた世界にも、ごく一部の地域で、由来は全然違うものの、そんな感じの風習がありました。ただクリスマスとはぜんぜん別ですねぇ」

クラリス様が優雅に紅茶を傾ける。

「うちの料理人のヘイゼルは、この『 命名者(ネイマー) ヘイゲル』にあやかった名前なんだって。よくある一般的な名前だから、区別できるように、『ヘイゼル』『ヘイジェル』『ヘイガル』『ヘイズル』みたいな感じで、わざと一音だけ変える人も多いの」

「なるほど。そういえば、私の『ルーク』という名前をつけてくださったのはクラリス様ですが、これはどういった由来なのですか?」

前世なら、ルークといえばチェスの駒、「城」「戦車」である。

あと「詐欺師」という意味もあり、これはなかなか 悪辣(あくらつ) にして 狡猾(こうかつ) たる魔性のルークさんにふさわしい気がするのだが、クラリス様からの名付けに影響したとは考えにくい。

「ルークの名前は、伝説に出てくる英雄からもらったの。ルー・クー・ルゥっていう……リル姉様は知ってるよね?」

「………………はい。もちろん……」

リルフィ様のお答えに、一瞬の間が……

その理由を気にしつつ、俺の次の問いは当然こうなる。

「英雄の名前とは恐れ多いです! どんな方なんですか?」

――クラリス様は、実にわざとらしい慈悲にみちた微笑を湛え、無言で俺の耳をぴこぴこと押した。

俺はリルフィ様のお顔をぢっと見上げる。

「…………どんな方なんです?」

「えっ……えっと……あの……その……」

リルフィ様は珍しく視線を逸らし、ごまかすように俺を胸の上に抱きかかえた。にゃーん。

……この態勢になると本能的に埋もれてしまうのだが、なんか「とりあえず抱っこすればごまかせる」とか見破られていそうで、我ながらチョロすぎる気がする……

ともあれお二人はその後も話してくれなかったので、お茶会の後、俺は騎士団長ヨルダ様の元へたったかとお邪魔した。

延々と腕立て伏せを続けるヨルダ様に頼まれて、その背中に負荷として乗せていただき、ひたすら上下に揺られるルークさん。

その状態で俺が質問を向けると、ヨルダ様は吹き出してしまわれた。

「ルー・クー・ルゥかぁ……クラリス様もうまい名付けをしたもんだ。いや、悪い悪い。他意あってのことじゃなかろうよ。ルーク殿、気を悪くしないでくれ」

「えーと……その反応を見るに、もしかして悪い人……ですか?」

ヨルダ様がまた吹き出す。

「当時の一部の連中にとっちゃ、極悪人かもしれんがね。英雄としての戦果はすさまじいし、今じゃ立派な信仰の対象だ。ルー・クー・ルゥは、美形の紳士で女たらしで大食らい、自由奔放で口が上手く、口説いた女は千人以上……正式な妻が三十人もいて、生まれた子供は百人以上とも言われているが、このあたりはまぁ、昔の英雄にありがちな誇張だとは思う」

……ルークさん、真顔。それは普通にヤバい人では……?

「出自は不明だが、ある国を襲っていた魔獣を退治して貴族に取り立てられ、その後は諸国を回りながら浮き名を流しまくったっていう伝説の遊び人だ。今じゃ神格化されて、賭博や恋愛、子宝、旅行の安全なんかにご利益のある聖人扱いだが、当時はまさに女の敵、男からもやっかまれる立場だっただろうよ。まあ、時代が違うから、今の感覚で決めつけるような話じゃないがね」

「……またどーして、そんなモテ系の英雄様の名前を……今の私とは完全に真逆の存在じゃないですか……」

「え?」

ヨルダ様が不思議そうな声を発した。

「……いや、むしろ共通点は多くないか? ルーク殿は愛嬌のある猫だからもてるだろうし、口もそこそこ上手いし、自由なイメージもあるし……大食らいってのも、まぁ当たってるだろう」

……大食らいだけは認める。コピーキャットも便利だし、料理人ヘイゼルさんの家庭料理もおいしいから、最近ちょっと食べすぎてる……

しかし他の要素はどうであろうか?

「女たらしですかね?」

「少なくともクラリス様とリルフィ様はよく懐いているだろう。まぁ、男女問わずたらしこんでる気もするが……」

「美形の紳士?」

「ルーク殿は顔立ちに険がないからな。言動は紳士的だし、これは異論あるまい」

「自由奔放……」

「なにせ猫だからなぁ……猫にしては生真面目で規律正しい気もするが、しかし人よりは自由なはずだ」

む。ヨルダ様の眼にはそんな感じに見えているのか。

しかしこれらは、英雄のルー様に限らず、ほとんどの猫に共通する要素ではあるまいか。

「……もしかして、猫の名前に『ルーク』って、割と一般的です?」

「そうだな。決して珍しくはない」

つまりコレは「タマ」とか「ミケ」のよーなものか。いや、そこまでド定番の名前ではないにしろ、「ペットの名前ベスト50」とかにはランクインしそうな名前なのだろう。

ヨルダ様は腕立て伏せをやめて、その場にあぐらをかいた。

俺も背中から降りて、芝生の上で丸くなる。

「そういえば……英雄ルー・クー・ルゥには伝記があってな。その冒頭はだいたい、『野菜泥棒』の話から始まる。どこからともなく旅をしてきたルーが、飢えに耐えかねてある農地で野菜を盗んでしまい……しかし、そこの農夫は気のいい男で、ルーを許してしばらく家に泊めたんだ。ルーはその恩返しに魔獣退治をして、それをきっかけにどんどん出世していって……農夫の男も後年、義理堅いルーからの恩返しで村長になったって筋書きでな。それにちなんで、道に迷った旅人を『迷子のルー』なんて呼ぶこともある。ルーク殿の場合、こちらのイメージのほうが近かったかもな」

野菜泥棒……! これは納得するしかない名付けである。

クラリス様やリルフィ様があえて教えてくれなかったのも、由来が「女たらしの野菜泥棒」などとは言いにくかったからだろう。

「迷子の野菜泥棒ですか……私もあの時、クラリス様に拾っていただかなかったら、今頃どーなっていたことか――」

やさぐれた野良猫となり、にゃーにゃー言いながら、山奥に密造のトマト様畑とか作っていたかも知れぬ……

そして畑を荒らしに来た野生のイノシシやシカと戦い、やがて昨日の敵は今日の友理論で仲間となり動物王国を結成、遂には山を荒らす愚かな人類に鉄槌を――!

……ダメなルートだなコレ。

やはりルークさんにはお気楽なペットの立場がよく似合う。晩ごはんまではお昼寝をして過ごそう。

「あ、そーだ。さっきリルフィ様から『 命名者(ネイマー) ・ヘイゲル』という風習についてもお話をうかがったんですが、リーデルハイン領でもやってるんですか?」

「ヘイゲルとはまた、英雄ルーとは真逆の人材がきたな……ああ、年末になると、町内会の有志がやってるぞ。俺も混ざったことはあるんだが……体格が無駄にでかいせいで、子供に大泣きされて――トラウマになっている」

あー。ありそう……ヨルダ様の体格で鬼(※狂戦士)っぽい 扮装(ふんそう) をされたら確かに怖い。俺でもにゃーにゃーと鳴いてしまう。

「もしかして、泣いちゃったのってクラリス様ですか……?」

ヨルダ様は真顔で首を横に振った。

「いや、クラリス様は平然とされていた。赤ん坊の時は単に何もわかっていなかったんだろうが、二年くらい前、屋敷にヘイゲルが来た時は、なんというか、こう……平然と一礼して出迎えて、『みんな、寒い中おつかれさま』なんて 労(ねぎら) いつつ、メイドに用意させておいたホットワインとサンドイッチを振る舞って……ヘイゲル役の連中、恐縮してたな……」

……なんという芸人殺し。しかし、とてもクラリス様らしいエピソードといえよう。貴族のご令嬢として、領民に対するいたわりの心は大切である。

英雄ルー・クー・ルゥに関する情報と、クラリス様のかわいらしくも末恐ろしい思い出話を入手した俺は、ふたたびリルフィ様のおうちへ戻った。

「……あっ……ルークさん、おかえりなさい……」

リルフィ様は読書中であったが、いそいそと立ち上がると俺を抱えあげ、再び着席した。暖房器具の一種と思われてそう。

「今、ヨルダ様から『ルー・クー・ルゥ』のお話をうかがってきまして……リルフィ様達が言い淀んだ理由も、理解しました」

リルフィ様がほんの少しだけ俯き、俺の毛並みをモフモフと撫でる。

「…………そうでしたか。いえ、隠す意図はなかったのですが……」

「まぁ、ちょっと言いにくいですよね……」

「えぇ……第一夫人の名前が『リルフィ』だなんて……クラリス様も、そこまで意識して名付けたわけではないでしょうし、ただの偶然とはわかっていますが……」

……初耳だな!?

え、何その想定外の新情報!?

リルフィ様は 訥々(とつとつ) と、ルークさんの耳元に吐息のよーな囁きを吹き込む。

「……でも、もちろんルークさんは、英雄ルーとは全然違うって、ちゃんとわかっていますから……」

それはそうである。こちとら英雄ではなくペット枠の猫さんだ。

……リルフィ様の美声が、こころなしか、ほんのりと湿度を増す。

「…………そもそも、ルークさんは……英雄ルーと違って、『浮気』なんて、しないですよね……?」

「………………………………………………そうですね?」

浮気の云々以前に、ペットの猫なので相手も存在しないわけだが――

とはいえそのうち、どっかの猫さんとの御縁とかあるかもしれないが、いずれにしてもルークさんてば性格的にはごく小心者なので、浮気するほどの甲斐性とかは持ち合わせていない。

……なのに、尻尾が震えるのはどうしてだらう。

嗚呼(ああ) 、 斯(こ) うしてぴくりとも動けず丸まつてゐると、 背(せな) を撫づるりるふい様の細指が、まるで僕を戒める鎖のやうぢゃないか……

特に意味もなく旧仮名遣いに逃避してしまったが、一体何に怯えているのか、ルークさん自身にも 皆目(かいもく) 見当(けんとう) がつかぬ……

だって間近に見たリルフィ様のご尊顔は、今日も女神様のようなお美しさ……微笑はたおやかで神々しく、見つめているだけで賛美歌とか聞こえてきそう。今なら俺、パト○ッシュのモノマネとかできそうな気がする……!

そんな感じに昇天していると、戸口にクラリス様が現れた。

「……ルーク、なんか眼の焦点があってないけど大丈夫?」

「大丈夫です。なんでもないです。本当になんでもないです」

クラリス様は、その手に大きなお面のようなモノを持っていらした。

「これ、物置に置いてあった『 命名者(ネイマー) ヘイゲル』のお面。顔が赤くて牙が生えていて、眼がぎょろっとしてるの」

……………………………………ナマハゲだなぁ。少なくともサンタさんではないなぁ。クネヒト・ループレヒト(黒いサンタクロース)ですらないなぁ。

うっかり浮気とかする悪い子になったら、年末あたりに食われてしまいそうなので……ルークさんは今年一年、良い子でいつづけることを心に誓ったのであった。

おわり