軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

37・ライゼー様の蛇退治

さてさてさて。

ルークさんは大興奮であった。

来賓(らいひん) 仕様の豪華な馬車に揺られ、やってきました王様のお城!

堀にかかった大きな跳ね橋!

いくつも突き出た石造りの尖塔!

延々と続く高くて立派な城壁には、白黒のシンプルな国旗が多数翻っている。

これぞまさにファンタジー感溢れる古城の趣。実物はやっぱ迫力が違う!

当初、職人街以外には興味ないとか言ってたルークさんであるが、この光景には思わず目が輝いてしまった。

和洋問わず、お城や塔といった大きい建造物への憧れは男の子の業である。これは不可抗力であろう。

よくよく見れば、前世のお城と比べ、やはり細部がいろいろと違う。

城壁の上に 弩(いしゆみ) や大砲などはない。代わりに、水晶が埋め込まれた杖みたいな、変な装置がいくつも設置されている。

あれってバリアとか? あるいは魔導砲みたいなシロモノ? 置いてある場所からして、兵器であることはたぶん間違いない。

さらには城壁の石も……光沢があるとゆーか、妙につるつるしている。何かコーティングがしてあるっぽい。

「わー。石がいっぱい!」

ピタちゃんも初めて見るお城にびっくりなご様子。そりゃ、森の奥深くにこんな建造物はないだろう。

「森の奥にある、邪神像の遺跡みたい!」

………………よし、聞かなかったことにしよう。ルークさん突っ込まない。これは「ツッコミを放棄する」&「首を突っ込まない」という、二重の決意である。気にはなるけど気にしたら負け。

そんな感じで、馬車の窓から外を眺めるでかいウサギと猫一匹。間にクラリス様。

城門付近の衛兵さん達からは、びっくりした顔でお見送りいただいた。

貴族の子供なら珍しくないんだろうけれど、動物が二匹も城に入るというのは普通ではないのだろう。

しかし止められることもなく、そのまんま素通り――

おそらくは事前になんらかの通達が出ていたと思われる。

クラリス様のお膝の上から、俺はリルフィ様を振り返る。

ちょっと緊張されている様子なので、雑談でも振って気を紛らわせていただこう。

「リルフィ様、大きなお城ですね! 一つの町くらいの大きさがありそうです」

「あ……そう、ですね……元々は、この城壁の内側にも、人々が住み暮らす町があったそうです。今は外側に町が広がったため……城壁の内側は、政府機関と関係者の宿舎、王族の住居などで占められていますが……その頃の名残で、いまだに城内での営業を許されているカフェなどもあるとか……」

馬車に同乗していたアイシャさんがくすくすと笑う。

「ああ、あそこ、便利なんですよ。いちいち外まで出かけなくても、軽食くらいはとれますし……あと、町で流行っているものを取り寄せたりもしてくれるので、体裁の都合で気軽に町を歩けない上位の貴族が、すっかり居着いちゃって……あ! トマト様の宣伝にもちょうどいい場所だと思いますよ。味さえよければ、新しいものに敏感な貴族や有力商人が飛びついてくるはずです。ご希望とあらば、お師匠様が口利きしてメニューに採用してくれると思います」

ほう! つまり城内における貴族向けのアンテナショップとして活用できるわけか。これは交易にもつながりそうだし、なかなか魅力的なお話だ。こちら側のトマト様加工品量産体制が整ってからの話になるが、折を見て委託をお願いしたい。

「それはありがたいですね。生産体制が整った頃に、ぜひお願いしたいです」

「はい。ちょうどいいですから、今日の会談場所もそちらのカフェの個室を借りましょう。研究室はちょっと散らかっていてこの人数だと手狭ですし、他の研究員達の視線もありますので――今はちょうど季節限定のランタン・ケーキが出ていますから、皆様にもおすすめですよ」

聞き覚えのないスイーツ! これはこちらの世界のオリジナル品かな。

俺としては気になるのだが、リルフィ様は曖昧に微笑んだだけで、クラリス様に至ってはあまり興味なさげ……

……普段からコピーキャット印のオーパーツスイーツを召し上がっていただいているから、その影響か。

しかし砂糖不使用というハンデつきで、どのようなスイーツを提供しているのか、ここは後学のためにぜひ味わっておきたい。

馬車から見える城内の風景は、なるほど、説明通りに小さな町であった。

規模感としては中規模のテーマパークぐらい?

城内の移動にも馬車を用いるレベルであり、何やら高級品を扱ってそうな店もちらほらとある。

「城内は、王族の住まう本城を中心として、4つの区画に分かれています。大雑把に言うと、北側が軍関係の機関、及び兵士の宿舎、東側が備蓄品や兵器などの保管庫、西側が内政関係の機関と官僚の宿舎……で、この南側が、外交関係と研究関係ですね。私が属する王立魔導研究所も、この南側の区画にあります」

クラリス様に抱っこされながら、俺はライゼー様を見上げた。

「ライゼー様は軍に近い派閥なのですよね? いつもなら北側の区画に行かれるのですか?」

「そうだな。この南側にはほとんど来ない。来てもせいぜい通過する程度だ。北側にも食堂などはあるし、なんというか……派閥の違う者が別区画を訪れると、好奇の目にさらされる。あらぬ噂を招いても困るし、人に話せる明確な理由や用事がないと、少々居心地が悪い」

アイシャさんが大きく頷いた。

「ああ、わかります。私などは師の使いで、よその区画を訪れる機会も多いのですが――ライゼー様は、軍閥の有力者たるトリウ伯爵の 懐刀(ふところがたな) ですものね。三年前の一件もありましたし、立ち居振る舞いも含めて、存在感がありますから」

「いえ、そのような……」

ライゼー様が 謙遜(けんそん) されている……え? 「三年前の一件」って何?

「叔父様……三年前というのは、何かあったのですか……?」

おや、リルフィ様もご存知ない様子。クラリス様も首を傾げておられる。

一方、ヨルダ様は含み笑いを堪えきれず、肩を震わせていた。

「おいおい、家族にも話していないのか? あの武勇伝は騎士団じゃ語り草なんだが――」

「ヨルダ! ……いや、まぁ……隠すような話ではないんだが……」

ライゼー様がわずかに嘆息した。

「……三年前の社交の時期、城へ出向いた折に、北門のあたりでな。頭上から不意に、ギブルスネークが降りてきたんだ。手近な子供に襲いかかろうとしたものだから、衛兵から槍を借りて、私が仕留めた。それだけの話だ」

ギブルスネークって――蛇? こんな町中で?

今ひとつピンとこない俺とは裏腹に、リルフィ様は息を呑んでいる。

ヨルダ様が補足を加えてくれた。

「ルーク殿。ギブルスネークというのは、蛇のような胴体に六対十二枚の 翅(はね) を持つ“魔獣”だ。風魔法を駆使して空を飛び、時に人間や、牛・豚などの家畜を襲い、ちょくちょく被害を出している。大きさには個体差があるが、牛を丸呑みにできる空飛ぶ大蛇ってところだな。肝心の強さは、まぁ……ライゼーのほうが強かった、という話だよ。ちなみに、並の兵士じゃ手も足も出ないぜ」

想像してみたその姿に、なんとなく心当たりが……

もしかしてあれか! ウィルヘルム君と初めて会った夜に、お月さまの前を飛んでた蛇みたいなシルエットの――!

リルフィ様に詳細確認するのをすっかり忘れていたが、どうやらそこそこポピュラーな魔獣だったらしい。

「たまたま槍が急所に刺さっただけだ。二度はできん」

ライゼー様は事も無げにそう言ったが、リルフィ様はまだ唖然とされている。

「……あの、叔父様……飛び道具や罠なしでギブルスネークを仕留めるなんて、そんなの、よほどの達人でなければ……?」

さすがは槍術B――! 「達人」ではなく「優秀」評価だが、実は護衛の騎士さん達ですらほとんどC評価であり、B以上というのはやはり確かな実力者である。

アイシャさんもにこやかに頷いた。

「もちろん、偶然できることではありません。空から来たとはいえ、王都の中心部にそんな魔獣の侵入を許した時点で大騒ぎでしたが……それを“子爵家の当主自らが、平民の子供を庇ってあざやかに仕留めた”となれば、大評判になるのも当然です。あの一件でリーデルハイン家の名を知った者も多いのではと思います」

「俺はたまたま別行動だったせいで見逃したが、護衛につけていた部下達もえらい興奮していたぞ。護衛が動く間もなく、怯えて立ちすくむ衛兵からすかさず槍を奪い取り、そのまま一撃で魔獣を仕留め、颯爽と槍を返して名乗りもせずに城内へ立ち去ったと――少し遅れて“あれは誰だ”と騒ぎになったそうだが、なんで逃げたんだ?」

ヨルダ様の問いかけに、ライゼー様は渋い顔。

「逃げたわけじゃない。会合に遅れそうだったから急いでいただけだ。だいたいギブルスネークなんて、お前も隊商の護衛でなんだかんだと十匹くらいは仕留めているだろう。私はその様子を間近で見てきたから、倒し方も真似できただけだ」

そして深々と重い溜息――

「……それより、あの一件で中途半端に目立ってしまったせいで、一部の貴族から変な対抗心をもたれてな。翌年は嫌味を受け流すのに苦労した。あと……士官学校に入ったクロードにも、要らん迷惑をかけている気がする。私の息子ということで武芸に期待され、重荷になっているのではないかと……」

「そこは心配しなくていい。お前やサーシャが強すぎたせいで自信をなくしているが、クロード様とて大多数の貴族の平均よりは充分お強い。俺が教えた小手先の技も使えるし、校内で十指……あるいは五指くらいには入っているかもしれんよ。少なくとも、リーデルハイン家の名声に傷をつけるような状況にはなっていないはずだ」

ほう。

件のクロード様、ライゼー様やサーシャさんからの評価は辛口だったが、ヨルダ様はまた別の見解をお持ちのようだ。

たぶんライゼー様やサーシャさんからの評価は、「自分と比べて」という基準になってしまっている。一方、ヨルダ様からの評価は「大多数と比べて」という客観的な視点のもので、たぶんこっちのほうが信頼性が高そう。

ライゼー様もサーシャさんも武力Bだったし、おそらくクロード様は武力Cくらいなのかな? 護衛の騎士さん達もだいたい武力Cなので、彼らと同レベルなら貴族としては充分であろう。

「ヨルダ様からは高い評価なのですね。ところでクラリス様から見て、クロード様ってどんなお兄様なんですか?」

好奇心から俺が問うと、クラリス様は少し考えた後、明確にこう仰った。

「子犬っぽい」