軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35・ウサギが仲間にくわわった!

「…………ということで、こちらの聖獣ピタゴラス様も、リーデルハイン家のペットに加えていただきたく……」

再び進み始めた馬車の中で、俺はライゼー様にそんなご相談をもちかけた。

ライゼー様は頭を抱えておられる。わかる。俺も割と困惑してる。

「……あ、あのな、ルーク……? ペットはともかく、同行と滞在は構わないし、むしろ光栄の至りなんだが……その方は、“聖獣”ではなくて“神獣”だ……人の言葉を解しておられる……」

あ。そーか。人語を喋れるかどーかで聖獣と神獣を分けてるんだっけ。

「さいきん、しゃべれるようになったの。えるふのみんなもびっくりしてた!」

ピタちゃん無敵のにこにこ笑顔。

つまり最近になって聖獣から神獣へ進化(?)したとゆー感じか。

そしてリルフィ様は緊張で固まってる。人見知り属性だからしゃーない。

僭越(せんえつ) ながらお胸を足場にしてその細い肩によじのぼり、俺はリルフィ様にそっと耳打ちした。

「……あのー、リルフィ様。神獣って、そんなに凄い存在なんですか……?」

「も、もちろんです……さすがに亜神よりは下位の扱いですが、目撃例や接触例、加護や被害の実例が、亜神よりもはるかに多いので……より現実的な脅威という意味では、その影響力はとても大きいです……神獣の住まう地域は、魔族の領地と同じく不可侵としている国も多く、一部の宗派においては“聖地”としている例もあります……特にトラムケルナ大森林のクラウンラビットは、獣というより精霊に近い存在とも言われていまして……一説には、地の精霊と森の精霊が、森を守らせる目的で作り出した魔法生物だとも言われています……」

へー。

そういえばクラリス様も、俺を初めて見た時、まず「神獣の子供?」とお聞きになられた。つまり神獣との遭遇例はこの世界においてそこそこあると知っておられたのだろう。

そしてライゼー様が、珍しく俺にすがるような眼差しを向けた。

「……ともかく、ペット扱いはあまりに恐れ多いんだが……いや、それを言ったら亜神のルークをペット扱いすることにも、もちろん抵抗はあるんだが、君は猫の姿で、しかもペット扱いを最初から希望していた。しかし、こちらのピタゴラス様はそうではない。人間のお姿にもなれることだし、ここは“客人”という扱いで……」

正論である。

……いや、 正体(ウサギ) はともかくとして、こんな幼女口調のバニーガール的美少女をペット扱いとか完全に犯罪だ。ライゼー様が良識のあるお貴族様で本当によかった。

ピタちゃんはきょとんとした顔。

「ぴたごらすはそーいうの気にしないよ?」

「……人間社会には、建前とか体面とかいろいろあるのです……で、ピタちゃん、本当に森を出ちゃって大丈夫? もちろん帰りたくなったらすぐに帰れるけど、心配する人とかいない?」

保護者から無用の怒りを買うのは勘弁だ!

ピタちゃんは力いっぱい頷いた。

「だいじょーぶ! かみさまについていくって、さっき伝えたから! ルークさまのお声はみんなにもとどいてるし、“けもののおう”さまだから、おつかえできるのはうらやましいって、みんなにいわれちゃった♪」

「…………“獣の王”……?」

おっと、ライゼー様にはまだ言ってなかった……亜神の件はお話したが、特殊能力については……

「……聞き流してください」

「…………わかった。聞き流す」

ライゼー様、だいたい察してくれた。やさしい……というか、これはもう諦めの境地であろう。

あとどうやら、ピタちゃんは森の仲間たちと念話か何かで意思疎通できるっぽい。距離の制限はあるだろうが、とても便利そう。

ルークさんも「獣の王」で動物と会話できるけど、近くにいないと無理だし、いわゆる「念話」とかもまだ使えない……つまり念話でリルフィ様と内緒話したりもできない。

とはいえ今回使った猫魔法、「メッセンジャーキャット」で、一方的に伝える分には問題なさそうなので、今後の能力発展に期待だ。

同行が確定して安心したのか、やがてピタちゃんはウサギ(大型犬サイズ)の姿に戻り、クラリス様の膝を枕にくうくうと眠り始めてしまった。

そこはルークさんの定位置であったはずなのだが、ペットとしてちょっとだけ嫉妬心……ついでにウサギのモフモフが心地良すぎたのか、クラリス様も寝てしまわれた。デカいウサギと幼女の組み合わせとか尊いから許す。

一方でリルフィ様も上機嫌である。

というのもクラリス様のお膝にピタちゃんが頭を預けているため、狭い馬車の中では自然とルークさんの居場所がリルフィ様のお膝の上に――

「ふふっ……ルークさんを独り占めできて幸せです……」

…………リルフィ様は本当に猫がお好きなのだなー(棒)

撫で回されたり抱き締められたり毛並みを堪能されたりと、よく飽きないものであるが、こちらも快適なのでつい喉をごろごろ鳴らしてしまう……

そんなペット二匹を眺め、同乗されているライゼー様はお疲れのご様子だった。

「……で、宮廷魔導師のルーシャン様にも、こちらのピタゴラス様を紹介するのか?」

「そのつもりです。というか、王都でこの子を一人にしてしまうのは危ないと思うので……本人が森へ帰る気になるか、あるいはリーデルハイン領に戻るまでは、なるべく一緒に行動します」

「ああ、まぁ……それがいいだろうな。私は王都では、どうしても貴族相手の会合が多くなる。その場にピタゴラス様をお連れするのはさすがにまずいから……クラリスやリルフィともども、ルークにまかせてしまっていいか?」

「はい、おまかせください!」

俺は肉球で自らの胸を叩いてみせる。

全身モフモフなせいで「ぼふん」と情けない音しか出ないのだが、気概は伝わったはずである。

「念の為、サーシャもつけるし、士官学校には長男のクロードもいる。もしもあいつが暇なようなら、君らの王都見物の道案内をさせよう。忙しいようなら、冒険者ギルドにでも行って道案内を雇うという手もあるが……まぁ、必要ないか。サーシャと一緒にいられる機会をあいつが逃すとも思えん」

あら。あらあら。おやおやまぁまぁ!

前からちょっと気になってはいたのだが、やっぱりお二人はそういうご関係? あれ? しかもライゼー様公認?

貴族と平民で問題ないのかな、とか一瞬思ったが、そもそもライゼー様の奥方も商家のご出身だそうだし、サーシャさんはあのヨルダ様の娘さんである。

跡取り息子が親友の娘さんと結婚、なんてことになれば、むしろ喜ばしいのだろう。

「あのー……もしかしてサーシャさんには、“未来の子爵夫人”なんて可能性が……?」

若干ニヨついて問う俺に、ライゼー様も困ったような笑みを返した。

肝心のサーシャさんは、馬車の外で馬に乗っている。彼女も立派な護衛である。メイドさんのスカートが騎乗でめくれてもまったく問題ないように、スカート風の腰巻き+長ズボンという冒険者風のスタイルだ。

「私とヨルダはそう望んでいるが、当人同士がな……いや、クロードは奴なりに頑張っているようなんだが、サーシャがなかなか手厳しい。あと、ヨルダの娘にしては妙に生真面目で……“平民の自分などが”と、一歩ひいてしまうところがある。ともあれ、まだ急かすような話でもない。あと数年は見守るつもりだ」

リルフィ様がくすりと微笑んだ。

「あの二人は子供の頃から仲良しでしたから……サーシャが召使いになったのは最近ですが、クロード様とのお付き合いそのものは、五歳頃から続いていると聞いています……確か、護身術の練習相手だったと……?」

「ああ。ヨルダの奥方は元拳闘士でな。最低限の護身術を学ばせる目的で、幼いクロードをしばらく通わせたことがある。年が近いから、互いにちょうどいい練習相手になったんだろうが……」

「え? ヨルダ様の奥さんって、町で織物の工房をやってらっしゃるんですよね? 元拳闘士?」

そういえばサーシャさんの適性にも「拳闘術」なんてのがあったが……アレは父親のヨルダ様からではなく、母親側から受け継いだモノだったのか。

「うん。ヨルダの奥方――シエル殿というんだが、彼女は十代の頃、王都で拳闘士として稼いでいたそうだ。かなり強かったらしいが、いつまでもできる仕事でもないからと、引退後を想定して織物の工房で働き始めて……そっちでも才能が開花した。商家のツテでその工房を紹介したのが若き日のヨルダで、それが縁になって結婚、拳闘士を引退してリーデルハイン領に引っ越しという流れだな」

「へえー。ということは、幼き日にその方から指導を受けたクロード様も、拳闘術がお得意なんですか?」

ライゼー様、無情なまでにあっさり淡々と首を横に振った。

「いや、全然。実力の面では、サーシャのほうが一枚も二枚も上手だろう。あいつに武芸の才はない。だが、地頭は良いから、為政者や指揮官としての才ならありそうな気がしている。これは親の 贔屓目(ひいきめ) かもしれんが……」

リルフィ様が頷いた。

「いえ、贔屓目などではなく、私もそう思います……クロード様は叔父様と同様、物事の本質を見極める目と知恵をもっておいでです……武芸は臣下の兵に任せられますが、むしろこちらのほうが、兵を率いる者にとっては重要な資質と思いますので……クロード様は、きっと良い領主になられると思います……」

ふーむ。まだお会いしていないが、これは体力と武力がDかCぐらいで、知力や統率がBになるパターンだろうか。いわゆる内政向きの人材である。クラリス様の兄上らしいステータスと言えよう。

しかし、一番重要な「人柄」とか「性格」は、ステータスからはわからない。

クロード様、どんな方なんだろう……あの気立ての良いサーシャさんの婿としてもふさわしいお人柄なのかどうか、俺もしっかりと見極めねばなるまい。

その後の道中、馬車はつつがなく進み、王都に着いたのはそれから三日後のことだった。