軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

232・たぶん後世で「ラズール学園の猫騒動」とか言われるやつ

報復テロは防いだ。

連動して動いたヤバそうな忍者も、遠隔地へ宅配し簀巻きにした。

あとは通りすがりの猫さんっぽく、知らん顔して撤収!

……というムーブも一応は検討したのだが、たぶんそれをやると予想だにしない方向性のデマが拡散し、後日、かえって面倒なことになる……

こういう時は「真実をまじえつつ、こちらにとって都合のいい落とし所」をきちんと提示したほうがいい。上位存在の介入であることは明白なので、こちらの意向と正しい(?)情報さえ発信すれば、皇族の方々も配慮してくださるだろう。

『というわけでトゥリーダ様、さっきの偽衛兵はいなかったことにして、このまま放送をお願いします。まず客席の混乱を静めてください』

「『というわけで』じゃないんですよ……そういうのを無茶振りっていうんです……」

……やっぱり? リルフィ様以外の人でも、ハイライトさんって職務放棄するんだ……(新たな気づき)

「むしろもう、ルーク様がこっち来て説明してくれません……? こんなの私がどう言い訳しても無理ですって……今から私がてきとー言ったって、よけいに不審がられるだけじゃないですか……」

トゥリーダ様がしなびておられる……気を張って頑張って公開生放送してたのに、急な猫さん大暴れで緊張の糸が切れてしまわれたのだろう……むりもない……

中忍三兄弟が、そんなトゥリーダ様に「にゃーん」と甘えて慰めてくれている。やさしい。まるで落ち込んだ新人タレントを元気づけるADさんのよう……

そしてマードック学園長は 事態の推移(ねこさんぽ) についていけず、当初は目を白黒させていたが……今は状況を見守って、動揺しつつも膝上に登ってきた黒猫魔導部隊をあやしておられる。猫力は確か66ぐらいだったはずだが、まあまあ猫好きだな? 実年齢はおじいちゃんなので猫の扱いにも慣れている。きっと学内猫さん達ともおさんぽ仲間なのだろう。適度な距離感というやつである。

この場で俺の存在を知らないのは、あとは放送部女子二人組ぐらいなのだが、こちらも当然のごとく猫好きさんなので……怪しい衛兵達が急に消えたことにはびっくりしつつ、それはそれとしてサバトラ抜刀隊を抱っこし、怖がるふりをして猫吸いをキメておられる。ちゃっかりしてんな?

さすがに今のルークさんが、この場へそのまま顔出しするのははばかられるので……

俺より見た目が神々しいウィンドキャットさん(二匹目)を室内に顕現させ、代役を務めてもらう。いつもの偽装工作である!

……これやらないとね……リルフィ様とのおさんぽ中に会ったことあるマードック学園長には、毛並みと体型で正体がバレそうなんですよね……

「えー……さきほどはたいへんお騒がせしました。どうも、猫の精霊です。よろしくおねがいします」

ウィンドキャットさんが声に合わせてぺこりと一礼。俺に似て賢い。ねこはいます。

学園長が驚いて硬直し、放送部女子達が「わぁっ」とキラキラおめめになる。

威厳とか示すほどの事態でもないので、猫はざっくばらんに要点をかいつまんだ。

「今の衛兵達はそこの護衛の方が見破った通り、偽者でした。ただ、ちょっと聞きたいことがありましたので、私のほうで拘束しています。それから、その直前の貴賓席での騒ぎについてですが……あれは水蓮会の自爆気味な報復行為がきっかけです。主な狙いはバルカン侯爵家とかソロム伯爵家だったようですが――あそこには、私が庇護する『バロウズ大司教』もいらっしゃいましたので、緊急事態ということで対応した次第です」

マードック学園長、顔面蒼白である。割と日焼けしたおっさんなのに、それでも顔色って白くなるんやな、っていう……

「こ、皇国議会でバロウズ大司教が言及していた……猫の姿の、上位存在……大司教は、すでに接触されていたのか……それで、あのような警告を……」

ちゃうねん。

……しかし今にして思うと、バロウズ猊下が皇国議会で『猫っぽい上位存在』について触れてくれたのはかえって良かったな……? おかげでちょうど良い言い訳づくりができた。事前に多少なりとも情報の 示唆(しさ) があったおかげで、今の状況にも納得感が生まれている。

そういうのナシでいきなり猫が暴れると、混乱が起きやすいしデマも流れやすいので……事後対応が面倒なことになりがちである。ネルク王国ではルーシャン様がいてくれたから良かったが、こちらではこのままバロウズ猊下を盾にしてしまおう! あざーす。

マードック学園長が、巨体を縮めるようにしてウィンドキャットさんに問う。

「あの、もしや……昨年末の『ペット誘拐犯』の捕縛も……貴方様の 御業(みわざ) だったのですか……?」

……あれがそもそもの発端でしたね、そういえば……

一応、念押しはしておく。

「そうです。誘拐されたペットの中に私の 眷属(けんぞく) がいたため、助けを求められて対応しました。昨年、ネルク王国でも、『猫の守護者』たるルーシャン卿と街の猫達を守るため、人の世に介入しましたが……基本的に私は、『猫』と『猫を大切にする人』に、気まぐれの加護をもたらす程度の存在です。本来、人の世のことにはあまり関わりませんし、この加護はホルト皇国や貴族に向けられたものではありませんので、あちらにバロウズ大司教がいなければ見捨てていました。この点は、くれぐれも誤解しないように……もしも他の貴族が勘違いをして、私の庇護を 吹聴(ふいちょう) しようものなら、不敬とみなして災いをもたらします」

このぐらいは脅しておいたほうが良かろう。

学園長はゴクリと唾を飲み込み……次いでトゥリーダ様(澄まし顔)を見た。

「もう一つ、うかがいたい。貴賓席の守護は、バロウズ大司教のためとのことでしたが……こちらにもこうして顕現されたのは、つまり、その……トゥリーダ様もまた、猫の精霊様の庇護の対象であると……?」

あー。そうね……そういうことにしとこか……?(後付け)

「はい。より正確には、トゥリーダ様が以前に飼っていたラケルという猫が、私の眷属でして……その子は天寿をまっとうして精霊となり、今はトゥリーダ様を守護しております」

現在のラケルさん? 猫カフェでウェルテル様のお膝に居座って熟睡されてますが何か?

ともあれ、トゥリーダ様にも猫の精霊に守護される資格(※猫飼い)はあったので……実際、『亜神の加護』もついてるし、問題あるまい。コレで聖女感もさらに盛られたが今更である。

学園長から見えない死角で「この猫、さらに設定盛りやがった……!」みたいな顔をしておられるが、整合性のために諦めてほしい。

「そんなわけで学園長。今の内容を、放送で告知しちゃってください。機密にしたい部分は隠していいですが、現状は『何者かによる貴賓席襲撃を、猫の精霊が未然に防いだ結果』であることを説明し、危機は去ったと――それから、猫の精霊による加護はバロウズ猊下個人に対するものであり、国や他の貴族は対象外であることもちゃんと明言して欲しいのです。あと、さっきの衛兵達についてはこちらで確認するべきことがありますので、公には情報を伏せておいてください。そして衛兵達のことを伏せる都合上、トゥリーダ様が猫の加護を得ていることについても、放送では言わなくていいです。後日、皇族間、貴族間で情報共有する分には構いません」

マードック学園長は、手早くメモを取り出して書きつけながら頷いた。

「わ、わかりました。 御心(みこころ) のままに――ところで、参考までにうかがいたいのですが……この皇都に、猫の精霊様の加護を受けている方は、バロウズ大司教の他にもいらっしゃるのでしょうか……?」

うん……そこは当然、気になるよね……

今後、その人らに何かあるとやべぇ事態になるとゆー意味なので……どうすっかなコレ……

まぁ……この人にだけは把握しておいてもらったほうがいいかもしれん。

あまり大っぴらにすると面倒事に発展しそうだが、皇族の後援者も一人くらいは確保しておきたいし、なにより「ラズール学園の最高責任者」という便利人材でもある。今後、「渦中の人」になりそうなバロウズ大司教猊下にも、権力側に相談できる味方が必要だろう。

「割といます。ただしこのことは、学園長個人の胸にとどめてください」

そう前置きして、俺はメッセンジャーキャットさんを飛ばし――放送部女子達には聞こえぬよう、彼だけにこっそり声を届ける。

『まず、ネルク王国からの留学生一行。こちらは警護や後見人の方々を含めて全員です。それからネルク王国担当外交官のフィオット子爵家、さらにペシュク伯爵家嫡子のオーガス様と、クロムウェル伯爵家のポルカ様、マズルカ様も対象です。あと私は上位精霊様とも懇意にしておりますので、その御縁でスイール様ともすでに友好関係にあります』

……おわかりいただけただろうか……スイール様以外は『猫飼い』さんなのである!

フィオット子爵家には、以前に誘拐されたエルマさんが。

オーガス君のところには、領地にもこっちにも多数の飼い猫が。

双子ちゃんも故郷の港では猫達と仲良しであり、猫寄せのダンスまで踊れる逸材である。お屋敷の庭やお爺ちゃんの仕事場でも猫を飼っていると聞いている。本人達ももはや猫っぽい。

そしてネルク王国からの留学生一行は、もちろんかわいいキジトラを飼っており――

ここで俺は、ちょっとした偽装の種を仕込んだ。

つまり「あそこの飼い猫のルークさんは猫の精霊の『眷属』の一匹であり、亜神とかじゃないよ! 周囲で何か変なことが起きたとしてもそれは精霊さんの仕業だよ! ルークさんは何もしてないよ! しょうしんしょうめい、ただのねこさんだよ!」という予防線を張ったのだ!

これは留学期間中、俺に対する「……あの猫、なんか怪しいな……?」という疑惑の目を逸らすための策である。

まさか亜神が子爵家のペットになっているとは思うまいが……俺も「眷属」という立ち位置を偽装して他の猫さん達に埋もれることで、正体を隠しやすくなる。すなわち猫を隠すなら猫の中。もふもふしてそう。

具体的な人名を聞かされたマードック学園長は目を見開き、わなわなと震えながら、廊下側にいるポルカちゃんとマズルカちゃんを見た。

彼女らは今日のトゥリーダ様の案内役補佐として、何故か「フィオット子爵家のベルディナさんから指名された新入生」である。

一応、先輩後輩の関係という設定だったのだが、その真のつながりが今、猫によって示されたわけで……俺は追加の情報を伝える。

『今、名を挙げた方々は、基本的に「飼っている猫」「周囲にいる猫」を通じて、私との縁がつながっております。私がマードック学園長にこうして配慮しているのも、貴方が学内猫との縁をお持ちだからです。猫に限らず、ペットとの縁はどうか大事になさってくださいね。それではごきげんよー……』

フェードアウトでそう告げて……これ以上、際どい質問を向けられぬうちに、猫の精霊はこの場から立ち去った。(ふり)

思いがけないタイミングでの上位存在との接触により、顔面蒼白な学園長とは裏腹に……放送部女子は「すごいもの見ちゃった!」「え、でもこれ喋ったらダメなやつでしょ!?」などとはしゃいでおられる。若さよ。

改めて下を見れば、とっ捕まえた水蓮会のもとにも、ちゃんとした衛兵が集まりつつある。あっちの説明はクロード様とオーガス君がやってくれているようだ。話せるのはまぁ、「不自然でない範囲でわかること」だけなのだが、この後すぐに学園長からの放送が入るはずなので――大丈夫だろう。

ひとまず急いでやるべきことは片付いた。

眼下で学生さんやお子様達に大人気の猫さんの群れを見下ろし、「さ、こっちもそろそろ撤収準備すっかな!」と、猫が気を取り直した矢先――

息せき切って放送ブースに駆け込んできたのは、学園の警備に加わっていた武闘派講師陣であった。

「学園長、トゥリーダ様、ご無事ですか!」

「放送が止まったままですので、こちらでも何か起きたのかと……!」

声を発しているのは、俺も見覚えがある弓術講師の方々。ホルト皇国では、全兵科の中で弓術が花形とされているため、講師の数も多い。

――そして、その中に混ざった一人。

白髪頭で穏やかな顔立ちのおじーちゃん先生が、「たまたま革兜を外していた」ヨルダ様をこの場で見つけてしまい――そのまま硬直した。

現在のヨルダ様は、故・ラダリオン氏の若い頃にそっくりらしい……

ヨルダ様もまた、この視線に気づいて苦笑いを見せる。

(……ルーク殿、すまん。あちらが件の『アークフォート先生』か?)

にゃーん。

…………あ、猫さん達はそろそろ、おうちに帰ろっか……俺も一緒に撤退……ダメ? フラグ消化にもう少しかかりそう?

マードック学園長が「 かんたんな事情説明(上位存在からの警告) 」の放送を開始する中、救援にきてくれた講師陣にはスイール様が対応する。

その隙をついて、革兜を被り直したヨルダ様がこっそりとアークフォート先生へ歩み寄り――「ここじゃなんですから、廊下側で」と連れ出した。

こっちはこっちで気になるので、俺も見に行こ……(フラグ消化)

先に口を開いたのは、もちろんヨルダ様である。

「お初にお目にかかります。ラダリオン・グラントリムが一子、ヨルダリウス・グラントリムと申します。『お初に』とは申しましたが……赤ん坊の頃に、お会いしていそうですね?」

「ええ……ええ。大きく……大きく、なられましたな」

アークフォート先生は、いつも微笑を湛えておられるのだが……今だけはむしろ眉を歪め、厳しい顔をしている。

……というか、これは感極まって泣くのを堪えているのか。

『 友人(ラダリオン) はあの時に死んだ』と勘違いしていたバロウズ猊下と違い、アークフォート先生はその亡命を手伝った元部下なので、彼の生存そのものは知っていた。

しかし、最後に会ったのはおそらく四十年近くも昔のことで……一応は『侯爵殺しの下手人』でもあるため、不用意に手紙なども出すわけにはいかず、それどころか定住先も知らなかったのだろう。

実際、故ラダリオン氏とその奥様は、商人に雇われる隊商警護の傭兵団を率いており、幼いヨルダ様まで一緒になって旅をしてばかりの日々だったらしい。

先日、ヨルダ様の晩酌にお付き合いした時、『そこそこ楽しい子供時代だったのは間違いない。今にして思うと、親父の仲間達も……一緒にホルト皇国から亡命してきた部下とかだったんだろうな。俺の武芸は、親父だけでなくそいつらみんなから教えてもらったものだ。気の良い連中だったぜ』と、懐かしそうに語っていらした。

アークフォート先生は反乱にも加わっていないし、ホルト皇国に妻子がいたようなので、亡命にも加われなかったのだろう。

もし彼が一緒に傭兵をやっていたら、案外、幼い日のクロード様も、ヨルダ様でなくアークフォート先生から弓を習っていたかもしれぬ。

アークフォート先生はヨルダ様を見上げて目を細める。

「ヨルダリウス様は、リーデルハイン子爵家の騎士団長をされているとうかがいましたが……いつ、トゥリーダ様の護衛に転職を?」

「今だけですよ。今回はクロード様の様子を見て、それからアークフォート先生にご挨拶をするつもりで来たのです。つい先日、たまたま領地へ遊びに来た魔族のオズワルド様を通じて、クロード様が学園で『ラダリオン・グラントリムの関係者と会ったらしい』と、茶飲み話に聞かされまして……『送迎してやるから、挨拶ついでに国家元首の護衛をしていけ』と依頼されました」

サラッとスマートに嘘ついたな!? しかし猫の存在を隠しつつ納得感を与えるファインプレーである! 花丸を差し上げたい。

アークフォート先生は納得したように頷きつつ、涙目のままようやく笑った。

「……クロード様には驚きましたな。弓を構えた姿が、かつてのラダリオン様の勇姿に瓜二つでした。顔はまったくの別人ですが、姿勢だけを見れば、むしろ彼がラダリオン様の孫で、ヨルダリウス様の息子なのではないかと疑ったくらいです」

ヨルダ様も笑う。

「はははっ……実は近いうちにそうなります。『義理の』息子ですがね。私の娘が、クロード様と結婚……あ、いえ。こちらではもう『既婚』ということにして、サーシャ・リーデルハインと名乗らせているのです。グラントリムの姓は少々……余計な好奇心を招くかと、外交官のリスターナ子爵から助言されまして」

バラしちゃった……まぁ、この流れなら問題なかろう。

「母親が拳闘士だった関係で、娘は拳闘術を趣味にしています。弓術には手を出していませんが、ラダリオンの孫とご納得いただけるぐらいの武技は身につけていますよ」

「ほう。それはそれは……いや、弓術で関われないのは残念ですが、しかしクロード様のほうも実に鍛え甲斐のありそうな御方ですからな。実は今年の授業を、私も楽しみにしておりまして」

クロード様、完全にロックオンされてりゅ……たのしい留学生活になりそぉ……(他人事)

「そういえば、うちのクロード様から『オーガス・ペシュク様』を友人として紹介されまして。先生が担当されている講義で知り合い、はやくも 昵懇(じっこん) の間柄とか。彼も射手として、良い腕をしているようですね」

ここでオーガス君の話題を振るか――ヨルダ様も気遣いの人である。現在のアークフォート先生が、『ペシュク家』の親族をどう考えているのか、きちんと把握しておこうと考えたのだろう。

アークフォート先生は深々と頷いた。

「不思議な御縁となりましたな。かつての仇敵……という言い方が適切かどうかはわかりませんが、反乱を起こした側と起こされた側の関係者が、時を経て友人として親しくなる――まぁ、彼はブレルド侯爵から見ればだいぶ遠縁ですし、現在のペシュク家にいたっては、名義を受け継いだだけの他人のようなものです。そこのご嫡男が入学してくると聞いた時には、『どんな人物か』と気にはなりましたが、御本人を見て警戒はなくなりました。彼は真っ当な人物です」

ヨルダ様の懸念にしっかり気づいて、アークフォート先生もほがらかに返す。

「もっとも、武技のほうはクロード様よりまだまだ未熟――こちらも鍛え甲斐がありそうですな」

……あっ。オーガス君もロックオンされてんなコレ……

後進の指導はお爺ちゃんの娯楽である。うちのこ達(※違う)をよろしくおねがいします……

さて、学園長の校内放送では、今回の件が『水蓮会からの、貴族を狙った報復テロ』であり、『今日はたまたま貴賓席にバロウズ猊下がいた』ため、『バロウズ猊下を庇護する猫の精霊様が、テロを阻止して皆も助けてくれた』との説明が続いていた。

学生さん達や貴賓席の貴族から、ちょくちょくどよめきが上がっているが……バロウズ猊下に言及したあたりでは、うちのねこさん達がその周囲に集って「にゃーん」と記念写真のようなポーズをキメていたため、学園長の説明にも説得力が出たようである。

バロウズ猊下の微笑が少々引きつっているよーな気がしないでもないが、あと数年で定年退職でしょうし、しばらく耐え……え? 浄水教の神官って定年とかないの? そっかぁ……

猫が注意した通り、今回の庇護は「バロウズ猊下個人」に向けられたもので、国やその他の貴族は対象外、たまたま運が良かっただけ、調子にのったら 猫罰(ねこばつ) がくだる、的な警告も発してくれている。にゃーん。

この放送を他人事のように聞きながら、アークフォート先生が呟いた。

「……失礼ながら、クロード様やヨルダリウス様も、猫の精霊から加護を得ておいでですか?」

……さっきの猫隠しの現場には間に合わなかったはずなのに、どうしてそう思ったのか……?

たぶん返答に困っているだろうと察し、ヨルダ様にメッセージを飛ばす。

(認めちゃって大丈夫です! ただし人には話さないよう、口止めはお願いします)

なんだかんだ言って、このおじいちゃんはこれから、クロード様の師匠筋になりそうな方である。この先、俺が自己紹介する機会があるかどうかはわからぬが……こんな質問が出てくるあたり、薄々感づいていそうな気もするのだ。

そもそも『称号持ち』は、相性や個人差はあれど、「普通の人となんかちがうな?」とわかる人にはわかってしまう。

「ええ、まぁ。しかし、他言無用に願います。それとクロード様の弓の腕は、この加護とはまったく無関係です。我々がこの加護を得てから、まだ一年も経っていませんが……クロード様の卓抜した才能は、幼少期からのものでしたから」

「なるほど……いや、妙なことをうかがいました。実は猫の精霊様に、お伝えいただきたいことがありまして」

ふむ? 聞こう。

「では、機会があれば伝えましょう」

「姿を隠して空を飛ぶ時は、矢の届かない高さを確保するか、あるいはもっと気配を消すように、と――私はもう鳥を撃つような真似はしておりませんが、ホルト皇国は弓術の盛んな地です。私程度の使い手はそこそこおりますし、好奇心に駆られて、見えないものを射ろうとする者がいないとも限りませんので――くれぐれも、ご留意いただけますようにと」

にっこりと温厚に優しく微笑むアークフォート先生……

……ことここに至って、俺ははじめて、クロード様が抱いていた感覚をやっと共有できた……

このせんせい、なんかすごくコワイ……!!