軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

224・バロウズ猊下の特別講義

バロウズ大司教を味方に引き入れた数日後。

トゥリーダ様へのお手伝いも兼ねて、我々は『ホルト皇国の歴史を学ぶ会』を催した。「相手側の情報」を把握するのは外交の基礎である!

トゥリーダ様も、一般常識レベルの知識ならば書籍を通じて得ているのだが……書籍の情報というのは著者のバイアスが避けられぬし、書かれている内容が「事実」とも限らぬし、さらにいえば「世間の印象」が反映されていないこともあるし、ぶっちゃけ「書いちゃいけないこと」「書きにくいこと」「都合が悪いこと」なども無視されがちである。

特にホルト皇国は過去にいろいろあり……貴族相手の会話でも、相手によって「振っちゃいけない話題」があったりする。めんどくさい。

というわけで、本日お招きした講師は、なんと「バロウズ大司教猊下」!

その助手として、宮廷魔導師スイール様も立候補してくださった。

メインの生徒はトゥリーダ様だが、今日はラズール学園が休講日なので、ロレンス様、クラリス様、リルフィ様、クロード様、サーシャさん、魔導師のマリーンさん、保護者のペズン伯爵……なんとアイシャさんまで、公務を休み「興味深いので」と出席した。

さらにホルト皇国でおともだちになった未来の外交官たるベルディナさん、クロムウェル伯爵家のポルカちゃんとマズルカちゃん、ペシュク伯爵家のオーガス君も聴講生&助言者的な立ち位置で同席している。「遊びにきたら、なんかタメになりそうなイベントやってた」的な感覚かもしれぬが、現役大司教との接点なんてそうそう得られるものでもないので、かなり前のめりである。

また聴講生とは少し違うが、トゥリーダ様の護衛のシャムラーグさん、ロレンス様の護衛のマリーシアさん、いつものオズワルド氏に、正弦教団のファルケさんまで一緒なので……猫カフェが手狭になり、急遽、教室風に改装した。座椅子と座卓なのでむしろ寺子屋かもしれぬ。

……あ、ピタちゃんはベルディナさんの背もたれになってます。ウサギ状態で……一応、接待モードだと思われる。

ともあれホルト皇国における猫の関係者、勢揃いの感がある。いないのはご多忙なリスターナ子爵と精霊界からまだ戻ってこないカルマレック氏ぐらいか。

あと裏番のパスカルさん(&ダムジーさん)も執務の都合で出席できず、クロムウェル姉妹との再会は後回しになってしまった。

双子ちゃんは残念そうであったが、「どうせならしっかりお話したいし!」「今日は静かにしてないといけないですからね」と、あっさり切り替えた。若さよ。

さて、講義の開始。

「えー……バロウズ・グロリアスと申します。浄水教の大司教という立場ではありますが、このたびルーク様の御慈悲により、信徒の末席に加えていただきました」

……おともだち認定はしたけど、信徒には加えてないが? そもそも宗教団体を作ってないが? それ以前に貴殿は水ちゃんの信徒なはずでは?

とりあえずメテオラの皆さんやうちの社員のジャルガさんもそうなのだが、猫を崇めるのはやめておけと声高に言いたい。ルーシャン様とかは俺個獣ではなく「猫すべて」を信仰しているヤバい人なので仕方ないのだが、ルークさん個獣は信仰の対象としてはちょっと……小市民すぎる……

バロウズ猊下は学生達を前に、やや困惑気味である。

「……まさかクロムウェル伯爵家とペシュク伯爵家の方々までもが、すでに亜神ルーク様との縁を得ておられたとは、たいへん驚きましたが……本日はホルト皇国、建国の歴史と、現在の情勢に関する講義をあわせてご所望とのことで、 僭越(せんえつ) ながらまかりこしました。どうぞよろしくお願いいたします」

「はい! よろしくお願いします!」

猫が肉球をぺちぺちさせて拍手すると、皆もこれに続いた。けっこう人数多いから普通に盛大だな?

「……さて、まずはネルク王国からいらした皆様に、ホルト皇国の建国に関する、簡単なご説明を――」

以下、基礎教養である。

このホルト皇国の成立は、およそ四百年前――

それより昔、この地では『浄水宮』の水利権を巡り、水源を中心とした東西南北、四つの小国家が戦争とにらみ合いと小競り合いと謀略を繰り返していた。

で、ある程度のめんどくさい戦争の末に、一国が浄水宮を独占するのではなく、四カ国の「中立地帯」という形でウォルテの街を成立させる流れとなり――

この街の統治を任されたのが、現在の『皇族』につながる、ある亜神の子孫であった。

こちらの中立地帯の成立には、たぶん亜神や魔族等、上位存在の仲立ちがあったのではないかと俺は予想しているのだが……それを裏付ける記録などは残っていない。

あるいは「関与を隠す」ことが、その上位存在の意向だった可能性もある。俺みたいに裏で暗躍する系の亜神だったりとか、今の皇族の関係者だったりとか、勝手な推論もいくつか思いつくのだが……まぁ、過去の話だ。

ともあれ、「国力が近い四国家を仲介して、その中心部に不干渉の自治区を成立させる」とゆーのは――そういう上位存在が力ずくでまとめないと話が進まないくらいには、めんどくせぇ案件だったはずである。

……そしてこの自治区の成立から数十年後ぐらいに、大規模な騒乱が起きた。

これが四百年前で、具体的な流れは以下の通り。

・この時期、人体実験の結果として生まれた『魔族』の反乱によって、悪名高き「魔導王国」が滅亡し、周辺国の国際関係が大きく変化。

・これに東西南北の各国も反応し、「浄水宮」以外の国境で衝突。緊張が激化。

・そんな中、東西の諸侯が結びつき、南方の国家を挟撃して滅ぼす。

・不利を悟った北方の国家が降伏勧告に応じる。

・中立地帯だったウォルテ(浄水宮)が終戦の仲立ちをし、東西南北の国家をまとめて『ホルト皇国』が成立。

・浄水宮周辺が「皇都」とされ、東西諸侯に担がれる形で、初代の「皇」が誕生。

「……と、このような建国の歴史があるため、現在でもホルト皇国では『東西諸侯』の結びつきと影響力が強く、南方と北方は政治の場でも軽視されがちです。また国民性といいますか、各地方ごとに人々の性格の傾向もずいぶんと違いまして……北方の方々は謹厳実直で寡黙、東方の方々はやや好戦的、西方の方々は政治に強く、南方の方々はやや楽天的、という印象が一般的です。もちろん例外も多いですし、たとえば新興のクロムウェル伯爵家などは、楽天的どころか大変な遣り手と評判ですが……」

バロウズ猊下はやや気を使ったような言い回しをしたが、ポルカちゃんとマズルカちゃんが揃って遠い目をした。

「身内を悪く言いたくはないけど、お父様は遣り手っていうか、悪賢いっていうか――」

「 猜疑心(さいぎしん) と野心が強めですからね……というか、ご先祖様が爵位を得た時に賜った領地が南方のクロム島だっただけで……実はクロムウェル家の元々の血筋としては、西方出身だったりします。私とポルカが褐色肌なのは、亡くなった母からの遺伝です」

双子ちゃんは、お父様とあんまり折り合いがよろしくない……作家のお爺ちゃんとは仲良しなのだが、そのお爺ちゃんのほうも、息子とはあんまり気が合わないようで……先入観を持つべきではないのだが、話を聞く限り、家族を大事にするタイプの父親ではなさそうだ。

一方、オーガス君も肩を縮めている。

「……東方の貴族が好戦的というのも合ってますね。ラダリオンに反乱を起こされたブレルド・ペシュク侯爵が、まさにその悪いほうの例でした。今のペシュク家にはその時代の反省がありますので、真逆の穏健派になっていますが――」

オーガス君は実に穏やかな子なので、ホルト皇国での一般的な「東側諸侯」のイメージからはかけ離れていそう。むしろこの「イメージ」のせいで、双子ちゃん達は当初、『ペシュク伯爵家』を警戒していたのだろう。

バロウズ猊下もなんだか複雑そうなお顔である。柔和な微笑みに、ちょっとした陰が見える……

「オーガス様、失礼ですが……現在のペシュク家では、ブレルド侯爵の件はタブー視されているのですか?」

オーガス君が姿勢を正した。

「タブー……というより、『戒め』になっています。その行状を学んだ上で、子々孫々にわたり、二度とあのように横暴な真似をしないように、という方向性で……先年の演劇もこっそり見たのですが、いや、もう、本当にお恥ずかしいとしか……」

もちろんこの子のせいではないし、この子は事件当時、まだ生まれてすらいない……ルークさん的には「うーん」と思案してしまうが、「汚名も引き継ぐのが貴族の責務」と言われてはしゃーない……

が、それはそれとして、猫はオーガス君と仲良くするつもりである。人類の 軋轢(あつれき) など獣には関係ないのだ。

オーガス君を見て、バロウズ猊下はますます思案げ……

なんか言いたそうな、でも迷いがあるような、奥歯に毛玉でも挟まったかのよーなお顔だ。

そんな中、トゥリーダ様がおずおずと挙手した。

「あの……私は、ラダリオン・グラントリムの反乱の話ってよく知らないのですが、ブレルド侯爵って、要するに何をしたんですか?」

バロウズ猊下、瞑目。

「……そうですな。オーガス様の前では、少々……」

「いえ、構いません。むしろ私からご説明します」

オーガス君が決然とした声で応じた。

「ホルト皇国には、貴族同士の本格的な『模擬戦』という慣習があります。他国ならば決闘で済ませるような 諍(いさか) いが起きた際に、『国の許可を得た限定的な戦争』によって解決するという手段です。いろいろと問題の多い悪法とも言われますが……他国に戦争をふっかけずに実戦経験を積める手段でもあり、士官を育て兵の質を保つ上では必要悪とも言われています。また民間人への虐殺や略奪、畑への火付けなどはルールとして禁じられるので、大きな被害が発生しにくいというメリットも一応はあります」

この変な仕組みについては、以前に俺も書物で学んだ。皇弟殿下やヴァネッサ様と晩ごはんを食べた際にも気になっていたのだが……(210話・「猫と皇族の会食」より)

メリットよりデメリットのほうがでかいとは思うのだが、国内諸侯の力を削ぐのにも使えそうだし、諸侯の間に緊張感をもたせる効果もありそうだし、「ルールを司る裁定者」としての皇家の威厳を示す機会にもなるだろうし……という感じで、悪法ながら意外と代替手段が思いつかない程度に機能してそうなのがなんともいえぬ……

「……ブレルド侯爵は、この仕組みを悪用し――賄賂によって許可を得て、近隣諸侯の領地を荒らし、証拠を焼き尽くす勢いで略奪を重ね、本来はルールに違反する悪行を『事故』として処理。さらに戦争を嫌がる貴族からは『宣戦布告をしない見返りに』という流れで恐喝まがいに賄賂を要求。逆に『潰したい相手がいる』貴族相手には、傭兵のように自らを売り込んで代理戦争を買って出るという無法ぶりでして――彼一代で、ペシュク家は多くの恨みを買いました」

そして家臣からの反乱で潰された。

ラダリオン・グラントリムはブレルド侯爵からその強さを気に入られていたようだが……その走狗にはなりきれなかった、ということだろう。

トゥリーダ様がややドン引きした様子で質問を重ねる。

「あの……ブレルド侯爵という方は、いったいどうしてそんな真似を……? そこまでして諸侯を敵に回したら、いくら侯爵家でも普通は潰されますよね?」

「はぁ……実際、彼の死後に領地の大半を没収されて、家格としては伯爵家、実質的には子爵家レベルまで落とされたわけですが……戦争好き、暴虐好きの狂人だった、という説が一般的です。また本人も極めて武勇に優れており、単騎で敵陣に突入して、手当たり次第に相手を蹴散らすような猛者だったとか。なにか良からぬものに魅入られていた、なんて噂もあったようですが、おそらくは単純に、後先を考えない性格だったんでしょう」

バロウズ猊下が唸った。

「……私は当時のブレルド侯爵を、個人的に存じ上げておりますが……彼には、単純に『性格』というだけでは片付けられない、歪んだカリスマのようなものがありましたな」

えっ。知り合い!? まぁ、四十年前の事件なので……いま六十代のバロウズ猊下ならば、当時のことを知っていてもおかしくない。

「ブレルド侯爵は、確かに狂気に近い暴力癖をお持ちでした。しかしながら、戦争に関する類稀な才能があったのも事実でして……部下達の統制もとれていましたし、自身が真っ先に前線へ飛び込んで、それでも勝ち残る異常な強さを誇っていたのです。正直なところ、『果たして人間だったのかどうか』、私は疑っております。オズワルド様の前で口にするのは恐れ多いのですが、それこそ魔族の縁者とか、あるいは亜神の子孫とか……転移者、転生者の類だった可能性も含めて、『只者ではなかった』のは確かです。ラダリオンは……目撃者の証言を聞く限り、相打ちに近い形だったようですが、よくぞあのブレルド侯爵に勝ったものだと驚愕いたしました――」

高位のお貴族さまが単騎でそんなに強いっておかしくない……? 呂布か?

というか、今の口ぶりだと……

「あのー……バロウズ猊下って、もしかして、『ラダリオン・グラントリム』様とも面識があったりします……?」

『じんぶつずかん』で近況は確認していたものの、過去に遡ってその人生を精査したわけではないので……そこらへんの事情を、猫は把握していなかった。

バロウズ猊下は深々と頷き、眉を歪める。

「……ラダリオンは、私の友でした。しかし私は、彼の決起に怖気づき、命惜しさに逃げたのです。結果、彼はブレルド侯爵と刺し違え……生き残った私は、おめおめと馬齢を重ねてきました――」

強い後悔のにじむその言葉に、猫はぐにっと首をかしげる。

お友達とのことだが……この人、もしやラダリオン様のその後をご存知でない? アークフォート先生と違って、亡命のお手伝いとかもしてなかった感じ?

この一事をもって「親しくなかった」と断じるのは早計。そもそも当時のラダリオン様は意識不明レベルの重体であり、これをどうにか保護したアークフォート先生やフィオット子爵家の先代らは、生存の事実を隠す方向で頑張った。

ゆえに割と親しい関係者ですら、ラダリオン様の存命を知らなかった可能性が高いのだ。

確認のため、猫が問う。

「あのー……つかぬことをうかがいますが、バロウズ猊下はその当時、ラダリオン様の近くにいたのですか?」

「はい。私は神官として、ペシュク侯爵領の領都で暮らしておりました。彼の様子がいつもと違うことに気づき、問い詰めたところ――反乱を企図していると白状したため、必死で止めたのです。その場では、『よく考えてみる』と言われたのですが……今にして思えば、もう覚悟を決めていたのでしょう。反乱が起きたのはそれから数日後のことでした」

「……その話を聞く限り、バロウズ猊下は別に、『逃げた』わけではないような……? そもそも反乱に反対だったんですよね?」

「いえ、私は逃げたのです。決起に反対した理由も、ただブレルド侯爵が恐ろしかったからで……もしも私にもっと勇気があれば、彼に帯同していても、おかしくはなかった……」

その述懐を聞いて……クロード様が首を傾げた。

「あの……部外者の立場から、失礼かもしれませんが……ラダリオン様は『問い詰められたから決起の予定を白状した』ものの、反乱の手勢としてバロウズ猊下を誘ったわけではないんですよね?」

「それは……はい。まぁ、私は戦闘では役に立ちませんし……しかし、回復魔法での支援はできたはずなので――」

クロード様が納得顔に転じた。

「でしたら、たとえ同行を申し出ても、ラダリオン様は許可しなかったのではないかと思います。『浄水教の神官』を貴族への反乱に巻き込むと、教団を巡る政治問題にまで発展しそうですし……決起の意思を話したことが、猊下への友情と信頼の証であり、反対されるのもわかっていたんでしょう。たぶん、ラダリオン様は敵と刺し違えて死ぬつもりだったので……そこに友人を巻き込む気は、最初からなかったと思いますよ」

もちろん、一緒に決起した部下はいたようだが……その人らの多くは、『ブレルド侯爵に恨みを持つ者』だったらしい。つまりラダリオン様は「敵討ち」の動機を持つ者達を取りまとめたのだろう。

実際、そういう動機がなかった当時の部下、アークフォート先生などは、決起から外されているのだ。

そして精鋭のみで侯爵の本陣を強襲、ほぼ暗殺スレスレの反乱を成功させた。

バロウズ猊下は戸惑い顔だ。「そうかもしれない」と思う一方で、「何も知らない異国の子爵家嫡男が、どうしてそんな物言いをできるのか」と疑問に思ってそう。

なので、この疑問には猫からお答えする。

「クロード様は、ラダリオン様のことを憶えておいでですか? あ、名前のほうは変えていたみたいですが……」

「ええ、うっすらとですが……疫病が発生する前だったので、僕がまだ『商人の息子』として暮らしていた時期に会ったことがあります。あちらも隊商の護衛として、まだ現役でした。ヨルダ先生と孫のサーシャに会いに来た時に、孫の友達として、僕も一緒に遊んでもらって……ヨルダ先生にそっくりの、優しくて明るい人でしたよ」

……バロウズ猊下が石化した。完全に思考停止である。まばたきすらしていない。

俺は学生さん達の間をすたすたと移動し、制服姿のサーシャさんの膝上へ陣取った。

「……えー。バロウズ猊下。改めて、ご紹介させていただきます。こちら、『ネルク王国にこっそり亡命していたラダリオン・グラントリム』様の孫娘で、リーデルハイン子爵家嫡子たるクロード様の婚約者、『サーシャ・グラントリム』さんです!」

「……………………………………は?」

まともに反応できない猊下に向けて、猫は苦笑いで肉球を掲げる。これ見て 和(なご) も? ね?

「ラダリオン様ご本人は、残念ながら十年ほど前に疫病で亡くなられたそうですが……御子息のヨルダリウス様が現在、リーデルハイン子爵家で騎士団長をされていまして、次期当主たるこちらのクロード様は、そのヨルダ様の武芸の弟子にあたります。というわけで……ラダリオン様の家系は絶えておりません。亡命後も割と気楽に暮らしていたようなので、バロウズ猊下はあんまり気に病まなくて良いと思います!」

「…………は!?」

愕然として目を見開き、震え始めてしまったバロウズさま……しかしコレは俺のせいではない! ルークさんがこっちの世界に来る前のお話である!

サーシャさんが俺を脇にどかし、改めて一礼した。

「バロウズ猊下。亡き祖父が生前にご迷惑をおかけしたようで、たいへん失礼いたしました。私は祖父母の過去を、あまりよく知らなかったもので……あの、もしご希望であれば、父を連れてきましょうか?」

ヨルダ様もあんま知らない気がするが……クロード様によれば、生前のラダリオン様と、その息子であるヨルダ様とは外見が似ているらしい。会えば懐かしいかもしれぬ。

それはそれとして、バロウズ猊下はこんらんしている!

「は、いえ、あの、その……! ……ほ、本当に……? あの、ラダリオンが……生存していたと……? 演劇の設定ではなく……?」

お目々がぐるぐるしはじめてしまったので、論より証拠と、猫はすぐさま宅配魔法でヨルダ様を連れてきた。ライゼー様はご多忙だが、ヨルダ様は意外と暇である。いや、暇は言いすぎた。訓練・警備などはサボっていないので、忙しいっちゃ忙しいのだが……人に会ったり書類をこなす系統の仕事ではないため、時間に融通をつけやすいのだ。

そしてメッセンジャーキャットさんで軽く事情を説明し、宅配便でささっと猫カフェに来てもらうと――

「よう、ルーク殿。親父の知り合いと縁ができたって?」

ほがらかなのに威風堂々たるヨルダ様のお姿を見て――バロウズ猊下はとうとう、見開いたその両目から滂沱と涙をこぼしはじめた。

「ラ、ラダリオン……そんな……いや、このようなことが……」

かつての英雄とヨルダ様とは、やはり面影がそっくりらしい。

ヨルダ様が笑顔で歩み寄る。

「お初にお目にかかります、バロウズ大司教猊下。ラダリオン・グラントリムが一子、ヨルダリウスと申します。現在はネルク王国、リーデルハイン子爵家の騎士団長を務めておりまして……こちらの亜神ルーク殿とも、僭越ながら友人の関係を築いております」

ちょっと芝居がかった言い回しが、実に軽妙で格好いい。

そして、顔を隠しもせずにぼろぼろと泣いてしまったバロウズ猊下に、深々と一礼。

「……そのご様子だと、うちの親父がたいそう、ご心配をおかけしていたようで……息子としてお詫びいたします。あまり昔の話をしない両親だったもので、私も詳しい事情までは知らんのですが……疫病で亡くなったとはいえ、それまでの人生は悪くなかったと、死ぬ時まで穏やかに笑っていました。いい人生だったと……本人は、満足していたようです」

言葉もなく顔を覆い、膝をついてしまったバロウズ猊下の背を、ヨルダ様がその大きな手のひらで優しく撫でる。

この世代を越えた運命的な邂逅に、皆がほっこりと目を細める中――

一人だけ、呆気にとられて、ぽかんと口を開けている人がいた。

「……えっ。ヨ、ヨルダ……? いや、まさか、そんな偶然が……?」

………………いや。あの。ファルケさん? あなたとヨルダ様は、さすがに初対面のはずでは……?

内心で動揺しつつ、ひっそりとボリボリ腹を掻く猫であった。