作品タイトル不明
208・正弦教団のファルケ
正弦教団の「皇都ウォルテ支部」は、皇都の郊外にある。
見た目は中規模レベルの商会。屋号は「エンハンス商会」という。
扱う品は美術品、工芸品、楽器などで、要するに富裕層向け――店を構えてはいるが、商談は客のもとに出向いて行うことが多く、「店内の在庫を売る」よりも「注文を受けて、それに応じた商品を提案・調達する」タイプの店だった。
したがって、店に客がいることは少ない。
店舗としての信用を担保するためのディスプレイは整えてあるが、それらの商品が売れようと売れまいとあまり影響はなく、客先に出向いての商談が主になる。
ゆえに従業員達は執事が務まりそうなほどの礼儀作法を叩き込まれており、身なりも相応に整えている。
そして――その全員が、「正弦教団」という非合法組織の一員であり、それぞれに多少の事情を抱えている。
まず、孤児院の出身者が多い。これはその孤児院自体が、『正弦教団』によって運営管理されているためで、礼儀作法や変装術、体術、算術、時には暗殺術などもここで仕込まれる。
こうした孤児院は、過去においては、教団関係者が任務などで死亡した際に、その遺児を育てる目的で運営を始められた。しかし現在ではむしろ、「行き場のない孤児」を引き取った上で、教団の構成員へと育て上げる流れができている。
以前にこの支部で支部長を務めていた「パスカル・エンデイル」という男も、この孤児院の出身である。
彼は今、魔族オズワルドからの 勅命(ちょくめい) により、『レッドトマト商国の国家保安部・長官』という――出世は出世なのだが、常識的に考えたら有り得ない奇妙な栄転を果たしていた。
商会に偽装した地下組織の支部長が、何をどうしたら一国の保安部を取り仕切る立場に 抜擢(ばってき) されるのか?
この不自然な転職をホルト皇国内で把握しているのは、正弦教団の関係者達だけである。
パスカル自身がそもそも目立たないように立ち回る存在だったし、レッドトマト側もわざわざ喧伝などはしないだろうから、今後も名が広がる可能性は低い。
いずれ「レッドトマトの保安部長官は元商人」ぐらいの情報は出回るかもしれないが、その頃には現地におけるパスカルの実績も不動のものとなっているはずだった。
ともあれ、支部長として極めて優秀だったこのパスカルが抜け、現場で働いていた人員が新たな支部長へと昇進し――現場の穴埋めとして、オズワルドがわざわざ新入りを連れてきたのが昨年秋のことである。
妻子持ちの、四十代前半の 精悍(せいかん) な優男――
新入りにしては少々年を食っていたが、長身痩躯で折り目正しく、一見して育ちの良さを感じさせた。
髪色は、皇都ウォルテへ来た時点では白髪交じりの黒髪だったが、現在は脱色し白く染めている。これは外見の印象を変えるためだろう。
仲間達にも明かされない過去の名は、「フロウガ・トライトン」。
現在は改名し、「ファルケ・フローズ」と名乗っている。
火属性の魔導師であり、読み書きは 堪能(たんのう) 、会話もそつがないとあって、働き口などいくらでもありそうな人材だったが、オズワルドが連れてきたという時点で、正弦教団の構成員達も「訳あり」だとは察した。
彼は情報の扱いと分析、予測能力にも長けていた。
ホルト皇国へ来て日が浅いにもかかわらず、支部の資料や 人伝(ひとづて) の噂を足がかりに、皇都の商会や組織、貴族や官僚達の関係性を効率的に調べ始め――あっという間にそれらへの理解を深めつつある。
そんな彼にこのたび割り振られた任務が、「南方のクロムウェル伯爵家」からの依頼――「留学した双子の姉妹の監視と警護」だった。
彼以外にも複数の交代要員がこの任についている。
こうした貴人の警護任務は正弦教団にとって割のいい仕事で、まず学園内の治安がいいために滅多なことが起きにくく、任務が長期化するために日当だけでもけっこうな収入になる。
また単純な警護と違い、「交友関係の把握」「接触してくる人間の素性の確認と報告」が重要になるため、いわゆる衛兵や傭兵などとは違った立ち回りを要求される。
正弦教団が非公式に提供しているこの「学内警護サービス」はなかなか好評で、今年も複数の伯爵家、子爵家から同系統の依頼を受けていた。
これが侯爵家、公爵家、皇族クラスになると、さすがに家臣がその役割をこなすし、身辺の情報を外部に漏らさないためにも外注を避ける。
しかし伯爵家、子爵家クラスだと、「そのために新たな家臣を雇う」よりは安上がりだし、「間諜としての能力」はプロのほうが確実に上なので、需要はなくならない。
特に今回の「クロムウェル伯爵家」からの依頼は、国際的にも重要な土地であるクロム島の支部から重要案件として回ってきたもので、決して失敗できない類の任務だった。
……それなのに、あの双子はいきなり、「報告しにくい相手」と接触してしまった。
監視役の当番がファルケだったことは、むしろ幸運といえる。彼は相手の素性こそよく知らなかったが、「人類が太刀打ちできない相手」であることだけは明確に把握していた。
かの猫の「偉業」については、魔族のオズワルドから軽く聞かされている。アレは人類ごときが逆らってはいけない存在だ。
純血の魔族ですら太刀打ちできない理外の化け猫であり、レッドワンドの軍勢などもちろん手も足も出ず、大量の竜巻……のような何かに蹴散らされたらしい。
あの猫が絡んでくるとなると、支部の上司にすら軽々には報告できない。
まず「オズワルド」に伺いを立てる必要があるし、場合によってはあの猫にも事情を話し、情報を隠蔽する類の指示をあおぐ必要がある。
あそこにオズワルドが一緒にいれば接触できたのだが、生憎と猫以外の人間には見覚えがなかった。
ひとまずファルケは追跡をする。
転移魔法などを使われたらどうにもならないが、まずは歩いて移動するつもりらしく、相手の人数が多いのも幸いして追いかけるのは簡単だった。
――ファルケは決して、油断はしていなかった。
目的は「双子の警護」と「接触してくる人間の確認」であって、もちろん害意などは一切なかったが、その上で警戒心を十全に保ち、いつでも自分が逃げられるように気を張っていた――つもりだった。
そして追跡の開始から、およそ三十分後――
猫達から 簀巻(すま) きにされたファルケは、見知らぬ屋敷の一室で、ただ呆然と床に転がされていたのだった。
§
どこか見覚えのある不審者を前にしたルークさん。
とりあえず、即座に「じんぶつずかん」を開いたわけだが……
「……フロウガ将爵? 髪型変えました?」
色まで変わってる! 以前は「白髪まじりの黒髪」だったはずだが、今はほとんど総白髪に……ご、ご苦労されたんですかね……?
「は。元の素性を隠す意味もあり、念のためにと、髪染めで脱色をしております」
フロウガ将爵は苦笑をまじえ、簀巻き状態で淡々と応じた。
よかった。恐怖体験のせいで一夜で白髪に! みたいなヤバい話じゃなくて本当に良かった……
「今はもう『ファルケ・フローズ』という新しい名を与えられ、正弦教団の下働きをしております。このようなところでルーク様と再会できるとは、たいへん驚きました」
とりあえず簀巻きを解いてさしあげながら、俺は困った顔で彼を見据える。
フロウガ・トライトン将爵。
かつてネルク王国を謀略で追い詰めたレッドワンドの有力貴族であり……ルークさんの敵であった。
そう、確かに敵だったのだが――その一方で、投降からの 潔(いさぎよ) すぎる自決ムーブを「待って待って!」と止めた関係で、「俺が助けた人」みたいな関係にもなってしまった。
話した時間こそぜんぜん少ないのだが、成り行きで俺の正体を知ってしまった人でもあり、またこの縁でオズワルド氏とも顔見知りである。
さらに「賢樹ダンケルガの友人」という要素まで影響しているため……一般人として扱っていいものかどうか、ちょっと悩ましい。
さすがに変な称号まではついていないのだが、ステータス的にもたいへん優秀なので、味方だと割と心強そうな感じはある。
俺は警備中の猫さんから「屋敷をうかがう不審者がいる」と報告を受け……捕まえてみればこの有り様。
ちなみにガチの間者とかヤバい相手だった場合、俺は顔出しをせず、宅配便でそのまま僻地に送って怪奇現象にする予定だったのだが――目隠し+猿ぐつわ状態でモガモガ言ってるフロウガ将爵を見て「……なんか見覚えある人だな……?」と気づけたのは幸いであった。
で、簀巻きを解きながら、カルマレック邸の空き室でこっそり一対一の面談にこぎつけた。クラリス様や双子ちゃん達は別室で仲良くお昼ご飯を食べているので、この件はまだご報告していない。
実は留学生組でフロウガ将爵を直に見たことがあるのって、リルフィ様だけなんですよね……そのリルフィ様もまだ浄水宮にいるため、この場でフロウガ氏と顔見知りなのは俺だけである。
じんぶつずかんは後で読み込むとして……とりあえず話を進めてしまおう。俺が一方的に読んで把握するより、相互に会話して情報交換したほうが不信感をもたれにくい。
「それじゃ、今後はファルケさんとお呼びしますね。えっと、ファルケさんがここへ来たのは……もしかしてオズワルド様の指示ですか? こちらの屋敷への警護として来たとか……」
椅子に腰掛けながら、ファルケさんは首を傾げた。
「オズワルド様? いえ、オズワルド様からは何も聞いていません。私にとっても、この状況は想定外でして……我々はクロムウェル伯爵家から、ルーク様が接触したあの双子……ポルカ様、マズルカ様の警護を依頼されています。正弦教団のクロム島支部が、伯爵家と懇意にしているそうで……その御縁で、学園内で変な輩がお二人に近づいてこないか監視し、場合によっては助けに入るという学内警備契約を結んでおります」
正弦教団、そんな業務もやってるのか……あー、でも暗殺以外に情報収集とか要人警護系の業務もあるって、うっすら聞いたような気はするな?
ついでに「亡命の仲介」とか「密輸」なども手掛けているようだし、「国境に面した交易で栄える孤島!」などはたいへん重要な拠点なのだろう。
……つまりクロムウェル伯爵家は、正弦教団にとって大事なお得意様ということである。
これ、双子のこともちゃんとオズワルド氏に話しておいたほうがいいな?
「ポルカちゃん達は、警備がついていることを知ってるんですか?」
ファルケさんは曖昧に唸る。
「どこまで詳しく聞いているかはわかりません。緊急時以外に我々から接触する予定はありませんし、つきっきりでもなく、折に触れて様子を確認する程度です。彼女達から用がある場合には、窓口となる商店へ出向くように伝えられているはずですが……その窓口が『正弦教団』であることは、彼女達も知らないでしょう。表向きは『エンハンス商会』の『ラズール学園支店』が、この学内警備契約の相談窓口となっています」
なるほど。いきなり裏組織が出てくるわけではなく、間に偽装用の商会を挟んでいるのか。
「ほほう。では、ファルケさんも今はそこの所属ということで?」
「そうですね。正確には、郊外にある『本店』の所属です。学内の支店にいるのは窓口担当者と緊急時の支援要員だけでして……ところで、ルーク様はこちらで何を?」
「私の飼い主が、今年からラズール学園に入学することになりまして。ペットとしてついてきました!」
元気に宣言すると、ファルケさんがちょっとだけ引いた。なんで?
「……ペット……左様でしたか……いえ、オズワルド様からも以前にうかがいましたが、その飼い主様というのが、つまりネルク王国、リーデルハイン子爵家の……?」
「はい! クラリス様ですね。他にも複数の同行者がいます」
俺がその「リーデルハイン子爵家」のペットだったせいで、フロウガ将爵の野望は粉々に打ち砕かれたよーなものなので……ちょっと思うところはいろいろあるのだろうが、恨まれている感じではない。
ファルケさんは、割とそーいうところがドライというか合理的というか……「負けた上で命まで救われた以上は、おとなしく従う」という開き直りができている。
元々、「権力大好き!」という方向性ではなく、「自分が上に立つことで、レッドワンドをどうにかしたい」という思いで必死に動いていた人なので、そのレッドワンド(レッドトマト)がトゥリーダ様という聖女を新たな指導者に迎えた今、あまり向こうに未練はないのだろう。
というわけで、俺も安心して現状の話に戻る。
「ポルカちゃんとマズルカちゃんは、今後、クラリス様達の御学友になるかと思います。交友関係そのものはわざわざ隠すことではないので、ご実家にも報告していただいて構いませんが……私の存在については、もちろん伏せてください」
ファルケさんが神妙に頷いた。
「は。他言はいたしません。オズワルド様からも厳しく口止めをされています。しかし、なんというか……今日の監視役が私だったのは幸運でした。他の者がこうしてルーク様に捕縛されていたら、 一悶着(ひともんちゃく) 起きていたはずです」
それはそう。ほんとそう。
俺との縁はあの双子の猫力が引き寄せたものであり、決して俺のラジオ体操のせいではないのだが(自己弁護)、その後のファルケ氏の視線には、おうちに着くまでまっっったく気づいていなかったので……やはり油断大敵である。
「オズワルド様に報告した上で、今後の双子の監視任務からは、私以外の人員をすべて外していただいたほうがよいでしょう。その上で今回は、私もお二人に自己紹介をして、面通しをしておくべきかと思います。交代要員なしのまま、人員一人で 頻繁(ひんぱん) に張っていると、さすがに不審者と思われそうですので――」
間諜関係の指揮をしていただけあって、こういう部分に気が回るのも助かる……
「そうですね……私も警戒はしますが、先方への報告とかはできませんし、ご協力いただくことは多そうです。念のため、クラリス様達にもご紹介したいですし、こちらへどうぞ」
俺はのっそりと立ち上がり、ファルケさんを居間のほうへと先導した。
お昼御飯の最中であるが、今日のメニューはクロード様のリクエストでファストフード系である。ちょっとお高めのハンバーガーとポテト、ナゲット、サラダなどのサイドメニュー……デザートのソフトクリームはまだお出ししていないが、ハンバーガー、フライドポテトはこっちにも普通に存在する食べ物なので馴染みがあろう。
しかしトマトケチャップやバーベキューソースがないため、今頃、例の双子はトマト様の偉大さに打ち震えている頃合いである。トマト様を崇めよ……讃えよ……(闇落ちした眼差し)
なお浄水宮のほうには、朝のうちにスイール様から「お昼になったら出前よろしく」と注文を受けていたので、さっき牛丼七人前+副菜を宅配しておいた。ニャーニャーイーツかウーバーニャーツか出前猫か……念のため、四人前がスイール様の分で、二人前がアイシャさんの分で、一人前がリルフィ様の分である。計算式は合ってるはずだがいろいろおかしいな?
特盛での注文を受けなかったのは用意してある食器の都合なので他意はない。
広々としたリビングダイニングに入ると、現場はそこそこ盛り上がっていた。クロード様が真っ先に振り返る。
「あ、ルークさん。今、二人にルークさんの話をしていたところです」
たちまちポルカちゃんが駆け寄ってくる。
「猫さんすごいね!? 王族への暗殺を防いで純血の魔族に圧勝して自力で商会立ち上げて敵国の飢饉と再生まで面倒見て、さらにみんなの食事の支度までやってるって本当!?」
……実績だけ聞くとどっかのスパダリだな? かわいいさかりのペットやぞ。
マズルカちゃんも目をキラキラさせている。
「その 叡智(えいち) の一端をぜひ私達にもお授けください。具体的には『そふとくりーむ』っていうやつ」
ピタちゃんが洗脳したな……? 犯獣が明らかすぎる。できればその前にトマト様の布教しよ?
「油分の多いものを食べた直後なので、少し時間をおきましょう。三十分後ぐらいにご用意しますので、それまでは温かいお茶などをどうぞ! で、皆様にちょっとご紹介したい人がいます」
廊下側を振り返って手招きすると、ファルケさんがこっちへ入ってきた。
「ご歓談中に失礼いたします。私はオズワルド様の部下で、エンハンス商会のファルケと申します。以前に、レッドワンドにてルーク様に命を救っていただいた御縁もありまして……今回、皆様の留学中の雑事に関して、ルーク様のお手伝いをさせていただくことになりました」
言いにくい部分は上手くボカしつつ、深々と一礼。
礼儀作法がしっかりしている……あと声が良い。いわゆる美形の悪役ボイスである。
双子がぱっと目を輝かせた。
「エンハンス商会! パスカルおじさまのお知り合いですか?」
「おじさまはお元気でしょうか? 入学したら、なるべく早くご挨拶に行くつもりだったのですが――」
……知ってる名前が出てきたな?
エンハンス商会……すなわち正弦教団ホルト皇国支部に務めていた「パスカルさん」は、オズワルド氏の紹介で転職し、現在はレッドトマトでトゥリーダ様の補佐役をしている。
初対面の時点で「やべぇの来た」と猫が 慄(おのの) いたレベルの有能人材であり、『隠者の切り札』なる特殊能力までお持ちだ。
その名前がこの場で出てきたことに戸惑い、俺はファルケさんと顔を見合わせてしまう。
ファルケさんは社交的な笑みを浮かべ直し、改めて双子に問いかけた。
「そのパスカルというのは……エンハンス商会の前代表、パスカル・エンデイル氏のことでしょうか?」
「えっ……前代表? おじさま、引退しちゃったの!? まだ若いですよね!?」
「パスカルおじさまはクロムウェル家の恩人です。以前に商談のためにクロム島へいらした時、厄介事に巻き込まれて誘拐された私達を、さっそうと助け出してくださいました。おじいさまの取材にも協力してくれたり、他にもいろいろ――」
「五年くらい前だよー。もしも私達が皇都ウォルテに来る用事があったら、皇都を案内してくれるって約束してたのに!」
あの裏番、スパイ映画みたいなことやってんな? ……あ、その時の縁で伯爵家の信用を得たから、エンハンス商会(※正弦教団ホルト皇国支部)に警護の依頼がいったのか!
いろいろ納得であるが、レッドトマトへの人事異動はパスカルさんにとっても青天の 霹靂(へきれき) だったはずなので……こちらの双子が恩人と皇都ですれ違ってしまったのも、ある意味、俺のせいである。あるいはレッドワンドで内乱を起こしたファルケさんのせいでもある。 禍福(かふく) は 糾(あざな) える縄の如しとゆーやつである。
「えー……実はパスカルさんは、だいぶ出世をされまして……つい先日、ホルト皇国の西側で成立したばかりの新国家、『レッドトマト商国』において、国家元首トゥリーダ様の補佐役をされています。つまり閣僚・大臣クラスです。近いうちに、外交のためにホルト皇国へ来る機会もあるかと思いますので……その時には会えるかと思います!」
意訳すると、「猫が責任をもって連れて来る」という意味である。宅配魔法があるしそれぐらいはね?
年末にオズワルド氏が皇様やスイール様と接触し、「ネルク王国からの留学生をよろしく!」「ついでにレッドトマトとの国交樹立もよろしく!」とやってくれたので、現在、ホルト皇国の皇族と官僚がその方針で根回しを進めている。
それらが一段落したあたりでトゥリーダ様にも正式に来てもらう予定なので、パスカルさんも護衛っぽい立ち位置で一緒に呼ぶとしよう。
話しながら思案する俺をよそに、双子があたふたしはじめた。
「パスカルおじさまが大臣クラス!? なんでそんなことになってるの!? 商人だよね!?」
「猫さんとも知り合っていたとは驚きました。おじさまはいろんな所へ出張されているようでしたから、知り合いは多そうですが――」
「私がパスカルさんと知り合ったのは昨年の夏頃なので、まだ日は浅いです。彼を新しい国の幹部にスカウトしたのと入れ替わる形で、こちらのファルケさんがエンハンス商会へ就職した感じですね」
ファルケさん、つまりかつてのフロウガ将爵も、パスカルさんのことを「商人」として知っていた。以前のパスカルさんはやはり、敏腕スパイとして各地を飛び回っていたようである。そういやあの人も猫力高かったな……?
その後、俺とファルケさんが適当に遅れて昼食をとる間、皆様にはデザートのソフトクリームをご提供した。
今日はメロンとバニラのミックスである。ピタちゃんは基本バニラ派のようだが、他の味も決して嫌いではない。
そしてソフトクリームを食べ始めた双子は真顔になり、「……レベルがちがう……」「……世界にはこんなものが……」と震え始めた。
やはり女子にはトマト様よりスイーツのほうが刺さるのか……
なお口止め依頼のほうは、お昼ご飯の間にクラリス様やクロード様達が進めておいてくれたようである。特に問題なく「誰にも言わないよ!」と約束してくれたので、やはり良い子達だ。
そもそも猫力が高い人は猫からのお願いを断れない、という俗説もあるのだが……いずれにしても、留学期間中、彼女達は良いお友達になってくれそうである。
今日はあくまで「留学生のみのガイダンス」だったわけだが、明日はいよいよ入学式……
人数が人数なので一箇所に集まるわけではなく、これは「放送」で済ませるらしい。
一応、屋外の会場はあるようだが、これも立ち見で自由参加とのこと。前世の一般的な「入学式」とはだいぶ様相が違うと、俺も薄々感づいてはいたのだが……
翌日、猫は改めて、それを思い知ることとなった。