軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

197・スイールと猫

久方ぶりの……というか、転生以降で初のちゃんとした和食を召し上がったっぽいスイール様は、満腹になったところで深々と俺に頭を下げた。

「……ありがと、猫さん……ごちそうさまでした。いきなり泣いちゃって、恥ずかしいとこ見せたね……」

俺は湯呑みにおかわりの番茶を注ぎながら、にっこにこで応じる。

「いえいえ、お気持ちはわかりますとも! 私も日本出身ですし、お米のない生活など考えられません。こちらの世界、パンやチーズは美味しいのですが、米はなかなか流通していないようですし――」

「うん……南方にあるって聞いて取り寄せたんだけど、品種が全然違っていて、うまく炊けなかった……」

スイール様がだいぶ遠い目をされている……苦労したんだね……

ともあれ一緒に朝ご飯を食べたことで、初対面ながら一気に距離感を詰められた。水ちゃんの名采配に感謝するべきなのだが、なぜか素直に感謝しにくい……すっごいツヤツヤしてるのが気になる……あ、水だからか。そもそも潤いたっぷりか。

スイール様がそんな水ちゃんにも会釈する。

「水精霊様も、ありがとうございました。和食の話とか、わざわざ憶えていてくれたんですね」

『んー。猫さんがいなかったら、私はなんにもできなかったし? 今日のお料理はぜんぶ、猫さんがせっせと準備してくれたんだよぉ』

スイール様の目がわずかに鋭くなった。彼女は俺に視線を向ける。

「…………それです。猫さん……ルークさんは、今朝の食材をどこで手に入れたの?」

目つきはさほど険しいわけではないのだが、切れ者感がある。さっきまで泣いていた子とは別人のよう。

そういえば水ちゃんが、「スイールちゃんは初対面だと体裁を保ってしまう」と言っていたが、普段はクールキャラだったりするのだろうか……

「うーん、説明が難しいのですが……この世界にない食材もありましたし、なんとなく察しはついていそうですが、もちろん現地調達ではなく、『創造』系の特殊能力によるものです」

後で実際にお見せするつもりだが、デザートはリクエストを聞きたいし、今はおなかいっぱいすぎて何も入らないと思われる。俺も一緒に食ったのだが、それぞれ小盛りとはいえ、朝からちょっと品数が多すぎた……

スイール様がますます深刻そうな顔をする。

「それって、まさか…………グルメテーブルk……」

「それ以上いけない」

あっぶねぇなこの子!? 前世の記憶持ちに対しては、やっぱり最大限の警戒が必要である!

「そ、そーいうのではなく! 転生する時に、神様からいただいた能力なのです。前世で食べていたものを、連想ゲームみたいな感じで、他の素材から再現できるとゆー……たとえば薪をブッシュ・ド・ノエルに変えたり、小麦をパンや米に変えたりもできます」

スイール様がたちまち目を見開く。

「えっ……!? ち、チートじゃん!?」

おっしゃる通りです……こればっかりは否定できる要素が一個もない……

「ですよねぇ……まぁ、神様的にも実験的な能力だったみたいで、私が実装第一号らしいんですが……スイール様は転生者だそうですが、前世の記憶とか、こっちに生まれた前後の状況とか、把握されてるんですか?」

『じんぶつずかん』を読み込めばわかることかもしれぬが、せっかくなので本人の口から聞いておきたい。より深い信頼関係を構築するためには、お互いの情報開示が有効である。

「あー……まぁ、だいたいはね。私の研究した範囲では、どうも転生者って『四つ以上のルート』があるみたい」

……いきなり爆弾飛んできたな? え、そんな研究ジャンルあるの……?

スイール様は俺を膝上に抱え込み、頭上でため息をついた。

「自分の記憶と書物の記述と推測・憶測混じりだから、信憑性は怪しいし、話半分以下にして聞いてね? まず第一のルートは、『突発的な事故』。誰かの仕業じゃなくて、世界の境界線か何かが偶然に開いて、そこに巻き込まれちゃったケース。この場合は『転生』じゃなくて『転移』だと思うし、本当に誰の意志も介在していないのか、疑問も多いんだけど……一応の分類として、そういうことにしておいて」

俺は頷き、続きを促す。

「二つ目のルートは、上位存在による 悪戯(いたずら) 。私はこれね。前世で理不尽な事故に巻き込まれて死んだ時に、『適性があるからもったいない』って理由で、こっちに連れてこられたっていうか……放り込まれたパターン。でもその後、観測されてる感じがしないんだけど……放り込むだけ放り込んで放置が基本っぽい」

……ふむ? 上位存在……?

「その上位存在って、もしかして猫さんとかですか?」

「……え、そんなルートもあるの……? 私の時はそういうかわいいのじゃなくて、エスハっていうクソみたいな性格の占い師……いや、こっちの感覚だと魔導師になるのか。幽霊みたいに実体のないヤツで、私が働いていた会社の社長が、そいつを崇拝してたの。で、私も何度か遭遇したことがあって……なんか気に入られてたっぽい」

……うーむ。これはアレか? 超越猫さんが言っていた『異世界の境界を越えられる、組織に属さないフリーの人達』というやつか。

崇拝なんて単語まで出てきたが、新興宗教関係だろうか……あんまり深掘りしないほうがいいかもしれぬ……

「では、第三のルートは?」

「異世界に渡る習性を持つ変な生き物の転移に、巻き込まれてついてくるパターン。こっちの世界にある植物のうち、前世でも見かけたものの多くは、その流れで定着したものだと思ってる。たとえば……ルークさん、こっちにも『ニホン』って国があるの知ってる?」

行ったことはないが、風精霊様に保護していただいた時、『ニホン? リズール山脈の向こう側でマルムストの近くでしょ?』みたいな反応をされた。なので一応、聞いたことはある。

「やっぱり関係あるんですか? 転生者か転移者が作った国なのかなー、とは薄々思ってましたけど」

スイール様が俺の喉元を撫でる。ごろごろ。

「あれ、罠だからね? ニホンって国名にして、それを気にして旅してきた転生者を捕獲して飼い殺すの。まぁ……待遇はそんなに悪くないみたいだし、名目上は『保護』ってことになってるっぽいけど、転生者の知識って他国にとって有益なのが多いから……それを囲い込むことで、他の国が強くなるのを遅らせようとしてるのかなぁ。報告書見た感じ、だいぶ宗教色が強そうだし、そこまで深く考えてないのかもだけど」

適当に撫でられながら、俺は首を傾げた。

「宗教色? 神道とか仏教とかですか?」

「いや、そっちじゃなくて、ハタニ様とかなんとか……まぁ、神様っていうか、偽物の神様っていうか……何百年だか前に、島ごとこっちの世界に転移してきたっていう神話があるんだけど、たぶんガチ……とにかく、世の中にはわけわからんのがいろいろいるのよ。触らぬ神になんとやらって言うでしょ? 関わらないのが一番」

今のルークさん(亜神)はめっちゃ普通に触られてるけどな! 神様に触るのは危険だとしても、猫様は例外である。撫でろ(威圧)

「で、四つ目のルートに関しては推測だけで根拠がないけど……ルークさん、『螺旋宮殿』って知ってる?」

アイシャさんがうちの猫カフェを見た時、そんな単語を口にした……「別の空間へ続く扉」みたいな認識だったようだが、詳細は知らぬ。

「それも聞いたことだけはありますねぇ。どういうものだかはよく知らないです」

「アレね、世間では『ダンジョンの一種』みたいに 流布(るふ) されてるけど、そんなまともなもんじゃないと思う。私の推論だと、あれはたぶん、世界の境界を越えられる装置――ただ、元の世界に帰れるとは思わないほうが良さそうかな。あそこから出てきた連中、けっこうな高確率で発狂しているらしいし、無事に戻ってきた連中の証言を読む限り、『基本的に人間が入っていい空間じゃない』っていうのが私の印象。民間伝承だけど、昔は生贄を放り込んでた、なんて噂もあるし……嘘かほんとか知らないけど、中から異形の化け物が出てきたなんて伝説もあるよ。もしどこかでそれっぽいのを見かけても、触らずに立ち去ったほうがいいと思う」

ほえー。やっぱこの子、研究職なんやなぁ……ちゃんといろいろ調べていてえらい。

そして彼女は俺の頬に両手を添え、真正面からにらめっこ。

「……で、ルークさんの話だと、第五のルートも存在するみたいなんだけど?」

「はぁ。私も事故で死んだのですが、その後で私が会った神様は、白い猫さんでした。窓口業務みたいな印象でしたけど、獣の転生関係をいろんなルートに手配していて……人間のことはどーでもいいっぽい口ぶりでしたが、この世界以外の場所にも、けっこう動物を転生させてるみたいでしたね。あと、その気になれば宇宙とか消し飛ばすのも簡単そうな口ぶりでしたが、始末書が必要になるから面倒、みたいなことも言ってました」

スイール様が「???」と首を傾げた。わかる。わかんないよね(哲学)

「猫……猫の神様? トライハルトとかそういう連中? え、でも宇宙規模? 始末書? どういう存在?」

「私にもちょっとわからないことが多すぎて……あの、トライハルトって、有翼人の里で信仰されてる猫地蔵様ですよね? そっちとは別だと思います。確証はないですけど、アレは基本的に黒猫さんらしいですし」

「えぇ……トライハルトも知ってるんだ……? アレもかなりマイナーな伝承のはずだけど……レッドワンドの有翼人の信仰で、人間を餌付けする猫の神様っていう――」

「そうみたいですね。つい先日、私の元で有翼人の方々を集落ごと保護したので、その時に聞きました! 私のことも、そのトライハルト様と勘違いしたみたいです」

スイール様が硬直した。

「うん……うん? ……集落ごと……保護……?」

「はい。今夏のレッドワンドは 大旱魃(だいかんばつ) に見舞われてしまい、特に有翼人さん達の集落は、早い段階からピンチに陥っていたので……私が飼われている子爵家の領地の傍を開拓し、そこに新たな集落を――あ! 対外的にはオフレコでお願いします。難民問題になると厄介なので、『昔からそこに住んでいた』という設定にしているのです」

話の流れでうっかり、余計なことまで喋ってしまった……スイール様のことは味方に引き入れるつもりだが、彼女もまたホルト皇国の官僚であり、国にいろいろと報告をおこなう立場である。

とはいえ、ごはんを盾にして口止めすればチョロそうだけど(悪辣)

するとスイール様が青ざめ、頭を抱えてしまった。

「ちょ……ちょっと、ちょっと待ってね……? あれ? レッドワンドの内乱には、魔族のオズワルド様が関わっていて……もしかしたら、亜神がそれに協力していた可能性があって……有翼人の里はレッドワンドで……新しい国はレッドトマトで……砂神宮で畑を耕す猫さんの目撃情報があって……」

ホルト皇国の諜報網はちゃんと仕事しているなぁ……リスターナ子爵の報告書にはなかったはずの事柄まで、すでに分析が進んでいたようだ。しかし畑を耕す猫……いったいどこのキジトラなんだ……(棒)

「あの……ルークさん、まさか……レッドワンドの内乱に、何か関わってた……?」

…………てへ、と舌を出すかわいい猫さん(自己評価)

「……流れで、ほんのちょっとだけ……あの、たいしたことはしてないのです。食べ物を支援したり、オズワルド様にいろいろ手伝ってもらったり、オズワルド様に豆大福をご提供したり……」

スイール様が、ニコニコ笑う水ちゃんと俺を交互に見て、呆然と呟いた。

「……猫さん。もしかして……まさかと思うけど……正体は、『亜神』……?」

「はい! あまり自覚はないですし、分不相応とも思っておりますが、転生時にそういう特典をいただきました」

スイール様の目が死んでいく。ハイライトさん……どうしたの……? 血糖値あがっちゃった……?

「……ルークさん……『世界征服』とかにご興味は……?」

えらくバイオレンスな質問きたな?

「え。特にないですねぇ……めんどくさそうですし……」

「他国への侵略活動とかは……」

「縄張りの防衛はしますけど、侵略の予定はないです」

スイール様が、 胡乱(うろん) な眼差しを水ちゃんに向けた。

「水精霊様……?」

『あれぇ? でも猫さん、トマト様の覇道はいいの?』

「あっ!? それですか! もちろん、トマト様の栄光は世界中へ広げる必要がありますし、『耕地侵略』も着々と進める予定です! いずれ世界中がトマト様の前にひれ伏し、その美味しさを讃える時代が来るでしょう。まぁ、それはトマト様の潜在能力をもってすればごく自然な、実に当たり前の既定路線なので、私のような下僕ごときが何かする必要はあまりないはずなのですが……それでもその覇道をお手伝いできることは、我が喜びでもあります!」(早口)

猫が声高に主張すると、スイール様はギギギっと人形のように無表情で首を傾げた。ちょっと怖。

「……そういえば昨日、オズワルド様もトマト『様』がどうとか言ってたけど……あれってまさか、前世にあった『トマト』のこと……? 名称がたまたま似ている植物とかじゃなくて?」

俺は満面の笑みでにっこりと頷く。

「まさにそのトマト様です! 赤くつややかで神々しい、栄養たっぷりのスーパーお野菜様です!」

「……なんで敬称がついてるの?」

「実は私、トマト様の下僕をやっていまして……いえ、そういう称号が実際にあるのです! もしよろしければ召し上がりますか、おいしいトマト様を」

倒置法。すなわち強調表現である。

俺はストレージから取り出した完熟トマト様を、そっとスイール様に差し出した。

スイール様がびくりと身を引かせる。

「い、いや……今はまだ、おなかいっぱいなんで」

「あー。そうですよね。朝食にしては量が多めでしたし……」

「……あと私、生のトマトはちょっと苦手で……ご、ごめんね……?」

あー……まぁ、残念だがそういう人もいる。ある程度の好き嫌いはしゃーないし、「トマトソースやケチャップは好きだけど、生野菜だと苦手」というのは、前世でもちょくちょく聞いた。

トマト様の下僕としては、「ありえないんだが?」とも思う一方で、「そもそも生野菜そのものがダメ」という人は実際多いし、非常に残念ながら「トマトアレルギー」という例も存在する。

トマト様にはスギ花粉と似たタンパク質があり、それが影響して花粉症っぽい症状が出てしまう……という話らしいのだが、加熱すると免疫反応を引き起こすリゾチームが分解され、症状が抑制される。そのため、ケチャップとかトマトソースだと問題ないことが多い。

「スイール様は、生野菜そのものがダメな人です? それとも生のトマト様だけですか? ケチャップとかピザとかミネストローネとかは……」

「ああ、料理したものは普通に好き。それこそオムライスとか……生だと青臭いっていうか、ゼリーっぽい部分が特に苦手かな。生野菜自体もそんなに……特に野菜スティックのセロリとか、生のニンジンとかきゅうりとか、だいたい苦手」

ふむ。さっきの漬物は美味しそうに召し上がっていらしたので、これは「生野菜の風味」が苦手なタイプか。

でも大丈夫!

トマト様は加熱することでその強固な細胞壁が壊れ、よりリコピンを吸収しやすくなるというバフがかかるのだ!

やはりトマト様こそ至高のお野菜……なんて万全なサポート体制……ビタミンCは他でとろう。

トマト様の素晴らしきご加護に猫が 恍惚(こうこつ) としていると、スイール様と水ちゃんがひそひそ話をはじめた。

「……あの、水精霊様……この猫さん、ちょっと、あの……水精霊様の情報ほどアレな感じではなかったですけど、別方向に、ちょっと言動が……?」

『大丈夫だよー? 性格は本当に穏やかでいい子だから……あ、でも簡単に世界を滅ぼせるくらいの能力があるのも本当だから、仲良くしてね? 逆らっちゃダメだよ?』

……水ちゃんもなんか誤解してそうだが、ハイパーネコ粒子砲はそういう抑止力的な大量破壊兵器ではないので……アレは見なかったことに……できない? ダメ?

「あ、そーだ。スイール様、この後は一旦、寝台ごと官舎にお戻りいただきますが……近日中に、私の飼い主と仲間の方々も紹介させていただけますか? その時は、前世絡みの話はなしで。スイール様も前世のことは公表されていないようですし――今日の朝ご飯も、詳しく説明すると『私とスイール様が同郷』という話が露見するので、伏せていただけると助かります。これは説明を面倒がってごまかしてきた私のせいでもあるのですが、皆様にとって、私は『神々の世界から来た猫』という認識になってまして……」

「あー……実際ヤバい神様はたくさんいたし、『神々の世界』ってのもそんなに間違ってないけど……ん。わかった。その飼い主さんっていうのが、ネルク王国からの留学生組の誰か?」

なんかわけのわからぬ呟きも混ざったが、猫の飼い主についてはオズワルド氏の言動から推測したのであろう。やはり勘の鋭い人である。

「ていうか、飼い主って……ルークさん、亜神様なんだよね……? 人間に飼われてるの? そもそも前世、普通に人間だったんじゃ……?」

「前世はさておき、 今生(こんじょう) はご覧の通りの猫です。知り合いの猫さんにも『前世はノーカン』と言われましたし、私はこの世界で、一介の猫として、トマト様の覇道に身を捧げる覚悟です!」

「……それは猫の生き方じゃないんだよなぁ……」

まぁ……スイール様にはまだわからないか。この 領域(レベル) の話は。

その後、クラリス様達とのご挨拶の方針についても軽く打ち合わせをしてから、俺はスイール様&ベッドを宅配魔法で官舎に送り届けた。

現地は竹猫さんにも見張ってもらっていたので、留守だったことは発覚していない。が、スイール様はおなかいっぱいすぎて朝ご飯(※むしろ昼ご飯)が食べられないはずなので、そのあたりは適当にごまかしていただく必要がある。

そしてスイール様を帰らせた後、俺もクラリス様達が待つホテルへ戻ろうとしたのだが、そこで水ちゃんに呼び止められた。

『猫さん、今日はありがとーねぇ。スイールちゃんも喜んでくれたし、ドッキリも大成功だったし――これからもスイールちゃんの食生活、ちゃんと面倒みてあげてね! よろしくー』

「……えっ」

……あれ? そういう話? いや、もちろんこれ一回で終わりなわけはないが、もしかして今後もずっと俺がおさんどんをする前提で引き合わせられた感じ……?

水ちゃんはにこにこと……あくまでにこにこと、想定外の「圧」をかけてきた。

『……猫さんは、釣った魚にもちゃんと餌をあげるタイプだって信じてるから。もちろん毎日とまでは言わないけど、スイールちゃんが寂しがらない程度には、ちゃんと面倒みてくれると嬉しいな?』

「アッ、ハイ」

水ちゃんの気配から抗い難いものを察し、猫は尻尾を震わせる。

これが……これが上位存在……!

……まぁ、転生者同士の仲間意識もあるし、今後とも長いお付き合いになるとは思っている。特にホルト皇国留学中はお世話になる機会が多いだろう。

「水ちゃ……水精霊様は、スイール様を大事にされてるんですねぇ……」

『んー……まぁ、みんな、私達より先に死んじゃうから』

俺はきょとんとして、水ちゃんの笑顔を見つめてしまった。

表情は変わっていないし、特に寂しげというわけでもないのだが……水ちゃんの口からそんな言葉が出てきたことに、びっくりしてしまったのだ。

『風ちゃん達はそういうところ、割とドライっていうか、割り切れてるみたいだけど……私はダメなんだぁ。だからね、せめて生きているうちに、いっぱいかまってあげたいの。お別れの後も、ちゃんと憶えていられるように』

水ちゃん……

俺は水ちゃんのことを誤解していたかもしれぬ……

てっきり「人類をおもちゃだと思っている若干サイコな精霊さん」なのではと、薄々疑っていたのだが、この子はこの子なりに、いろんな人の死と向き合ってきたのだろう。

そもそも上位存在であるからして、命とか寿命とか死の概念をどこまで理解できているか、怪しい部分もある。数百年どころか数千年以上にわたっていろんな人々の死を見てきて、それでもなお人類を見捨てずにいてくれている時点で、この子は立派に聖人であった……

猫がひっそり反省しながら宅配用のダンボール箱に潜り込むと、水ちゃんはつやつやした笑顔で俺を見送ってくれた。

『じゃあまたねぇ、猫さん。今日はかわいいスイールちゃんも見れたし、このネタで二十年はいじれそうー』

……いや、やっぱ基本的には愉悦勢だな、この上位存在?(胡乱な眼差し)