軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14・猫の目覚め

深夜である。

寒くはない。

俺の体は、ツタ的なもので編まれたオシャレな籠にすっぽり収まっていた。

体の下には羊毛の毛布が敷かれ、体の上にも重くない程度の小さな毛布が掛けられている。

具合の良い寝台を用意してもらってありがたいけれど、 籠(かご) の外、たらいに置かれた氷漬けのトマト様は何? 供物? 供物なの?

ここはどうやらクラリス様の寝室である。大きめのベッドから、二人分のかわいらしい寝息が聞こえる。

もちろんクラリス様とリルフィ様なのだが、リルフィ様は日頃、離れで寝起きされていたはずだ。

想像するに、「寂しいから一緒に寝て」とか「ルークに何か起きたらすぐわかるように」とか、そういう配慮の結果であろうと思われる。

もそもそと起き上がった俺は、大欠伸を一つ。

7日も寝ていたにしては体に異常をまったく感じないが、爪は伸びている気がする。爪とぎせな。

……うん。爪とぎの前にやることあるよね……

でも寝てるしなー……深夜に起こすのも悪いしなー……

どうしたものかと思案しつつ、俺はとりあえず籠から這い出し、そっと窓際に寄ってみた。

夜空にお月さまが見える。

地球のお月さまより大きめで、更に大中小と三つもある。

山でお世話になった精霊さんは、それぞれ「一の月」「二の月」「三の月」と呼んでいたが、一番小さな「三の月」が、だいたい地球で見たお月さまより一回り大きいくらいだ。

最も大きな「一の月」は、初めて見た時にちょっとびっくりした。

夜空に向かって、左右にやや広めのバンザイをした時――その両手の幅が、夜空に浮かんだ月の直径とかなり近い。つまり視界を埋めるほどのバカでかい満月である。

いま見えているのは、そのやたらとでっかい「一の月」。

俺が人狼だったら「わおーん」とか吠えながら獣人化したいくらい見事な満月であるが、生憎とただの猫なので、ぼんやりと見上げるだけだ。

一番大きく見えるこの一の月が、一番この星の近くにあって、実際のサイズでは一番小さいらしい。

もっとも小さく見える三の月が、一番遠くを回る衛星で、実際のサイズは一番大きいとか。

二の月はちょうど真ん中である。

そして、この直近にある「一の月」。

地球の月と違ってクレーター的な模様が一切なく、表面は茹で卵のようにつるん、としている。

……アレたぶん月じゃねーぞ。超越者さんが使ってる宇宙船とか観測装置とか結界とか次元の穴とか、そっち系のオーパーツだと思う……あのサイズの天体があんな間近にあったら、潮汐力とかいろいろとんでもないことになってそーだし。

空気がきれいなせいか、他の星々もとても明るい。

昨夜……じゃなくて7日前(推定)に、たらいのお風呂から見上げた夜空もきれいだった。ここではたぶん、雨の日以外はこんなキレイな星空が当たり前なのだろう。

星空を見上げていたら、ふと前世を思い出して、若干ホームシックになりそうになったが……

両親を早くに亡くした俺は、祖父母に育てられた。

その祖父母も四年前と二年前に相次いで亡くなり、家族と呼べる人は向こうにもういない。

お世話になった先輩とか友人とか後輩はいるが、数は多くないし、俺が死んだ直後は泣いてくれたとしても、四十九日の頃にはもう「運の悪いやつだったなぁ……」としんみり思い出話になってそうな間柄である。

だから前世を「懐かしい」とは思うが、「帰りたい」とはあまり思わない。なんかこっちのほうがおもしろそうだし、正直、猫の体も想像以上に居心地が良い。

あとクラリス様もリルフィ様も超かわいいし! 女神様クラスの美人が身近にいるというのは、それだけで生きる活力になる。

あ、そーだ。

ちゃんと使えるかどうかのテストがてら、今のうちに「じんぶつずかん」でクラリス様とライゼー様の情報も確認しておこう。

念じると、俺の手元にぽわっと半透明の本が出てきた。

重さは感じない。俺だけにしか見えないと超越猫さんも言ってたし、これなら誰かに盗まれる心配もないだろう。

ステータスは、確かDが平均ラインで、Cがまあまあ、Bが優秀、Aで達人、Sで英雄級だったっけ。

どれどれ……

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■ クラリス・リーデルハイン(9)人間・メス

体力E 武力E

知力C 魔力D

統率C 精神C

猫力81

■適性■

交渉B

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■ ライゼー・リーデルハイン(38)人間・オス

体力B 武力B

知力B 魔力D

統率B 精神B

猫力26

■適性■

槍術B 弓術C 商才B 政治B

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ほう。

クラリス様の体力武力が低いのは、貴族でお子様という点を考えればまあ妥当か。

知力Cは「子供だからまだ知識の絶対量が少ない」というだけで、実質的にはB以上のような気がする。だってクラリス様かしこい。たぶん俺より普通にかしこい。

それと、初めて見る適性がある。

クラリス様の「交渉」、ライゼー子爵の「槍術」「弓術」「商才」「政治」――

ふーむ。

ネーミングも普通だし、「すごく特殊な能力!」というわけではなさそうだが、わざわざ記載があるということは、余人より明確に秀でた部分なのだろう。

ライゼー子爵はステータス自体もなんかすごい。

魔力と弓以外全部Bだから、一見すると器用貧乏のぱっとしないステータスに見えてしまうのだが、Bはあくまで「優秀」という評価である。

リルフィ様も「知力Bと魔力B・水属性B」で、超越者さんから有能認定されていた。つまり一個でもあれば御の字なのだ。

それがたくさん揃っているとゆーことは、つまり「いろいろな才能が高いレベルでまとまっている」という意味であり、総合力が凄い。

他の地方の領主さんも見てみたいものだが、これはもしかして、軍閥のお貴族様としてもかなりの有望株なのでは……?

しかし猫力が低いのは犬派だからか……頑張って仲良くなろう。

ついでにぺらぺらとページをめくり、使用人の方々も確認してみる。

ステータスはだいたいDでたまにCという塩梅だが、使用人の方々は適性に「家事C〜B」を多く所持していることが判明した。

たぶんだが、「魔法」系の適性は生まれつき所持していないと伸び率が悪い反面、「武術」や「技術」に関する適性は努力による経験累積型なのではなかろうか。

で、これらの経験累積型の適性は、「じんぶつずかん」には載っているものの、「魔力」ではないため「魔力鑑定」では認識されず、世間の人々はこの存在を自覚していない可能性が高い。クラリス様の「交渉」なんかもそういう類なんだろう。

……この「じんぶつずかん」、第一印象よりもお世話になる機会が多そうだ。

――そして使用人の中に、一人だけ、ちょっとヤバげな人が混ざっていた。

召使いのサーシャさん。

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■ サーシャ・グラントリム(15)人間・メス

体力B 武力B

知力C 魔力D

統率C 精神B

猫力70

■適性■

拳闘術B 投擲術B 剣術C 家事B

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…………武闘派戦闘メイドじゃねーか!

いやいやめちゃくちゃ清楚で可愛い感じだったぞ!?

要人の護衛を兼ねるメイドって確かに理想的だけど、サーシャさんがその役割を担っているとは予想外だった。

そういや、ライゼー子爵の腹心たる騎士団長(未登場)の娘さんなんだっけ――

小心者なルークさん、なるべく媚び売っておくことをここに決意。

さて、とりあえずはこんなところか。

なお、「じんぶつずかん」で見られるのは「俺が実際に会った人」だけだ。顔を思い浮かべてページをめくると、その人に関する情報が浮かび上がる、という仕組み。

今回は「能力値を見たい」と思っただけなのでそれしか出てこなかったが、生い立ちとか近況とか、その他の情報にもアクセス可能ではある。

が、特に意味もなくプライバシーを覗き見するのはなんかアレだし、ぶっちゃけ読むのがめんどい。当座は「必要に応じて確認する」という使い方で良かろう。なんでもかんでも知ってる喋る猫とか、相手からしたら気持ち悪いだろうし。

ぱたん、と「じんぶつずかん」を閉じて消し、俺はぼりぼりと腹を掻いた。

その時、 囁(ささや) くような声が聞こえた。

「…………ルーク……さん……?」

か細く震えるウィスパーボイス――

俺はびくりとしっぽを震わせる。

「ど、どうも、リルフィ様……! おはようございます……?」

振り返ると、月光に照らされた寝台の上で、リルフィ様が呆然と眼を見開いていた。

ニットっぽいブラに短パンという、寝間着にしてもちょっとエロすぎやしないかと不安になってしまう例のお姿であるが、今だけは見惚れる以前に冷や汗がダラダラと湧いてしまう。主に肉球部分に。

「こ、このたびは、ちょっとだけ寝過ごしてしまいまして……!」

「……ルークさん!」

リルフィ様はベッドから落ちるようにして、いきなり飛びついてきた。

「ル、ルークさん……! ルークさぁぁん……!」

……大粒の涙がぽろぽろぽろぽろ……完全に泣かれてしまった。

お胸に埋もれ、両腕でがっちりと抱きしめられつつ、俺は必死でなだめにかかる。

「す、すみません! あの、実はちょっと知り合いの神様にですね……!」

「よ、よかっ……眼が、覚め……! ずっと……ずっと、起きなくて、寝たまま、で……ひぐっ……えぐっ……!」

ええ……ボロ泣きですやん……

クラリス様に泣かれるのは覚悟してたけど、リルフィ様にこんな泣かれるとは思っていなかった。

気づけばそのクラリス様も、寝台に半身を起こし、こちらへ大人びた微笑を向けておられる。

「……おはよ、ルーク」

「は、はい。おはようございます……」

俺を抱えて 咽(むせ) び泣くリルフィ様を眺め、クラリス様はどことなく呆れ顔である。

「リル姉様、だから言ったでしょ? ルークは神様なんだから、人間より睡眠時間が長くても不思議じゃない、って。そんなに心配しなくても、じきに眼を覚ますから大丈夫、って」

「……だ、だって……だってぇ……!」

リルフィ様、もはや泣き声で言葉にならない……

しまった、トラウマ負ったのはクラリス様じゃなくてリルフィ様のほうだった!

よくよく考えたらクラリス様は精神C、リルフィ様は精神D、猫力もリルフィ様のほうが高い。初日のやりとりを見てもクラリス様のほうが一枚上手な感があったし、これは完全に俺の読み違えである。

この寝室で一緒に寝ていたのも、おそらくクラリス様が「寂しいから一緒に寝て」と言ったわけではなく、リルフィ様が(以下略)

……結局、リルフィ様が完全に泣き止むまで、一時間くらいかかった。

なんかもうほんと申し訳ない……