軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

133・猫式タウンミーティング

調査隊の皆さまが、禁樹の迷宮からラドラ伯爵領へ帰った数日後。

俺は有翼人の集落となった古代クマ遺跡にて、タウンミーティングをおこなっていた。

あくまで事務的な会合なので、集落外の出席者は俺一人。クラリス様達はお屋敷に残っている。

「必要な物資は足りているみたいですね。ゴミ処理も 堆肥(たいひ) 関係も問題なし……そういえば、以前の集落では砂で食器を洗っていたとか? 水仕事にはもう慣れました?」

「はい、おかげさまで。手荒れ対策の保湿クリームまで用意していただきまして――」

これはリルフィ様からの贈り物である。化粧品とゆーかスキンケア系の商品は、素材が手に入りやすくて魔法水より精製の難度が低いため、薬学を扱う魔導師にとっては初歩の初歩らしい。

もちろん素材の入手難度には地域差もあるが、ドラウダ山地を後背に擁するリーデルハイン領では、植物系の素材がとても手に入りやすい。この山は大事にせねばならぬ。

現在、この集会所にいるのは村長のワイスさんや、年嵩の村人達。

椅子や机はなく、石床の上に藁で作った敷物を敷いている。 円座(わろうだ) 的なアレである。冬は寒いだろうな……有翼人さん達のライフスタイルに即した、防寒系の衣服か家具を考えたい。

そんな中で俺を抱っこしているのは、有翼人の幼女様。

移住時の炊き出しで俺にお礼を言ってくれた子なのだが、なんか気に入られてしまい、俺が集落に行くと、どこからともなくスッと現れる。

傍らには俺とよく似た猫のぬいぐるみを携えており、これは彼女の母親が作ってくれたものらしい。有翼人の皆様、とても手先が器用。

今はぬいぐるみを脇に置き、俺を抱っこしているのだが……猫重くない? 大丈夫?

幼女様に抱っこされた俺を囲み、会合は順調に進んでいく。皆様からのツッコミがないのはもう慣れたせい。

……最初は「子供はよそで遊んでなさい」と追い出されていたのだが、俺が「まぁまぁ、幼いうちから村の業務を見ておくのは良い経験になります」などと擁護したせいでこうなった。俺のせいじゃねぇか。

「……調査隊からの要望は、キルシュ先生とケーナインズの想定通りでしたね。まずは補助金で運用する『簡易宿泊所』の整備を進めます。雑魚寝が前提になりますが、こちらは宿屋と違って格安、もしくは無料で使えるようにしますので……まぁ、ちょっと大きめの山小屋みたいなものですね。設計図は今、ブルトさんが書いてくれています。工事はこっちでやっても良いのですが……皆さんに『建築』の技術を憶えていただくために、練習として、有志の方々に参加してもらおうと思います。失敗してもリカバリーできますので、怪我だけはしないように」

俺の方針を聞いて、若めの村人さんが胸を叩く。移住から少し後に徴兵先から回収した人で、俺を抱っこしている幼女様のお父様である。レッドワンド国内では今頃、脱走兵というか行方不明扱いかな……?

「俺は徴兵中、工兵をやっていました。ルーク様のご指示に従って、全力であたらせていただきます!」

「期待してます! でもあくまで練習ですので、普通でいいですからね? 徐々にノウハウを得て、将来的に皆様の居住環境をより良くしていくのが主な目的です。ブルトさん達にも指導をお願いしますので、とにかく安全第一で!」

このあたりはガチでブルトさんとキルシュ先生が頼りである……! 猫魔法の「雉虎組」は優秀すぎて、人類には不可能な速度で工事を終わらせてしまう。アレは参考にならぬ。ほぞ加工を含めた製材速度が一本一秒とかなんスよ……

「次に野生動物への対応…… 落星熊(メテオベアー) さん達は友好的な関係を結んでくれましたが、 灰頭狼(アッシュウルフ) や普通の猪とかは、ちょっと野性が強すぎて懐かない感じですね……あまり刺激しないようにしつつ、危険と判断したら狩ってください」

ドラウダ山地の野生動物には 刹那(せつな) 的な生き方をしている方が多く、「弱肉強食」「死んだらそれまで」みたいな、ドライな死生観が根差していた。

生態系の頂点にいた落星熊さんは、敵らしい敵がいなかったためか、意思疎通ができた後はむしろ穏健派だったくらいなのだが――狼はどうにもならなかった。猫魔法で脅すと一時的には退いてくれるのだが、三日もするとだいたい忘れる。

……いや、バカなわけではなく、「それはそれ」「これはこれ」という割り切りが極端なのだ。反骨精神も強いし、やはり生存競争を日常としている方々は価値観が違うのだと思い知らされた。落星熊さんが味方になってくれただけでヨシとすべきであろう。

とはいえ、灰頭狼は完全夜行性なので、昼間に遭遇する危険はほとんどない。堀も越えられないし、「夜は遺跡の外へ出ない」というルールの徹底を当座の対策とする。

「あと、冬の間の内職についてもご相談したいです。冒険者向けのお土産、もしくはよそへ出せる交易品を作れば、そのまま現金収入につながりますので、個人的にはぜひオススメしたいのですが……有翼人の方々は手先が器用ですので、山地の木材や石材を使用した細工物や、縫製を伴う布製品などが良いのではと思います。必要な工具や道具はライゼー様にお願いすれば調達してもらえますので、何が良いか、みんなで考えましょう」

皆様の目が、じっと俺を見ていた。

俺を抱えた幼女様まで俺の後頭部を見つめている。

なに? なんか変なこと言った?

「……ルーク様。実は、試作品がありまして……」

「えっ!? もうですか!?」

すばらしい! 移住の前後にも村長のワイスさんに軽く振っておいた話題だったので、有翼人さん達も考えておいてくれたのだろう。

俺はどきどきわくわくしてサンプルの登場を待った。

村の人が奥の部屋から持ってきたのは……

木彫りの 落星熊(メテオベアー) 。その背にまたがるのは、一匹の猫――

……精巧である。よくできている。実によくできているのだが……

「バリエーションも取り揃えてみました!」

次々と、木彫りの像が俺の眼の前に並べられる。

愛らしい威嚇のポーズをとる落星熊さん。同じポーズをとる俺。

丸まって眠る落星熊さん。その上で丸まって眠る俺。

トマト様の詰まったカゴを抱えた落星熊さん。トマト様を両手で抱えた俺。

うつぶせにべたーっと寝転んだ落星熊さん。同じように液状化した俺。

招き猫のポーズをした落星熊さん。同じポーズで並んだ俺――

……すべて、落星熊さんと俺の組み合わせである……

毛並みまで精巧に再現されていて、ものすごくよくできているし、まさに職人芸なのだが……なぜ俺?

レッサーパンダと猫の組み合わせに可能性の獣を見出したか……?

「こちらの木材は、レッドワンドの石に比べると非常に彫りやすく、短期間にしてはなかなかのものができたのではないかと自賛しております。防水やツヤ出しの塗料などは、リルフィ様が調達してくださいました。こちらは作例見本ということで、リルフィ様にお納めください」

「あ、ありがとうございます――お預かりします……」

リルフィさま……? 俺が知らないうちに、猫グッズの物産デビューを画策されていた……? いつの間に……? 人見知りは……?

まぁ、落星熊のほうは良い。これは非常に愛らしく、お土産物どころか芸術品として売れるレベルである。大きさもまあまああるし、値付けは高めで良かろう。

猫のほうは……これ売るの……?

いや、皆様もよく考えてみて欲しい。「自分の姿のフィギュア」とか、どう足掻いても売れる気しねぇだろ、っていう……

それでもルーシャン様のような、一部のやべぇ猫マニアには売れるかもしれんが……生産量は落星熊多めでお願いしよう。

というわけで、冬場の内職生産品第一号には、「木彫りの落星熊」が正式採用された。

あとは布製品なども検討するが、木彫りの落星熊の出来栄えを見るに、有翼人さん達はけっこう企画力がありそうである。お任せしてしまったほうが良いだろう。

話し合いが終わりに近づいた頃、同席していた村人の一人が手を挙げた。

「ところでルーク様、この集落の『名称』をどうするかと、話し合っていたのですが……」

レッドワンドにおいても、有翼人の集落は無名であった。その地域一帯の「地名」はあったのだが、「村としての名」がなかったのだ。

地名がそのまま村の名として機能していたとも言えるが、この集落には名がないと不便であろう。

「はい。村の名は決まりましたか?」

「キルシュ先生の発案で、ルーク様の名を冠し、『ルークバーク』というのはどうかと」

…………なんだろう。なんか急激な発展と治安の悪化を経て歪んだ利権と経済格差が生まれ、革命を経て責任者が投獄される未来が見えたような……?

「……べ、別の名前にしましょう? とりあえず、私の名前は外して……そうですね。 落星熊(メテオベアー) さんを信仰する村ですし、『メテオラ』というのはいかがでしょう?」

「はっ! ルーク様の御心のままに――」

みんなが一斉に平伏した。やめて重い。

前世においてもメテオラという地名はあったが、あちらは巨大な岩の上に作られた絶景の修道院群であった。

こちらはレッサーパンダの地上絵であり、これといって共通項はないのだが、将来はレッパン信仰の聖地となってくれることを祈ろう。

集落の名前も無事に決まり、タウンミーティングの議題を消化したところで、俺は果樹園と畑の視察をさせてもらった。

この集落のことはもう有翼人さん達に任せているのだが、現状、育てている作物の多くは俺がコピーキャットで用意したもの。その育成状況が気になるのは当然であろう。

しかも有翼人さんの中には、シャムラーグさんのように「植生管理」の特殊能力を持つ方がそこそこいる。

この能力、ご本人達には自覚がなかったのだが、簡単に言うと「植物の状態を見極め」「その生命力を引き出す」というもの。

たとえば植物を蝕む疫病について、普通の人間では察知できないほどかすかな前兆を明確に把握し、該当部位を素早く除去できる。

もしくは体内魔力を 伝播(でんぱ) させて植物を一時的に強化し、枯死や生育不良を防ぐ――そういった、身一つで農薬や肥料の代わりができるすごい能力なのだ。

一つ一つの作物に手をかけなければいけないため、農薬や肥料の使用に比べて効率は良くないが、作物の生育実験においては極めて役立つ。

ついでに水や日照の過不足なども把握できるため、もはやその存在感は「農作物のお医者さん」といったところ。お屋敷の庭師・ダラッカさんも「まさに神業」と称賛していた。

――こんな優秀な人達が、レッドワンドの荒れ地で苦労していたのは皮肉な話であるが……「あんな不毛の大地でさえ、農業を可能としていた」点が、彼らの能力の非凡さを証明している。

この 肥沃(ひよく) なドラウダ山地において、彼らはまさに水を得た魚、翼を得た鳥、トマト様を得た猫となったのだ。

「どの作物も生育は良好ですね。さすがです!」

「ありがとうございます。ただ、我々には見たことのないものばかりでして……収穫の時期については、ルーク様の指示を待つようにとのことでしたので、手を付けておりませんが……たとえばあの区画などは、もう採取できそうな印象でして」

そう言ってワイスさんが指さしたのは、サツマイモ畑。

まだ根のサツマイモはできていないが、夏の日差しを浴びて、青々とした葉が大量に茂っている。炒め物にしたら美味しそう。

だが、しかし……

「あれは葉物野菜ではなくて根菜です。葉と茎も食べられますけれど、メインは根っこのほうでして……じゃがいもの親戚みたいなものだと思ってください。収穫までは、あと一~二ヶ月ほどかかるかと思います」

じゃがいもはナス科、さつまいもはヒルガオ科であり、前世での分類上はまったく違う作物なのだが、「根菜」という共通項はある。

地下茎と根の違いだとか細かいことを言い出すとまたややこしいのだが、こちらの世界になかった作物を説明する上で、既存の作物を例として示すくらいはご容赦いただきたい。

特にじゃがいもはこっちの世界でも主要作物の一つであり、例示するのにちょうどいいのだ。

「調理法や美味しい食べ方などは、また収穫期にご説明します。とはいえ……どんな作物なのかは知っておいたほうが育てやすいですよね。えーと、ちょっとお待ちを」

ストレージキャットさんから藁束を取り出し、コピーキャットで錬成する。今回は藁→芋けんぴ→石焼き芋の手順。

藁と芋けんぴには「細長い」「黄土色っぽい」ぐらいしか共通項がないのだが、それでイケてしまうのがこの能力の恐ろしさ……

熱すぎない程度にほっかほっかの焼き芋を、視察に同行している人数分、手渡していく。もちろん、俺と手をつないでいた 件(くだん) の幼女様にも。

「皮は剥きながら食べてください。まぁ、食べちゃっても別に大丈夫ですけど、おいしくはないので……はい、ソレッタちゃんもどうぞ! 口いっぱいに頬張ると喉に詰まりやすいから、少ーしだけかじって、ゆっくりと噛んでから、ちょっとずつ飲み込んでね?」

「ありがとー、ルークさま!」

幸せそうな、満面の笑顔で焼き芋を受け取る幼女様――

彼女が元気になってくれて、俺も嬉しい……炊き出しで泣きながらお礼を言われた時には、あまりに 不憫(ふびん) で、もう頭が真っ白になってしまったものである。「子供がおなかを空かせている」という状況自体が精神にクるとゆーか、本当にダメなのだ……

そして実食。

「これは……甘い!」

ワイスさんが一口食べるなり、驚愕の声を紡いだ。

これほど甘い根菜は、この世界でも他に類を見ない。しかも果物とは明らかに違う、でんぷん質の豊饒な甘みである。

幼女様もキラキラと眼を輝かせ、小さなお口で一生懸命に焼き芋をかじる。

その様子を微笑ましく見守りながら、俺は肉球を掲げた。

「こちらのお野菜は収穫量が多く、この甘さゆえにお菓子の材料にも使いやすいです。これは石と一緒に焼いた『石焼き芋』ですが、たとえばスープにいれたり、普通に焼いたり、蒸したり、揚げたり、いろんな調理法があります。トマト様との相性は、残念ながらもう一つなのですが……単体で美味しく食べられるお手軽スイーツとして、リーデルハイン領でも鋭意栽培中です!」

「すばらしい……! ルーク様は、まさに農業の神様ですな!」

……大好評だったので、その後、他の村人達の分もご用意し、広場で試食会とあいなった。

延々と石焼き芋を錬成し続ける猫さん……おかしい……俺はトマト様の下僕だったはず……どうしてこんなことに……?

……しかしまぁ、眼の前で美味しそうに焼き芋を頬張る有翼人さん達を見てしまうと、たまには他の作物の布教活動も悪くないなどと思ってしま――

…………ち、違うのです、トマト様! これは浮気ではなく! あくまで日々の業務の一環として!