軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

120・転移魔法のお勉強 ~アウトソーシング編~

リルフィ様達がお風呂からあがり、俺のボイラー業務が終わったところで、我々はリルフィ様の仕事場(※ご自宅)へと移動した。

まずは座学が必要であり、湯上がりリルフィ様とアイシャさんも「聞きたい」ということで同席する流れに。

クラリス様はもうおねむの時間である。添い寝はピタちゃんに任せたが、たぶんあの子、クラリス様より先に寝る。丸まったら三秒で寝る。むしろもう既に寝てる。

さて、『転移魔法』に関する講義の時間!

俺はテーブルの上に香箱座り。

すぐ後ろにはリルフィ様が座っておられるが、今宵はいつもの部屋着ではなく、ウィル君に配慮して 浴衣(ゆかた) をお召しになられている。

……浴衣?

浴衣である。見間違いではない。

クリーム色で柄は無地、非常にシンプルだし、帯は温泉旅館の客用浴衣みたいな細くて結びやすい形状だが、シルエットが明らかに浴衣である。「ナイトガウン」などという 小洒落(こじゃれ) たモノではない。

アイシャさんも同じものを着ているが、これはリルフィ様がお貸しになられた。

聞けば夜着としてはそこそこ一般的なもので、華美さが皆無なのでガチ貴族はあまり着ないそうだが、商家などでは夜間の来客にこの姿で対応するとか。

しかしリルフィ様は暑がりなので普段は着ていない。

……これもご同郷の誰かが持ち込んだんだろーな……とは察しつつ、よくお似合いなのでスルーした。それこそシンザキ様式のシンザキさん由来かもしれぬ。

猫と女子二人が神妙に見上げる前で、テーブルを挟んで向かいに立ったウィル君は、手元に自前の魔光鏡を抱えていた。

リルフィ様所有の魔光鏡よりも大きい。だいたい12インチのタブレットぐらい。裏面には欠けたお月様のマーク。たぶん高級品だと思う!

「まずはじめに。転移魔法は、『地属性』に分類される属性魔法の一種です。ただし人間には使えず、魔族……それも、ある程度、純血の魔族と血縁の近い者しか使えません。一説には、これは『魔族の祖となったとある亜神』の特殊能力だったとも言われており――つまり、ルーク様でも行使できるかどうかはわかりません。ただ、ルーク様も『亜神』である以上、使いこなせる可能性は高いと推測しています」

……ここがちょっと不安。

そもそも俺は「猫魔法」「神聖魔法」「暗黒魔法」の適性は持っているのだが、「地属性」の適性なんて持っていない。

とはいえ、水属性のリルフィ様でも「小枝に火をつける程度の火魔法」は使えるので、「適性がなければ絶対に何もできない!」というわけでもない。威力が極端に低くなったり、消耗が激しくなったり、とんでもない集中力が必要になったりはするようだが、このあたりは個人差がある。

「転移魔法を使うためのコツは三つあります。まずは『地脈を知覚する』こと。それから『現在地と移動先をつなぐ地図を、正確にイメージする』こと。これが大雑把だと、移動先の精度が落ちます。最後に、転移魔法とは『移動』する魔法ではなく、『地脈の上に、入り口と出口を作る魔法』だと、はっきり認識すること――」

ん? ちょっとよくわからぬ……

「それは、ほとんど同じ意味に聞こえるのですが……入り口と出口を作って、地脈の中を『移動』するのでは?」

「いえ。生身の体で、地脈を移動することなどできません。転移魔法とは、『地脈の性質』を利用した魔法なのです。いっそ『地脈操作魔法』と言い換えてもいいでしょう」

ほえー、とアホ面をさらすルークさんには、まだよくわかっていない。が、リルフィ様が小声で呟いた。

「地脈の操作……それは、つまり……『地脈にはそもそも、外部から入り口と出口を作る機能が備わっていて』『魔族はその機能を利用しているだけ』――という意味ですか……?」

「ご明察です。我々魔族が『地脈』と呼んでいるもの――その正体を私も測りかねていたのですが、先日のカブソン様との会話から、一つの推論を得ました。地脈の正体とは、もしかしたら――この星の表面を覆う『邪神クラムクラムの血管』、あるいは『神経』……のようなものではないのかと」

え。

……ちょっとまって? これもしかしてクリーチャー系ホラーな話が始まる感じ?

ルークさんが自らの尻尾を抱っこしてほんのり警戒していると、アイシャさんが真顔で唸った。

「……地脈って、川とか谷みたいに自然と存在するものであって、その正体なんて考えたこともなかったんですが……この星の大地が、そのクラムクラムっていう神様の『表皮』みたいなものだとしたら、地脈がその一部だと考えるのはむしろ妥当ですよね……そういえばお師匠様も、以前に地脈関係の調べ物をしていた時、その形を見て『まるで巨大な指紋のようだ』なんて言ってました。ところどころ、妙に生き物っぽいというか……」

「指紋とは言い得て妙です。確かに、血管や神経よりもそちらのほうが近そうですね。もちろん生物の血管や神経とはまったく違うものでしょうし、流れているのも血液ではなく、クラムクラムとやらの……なんでしょう? 瘴気……だけではない気がしますが、我々にはうかがいしれない魔力のようなものかもしれません」

惑星サイズの生命体とか、デカすぎてピンと来ないし、「そんな非現実的な」とも思うのだが……そもそも魔法があって精霊さんがいて猫が神様をやっている世界で、「いまさら何を」という感もある。

「ともあれ転移魔法とは、この正体不明の、我々が『地脈』と呼称する『何か』に備わっている機能、あるいは特徴を利用した、いわば借り物の魔法です。ですから、稀に存在する『地脈の通っていない地域』には転移できません」

コレは前にも聞いたことがある。「街のどこそこ」みたいな狭い区画の話ではなく、「半径数十キロ」とか、そういう広い範囲での転移不可能地域がたまにあるらしい。そういう地域は、いわゆる禁足地とか聖地とかになりがちだとか。

「また、これは安全性の担保にもつながりますが……海の底やマグマ、石の中などにも転移はできません。海底にも地脈は通じているはずなのですが、海水が蓋の役割を果たしているのか、原則的に出入り口が開かないのです。出口が開かない限りは入り口も開かないので、この場合も転移はできません」

つまり、あの有名な「いしのなかにいる」という状態も起きないわけか!

これはとてもありがたい。正直、「転移魔法」と聞いて真っ先に危惧していた根源的な恐怖がコレである。

ついでに、一つ疑問も湧いた。

「あ。そういえば……王都でオズワルド様をキャットケージに捕えた時、『空中で捕えたから、転移魔法は使えない』と仰ってましたよね? 今のお話をうかがった印象だと、空中だけでなく、水中や水上からも転移はできない感じですか?」

ウィル君が頷く。

「はい。基本的にはできません。これは世間にもあまり知られていないことですので、口外はしないでください。ただし……まったく手段がないわけでもないのです。たとえば水魔法で周囲の水を操って、水底に空間を作ることができれば、そのまま移動も可能です。また空中にいる場合でも――重りのついたロープなどを地面に接地させれば、そこから地脈にアクセスできる例もあります。どちらも少し特殊な技能ですので、私や姉上には無理なのですが――魔族の中には、そうした器用な技を使える者もいます」

ウィル君がここまでぶっちゃけてくれたのは、俺だけでなく、アイシャさんやリルフィ様のことも信頼してくれたからだろう。この信頼を裏切るような真似は決してできぬ。

「前提となる知識はこんなところです。まずは『地脈を知覚する』ことから始めましょう。これにはあらゆる魔法の初歩でもある瞑想が効果的です。通常、魔導師が瞑想を行う際には、自らの体内にある魔力の流れを感知し、操作することを目的としますが……転移魔法の修行では、地面を通じて『地脈』の存在を感じとる必要がありますので、むしろ意識を外側へ向けるイメージが重要です。この能力にはどうしても個人差があり、ものの数分で成功する例もありますが、私の場合には二ヶ月かかりました」

「めいそう」

ほえー、と再びアホ面をさらし、俺は戸惑った。迷走なら得意なのだが、瞑想は……

ピタちゃんは丸まったら三秒で寝るが、俺はさすがにピタちゃんよりは寝付きが悪い。つまり猶予はだいたい三十秒くらいか……うん。なかなか高難度のミッションである。

俺の苦悩を察してくれたのか、ウィル君が微笑んだ。

「急ぐ話ではないですし、焦る必要もありません。気長にまいりましょう」

「ありがとうございます。でも、いつまでもウィルヘルム様のお手を 煩(わずら) わせるわけにもいきませんし、できればスパッとマスターしたいところですねぇ……」

もしくは無理なら無理でスパッと諦める方向でもいいのだが、ウィル君という有能講師を 招聘(しょうへい) しておいてそのオチは心苦しい。

「ともあれ、今の講義からヒントは掴めました。転移魔法の基本は、まず地脈と地図の把握、その上で『地脈の上に、入り口と出口を作る』ことなんですね」

「はい。そして、私が『ルーク様なら使えそう』だと推測した理由もそこにあります。ルーク様の『キャットシェルター』や『ストレージキャット』は、亜空間への出入り口を作る魔法です。行き先が三次元的につながった場所と、亜空間――どちらのほうが魔法として難度が高いかといえば、当然、後者ですから。ルーク様はすでに、転移魔法よりも格段に難しい魔法を日常的に使いこなしているのです」

そういうもの? 転移魔法も似たりよったりだと思うが……しかし、「地脈の性質を利用できる」という点で、魔族的には転移のほうが難度が低いのか。

しかし猫魔法で対応しようにも、転移魔法というのはどうも漠然としすぎていて、今まで成功しなかった。

これまで俺は、「ここから消えて」「別の場所に現れる」という瞬間移動的な認識を持っていたのだが、ウィル君のおかげで「地脈の上に出入り口を作る」という確固たるイメージを得られた。

理屈を把握できると、イメージがしやすくなり、魔法の成功率も上がる気がする。

……とはいえ自分の適性上、「猫魔法」にアレンジする作業からは逃れられない。

つまり必要なのは、「地脈の上に、入り口と出口を設置してくれる猫さん」である。

考えているうちに、ウィル君が魔光鏡へ要点と修行の手順を書き記してくれた。

俺は肉球を口元に添えつつ、それをじっと見つめる。

「地脈を感知できたら、次の練習として、まずは『見える範囲』での転移を試みます。これなら地図をイメージするまでもありません。成功すれば、あとは行き先の地理や距離を感覚的に把握するだけです」

いかにもかんたんそうに言ってくれたが、これは俺が悩んでいるように見えたからこその心遣いであろう。

俺は適性の都合で、おそらく魔族の方々のようには転移魔法を使えない。その代わり、猫さんをイメージすれば大抵のことはできてしまう。

ワープキャットか、キャットゲートか、キャットドアか……いや、ドアはマズい。どこにでも行ける系のドアはマズい。何かに引っかかる気がする。なんとゆーか、こう……禁則事項的なアレに。

ルークさんはお約束を大事にできる猫さんであるが、同時に越えちゃいけないラインをわきまえたチキンの猫さんでもある。

とりあえず、皆様に今夜のお夜食である「リンゴ味の寒天ゼリー・ナタデココをそっと添えて」をオススメしながら、俺は思案を重ねる。

「ルーク様、この『かんてん』っていうの好きですよね? よく出てくる気がします」

「そうですねー。胃腸をいい感じに整えてくれるので、こういう夜食のタイミングでご提供しやすいのです。寝る前に、あまりこってりしたものだときついですし……」

寒天は夜中に食べても太りにくい、いろんな果物とあわせやすい、食物繊維のおかげでお通じに良く、さらに水分補給にもなる――とゆー、老若男女問わずにオススメしやすいスイーツなのだ。

ただし味が単調になりがちなので、甘みの強いナタデココを混ぜたり、豆や 求肥(ぎゅうひ) で違った歯応えを演出したり、ちょっとした工夫はしている。

あんみつも割とご好評なのだが、夜に食べると少しだけあんこが重い。本日の味付けはオリゴ糖系のシロップである。

木製のスプーンでぱくぱくと寒天を口に運びながら、俺は皆様にご相談。

「転移魔法の件なのですが、私の場合、あらゆる魔法を猫さんの形にイメージしないと、まともに使用できません。それで、どんな猫さんに頼ったものかと悩んでいまして」

「……変わった制約ですよね。普通に、転移ができる猫さんを出すことはできないのですか?」

「んー……それ自体は、実は可能なんですが」

俺は松猫さんを召喚する。

黒い忍び装束を着込んだロシアンブルーの猫さんは、片膝をついた姿勢で音もなくテーブルの上に現れた。

「にゃっ」

お呼びでしょうか、みたいなクールな鳴き声。

「松猫さん、ちょっと窓の向こうのあのあたりに、瞬間移動してくれます?」

無言で頷いた松猫さん。次の瞬間、窓の外、巨大な満月に照らされた敷地の片隅に、その姿が現れる。

そして何回か肉球を振った後、彼はすぐにテーブルの上へと戻ってきた。

「にゃーん」

「……と、このように、ほぼ転移魔法のような真似ができます。リオレット陛下を暗殺未遂からお救いしたのもこの子の能力です」

「ええっ!? できてるじゃないですか! もう解決でしょ、これ!」

アイシャさんが俺の頬肉をむにむにと摘む。

「いや、それがですね……松猫さん、俺をロレンス様のいるオルケストの街まで、連れて行ってくれる?」

「……にゃーん?」

松猫さんは俺の背中をてしてしと叩き……尻尾にじゃれついて、遊び始めてしまった。

不思議そうに首を傾げるリルフィ様。

「…………あの、これは……?」

「『無理!』ということだと思います。松猫さんは、自分一匹だけなら忍術で神出鬼没です。しかしながら、『誰かをどこかに運ぶ』ということはできないみたいで……」

「え? だけど、実際にリオレット陛下を助けてくれたじゃないですか」

「どうもキャットシェルターへの移動は問題ないみたいなんです。どちらも私が使用している猫魔法ですし、そもそも松猫さんは地脈なんか使ってないので……つまり、私を介して、松猫さんとシェルターは『猫魔法』という括りでつながっているんじゃないかと考えています」

俺は尻尾を丸めて、松猫さんにお仕事モードへ戻っていただく。

「実演してみますね。松猫さん、俺をシェルターに運ん――」

まだ声の途中、意志が伝わり切った段階で、俺はもう猫カフェの中にいた。

傍らではドヤ顔の松猫さんが香箱座りをキメておられる。

その頭を軽く撫でておいて、俺は猫カフェの玄関から外へ出た。

そこはもちろん、さっきまでいたリルフィ様の仕事場――キャットシェルターの基準点は俺(が直前にいた場所)なので、扉も当然、ここに開く。

「……こんな感じです。ご理解いただけましたか」

お三方は眼を見開いていたが、もともと魔導師的偏差値の高い方々であり、すぐに平常心を取り戻した。

「なるほど……つまり、召喚した猫の能力としては『転移』に近いことがすでにできているわけですね。ただ、ルーク様や他人を運ぶ場合の行き先が、同じ猫魔法のキャットシェルター内に限定されてしまうと」

「はい。そこで次に考えたのは、猫魔法で、行きたい場所に『ランドマーク』……つまり松猫さんと魔法的につながった目印を準備しておき、そこへ運んでもらうという方法だったのですが……」

アイシャさんが頬を引きつらせる。

「ちょっと待ってください。それ、ルーク様が行きそうな場所ぜんぶに、ルーク様の魔法でできた何かを、常時展開しておくってことですよね? 一つ二つならともかく、数が増えたら準備も維持もけっこうな手間になりそうな……?」

「はい……できるできないはさておき、さすがに面倒すぎて断念しました。主要な場所だけでも――とも迷いましたが、普通に転移魔法を使えたほうが、だんぜん楽で汎用性も高いので、先にそっちを頑張るべきかな、と」

あと……おそらく遠距離の移動は、松猫さんに過度の負担がかかってしまう。そもそも彼は遁術を得意とする中忍であり、長距離移動や輸送のプロではない。

既存の「地脈利用」という方法論があるのだから、まずはこれを試してみるべきであろう。

リルフィ様の細指が俺の喉元を撫でる。ごろごろごろ。

「……地脈を利用した転移魔法とは、地脈に出入り口を作る魔法……一方で松猫さんの転移能力は、ルークさんの魔力と密接に結びついたもの……瞬間移動という効果は似ていても、根本的な仕組みが違うんですね……おそらく、ルークさんとの魔力的なつながりが、地脈と似たような役割を果たしているのだと思いますが……もしかしたら、ルークさんはもっと手を抜いて、『地脈に頼る』という感覚を強くしたほうがいいのかもしれません……今は、瞬間移動の仕組みを自分で作ろうとしているから、難度が跳ね上がっているのかな、と――」

……ふむ。言われてみれば、俺は「理解しよう」「考えよう」「仕組みをどうにかせねば」という部分に眼を向けすぎて、「なんかよくわかんないけど動いてるからヨシ!」とする猫らしい楽観的精神に欠けていたかもしれぬ……

ウィル君が教えてくれた通り、そしてリルフィ様がご提案してくださった通り、「地脈にはそういう機能がある」という前提に立ち、いろいろぶん投げてしまっても良いのでは?

そんな思案の末――俺は一つの天啓を得た。

「猫魔法! キャットデリバリー!」

「ニャーン」

そこに現れたのは、ルークさんにとってジャストサイズのダンボール箱。

そしてダンボールの傍に佇むのは、作業着姿の黒い猫さん。頭の上には小さな帽子もかぶっているが、小さすぎてカワイイ以外の機能が備わっていない。

……これはこれでちょっと危ない気もするのだが、イメージしてしまった以上は仕方ない。

迅速! 安全! 確実!

誰もがお世話になったことのある、日本の物流網を支えてきた業界最大手は、紛れもなく猫さんであった。

飛脚やカンガルーにもお世話になったが、俺が使えるのは「猫魔法」なので、ここは猫一択である。あと昔は 鳥(ペリカン) とか 犬(フットワーク) もいたらしいが……規制緩和で淘汰されてしまった。ねこつよい。

何事かと見守る皆様の視線をよそに、俺はいそいそとダンボールに収まり、内側から爪を引っ掛けてぺしっと蓋を閉めた。む。温度感がちょうどよくて、肌触りがすべすべで、これはなかなか居心地が良い。防音性能も高いし、世の猫さんがダンボールを好むのも納得である。

「じゃ、配送お願いします! とりあえず玄関まで!」

「ニャーン」

黒い猫さんが俺の入ったダンボール箱を持ち上げ、軽くジャンプ!

――次の瞬間、俺がダンボールの蓋を開けると、そこはリルフィ様のおうちの扉の前であった。

転移魔法、(たぶん)大成功である!

宅配魔法とも言う。

そして黒い猫さんが「ニャーン」と差し出した伝票に肉球の拇印を押すと、猫さんとダンボールは一緒に消えた。異世界でこの手順って必要? 置き配で良くない?

仕事場のほうから、リルフィ様達が玄関に出てきた。

「ルークさん……! 今のは……?」

「地脈の上に出入り口を作るというのが、いまいちピンと来なかったので……そのあたりは猫さんに任せることにして、私は届け先――移動先の指定に集中してみました!」

より正確には、ウィル君のお話が良いヒントになった。「地脈というのは血管みたいなものかも」というご指摘から、血管→動脈→物流の大動脈的な連想につながり、物流の要たる運送業へつながった。

キャットデリバリーさんは地脈経由で荷物(※俺)を確実に届けてくれる、運送のプロである。ただ、届け先は送り主である俺がきっちりと指定せねばならない。

ウィル君は驚きつつも笑顔を見せてくれた。

「まさか講義一回だけで成功するとは……もっと早くに挑戦しておいても良かったですね」

「いえ! この成果には今までの経験が生きていると思います。ここ数日で、ウィルヘルム様の転移魔法を、連続で何回も体感しましたから。そのおかげで転移魔法についての理解が進み、自分でも本格的に考えるきっかけになりました」

そして最後のひらめきは、リルフィ様からのご指摘によって得られたものである。

俺はつい、無意識のうちに松猫さんの優秀さに頼ろうとしていたが――彼は忍者であって輸送のプロではない。

必要なのは専門家の登用だったのだ。

難しい部分はプロ(の猫さん)と地脈の機能に任せよう! という前向きな開き直りが、今回の成功につながった。

「ルークさん、おめでとうございます……! これで、王都やロレンス様のところへの往復が楽になりますね――」

「はい! とはいえ遠距離でのテストがまだなので、しばらくは練習が必要かと思います。まずは第一段階、といったところです」

リルフィ様からいい感じにモフっていただきながら、俺は気を引き締める。

……なお、その後の活用で判明したことであるが、俺ごときが気を引き締める必要など皆無なほど、キャットデリバリーさんは優秀であった。

転移魔法の常識を 覆(くつがえ) す「大量の物資輸送」「術者本人を含まぬ荷物だけの配送」「集荷」「時間指定」「代金引換」「冷凍・冷蔵」「荷物の保管」etc……今後、こちらのキャットデリバリーさんは、さまざまな顧客のニーズに対応した、痒いところに爪が届く完璧なロジスティクスサービスをご提供くださることとなる。

そう。

これはまさに、物流業界に革命を起こすポテンシャルをも秘めた、驚異の猫魔法が誕生した瞬間であったのだ――!

……いや、事業化とかはめんどいからやりませんけど。