軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

117・猫のお出迎え

リーデルハイン領での穏やかな休日を終え、我々は再び、クラッツ侯爵領の領都オルケストへと移動した。

そして夕闇迫る離宮の傍で、ロレンス様としばしのお別れ。

「ロレンス様、それではまた来月、お迎えにあがります! マリーシアさんも、警護のお仕事、がんばってくださいね」

「はい! 楽しみにしています。ルーク様、クラリス様、皆様も、どうかお元気で」

「このたびは、ロレンス様の望みを叶えていただき、改めてありがとうございました」

深々と頭を下げるマリーシアさん。

お土産に日持ちしそうなスイーツ詰め合わせをお渡しして、我々はロレンス様にバイバイし、街の宿屋へと移動した。

旅装を整えてそこに待っていたのは、ケーナインズの皆さん!

ウェスティ氏は簡易担架に寝かされ、ブルトさんとバーニィ君がこれを持ち上げている。

「移動の準備はできているみたいですね! 日程は三日から一週間前後を予定しています。今回は依頼に関するご相談もしたいのですが、お互いの理解と親睦を深めるのがメインの目的だと思ってください」

「はぁ……何をしたらいいのか、まだよくわかっていませんが、ひとまずはこの身をお預けしますんで、どうかよろしくお願いします…………やっぱり、夢じゃなかったか……」

ブルトさん、漏らした独り言に困惑が見える。

こちらが命の恩獣だから信用してくれているが、そういうご縁がなかったら、こんな怪しい話にはホイホイ乗ってくれなかったであろう。

さっそく皆様をキャットシェルターに放り込み、ウィル君の転移魔法でリーデルハイン領までひとっ飛び!

既に夜が近かったため、この日は込み入った話を避け、ケーナインズの皆様にはブイヤベースと揚げ物各種+パンの夕食をご提供し、早めにお休みいただいた。宿はキルシュ先生の診療所のすぐ近く、町の空き家である。

家主が数年前に亡くなったため、領主の管理物件となり、売り、もしくは賃貸に出されているものの、そもそも人口が少ないから買い手も借り手も滅多にいない……とゆー、田舎にありがちなアレ。こんな所にまで、疫病による人口激減の余波が――

そして翌朝。

「ルーク様! あんた……あんた最高だよ!」

ウィンドキャットさん経由で空き家に顔を出すと、とりあえず起き上がれるようになった狩人のウェスティ氏から、割と熱烈な歓迎を受けた。

この方と俺は、(意識がある状態では)ほぼ初対面。

昨夜、目を覚ましたウェスティ氏は、ブルトさん達から俺に関するテンション高めの情報共有を受けたらしい。

パーティーを救った命の恩獣――としてだけではなく、わざわざ往診に来てくれた近所のキルシュ先生からもいろいろ吹き込まれたらしく、皆様の俺を見る目が今朝はちょっと重い……猫吸いキメたハズキさんとか、恐縮しきって固まっている。

よく見ると若干眠そうなのだが、もしかしてキルシュ先生と夜遅くまで話してた……?

「……えーと、あの……キルシュ先生は、私のことをなんて言ってました?」

ブルトさんが床の上に平伏。やめて。

「はい。ルーク様は、国王陛下の暗殺を未然に防ぎ、さらに邪悪な精霊から王都を救い、暗殺未遂の実行犯にまで情けをかけて、遠くレッドワンドの収容所まで出向き、人質となっていたあの先生と奥方を救って……」

「そして行き場のなかった先生方をここへ導き、生活の場を整え、安息の地にしてくださったと――」

シィズさんまでどうした? なんで涙目?

これはアレか。キルシュ先生の巧みな話術による 苦労話(せんのう) に、感情移入しすぎちゃった感じか。

あの人、教師経験もあるようで、やたらと話が上手いのだ……

そもそも地魔法と回復魔法が使えるキルシュ先生や、農業関係に強いシャムラーグさんとか、人口不足のリーデルハイン領にとってはとんでもなくお買い得な有能人材なのだが……気づいて。結果的に得してるのはルークさんの側だって気づいて。

ついでにハズキさんとバーニィ君まで正座。

「あと、神々の世界の神聖な作物をこの地にもたらし、人々に恵みを与え、食文化の発展を目指していると……これはトマト様のことですよね?」

「それから、王都で倒産寸前だった紙の工房に大きな仕事を与え、さらにはこの地に誘致する予定だとも聞いています。窮地を救われた店主が、涙ながらに喜んでいたと――」

「トマト様の件はその通りですけど、工房のほうは明らかに話が盛られてますねえ……クロスローズ工房の経営は(ユナさんの獲得賞金で)安定していましたし、倒産寸前とかではないですよ。工房の所持する新技術が、まさに私の求めているものと合致していたのです。むしろこちらが助けてもらっている側ですし、キルシュ先生とシャムラーグさんにしても、それぞれ優秀な才をお持ちでしたので、ありがたく力を貸してもらっています」

ケーナインズが顔を見合わせた。

「……キルシュ先生も、『ルーク様は性格上、きっとそう仰るだろう』って言ってました」

あのインテリイケメンッ! 無駄に予測能力が高いッ……!

「……まぁ、話半分以下でお願いします。キルシュ先生は、ちょっと私への信頼感が大げさなので」

思えば収容所で初めて会った時も、彼は驚きもせず、丁重に挨拶をしてきた。強キャラの貫禄であった。なんとゆーか、「人外の存在」との接触に関して、以前からシミュレーションができていた感じがする。

本職は考古学者だし、専門は猫神様の研究らしいし、なんかいろいろ噛み合ってしまったのだろう……

ひとまずケーナインズの皆様に落ち着いていただいて、俺は本題に入る。

「今日はこの後、ハズキさんに黒帽子キノコの講習をしていただきますが……それとは別に、近い将来、皆様にもお願いしたいことがあります。今日、お話しすることは、しばらく秘密にしてください。約束できますか?」

「は、はい。それが、その……人の命に関わることでなければ、たぶん……」

ブルトさんは正直者である。こういう人は信用できる。

「それで結構です。ウェスティさんも、お知り合いの他国の貴族とかに言っちゃダメですよ?」

「えっ……! あ、はい……ええと……え?」

こっちもまぁ、大丈夫であろう。俺が何をどこまで知っているのか、把握できずに戸惑っているようだが、これは 牽制(けんせい) の意味もある。

「それでは、改めてお話しします。実は、このリーデルハイン領からそこそこ近い場所、ドラウダ山地の山奥に、『新規のダンジョン』が見つかりました」

「………………は?」

ブルトさんが呆けた。他の面々も唖然としている。

資源や財宝を継続的にもたらしてくれる迷宮は、実に貴重な狩り場であり、その有無は国力にも影響する。

ネルク王国くらいの規模でそれが「二箇所もある」となると、他国から嫉妬されそうなほど。

「新規の……ダンジョン……? 冒険者ギルドが把握していない未発見の迷宮ってことですか!?」

「はい! まだ名前すら決まっていない、踏破者どころか挑戦者すら0と思しきまっさらなダンジョンです」

「すげぇ! 発見者の名前が歴史に残るヤツじゃないですか! おめでとうございま……すっ!」

興奮したウェスティ氏がめまいを起こしてぐらっと揺れたが、気合で言い切った。いや、まだ休んでて……!

とりあえずウェスティ氏を寝台へ寝かせて、そのままお話の続き。

「道すらない山深い場所なので、数百年にわたって誰にも見つけられなかったのだと思います。その迷宮の周辺環境をこれから整備するにあたって、皆様には現役冒険者の立場から、実体験に即した助言をいただきたいのです」

「えっ……? いや、でも……そういうのは、冒険者ギルドや国に任せればいいんじゃ……?」

バーニィ君が首を傾げてしまった。これは拒絶ではなく、単純に「どうしてそうしないのか?」という疑問であろう。

「最終的には冒険者ギルドに管理してもらいますし、国には早い段階で協力を仰ぎます。ただ、問題がいくつかありまして……まず、ネルク王国は今、財政状態があまり良くありません」

先代陛下の浪費癖のせいである。

もちろんそれだけが理由ではないはずだが、元々、鉱山に乏しかったり特別な交易品がなかったりで、決して財政に余裕がある国ではない。

迷宮は、長期的にはかなり効率的な資源採掘地となるのだが……今現在、財政で苦心されているリオレット陛下に、その整備をお願いするのはちょっとどころでなく心苦しい。

ルークさんがやってしまえばほぼ無料である。

さらに、国には頼みにくい理由がもう一つ。

「それから、迷宮があるドラウダ山地は、 落星熊(メテオベアー) という凶悪な魔獣の縄張りでして……この魔獣は、一匹で騎士団を壊滅させてしまうほどの強さだと聞いています。いきなり国の人員を派遣してもらっても、おそらく被害が増えるだけです。まず私が熊さん達と接触し、なんらかの対応策を考えます。場合によっては、防御の厚い砦を作るとか、道に熊避けの結界みたいなモノを張るとか……そのあたりの検討は、まだこれからになります」

バーニィ君がごくりと唾を飲んだ。

「ということは、つまり……お手伝いをする俺らにも、相応の危険がある、ってことですね……?」

「そこは大丈夫なように配慮します! そもそも戦闘をしてもらう予定はありません」

俺が笑顔で告げると……バーニィ君は、少し眉をひそめてしまった。

あれ? なんか間違った?

ブルトさんが苦笑い。

「いや、すみません、ルーク様。バーニィの奴は、先日のパーティー全滅の危機が『自分が未熟だったせい』だと思い込んでいて……あわよくば、ちょっと厳しめの武者修行をしたいみたいなんです。そもそもバーニィに限らず、俺も含めた全員が未熟だったからああなったってだけの話なんですが……」

「違いますよ、ブルトさん。俺はそもそもの役割を果たせなかったんです。ブルトさんは盾役、ウェスティさんは後方からの援護射撃、シィズ姐さんが状況に合わせた魔法を使って、ハズキはマッピングも含めた戦闘以外のサポート――そして俺は、剣での切り込み、仕留め役です。ブルトさんが盾で防いでくれている間に、せめてバイオラかチエラ、どっちか一方くらいは仕留めなきゃいけなかった。俺がもっと強ければ、あそこまで崩されることはなかったんだ。もちろん『俺の責任だ』なんてうぬぼれたことは言いませんよ。ただ……もっと強くならなきゃいけないとは、切実に思いました。でないと俺は、遠からず、どこかで命を落とす羽目になりそうです」

ブルトさんが唸る。

「……向上心は買うけどなぁ……しばらくは、実戦よりも訓練にその熱意をぶつけてくれ。さすがに落星熊との戦闘なんて状況になったら、目くらましをかまして逃げるのが精一杯だ」

「切りかかっても、体毛が異常な硬さで刃が通らないんだろ? 矢もまともに刺さらないって聞いたぜ。俺も実物を見たことはねえけど、狩人の指南書には『足跡を見つけたら、クエストを中止してすぐに引き返すべき』とか書いてあったっけな……」

「火も怖がらないから、ちょっとやそっとの火球じゃ払い除けられて終わりなのよね……バイオラ、チエラが可愛く思えるわ」

ウェスティ氏とシィズさんも及び腰だが、落星熊さんって一体どういうスペックなの……? これやっぱり、ヒグマとかグリズリーとか、そういう次元の熊さんではないな? 獣っていうか怪物系だな?

「逃走手段は複数確保しますし、対策も立てますのでご安心を。ともあれ、私が皆様に期待している助言というのは……たとえばダンジョンの近くに拠点を作るにしても、その立地とか、使い勝手とか、必要な設備とか、間取りとか……そういう具体的な部分ですね。あと、ダンジョンそのものに関する知識もまだ足りないので、『一冒険者』として、いろいろ教えて欲しいのです。ケーナインズの場合、ベテランで盾役のブルトさん、女性で魔導師のシィズさんに神官のハズキさん、狩人としての知識もあるウェスティさん、さらに前衛職で若手のバーニィさんと、年齢・性別・職業がいい感じにばらけていてちょうど良いので、今の私にとってはぴったりの人選と自負しております」

ブルトさんが一礼した。

「なるほど、そういうことならわかりました。確かにうちは、ある意味、平均的というか、いかにも冒険者らしい冒険者です。希少な『魔導師』がメンバーにいる時点で、かなり恵まれた立場ではあるんですが、迷宮の深層に挑むほどのトップパーティーではなく、もちろん駆け出しの新人でもない。そういう意味では、お役に立てるかと思います」

「期待しています! あと、他国の出身者というのもポイント高いですね。近隣諸国の事情にもある程度は通じていそうですし、ついでに冒険者ギルドの内情や慣例、明文化されていないルールなんかについても、ぜひ参考意見をうかがいたいところです。新規ダンジョン発見の報告をするタイミングや、そのやり方についても、後日、相談させてください」

ご納得いただけたところで、俺はよっこらしょと立ち上がり、ブルトさんの背中をつたってその肩によじのぼった。ちょっと楽をさせていただく!

「それでは、まずは領主様のお屋敷に移動します。道筋も把握しておいてほしいので、徒歩でいきましょう! あ、ウェスティさんは、今日のところはまだ、こちらで休んでいてくださいね」

そんなわけで、お屋敷への道中は、ブルトさんの肩に「でろん」ともたれかかったまま道案内をした。

とはいえ、山を背負った町外れに建つ子爵邸は、迷うような立地ではない。敷地こそ広大だが、道なりに行けば普通に辿り着ける。

神官のハズキさんは、しきりに周囲をきょろきょろと見回していた。

「私は、領都オルケストと王都ネルティーグ以外の町をよく知らないのですが……ここは、落ち着いた良い町ですね」

「はい! とても住みやすいと思います。ただ、ちょっとした課題もありまして……新しい迷宮に冒険者が来るようになると、ここが最寄りの町、もしくは中継地点になります。人が増えれば治安の悪化なども懸念されるので、そのあたりの対策、軽減策なども、これから思案しないといけないのです」

シィズさんが力なく笑う。

「……ルーク様は、やけに思慮深いというか、慎重というか、気が回るというか……」

「猫は家や土地につくというから、そりゃ住環境は大事だろう。あと、俺も――こういうのどかな場所は、オルケストみたいにはなって欲しくないな。人が増えて栄えるのはいいとしても、あそこは詐欺師や悪どい商売をする連中が多すぎる。なんなんだ、アレは?」

ブルトさんの溜息に応じたのは、オルケスト生まれのハズキさん。

「あはは……それも含めてオルケスト名物、みたいな所はありますね……いえ、良くないことですけど。やはり迷宮の影響が大きいです。どうしてもよそから来る人が多いですし、人の出入りも激しいので、詐欺に引っ掛かる新しい獲物に事欠きません。あと……迷宮攻略を諦めた冒険者が、引退してオルケストに住み着いて、日々の生活のためにささやかな悪事を繰り返す例も多いです。もし治安の悪化を防ぎたいなら、引退した冒険者向けに雇用の受け皿を整備するとか……あるいは、そういう人が住み着きにくい仕組みを作るとか、なんらかの方策が必要だと思います」

「雇用の受け皿……は、農業とかは難しいですかね……? 空き地は大量にあるんですけど」

「俺はむしろそっちを目指してますけど、農業系はやはり向き不向きはありますよね。冒険者なんてやってる連中の大半は、早寝早起きとか毎日のコツコツとした世話とか、あまり得意じゃない印象があります」

「あと、冒険者はかなりの割合で酒好きです。お酒のないところには寄り付きません。町で気軽にお酒を飲めないようにすれば、自然といなくなりますよ、きっと」

シィズさんがすげぇ案を出してきたが、それは「禁酒法」といって、事態を悪化させた実績のあるやべぇ法律である……

やっぱりこのあたりは、ライゼー様とも相談し、よくよく考える必要がありそうだ。

ダラダラと会話しながら歩くうちに、リーデルハイン邸の敷地が近くなってきた。

そして我々の前に立ちふさがったのは、小川にかけられた短い橋を守る警護の騎士さん二人組!

「止まれ! 見かけない顔だな? この先は、リーデルハイン子爵家の――」

ブルトさんの肩から顔をあげ、俺は肉球を掲げる。ちょっと揺れが心地よくて寝る寸前であった。

「あ、私です、ルークです! こちらはライゼー様のお客人なので、このまま通してください。許可はいただいてます」

「これはルーク様! 失礼しました。どうぞお通りください」

一転して笑顔のご対応。

うちの騎士さん達には、ヨルダ様の教導が行き届いている。

俺もお酒とかおつまみの類をたまに差し入れしており、関係は良好だ。特に一緒に王都へ行った人達とか、もはやマブダチである。ちょっと調子乗った。

牧草地が大半を占める敷地に踏み込み、我々はそのままお屋敷へと向かう。

「……いや、びっくりしました。あの衛兵達は、ルーク様と親しいんですね」

「衛兵ではなくて、リーデルハイン騎士団の方達です。リーデルハイン領は人口が少ないので、お屋敷では少数精鋭の騎士団がそのまま衛兵の代わりをしています。冒険者出身の方もいますよ」

「ああ、道理で……衛兵にしちゃやけに腕が立ちそうだし、でもやっていることは衛兵の業務だしで、ちょっと混乱していたんです」

騎士の業務も、やはり家の格とか規模とか領地の状況などによって変わってくるのだろう。特に他国で正規の騎士をやっていたブルトさんには、ある種の固定観念があるものと推測できる。

やがて「わふんわふん」とお犬様の鳴き声が近づいてきた。ずいぶん前から聞こえてはいたのだが、ぶっちゃけスルーしていた。

シィズさんが目に見えてそわそわしている。

「ずいぶんと犬が多そうですね?」

「敷地内の犬舎に、ライゼー様の愛犬が十二匹ほどいます。みんな良い子達ですよ!」

群れのリーダー、セシルさんは群を抜く賢さの持ち主であるが、他の子達はまぁまぁ普通のお犬様である。実はちょっとアホな子もいるのだが、それはそれでかわいい。

そしてシィズさんは、犬も猫もどっちも大好きとゆー正統派のカワイイ愛好者――あわよくば大型犬をモフり倒したい波動が若干漏れている。気持ちはわかる。俺もセシルさんを無心にこねるのすき。

そして、そのお犬様達と無邪気に遊んでいるのは――

「よーし、セシル! とってこい!」

嬉々として円盤を投げるライゼー様。

それを追いかけ、空中で器用にジャンプキャッチするセシルさん!

かーわーいーいー。(ライゼー様が)

なんかこう、日々のお仕事で疲れている美形のおじさまが、すっかり童心にかえって愛犬と楽しくはしゃぐ光景とゆーのは、ペットとして胸に来るものがある。

特にルークさんは機動力の問題で「とってこーい」ができないので、飼い主に付き合ってあげている優しいセシルさんにも敬意を表したい。あれこそが正しいペットのお姿!

土地の改良とか道路整備とか会社設立に向けた書類の準備とか署名とか、そういうのはペットのお仕事ではない……って、昨日もこんなこと言ったな?

セシルさんというお手本のようなペット様を前にすると、俺はまだまだ精進が足りぬと思い知らされる。ここはやはりペットらしい一芸を身につけるべきか……たとえば、そう――腹踊りとか?

……けっこうウケはとれると思うのだが、いかんせん、腹毛の上に顔を描くのはちょっと難しいかもしれぬ。毛筆で毛布に絵を描く感覚?

円盤をくわえて駆け戻ってきたセシルさんを「よーしよしよし!」と撫で回していたライゼー様が、我々に気づいて振り返った。

「おお、ルーク! 戻ったのか。そちらが例の冒険者達だな? ええと……」

「屋敷に戻らずとも、お話はここで良いのでは? お茶は私が用意できますので!」

そわそわしているシィズさんやハズキさんに気を使って、俺はそんなご提案をした。

「そうか? ええと、君達……犬は大丈夫なのか?」

「はい。問題ありません」

ブルトさんは直立不動でビシッと応じた。

冒険者風味が抜けて、これは完全に騎士の佇まい――昔の癖が出たか?

ライゼー様はちょっと驚いた様子だったが、すぐにニヤリと笑う。

「ルークにはやはり、人材を見る目があるな。連れてくる者達が皆、良い顔をしている」

顔面偏差値、みんな高いよね……という意味ではなく、これは顔つきというか「面構え」のことである。覚悟とか生き様とか精神性とか、そういうものはやはり顔に出てくるのだ。実際、ルークさんの間抜け面を鏡で見ると、「こいつは食いしん坊……」と一目でわかる。

ケーナインズとライゼー様のご挨拶は、お犬様に囲まれたまま、こうして 和(なご) やかに始まった。