軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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行事についての書類を受け取ると、用は済んだとばかりにアレクシアは立ち去る。室内に空気のように控えている侍従だけになるとジェフリーは少し気が抜けて、先ほどもたらされたばかりの情報に軽く気分が沈んだ。

ロシェット家を取り込むために、側妃が動いていた。

間違いなく、優位に立ち王位継承権を奪うためだ。

どうするべきかと、ジェフリーは急ぎ思考を巡らせる。王家の名を使いロシェット家に手を出すなど愚かとしか言えず、王位を狙う暗躍よりも頭が痛かった。

(怒らせてはいけない家だというのに)

そのくらいは、国の中枢にいる者として理解していなければいけない。

散々ロシェット家の一人娘であるアレクシアをあしらい続けた、ジェフリーが言えたことではない自覚はある。結果、婚約者候補から辞退されてもいた。

だからこそ今の状況で王家がロシェット家を怒らせると、あっさり見限られる。国王が不在の今、城に戻ったら宰相と情報を共有し、王太子の肩書きを持つジェフリー主導で対処根回しをしなければいけない。

けれど不思議なほど、ロシェット家を引き入れようとする側妃の動きには焦る気持ちはない。静かな怒りをたたえたアレクシアの瞳が、絶対に側妃の思い通りにならないことをジェフリーに教えてくれた。

(彼女が、ダニエルの手を取ることもあり得ないはずだ)

ロシェット家と縁を結ぶことはできなくなったが、むしろアレクシアがジェフリーの婚約者候補から外れて、サヴェリオの機嫌は好いらしい。だからこそ第二王子陣営が下手に怒らせなければ、王家とロシェット家との関係は現状を維持できるはずだった。

本当に余計なことをしてと、うんざりするが学園外のことだ。

ひとまずアレクシアとの交渉が成立したことをジェフリーは良しとする。本来は生徒会役員がすべてを担うべきだが、滞っている仕事に加えて新たな行事の内容を模索するのは難しかった。

状況を冷静に見極め、危機感を覚えたヘルベルトが、陰ながら生徒会業務を支えていたアレクシアに助力を求めたものの、交渉すらさせてはもらえなかったらしい。落胆し、忙しなく日々の業務を回しているのを見て、ジェフリーが請け負うことにした。

かといって、以前とは違うアレクシアにジェフリーの頼みなど効果がないのはわかる。以前ヘルベルトが言っていた賄賂の話を一般的にと置き換え、友人たちにさりげなく話題を振ってみた。

あまり期待はしていなかったが、答えは思いがけない人物からもたらされた。

――女性には、特別感のあるスイーツがいいらしい。

誰から見ても女性の扱いが不得意とわかるイアンが、特に悩むこともなくさらりと告げた。そのことに驚いたのは、ジェフリーだけではなかったはずだ。

けれど言われてみれば、最後にアレクシアが参加した交流会ではスイーツに夢中になっていた。帰り際にはシェフに感謝の言葉を贈り感激させ、土産まで持ち帰っていた。

他に交渉のカードはないので懸けてみたのだが、成果は得られた。

おかげでこの後良い報告をヘルベルトにできる。それなのになぜか、ジェフリーの心の中はすっきりとしていなかった。

今回交渉を自ら請け負ったのは、今更ではあるがアレクシアと一度向き合ってみたいと思ってのことだった。

あれだけうんざりしていて、伴侶に選びたくないと忌避感を覚えていた相手に対してなぜ心境の変化があったのか、ジェフリー自身もわからない。

改めて話してみても、何が知りたかったのかも、欲しかった答えがなんだったのかも、曖昧でぼやけていて複雑さが増しただけだった。

(縁は切れたのにな)

薔薇園で会ったあの日から、アレクシアの去り際の美しい立ち振る舞いがふとしたきっかけで脳裏に浮かぶ。初恋の子とは似ていない姿なのに、なぜかあの時は印象が重なった。

ただ他にももう一人、印象が重なる女生徒がいる。夏期休暇明けから編入したせいで、学園に馴染めていないナタリー・ヴェルネ男爵令嬢だ。

時々話すようになったきっかけは、女生徒がジェフリーを囲み差し入れを持参しているのを見かけ、自分もするべきだと思ったと差し入れを手に声をかけてきてからだった。

当然そのような風習は学園にはなく、ジェフリーがナタリーに伝えると、勘違いを恥じて謝っていた。

驚くような勘違いをする者がいるとは思えず、誰かの嫌がらせだろうかと想像し、生い立ちのことで苦労があるのかもしれないとさりげなく尋ねてみた。

――まだ馴染めていないんですけど、嘆いていても何も変わらないから前向きにがんばります。

清楚でおとなしい印象なのに、しょげることなく芯のある台詞を口にして笑うナタリーに、ジェフリーは幼い頃の薔薇園でのやりとりが思い出された。

そのせいか、ナタリーの姿へ自然と目がいく。

目立つジェフリーと関わりを持てば、婚約者候補を含め女生徒たちからナタリーが反感を買うとわかっている。親しくしない方がいいと理解しているが、話しかけられて突き放すような態度が取れなかった。

ナタリーに初恋の子の面影を見てしまったが、ありえないことだ。

最近男爵家に引き取られた庶子が、幼い頃に王宮にいるなどありえなかった。記憶の中にある少女と髪色も違う。

むしろ色だけならば、アレクシアが近い。

幼い頃から華やかで、淑女としては完璧でありながら年々苛烈な性格になるアレクシアをそばで見ていたからか、正反対な貴族らしからぬナタリーが気にかかるのかもしれなかった。

仮に今後ナタリーに惹かれたとしても、育てることは許されない感情だ。

己の立場を、正しく理解している。ぬるくなった紅茶をジェフリーは飲み干す。

先ほどよりも、苦みを感じた。