軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ぱっと、視界が変わる。まったく見覚えがない場所に、アレクシアは周囲を警戒して身構える。視線をざっと走らせると、木箱が無造作に積まれた薄暗い倉庫めいた屋内だった。

一室よりは広く、アレクシアの知る屋敷よりは狭い。少し埃っぽいように感じる。屋根に明かり取りの窓があり、出入り口は一つだった。

(どこよここ!)

大声で叫び頭を抱えたいが、騒いでいいことはない。

油断大敵。けれどこぼれるため息は呑み込めなかった。

(これは私をねらったもの? 無差別?)

すぐに判断はできない。

拉致、もしくは誘拐に使用されたのは、使い捨てで、魔力を流した者を転移させる魔法陣だった。

利用状況を含め、良く考えられている。悪事に荷担している時点で、碌でもない魔術師ではあるが。

「あの……」

不意に声をかけられ、アレクシアは鼓動が跳ねる。慌て振り向くと、積まれた木箱の陰に隠れるように数人の女性たちがいた。

身を寄せ合い、警戒と怯えを感じる。同じような境遇であり、この場へアレクシアを転移させた元凶ではないと判断した。

「あなたは、どうやってここに? 突然現れたように見えたんですけど」

意思の強い眼差しの少女が、代表して口を開く。

「魔法陣で飛ばされたの」

「魔法陣、ですか? 攫われたわけではなく?」

「あなた方は攫われて?」

各々が頷く。

予想通り、全員が似た境遇の者たちだった。

「犯人の目的はわかる?」

「売るって言ってました」

思わず、眉をひそめる。見目のいい女性ばかりを集めているところを見ると、間違いなく碌でもない目的だ。

「ここがどこかはわかる?」

今度は全員がゆるく首を横に振る。残念に思い、先ほどいた場所からあまり離れていないことを祈るしかなかった。

あれだけいる護衛の前でアレクシアが消えたのだから、対処に乗り出すのは早いはずだ。この場所はすでにエリックへと通知されている。ただ遠ければ、助けが来るまでにどうしても時間がかかった。

どうしようかな、とアレクシアは軽く思案する。しばらく閉じ込められたままならば、おとなしく助けを待てばいい。ただすぐにでも犯人に動きがあるとなると、呑気にしていられなかった。

「誘拐犯が何人いるか知ってますか?」

「たぶん、三人」

「どんな人?」

「ひょろっとした人と、いかにも破落戸って人が二人」

ひょろっとした人が魔術師崩れかなとアレクシアは予想してみる。どの程度の実力かは知らないが、優秀ならば悪事に荷担する必要はない。楽観視はできないが、油断しているときなら対処できなくはない気がした。

ふうん、とアレクシアは悪い顔で笑う。

か弱い女性だけだと、油断している可能性が高い。

(ほんとなんでまたこんな面倒ごとに巻き込まれるのよ!)

これが数奇な運命かとアレクシアがひそかにぼやいていると、近づく足音が聞こえる。軽く息を詰め警戒していると、ドアが開き、男が一人姿を見せた。

(あ、ほんとにひょろい)

容赦なく殴れば一撃でいけそうだ。

「おお、成功したな」

感嘆の声を上げた男の目が、アレクシアを捕らえている。やはりこいつが元凶らしい。

(よし殴ろう)

心に決めると、油断を誘うために軽く怯えて見せることにした。

(私は女優よ!)

劇画チックな自分の顔が、なぜか脳裏に浮かぶ。

危機感のなさに、我がことながらアレクシアは呆れる。どうかしていると思うのだけれど、実際攫われているのに先日の誘拐劇のような緊迫感はなかった。

男たちの目的がわかっているからかもしれない。

そして壁際にいる彼女たちは、身を挺してアレクシアを助けることがないとわかっているからかもしれない。彼女たちが優先するのは、間違いなく自らの安全だ。

それがとても気楽だった。

「へぇ、さすがボスが気に入るだけあって上玉だな」

値踏みするような視線は不快だ。

優位を少しも疑っていない。

「あなたがあの魔法陣を?」

「そうだ」

得意げに答える。自慢したかったのかもしれない。

自尊心が高いタイプだと分析してみた。

「手口がバレてしまえば、もう使えないのでは?」

「おまえが最後だから、手段がバレても気にしない」

「私が?」

「そうだ」

話しながら、アレクシアは男が武器を何も持っていないのを確認する。良い感じに無防備だ。反撃されるなど、想像もしていないのがわかった。

「あの、質問してもいいですか?」

「なんだ?」

「女性を無差別に攫った、という解釈で間違いない?」

「まあ、そうだな。売れそうな女を選んではいるが」

「私も?」

「そうだ。一人になりそうにないから、魔法陣を使ったってわけさ」

「それは、街で偶然見かけて選んだだけで、最初から私を狙ったわけではない?」

「はあ? アンタどっかのお嬢さんかよ」

本当に裏などない、単純な目的のようだった。

「なあんだ」

ついこぼせば、怪訝そうな顔をされる。

「ああ?」

「てっきり、最近絡んでくる迷惑な人の継承権争いに巻き込まれたか、婚活における誤解での逆恨みとか、はたまた前回の誘拐騒動の延長かと思いましたわ」

濡れ衣で、内心かなり罵倒していたので少しだけ申し訳なく思う。

真っ先に浮かんだ理由なのだから仕方がない。

「いや、なんでそんなとんでもないこと思いつくんだ」

「可能性が高かったので。それが違ったので、なあんだ、なのですけど」

表情を緩め、アレクシアはさりげなく顔の前で手のひらを合わせる。密やかな声で、ブレスレット姿のフェルナンドへ指示を出した。

警戒されないよう優雅な仕草で足を一歩踏み出し、後は一気に男と距離を詰める。手を振るとブレスレットが剣に変わり、アレクシアは柄をぎゅっと握りしめた。

(信じるわよ、フェル)

試していないので、切れないと言っていたフェルナンドの言葉を信じるしかない。男に向かって剣を振ると手に鈍い反動が伝わって、うめき声を洩らし倒れ込むのが見えた。

切れていないのを確かめ、アレクシアはほっとする。念のためにもう一度、殴りつけておいた。

「やっぱり使いやすいわね」

本当に、フェルナンドを剣として使うことになるとは思わなかった。こうなったら変身のポーズじゃないけど、剣に変化してほしい時の合図を決めておいた方が便利だ。

「あと二人だったわね」

アレクシアは軽く口角を上げる。すっげぇ悪い顔してると、呟くフェルナンドの声が聞こえた気がした。