軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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距離を取りたい皇族ではあるが、皇族だからこそ安易にそんな態度を見せることはできない。身分はやっかいだと心の中で盛大にため息をついて、それを窺わせない表情でアレクシアは礼を執った。

「堅苦しい挨拶はいらない。お忍びだ」

(だったらその目立つ顔を隠せぇ!)

殊勝に頷きながらも、アレクシアは突っ込まずにはいられない。

公式訪問ではないと言いたいのかもしれないが、客観的に見てセルジュに忍ぶ気はなかった。限られた者しか立ち入れない場所だからこそ、ここに居る者は皇太子を知っているはずだ。

「殿下は敬虔な信者ですのね」

「どうだろうな。皇家と神殿の関係は良好ではあるが」

ふうん、でしかない。

他国のことなのでアレクシアには関係がないし、興味もなかった。

「お忙しいだろう殿下がこうして神殿に足を運んでいるのですもの。祈りを捧げる時間を奪ってはいけませんね。失礼致します」

ここで退散だ、と失礼にならない程度にすばやく立ち去ろうと足を踏出すと、再度声をかけられる。えぇと顔を歪めたくなるのを堪え、アレクシアは足を止めた。

「もう用は済んでいる。こうして顔を合わせたのだから、ティータイムを共にするのはどうだろうか」

「まあ、光栄なお誘いをありがとうございます。ですが、お断り致します」

笑顔も添えれば、セルジュがぽかんとする。断られるなどと、想像していなかった顔だ。これだから権力者はとアレクシアは呆れる。誰もがその顔、この国の最高権力の肩書きに惹かれ靡くと思わないでほしかった。

(むしろいらん!)

声を大にして言いたい。

けれど言えないのがもどかしい。

だいたい胡散臭くもある。女性を警戒しなければいけない立場のセルジュが、スペンサー家で挨拶した程度のアレクシアを偶然会ったからと軽率に誘うなどありえない。穿ち過ぎかもしれないが、何か企みがありそうでお近づきになりたくない筆頭に今躍り出た。

「これから予定がありますので、寛容な心でお許しください」

「ああ、こちらこそ急な誘いで失礼した。ロシェット嬢とはゆっくり話してみたいと思ったんだ」

必殺笑ってごまかすでいこうと、アレクシアは口角を上げる。言質を取られてはいけない。正直に私は嫌ですが? とも言えないのが、皇族を相手のつらいところだった。

「では、これで失礼致します」

今度は引き留められなかったことにほっとする。誰にも目撃されていないことを祈りながら馬車に乗り込むと、アレクシアはひどく疲れた気分になった。

(これ以上遭遇しませんように!)

そんな簡単そうな願いは、なぜか叶わない。

翌日笑顔のセルジュをスペンサー家で見かけた時は目を疑い、はあ!? と心の声を盛大に上げ、アレクシアは顔を歪めそうになった。

幼い頃からの令嬢生活の賜で、そんな失態を見せることはなかったけれど。

フィリップに会いに来ていると言いながら、セルジュにアレクシアはお茶へと誘われる。まったくこれっぽっちも気は進まないが、わざわざスペンサー家に訪れ誘うから性質が悪い。拒絶も無視もできるわけがなく、当たり障りのない態度で相手をする羽目になった。

(ほんとやめてよねぇ)

優雅にカップを口元へ運びながら、アレクシアは嘆く。

セルジュの顔面偏差値の高さは認めるが、近づきたいわけではない。遠くから眺めているだけで充分だ。

フィリップを含め、三人でお茶を飲むなど楽しくもない。親しくするつもりのないアレクシアは最低限の会話しかしないので、沈黙が続き空気は重く、フィリップも居心地悪そうにしている。この歓迎していない空気を察して、くだらない時間を早々に切り上げてほしかった。

今までも学友としてセルジュがフィリップの元へ訪れることはあってもこう頻繁ではなく、スペンサー家の誰もが困惑している。無為に時間を過ごすだけの楽しくもないお茶の時間を回避しようと、アレクシアが街の方へ遊びに行ったらそこでも会った。

ため息はなんとか呑み込んだが、表情は引きつっていたかもしれない。

「誰かと回るのも楽しそうだ。同行させてもらえないだろうか」

一応許可を得るような聞き方だったので、もちろん、アレクシアは断るの一択だった。

「家の事業の一環でもありますので」

部外者はちょっと、と匂わせれば引かざるを得ない。そうか、と残念そうにするセルジュをあっさりその場に置き去りにしたが、さすがにただの偶然ではないとアレクシアは察した。

けれど何のために? と考え、ふと最悪な理由が浮かびぞっとする。これはもう呑気に観光などしていないで、自国に帰るべきかもしれないと思うほどだ。面倒ごとには巻き込まれたくない。

「どうかしたのか? アレクシア」

思わず両手で顔を覆い嘆いていると、一心不乱でカップケーキにかじりついていたフェルが様子を窺ってくる。先日魔力を取り戻したおかげで、元の姿とまではいかないが猫の姿に変われるようになっていた。

艶やかな黒い毛に、宝石のような赤い瞳の猫の姿は愛らしい。

アレクシアの部屋で寛ぐ姿に、反則だ、と撫でまくり可愛がっていた。

「グランジュ殿下との遭遇率が高すぎる」

「まあ、そうだな」

「うっとうしい」

「……相変わらず正直だな」

「他に言いようがないもの」

せっかく自由な休暇を楽しんでいたのに、時々愛想笑いを浮かべ、ほぼ無言でセルジュとお茶を飲む無為な時間を過ごす羽目になっている。また来るかもしれないと思うのも地味にストレスだった。

「アレクシアに一目惚れしたんじゃないか?」

「ありえないわよ」

「そうか? 一番ありえそうな理由だと思うけどな」

仮にそうだとしても嬉しくはない。

ため息をつき、マフィンのカケラで汚れたフェルナンドの口元をアレクシアはハンカチで拭いた。

「一応私は他国の筆頭王太子妃候補なのよ? 略奪は外聞が悪いわ」

「略奪してもって、あるだろ」

「殿下からそんな感情は伝わってこないわよ」

「……確かに?」

ブレスレット姿でフェルナンドも同席しているので、感じるものはあるらしい。恋心を向けられても面倒くさいが、なんらかの思惑を持って近づかれるのはもっと面倒くさかった。

「あいつがアレクシアを好きになったんなら、運がいいと思っただけだ」

「なんでよ?」

「アレクシアを手に入れるってことは必然的に聖剣も手に入れ、失ったはずの剣が皇家に戻るってことだからな」

確かにと納得して、アレクシアはげんなりする。まじかーと天を仰ぎたい気分だった。

「……フェル、絶対に何があってもあなたが聖剣だって皇族にバレないでよ」

知られてしまえば、皇族がどんな手段に出るかわからない。

皇家の失態を、なかったことにできるチャンスだ。

「絶対にめんどくさいことになるから」

最悪、当初宣言した通りにどこかへ埋めることになる。もしくは拾ってくださいと、猫の姿のフェルナンドを箱に入れてフィリップの部屋にでも置いてくるしかない。側近候補なら、フェルナンドの飼い主にちょうどいいはずだ――と考え、アレクシアは焦りで混乱していると気付く。

とにかく面倒ごとに発展するようなら、フェルナンドを国に連れては帰らない。絶対だ。

(私は優雅で楽しい令嬢ライフを送るんだから!)

「皇家に帰りたいからって、殿下を応援するのもダメよ」

「するわけがない。俺は皇家になんて帰りたくないからな」

「約束だからね」

「ああ、約束する」

力強い声が帰ってきて、やっと緊張感がほどける。けれどここ最近のセルジュの行動を思うと、アレクシアは胸がざわつく。

「アレクシア、マフィンもう一個くれ」

すっきりしないものはあるが、おかわりをねだる猫の姿のフェルナンドには癒やされた。