軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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皇族と同年代の高位貴族の子息ならば、将来の側近候補であってもおかしくはない。子どもの頃の残念なフィリップのイメージが強すぎて、そのことを失念していたとアレクシアは気付いた。

セルジュは皇妃の息子で第一皇子、そして皇太子でもある。側妃の息子である第二皇子が皇太子の座を狙っていると情報を得ているが、よほどのことがない限りひっくり返らないだろうと囁かれてもいた。

(まあ、もう会うこともないでしょ)

フィリップとセルジュが親しくしていたとしても、忙しい執務の合間を縫ってまでスペンサー家を訪問しない。学生だからこそ、長期休暇中には普段できない皇族としての役割を果たさなければならず多忙だ。

今日をやり過ごせばいいだけだと散歩を切り上げ、再度顔を合わせないよう注意を払い屋敷内を移動する。アレクシアは元々この家の者ではない。約束も先触れもなく、お忍びで来ているだろうセルジュを見送る義務はなく、知らない振りで夕食まで部屋に引きこもった。

夕食の席にいたら面倒くさいとは思ったが、客人はおらずほっとする。意地でも幽霊を見たいと粘ることなく、部屋を眺め好奇心を満たすと帰ったらしい。

休暇に入ったフィリップは当然いたが、案外和やかな空気で会話できたことにアレクシアは驚いた。

さすがに子どもの頃のような絡み方はしてこないかと納得したけれど、視線はなんとなく鬱陶しい。理由はすぐに判明して、縦ロールではないこと、化粧の印象が違うことに困惑していたようだ。

納得もするが、スペンサー家ではフィリップ以外誰も気にしていない。

(フィリップはまだまだね)

よくわからない感想を洩らし、アレクシアはソファに座りひと息つく。

ほぼ同時に、手元からため息が聞こえた。

「自由に身動き取れないのがつらい……」

くずおれる姿が見えるような実感がこもった嘆きに、アレクシアはブレスレットへ視線を落とす。夕食の前までは、ここまで悲観していなかったはずだ。

「あーもう! 力が欲しい!」

「……わあ、悪者のセリフだ」

「なんでだよ!」

「力を欲して闇落ちパターンじゃないの?」

そんな創作物を、前世では幾度となく目にしている。結末にドキドキハラハラするが、嫌いではない。正直なところ、闇落ちするのが見目麗しい者だったら最高だ。悶える。

ただそれが現実となり、我が身に降りかかるとなれば、全力で回避の一択になる。平和が一番だ。

「闇落ちなんてしないからな!」

「ふうん?」

「俺聖剣だし、まだ疑ってるのか!?」

「んー? 九割くらい信じてるわよ」

「それ、一割は疑ってるってことだろ……」

がっくりと肩を落とす幻が見えるような声音だ。

いじめる意図はないんだけどなと、アレクシアは苦笑する。

「だって聖剣なんて見たことないし、資料もないし、フェルの自己申告だけなんだもの」

「……確かにそうだな。九割信じてもらえているだけいいのか?」

最後は独り言のような響きではあったが、アレクシアは軽く頷く。

本当のところは、フェルナンドを疑う気持ちなど小数点以下だ。けれど手放しに信じて裏切られた時に、傷つきたくない自己保身の気持ちがある。世間の荒波にもまれたアラサーが中の人だから許してね、と心の中で謝っておいた。

「なんで聖剣についての資料がないんだろ」

聖剣について書かれた資料がないかと図書室に探しに行ったが、見事なくらいになかった。ここまで徹底的にないのも、ある意味珍しい。

「偽物を造られたら困るからだろ。特に皇家からなくなったんだし、聖剣は誰にでも抜けるものでもないしな」

「なるほど」

見た目がわかれば、偽物を作り放題になる。抜けないのだから真偽など誰にもわからないし、紛失した皇家は振り回されるだけだ。

「皇城のどこかには、さすがにあるんじゃないか?」

「見る機会は私にはないわね。どうしても見たいわけでもないし」

「まあ、アレクシアならそうだろうな」

さすがにフェルナンドもわかってきたようだ。

「悪さをしなければ聖剣だろうが、ただのしゃべる剣だろうが、私にはどちらでもいいもの」

「ほんとに、ほんとーに! 闇落ちも悪さもしないから、自由に動ける姿をとれるくらいの魔力がほしい! 俺も食事を楽しみたいんだ!」

「ああそう」

そこか、と力を欲する理由にアレクシアは軽く脱力感を覚える。平和な理由だ。

「その気のない返事! なんだよ、あのうまそうな料理の数々」

「そう、ではなくて美味しかったわよ?」

デザートまでしっかりとアレクシアは堪能している。うっかり食べ過ぎてしまったくらいだ。

ぐぬぬ、とフェルナンドがうめく。

「ほら、元の俺の姿はなかなかいい男だぞ!」

「わあ、自画自賛」

棒読みで返してしまう。期待も想像もしてはいけない。

外した時に、違うと勝手にショックを受けるのは失礼だ。

「本当なんだからな!」

「あら、私も美少女よ」

にっこり笑って告げる。反論の言葉はない。

思わず、アレクシアは吐息で笑った。

「まあでも、美味しい物を食べたい気持ちもわかるから協力するわよ」

「アレクシア!」

今にも飛びついてきそうな声だ。

ブレスレットなので身動きは取れないのだけれど。

「で、どうしてほしいの?」

「どうするかなぁ。アレクシアからもらう魔力じゃ足りないし」

「ちょっと、勝手に人の魔力奪わないでよ」

「奪ってない! 溢れ出てる分をもらってるだけで、奪ってはいないからな!」

「へぇ?」

溢れ出ている分があるなど初耳だ。

体内にある魔力を意識したこともないので、そんなものかもしれない。

「魔力が豊富な奴、何人か知らないか?」

「知らないかと言われれば知ってるけど」

「そいつらに触れろ。溢れてる分をもらうくらいいいだろ」

「それは無理」

アレクシアの知る有り余るほどの魔力の持ち主は、全員攻略対象者だ。

サヴェリオとレイモンドは、今そばにはいない。

「なんでだよ!」

「令嬢ってね、色々面倒なのよ」

結局の所、これにつきる。この世界では、色々制限が多かった。

「フェルの魔力どこかに封じてあるんでしょ? 私が行けそうなところないの」

急がば回れ。

手っ取り早く誰かにもらうよりも、多少の手間がかかっても魔力を回収した方がいい。ついでにその観光地や、新しいことにも触れられ楽しめたらまさにウィンウィンだ。

しばらく記憶をたどるように沈黙していたフェルナンドが、口を開く。

「確か、神殿の女神像だったかな」

「あるんじゃない。この国のよね? 礼拝堂にだいたいある大きい像かしら」

「いや、小さいやつ」

げ、とアレクシアは眉をひそめる。女神の権能が宿るとされている像の方だ。それに触れるなど、なんて難易度が高い。

「やっぱり皇家の指示の元、聖剣の力を取り戻すって理由がないと無理か?」

「うーん、無理でもないかなぁ?」

「ほんとか!」

特にやることのない休暇中で、普段見られない物、場所に行くのは楽しそうだ。協力するのもやぶさかではない。どちらがついでかわからないが、声を弾ませるフェルナンドにアレクシアは笑顔で頷いた。